社屋に入り、真室が逃げ込んだエレベーターの中は、運が良かったのか、真室とあつみのふたりきりだった。
追ってきたあつみに違和感もあるのだろうが、心配している姿が晒されれば、崩れてくる小さな体がある。
込み上げた苦痛は、昨日のあつみと変わらないものなのだろう。
不意に抱きしめてしまった体は、枷がはずれたように泣き崩れた。
あつみと瀬見の仲の良さも知られているから、悟ってほしい思いが真室の中に生まれたのか…。
瀬見に重荷になられるような存在にはなりたくない。だけど反する、自分を見つめてほしい思いが真室には蔓延している。
瀬見を責めたくはない…。そう思いながらも恨みがましいものが真室の中にはある。
あつみでは包んでやれないものなのだろうか。
「アイツは、やめておけ…」
どうしてその言葉が漏れたのか、あつみ自身わかりはしなかった。
軽薄な奴ではないと信じたい心もありながら、真室自身から離れてくれることを望んでいた。
だけど真室は、知っていたという雰囲気を滲ませていた。
…瀬見は真室に本気になどなりはしない…。
たぶん、最初に言い伝えられた内容なのだろう。
それを受け入れたうえで、昨日の行為があったのかは、あつみの知れるところではなかった。
…ふたりの間になにがあったのだろう…。
「真室…」
耳朶に寄せて囁いた声に、もっと深い感情を纏って、真室はむせび泣いた。
「…んっ…くぅ…」
堪えるように嗚咽を押し留めて、涙を硬い瞼をつぶることで堪えていた。
聞くのは酷だと思いながら、自分の腕に縋ってきてくれた小さな存在に、続きを問わずにはいられなかった。
「瀬見と…何があってあんなことになったんだ…?」
その問いかけは、二人の意味合いを問うている。
隠したと思っていた真室にとっては、すでにバレているものとは思っていなかったのだろう。
ぴくりと体を震わせて、あつみから離れようしていた。
それを力で押さえつけた。
「悪かった…。瀬見と何かあるって感じたら、すげぇ悔しくて…。初めておまえのこと、感じた…。だから昨日は…」
幸せそうな顔を見ては八つ当たりしたのだと吐露する。
その背景で、起こした行動の全てに嫉妬が含まれていたと告げるあつみに、ひたすら驚いただけの表情が届けられた。
当然だろう。
どちらも意識していなかったのだから…。
「湯田…川…さ…?」
とどめを刺すように、あつみは声を放った。
「瀬見はダメだ…。本気で惚れた奴以外は、『付き合った数』にも入れない。一時的な通り過ぎとしか、捉えないんだよ」
「え…?」
瞠目した真室の瞳と同じ時に、エレベーターが到着を告げる。
思い出にすら、残さない…。
多少理解していた部分があったとしても、そこまでの扱いにされるとは思っていなかったのか。
躊躇いを含んで降りた姿に、昨日の耳にしただけの行為は真室から強請ったものだと、なんとなく感づいてしまった。
瀬見から言い寄られたなら、真室はもっと自信を持っていたはずだ。
ねだって…、だけど証拠を突き付けられるような行為を目の当たりにさせられて…。
どれほど、真室は傷をおったのだろうか…。
確信…というには乏しいが、すべてが瀬見の意識のもとで動いているようにしか感じられなかった。
今日の、弁当を避けたことも…。
瀬見のほうから、真室から離れようとしているのではないか。
瀬見を責めたいわけではなかったが、この場だけは、酷いものとして貶めたかった。
真室に『夢』だけは見させたくない。
こんな手段を使わなくても…。
歩きだそうとした廊下で、もう一度か弱い体を引き寄せたあつみは、「俺にしとけ…」と本音を晒した。
先程よりももっと驚いた真室が瞬きを忘れている。
「瀬見はいいやつだとは思う…。でも真室は譲れない。それを昨日、気付いた。だから、悔しくて当たり散らしたんだ。…悪かった…。本当に申し訳なかったと思っている…」
「…知ってた…?」
呆然とする真室が言うこと、何をさすのかは、分かることであった。
隠すのもどうかと格闘しながら、素直に認めた。
「実際の姿を見たわけじゃないけれど…、なんとなく…。真室…。俺だけのものでいてくれよ…」
弱っているからこそ、つけこめるのかもしれない。
もちろんズルイことでもあったけれど…。
そして瀬見を遠ざける目的も含めて。
深く悩む真室を知りながらその奥に切り込んだ。
「おまえが瀬見に惹かれた理由って、なんだったの…?」
ただのランチタイムの”仲が良い関係”に突然訪れた恋心の原因はなんだったのか。
あつみには気になるところでもある。
あつみは泣き顔の真室をそのまま事務室に連れていくことはせず、離れた非常階段のほうへと導いた。
企画開発室があるこの階で、階段を利用する人間はまずいない。
響いてくる声があったとしても、直接聞かれる可能性は少ない。
真室は何か思うものがあるように、あつみから離れることはなかった。
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追ってきたあつみに違和感もあるのだろうが、心配している姿が晒されれば、崩れてくる小さな体がある。
込み上げた苦痛は、昨日のあつみと変わらないものなのだろう。
不意に抱きしめてしまった体は、枷がはずれたように泣き崩れた。
あつみと瀬見の仲の良さも知られているから、悟ってほしい思いが真室の中に生まれたのか…。
瀬見に重荷になられるような存在にはなりたくない。だけど反する、自分を見つめてほしい思いが真室には蔓延している。
瀬見を責めたくはない…。そう思いながらも恨みがましいものが真室の中にはある。
あつみでは包んでやれないものなのだろうか。
「アイツは、やめておけ…」
どうしてその言葉が漏れたのか、あつみ自身わかりはしなかった。
軽薄な奴ではないと信じたい心もありながら、真室自身から離れてくれることを望んでいた。
だけど真室は、知っていたという雰囲気を滲ませていた。
…瀬見は真室に本気になどなりはしない…。
たぶん、最初に言い伝えられた内容なのだろう。
それを受け入れたうえで、昨日の行為があったのかは、あつみの知れるところではなかった。
…ふたりの間になにがあったのだろう…。
「真室…」
耳朶に寄せて囁いた声に、もっと深い感情を纏って、真室はむせび泣いた。
「…んっ…くぅ…」
堪えるように嗚咽を押し留めて、涙を硬い瞼をつぶることで堪えていた。
聞くのは酷だと思いながら、自分の腕に縋ってきてくれた小さな存在に、続きを問わずにはいられなかった。
「瀬見と…何があってあんなことになったんだ…?」
その問いかけは、二人の意味合いを問うている。
隠したと思っていた真室にとっては、すでにバレているものとは思っていなかったのだろう。
ぴくりと体を震わせて、あつみから離れようしていた。
それを力で押さえつけた。
「悪かった…。瀬見と何かあるって感じたら、すげぇ悔しくて…。初めておまえのこと、感じた…。だから昨日は…」
幸せそうな顔を見ては八つ当たりしたのだと吐露する。
その背景で、起こした行動の全てに嫉妬が含まれていたと告げるあつみに、ひたすら驚いただけの表情が届けられた。
当然だろう。
どちらも意識していなかったのだから…。
「湯田…川…さ…?」
とどめを刺すように、あつみは声を放った。
「瀬見はダメだ…。本気で惚れた奴以外は、『付き合った数』にも入れない。一時的な通り過ぎとしか、捉えないんだよ」
「え…?」
瞠目した真室の瞳と同じ時に、エレベーターが到着を告げる。
思い出にすら、残さない…。
多少理解していた部分があったとしても、そこまでの扱いにされるとは思っていなかったのか。
躊躇いを含んで降りた姿に、昨日の耳にしただけの行為は真室から強請ったものだと、なんとなく感づいてしまった。
瀬見から言い寄られたなら、真室はもっと自信を持っていたはずだ。
ねだって…、だけど証拠を突き付けられるような行為を目の当たりにさせられて…。
どれほど、真室は傷をおったのだろうか…。
確信…というには乏しいが、すべてが瀬見の意識のもとで動いているようにしか感じられなかった。
今日の、弁当を避けたことも…。
瀬見のほうから、真室から離れようとしているのではないか。
瀬見を責めたいわけではなかったが、この場だけは、酷いものとして貶めたかった。
真室に『夢』だけは見させたくない。
こんな手段を使わなくても…。
歩きだそうとした廊下で、もう一度か弱い体を引き寄せたあつみは、「俺にしとけ…」と本音を晒した。
先程よりももっと驚いた真室が瞬きを忘れている。
「瀬見はいいやつだとは思う…。でも真室は譲れない。それを昨日、気付いた。だから、悔しくて当たり散らしたんだ。…悪かった…。本当に申し訳なかったと思っている…」
「…知ってた…?」
呆然とする真室が言うこと、何をさすのかは、分かることであった。
隠すのもどうかと格闘しながら、素直に認めた。
「実際の姿を見たわけじゃないけれど…、なんとなく…。真室…。俺だけのものでいてくれよ…」
弱っているからこそ、つけこめるのかもしれない。
もちろんズルイことでもあったけれど…。
そして瀬見を遠ざける目的も含めて。
深く悩む真室を知りながらその奥に切り込んだ。
「おまえが瀬見に惹かれた理由って、なんだったの…?」
ただのランチタイムの”仲が良い関係”に突然訪れた恋心の原因はなんだったのか。
あつみには気になるところでもある。
あつみは泣き顔の真室をそのまま事務室に連れていくことはせず、離れた非常階段のほうへと導いた。
企画開発室があるこの階で、階段を利用する人間はまずいない。
響いてくる声があったとしても、直接聞かれる可能性は少ない。
真室は何か思うものがあるように、あつみから離れることはなかった。
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”本気で惚れた奴以外は、数にも入らない”瀬見の恋愛事情
酷いようにも思えるけど、
”惚れた奴以外は 心が動かない”‥ある意味 一途?
瀬見からの言葉で納得済みの 昨日の出来事でも 真室から感じ取ったマジモードで 今日は スパッとでしょうか?
それに 湯田川の気持ちを覚ったのも あったのかもね!
今 弱ってる真室に 自分の気持ちを吐露し つけ込む様だと分かっていても 支えて守ってあげたかったんだよね♪
では 昨日は 何が如何なって あんな事になったのか
じっくり 真室に教えて貰いましょうか。
はい、マムちゃん どうぞ~( っ・ω・)っ・・・byebye☆
酷いようにも思えるけど、
”惚れた奴以外は 心が動かない”‥ある意味 一途?
瀬見からの言葉で納得済みの 昨日の出来事でも 真室から感じ取ったマジモードで 今日は スパッとでしょうか?
それに 湯田川の気持ちを覚ったのも あったのかもね!
今 弱ってる真室に 自分の気持ちを吐露し つけ込む様だと分かっていても 支えて守ってあげたかったんだよね♪
では 昨日は 何が如何なって あんな事になったのか
じっくり 真室に教えて貰いましょうか。
はい、マムちゃん どうぞ~( っ・ω・)っ・・・byebye☆
けいったん様
こんにちは。
> ”本気で惚れた奴以外は、数にも入らない”瀬見の恋愛事情
> 酷いようにも思えるけど、
> ”惚れた奴以外は 心が動かない”‥ある意味 一途?
>
> 瀬見からの言葉で納得済みの 昨日の出来事でも 真室から感じ取ったマジモードで 今日は スパッとでしょうか?
> それに 湯田川の気持ちを覚ったのも あったのかもね!
瀬見は遊び人なんだか一途なんだか…。
たぶん気持ち、事前承諾でお付き合いが始まるんでしょうね。
相手は、それでもいいよ、って言えるほど、瀬見はモテモテなんでしょうか…。
真室は動揺していたところを、突かれてきちゃったし。
あつみの押しも聞いちゃったし。
> 今 弱ってる真室に 自分の気持ちを吐露し つけ込む様だと分かっていても 支えて守ってあげたかったんだよね♪
>
> では 昨日は 何が如何なって あんな事になったのか
> じっくり 真室に教えて貰いましょうか。
> はい、マムちゃん どうぞ~( っ・ω・)っ・・・byebye☆
こんな状況を見せられて、進んでいかないほど弱腰のあつみではないです。
自分の思いにも気付いちゃったからこそ、より一層真室を思う心があるのでしょう。
好きな人のことを考えちゃうよね。
何を言い出すのでしょうか。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> ”本気で惚れた奴以外は、数にも入らない”瀬見の恋愛事情
> 酷いようにも思えるけど、
> ”惚れた奴以外は 心が動かない”‥ある意味 一途?
>
> 瀬見からの言葉で納得済みの 昨日の出来事でも 真室から感じ取ったマジモードで 今日は スパッとでしょうか?
> それに 湯田川の気持ちを覚ったのも あったのかもね!
瀬見は遊び人なんだか一途なんだか…。
たぶん気持ち、事前承諾でお付き合いが始まるんでしょうね。
相手は、それでもいいよ、って言えるほど、瀬見はモテモテなんでしょうか…。
真室は動揺していたところを、突かれてきちゃったし。
あつみの押しも聞いちゃったし。
> 今 弱ってる真室に 自分の気持ちを吐露し つけ込む様だと分かっていても 支えて守ってあげたかったんだよね♪
>
> では 昨日は 何が如何なって あんな事になったのか
> じっくり 真室に教えて貰いましょうか。
> はい、マムちゃん どうぞ~( っ・ω・)っ・・・byebye☆
こんな状況を見せられて、進んでいかないほど弱腰のあつみではないです。
自分の思いにも気付いちゃったからこそ、より一層真室を思う心があるのでしょう。
好きな人のことを考えちゃうよね。
何を言い出すのでしょうか。
コメントありがとうございました。
せみちゃん、恋人が一番なのね。
マムちゃんはさあ、可愛いからチューしてみたかったんじゃないの?
(チュー何だかキス何だか・・・)
まあさ、あっちゃん気持ち伝えちゃったし。
つか、展開早っ!
あっちゃんて、考えるより行動する人なのね♪
マムちゃん、あっちゃんお買得だよ!
あー、フクちゃん以来かもなあ。
こんなに思うの。
「萩生~、それ嫌い」
「旨いから食えって。あー。」
「あーん。モグモグ。あ・・・」
「な、旨いだろ?」
「うん、やっぱり萩生が作ったからぁ♪」
「そうか?明日もつくってやるよ」
「うん!(シメシメ( ̄ー ̄))」
ラブラブハギーと由良。
周りにいる人はもれなく乙れます。
マムちゃんはさあ、可愛いからチューしてみたかったんじゃないの?
(チュー何だかキス何だか・・・)
まあさ、あっちゃん気持ち伝えちゃったし。
つか、展開早っ!
あっちゃんて、考えるより行動する人なのね♪
マムちゃん、あっちゃんお買得だよ!
あー、フクちゃん以来かもなあ。
こんなに思うの。
「萩生~、それ嫌い」
「旨いから食えって。あー。」
「あーん。モグモグ。あ・・・」
「な、旨いだろ?」
「うん、やっぱり萩生が作ったからぁ♪」
「そうか?明日もつくってやるよ」
「うん!(シメシメ( ̄ー ̄))」
ラブラブハギーと由良。
周りにいる人はもれなく乙れます。
ちー様
おはようございます。
> せみちゃん、恋人が一番なのね。
> マムちゃんはさあ、可愛いからチューしてみたかったんじゃないの?
> (チュー何だかキス何だか・・・)
ちょっとした『チュッ』じゃなかったのは確かでしょうね。
真室、無垢で可愛いんでしょう。
> まあさ、あっちゃん気持ち伝えちゃったし。
> つか、展開早っ!
> あっちゃんて、考えるより行動する人なのね♪
> マムちゃん、あっちゃんお買得だよ!
> あー、フクちゃん以来かもなあ。
> こんなに思うの。
展開早いですよ~。
そうでないと、20話とか25話で終わらないですからね。
あつみは影から支える先輩…っていうのをやめちゃいそうです。
気持ちに気付けば直球で。
というか、危なっかしい位置にいる真室に気付いたから余計に焦るのかも。
フクちゃんも焦っては一気に踏み込んだものね。
> 「萩生~、それ嫌い」
> 「旨いから食えって。あー。」
> 「あーん。モグモグ。あ・・・」
> 「な、旨いだろ?」
> 「うん、やっぱり萩生が作ったからぁ♪」
> 「そうか?明日もつくってやるよ」
> 「うん!(シメシメ( ̄ー ̄))」
>
> ラブラブハギーと由良。
> 周りにいる人はもれなく乙れます。
こっちはね。もうすでにイチャコラしてますからね。
由良もおだててしっかりハギーを使いこなしているし。
今まで作ってあげていたんだから、これからは可愛がってもらいましょう。
お料理上手にして、こちらもお弁当持参でしょうか。
(比較されるので同席はやだけど…byハギー)
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> せみちゃん、恋人が一番なのね。
> マムちゃんはさあ、可愛いからチューしてみたかったんじゃないの?
> (チュー何だかキス何だか・・・)
ちょっとした『チュッ』じゃなかったのは確かでしょうね。
真室、無垢で可愛いんでしょう。
> まあさ、あっちゃん気持ち伝えちゃったし。
> つか、展開早っ!
> あっちゃんて、考えるより行動する人なのね♪
> マムちゃん、あっちゃんお買得だよ!
> あー、フクちゃん以来かもなあ。
> こんなに思うの。
展開早いですよ~。
そうでないと、20話とか25話で終わらないですからね。
あつみは影から支える先輩…っていうのをやめちゃいそうです。
気持ちに気付けば直球で。
というか、危なっかしい位置にいる真室に気付いたから余計に焦るのかも。
フクちゃんも焦っては一気に踏み込んだものね。
> 「萩生~、それ嫌い」
> 「旨いから食えって。あー。」
> 「あーん。モグモグ。あ・・・」
> 「な、旨いだろ?」
> 「うん、やっぱり萩生が作ったからぁ♪」
> 「そうか?明日もつくってやるよ」
> 「うん!(シメシメ( ̄ー ̄))」
>
> ラブラブハギーと由良。
> 周りにいる人はもれなく乙れます。
こっちはね。もうすでにイチャコラしてますからね。
由良もおだててしっかりハギーを使いこなしているし。
今まで作ってあげていたんだから、これからは可愛がってもらいましょう。
お料理上手にして、こちらもお弁当持参でしょうか。
(比較されるので同席はやだけど…byハギー)
コメントありがとうございました。
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