2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
待っているよ 18
2012-06-15-Fri  CATEGORY: 待っているよ
夜の7時閉店だと聞いていた。
営業中に押しかけるのも邪魔になってしまうだろうと、大野城と待ち合わせをしたのは閉店の15分前。
前もって連絡を入れなかったのは、穂波と先に話をされ、口裏合わせのようなことをされたくなかったからだ。
時間が早かったし、店の前をうろついているのもなぁ…と、学校まで何分くらいだっけと大野城を迎えに行こうかと頭を巡らせた。
しかし、一度店の前を通りかかった筑穂が見たものは、店内の明りも営業中とは思えないほど落とされ、白のコックコートを着た白髪まじりの男が、電気の消えた看板をしまおうとしている姿だった。
たぶん50代にはなっているだろう。中肉中背という言葉がピッタリで、身長は筑穂と変わらないくらいだと思われる。
エプロンを取ったのだと明らかに分かる腰についた皺は、もう仕事を終わりにしようとしていることを顕著に伝えてきた。
「えっ、ちょっ?!」
店じまいをしようとする男に向かって、何よりも先に口が開いた筑穂だった。
筑穂の隣にいた福智が驚いた様子でいたが、黙って事の成り行きを見守りながら後をついてきた。
まだ見ぬ人物像を勝手に想像する筑穂を福智が宥めたり、将来に期待を寄せてくれる福智に励まされたりとここまで来た。
福智が穂波と顔を合わせたのは、両親の葬儀の時だけだったが、成長著しい印象は福智の中にもあるらしい。

声を上げた筑穂の存在に気付いた男が振り返って申し訳なさそうな顔をする。
帽子をかぶっていたのか、近付くとくっきりと髪に輪の跡が見える。
「いらっしゃいませ。すみません、今日は商品がだいぶ少なくなってしまって…。それでもよろしかったら、中を見ますか?」
早目の店じまいは来た客をがっかりさせないための配慮のようだった。
客に気を使った優しい雰囲気を漂わせる人は、熟練の技を持つ人物なのだと察知することができる。
その味があるからこそ、買いに来ない筑穂でも店名を知るほど長く営業してこられたのだろう。
穂波が技術を身につけて働きたいと思わせるような人物ではあったけれど…。
明らかに恋愛感情があったような穂波の発言からして、いささか…どころか大分歳が行きすぎていないか?と筑穂の脳内にクエスチョンマークが咲きほこった。
そうだ…。よーく、よ――く考えても考えなくても、技術を持った人間が穂波につりあうほど若いはずがない。
即座に筑穂の脳裏を過った想像は、この小柄な老人(失礼)を気遣って、重い粉などを持ったりと手伝っている穂波の姿だった。
気の優しい子だとは兄が良く知っている(←思い込んでいる)。

「いえっ、買いに来たんじゃ…。穂波っ、穂波が来ていたでしょ?」
状況がまとまらず感情のまま、筑穂の声は少々尖っていた。
突然始まった質問に口をポカンと開けた男だったが、思い当たる節は充分にあったようで筑穂に向かい合ってくれた。
「え…と、…えぇ。…穂波くんの…えーと…?」
どう尋ねたらいいのかと戸惑いを持つ男の聞きたいことはすぐ理解できる。
「兄です、兄っ」
「あぁ。お兄さんがいるって言ってたね」
「アイツ、いきなり、『パン屋やりたい』って言い出して…っ。理由聞いたら、ここで教えてもらったって…」
「教えた…っていうか…。雇えるような予算もないし、しかも学生でしょ。朝早くに来るから簡単に工程を見せてあげたくらいだけど。でも夢中になってて、いい子だよ」
完全に穂波を支援する姿勢でいる。
やっぱり原因はコイツかぁ、と筑穂は容認したはずの進路を反対する意識が芽生えた。
この男にどう誑かされてきたのだろう。一緒に住むとまで言い出すよう、うまく乗せられたに違いない。
このオヤジに何を教え込まれたのか、まさかとは思うが、大人のナントカまで指導しちゃあいないだろうなっと焦りすら浮かんだ。
世間一般では性に目覚め、色々な意味で進んだ子もいるだろうが…。
そのきっかけを年上の人物がさりげなく誘ってくるパターンも良くある話。
だからといって熟練の技(←技の意味が違っている)を披露して虜にしなくてもいい。
勝手に想像する世界を止められず、筑穂は傍目にも分かる不機嫌な表情で声を荒げた。
「いい子なんて分かってますよっ。そいつに何教えたんですかっ。まだ高校生なのにっ」
「ちょっ、筑穂っ?!」
昼間聞いていた”受け入れた”感情が吹き飛んでいるのをすぐに感じ取れた福智が制止に入る。
しかし全く耳に届いてはいないようだ。
「穂波っ、同居するとかまで言い出してっ。タダ働きさせて、自分がラクしようとしているんですかっ?!」
「筑穂~っ」
「『同居』?!」
いきなり怒り心頭になる筑穂の言動に訝しそうな表情を向けつつ、飛び出した疑問を落ち着いて問い返してきた。
すっとぼけたような態度に出られてまた筑穂がヒートアップする。
「穂波がそう思うように仕向けたんでしょっ?!学校通いながら家でも教えてもらうんだってっ。タダ働きは『教える』とは違うでしょっ。しかも、しかも、しかもっ、一緒に住みたいって言い出すような、何を教えたんですか~っ!!」
「住み込みしてまで早く実力にして、お兄さんを楽させてあげたいってことかな」
「そんな心配しなくっていいっていうのにっ。ご飯くらいっ、俺作るからっ」
「筑穂っ」
全く噛み合わない会話だと気付いたのは福智くらいだ。
進まない話にもどかしさすら生まれて、筑穂は不甲斐なさに悔しさも混じって瞳を潤ませてしまった。
ぎゅっと唇を引き結んだ時、走ってくる人の足音が聞こえた。それからすぐに「筑穂くん?」と呼んでくる低音ボイスが耳に届いた。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ 
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)

筑穂、泣いた~っ

関連記事
トラックバック0 コメント4
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
No title
コメントけいったん | URL | 2012-06-15-Fri 01:23 [編集]
アチャー(´・ω・`)
そんなに興奮しちゃって 冷静にならないと筑穂!

しかも その人は 浮羽さんなの?

やっぱ 福智では ダメか!?
大野城先生~何所に居るの~~
おっ その声は♪・・・ε-(。・д・。)フー...byebye☆
おやおや
コメントちー | URL | 2012-06-15-Fri 05:23 [編集]
兄ちゃん、困ったちゃんだわぁ。
おじさんは、きっとパン屋さんのお父さんだと思うけどなあ。

あ、パン屋さんでも面白いけどさ。
(妄想中)

兄ちゃん、クールダウンしてお話聞かないと。
泣いとる暇は無いですよ!

トゥルトゥルトゥル♪
トゥルトゥルトゥル♪トゥル・・・

「あ、隊長!謎の人物がっ・・・」


『本日の営業時間はすべ終了しました。ご用のある・・・』

営業時間なんて知らんわっ!
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-15-Fri 07:08 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> アチャー(´・ω・`)
> そんなに興奮しちゃって 冷静にならないと筑穂!
>
> しかも その人は 浮羽さんなの?

筑穂ってば冷静に判断できなくなっていますね~。
大興奮です。
間違いなく、浮羽ではないでしょう。
勝手な妄想を繰り広げていますよ。

> やっぱ 福智では ダメか!?
> 大野城先生~何所に居るの~~
> おっ その声は♪・・・ε-(。・д・。)フー...byebye☆

誰か(←)やってきたようです。
待ち合わせていましたから。
時間には厳しい先生は遅刻はしませんよね~。
福智は心穏やかではないでしょうが。
コメントありがとうございました。
Re: おやおや
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-15-Fri 07:18 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 兄ちゃん、困ったちゃんだわぁ。
> おじさんは、きっとパン屋さんのお父さんだと思うけどなあ。
>
> あ、パン屋さんでも面白いけどさ。
> (妄想中)

誰もがそう思いますよね~。
お父さんへの印象は良い方がいいと思うけど…。
いきなり飛ばした筑穂でした。

> 兄ちゃん、クールダウンしてお話聞かないと。
> 泣いとる暇は無いですよ!

こみ上げるものが胸に湧くと涙となって表れちゃうんでしょうか。
それに自分の感情ばかりをぶつけるようになっちゃって…。
弟を守ろうとする気持ちはいいんだけれどね…。

> トゥルトゥルトゥル♪
> トゥルトゥルトゥル♪トゥル・・・
>
> 「あ、隊長!謎の人物がっ・・・」
>
> 『本日の営業時間はすべ終了しました。ご用のある・・・』
>
> 営業時間なんて知らんわっ!

(爆)営業時間があったのかっ。
いや、ほら、隊員と隊長は交代勤務とか…。
え?!そのアナウンス、保険会社?!
コメントありがとうございました。
トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.