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BLの丘
過ぎてみれば 10
2012-02-27-Mon  CATEGORY: あやつるものよ
事務所の中、仕事の合間に語られるプライベートを含んだ内容の会話は以前からありはしたけれど…。
ことごとく話題が千種に集中してしまったことには赤面も続く。
酔っ払って最終的に何を口にしたのか、どんな態度に出ていたのか記憶にないのだから不安も混ざる。
ただ、世間話の一つとしてさらりと話され、後腐れなく去っていってくれるのが唯一の救い。
気まずくならないのは、この事務所が持つ雰囲気なのだろう。
「大人しい性格かと思っていたけど、言いたいこと、ビシバシ言ってくれるんだもんな~」
「元気があっていいよね」
「それくらいでなきゃ、瀬戸さんの後釜になんて就けないよ」
目の前に座る数人が口を開く。千種は黙って耳を傾けているしかない。
一体、誰とどんな会話を繰り返したんだか…。
背中がヒンヤリとする思いだった。
瀬戸は聞こえているのだろうが、全く口を出してくることもなく、淡々と千種に最終的な仕事を教えてくれている。
間もなく瀬戸も、この事務所から去ってしまうのだ。
無駄口に翻弄されている時でもない。

「問題が発生した時は、どんどんと言っていっていいからね。黙って自己解決しようとすると返って悪い結果を生むものだから」
瀬戸が皆をまとめるのは千種の仕事だと忠告してくる。
まだ入社したての自分にはあまりにも荷が重いと思ってしまうが、過去の仕事量や過程をすでに知った他の社員は、全て納得しているようだった。
もちろん反発する気持ちを持つ人間はいるのだろうが、表立って向けてこられる視線や態度がないのはホッと一息つけるところでもある。
事務所内の雰囲気が悪くなった時の居づらさは、かつての職場で嫌というほど体験した。
千種の隠れた(?)気の強い性格を知られた今、余計に理解もされてしまったのだろうか。

昼休みになって千種に声をかけてきたのは西春だった。
先日の夜、千種を送り届けてくれたのが彼であること、残した車のことなど状況を吉良に教えたのも彼だったとは、吉良に聞いた話である。
速攻で電話をかけ、謝罪の言葉を口にし、今朝も顔を合わせるなりすっ飛んで行った。
西春は気にしていない様子だったが、何か口籠っているのはそれとなく悟れた。
そこで話をしてもいいものなのか悩んでいる風情があった。そのことは千種も気にはなっていたのだが…。
改めて声をかけられれば疑問は確信に変わっていく。
いつもは瀬戸と食事を取るのだが、今日ばかりは先日の件もあって断れる雰囲気はない。
瀬戸に西春と共にすると告げれば、社員同士の交流を始めてくれたと喜ばれ、笑顔で送り出されたくらいだった。
食堂の隅の席に腰かける。グループ用にと長テーブルが多い食堂だが、少人数用のテーブルも隅にはあった。
それぞれが自分たちの話に夢中になる中、小声で話をしていれば気にかけてくる人もいない。
二人して日替わり定食のトレーをつつきながら、西春から零れたのは吉良のことだった。
「同居人の人?…この前、ちょっと話をさせてもらったけど…」
「え?!吉良と?…あの人、なんか変なこと言ってました?」
千種にしてみたら余計なことを口走られたのではないかと心配になった。
吉良の嫉妬はすでに感じている。今更同居を隠す必要はないが、吉良に妙な対抗意識を持たれて、牽制でもされて、職場の人間関係が悪くなるのはいただけない。
「いや、別に…。安城君から『お世話になっている人』と聞いていたけど、…。えーと、”そういう人”?」
言い淀んでもはっきりと質問してくる。
あたりまえだが、前者と後者は同じ意味ではないのだと千種だって気付く。
瞬時に千種の顔色が真っ赤になる。それだけで答えたようなものだと千種は知らない。
西春は納得したように「あぁ、ね…」と頷いていた。
嫌悪を抱かれたわけではないようだ。再び「ふ~ん」とニコリ笑われる。
すっかり黙ってしまった千種だった。
その場に自分もいたはずなのに、こちらにも記憶がなくて心配事が増えた。
知られたとは、またもや吉良のせいで…っ、と怒りも混じる。何を言ってくれたんだ?!あのオヤジ!!の心境だ。
西春は状況と会話の流れから千種が今考えていることを悟ってしまったようだ。
「いやいや。あの人は別にね。安城君があまりにも甘えているものだから、つい、そうかなって」
「はぁっ?!」
聞き捨てならない台詞が飛び出してくれる。全く想像できない世界が千種の脳裏に広がった。
普段から吉良に対して、人前で特別な雰囲気を醸し出すことはしないはずなのに…。
だからといって西春が嘘をついているとも思えない。
今日ここまでされた会話の中で、一番の衝撃的な事実を告げられているようだった。
そして、安易にまた吉良に対して掴みかからなくて良かった、とも思った瞬間だった。
自分のしでかしたことを吉良の責任にして詰めよれば、その先にどうなるのか想像は容易い…。
これは、教えてくれた西春に感謝すべき点なのだろうか…。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-02-27-Mon 11:29 [編集]
千種って酔っ払うと 強気な発言をビシバシと言っちゃうんだぁ~(笑)
”虎”まではいかないけど ”子虎”に豹変しちゃうのね!
今はまだ可愛いけど、将来は中々 怖いかも~~

きえ様、私が吉良を再教育しなくても ”子虎”千種なら大丈夫そうですね!
余裕ッス♪by千種(〓 ̄(∵エ∵) ̄〓)y-゚゚゚byebye☆
あはは
コメントちー | URL | 2012-02-27-Mon 21:02 [編集]
千種、甘えてたもんね、吉良さんに。
そりゃ、バレるって(笑)

良かったね、また突撃しないで。
西春さんも気になります。
千種に手を出さないでねー。

いや、少し出してくれると面白いけどね。
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-02-28-Tue 10:11 [編集]
けいったん様
こんにちは~。

> 千種って酔っ払うと 強気な発言をビシバシと言っちゃうんだぁ~(笑)
> ”虎”まではいかないけど ”子虎”に豹変しちゃうのね!
> 今はまだ可愛いけど、将来は中々 怖いかも~~

ちょっと怖いかもしれませんね。
普段から、言うところは言う、的な何かは存在していましたが。
飲酒の適度は守りましょうっていう教訓?!
将来、どうなるんでしょう。
酒を飲むことを禁止されるか、そんな姿も可愛いと吉良に喜ばれるか…。

> きえ様、私が吉良を再教育しなくても ”子虎”千種なら大丈夫そうですね!
> 余裕ッス♪by千種(〓 ̄(∵エ∵) ̄〓)y-゚゚゚byebye☆

千種、余裕なのか…。
酔った時こその千種のなせる技…かもしれませんが。
頑張るッス♪by千種(`・ω・´)ノ
コメントありがとうございました。

Re: あはは
コメントたつみきえ | URL | 2012-02-28-Tue 10:16 [編集]
ちー様
こんにちは~。

> 千種、甘えてたもんね、吉良さんに。
> そりゃ、バレるって(笑)

そうなんですよ~。
もう、やっと親に出会えた子供のように、ゴロゴロとしてました。
改めて思い出させる(思いだせないけど)のもいいことです。

> 良かったね、また突撃しないで。
> 西春さんも気になります。
> 千種に手を出さないでねー。
>
> いや、少し出してくれると面白いけどね。

千種は突撃型なんですかね~(←私が聞くか?!)
でも気の強い性格の子であるのは確かです。
今は上司ではないけど、年上の吉良にも平気で文句言ってますからね。
西春さん、どう動くんでしょうかね。
吉良とお友達になっちゃったらまた千種は冷汗ものでしょうが。
そこまで近づくのかなぁ。
コメントありがとうございました。

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