真室は始業時間を少しだけ過ぎてから戻ってきた。
それは咎められるようなこともない、僅かな時間だった。
誰も気にしていない。
「真室、他社のデータ、揃えておいて」
萩生の指示にもいつもどおり頷いて、午後の仕事として取りかかっている。
どことなく、表情に煌々としているような雰囲気が見えるのは気のせいか…。
訳のわからない苛立ちを抱えながら、あつみは時間の経過とともに、真室を責めていた。
「まだ出ないのかよっ」
慣れない仕事なのだとは充分承知している。
普段では聞かれない、あつみのとげとげしい言葉に委縮した真室は声を失っていた。
キツイ発言をしたことを、すぐさま萩生が咎めてきた。
「あつみ?!これがどれだけ難しいかわかってんだろっ。おまえ、何、苛立ってんのっ?!」
性格は知られていることがある。
手伝う…というならともかく、あつみの言動は叩いているだけだ。
行き場のない感情は、出しぬかれたような悔しさが混じっている。
劣等感…だろうか…。
瀬見は、あつみの欲しいものを簡単に手に入れているような錯覚が襲ってきていた。
すでに知った瀬見の性格は嫌味でもなく馴染んではいたが、親しみを通り越した形だった。
いつも呟かれるあつみの声を聞いていて、だけど簡単に心の隙間を埋める存在を手にしてしまう…。
そして、それだけではないだろう。
見聞きしてしまったものが言いようのない妄想を生み、胸の苦しさを孕んでいた。
ふたりに対して、何を思うのだろう。
瀬見の人当たりの良さはすでに知るところである。
無邪気な真室の性格も…。
だけど逆に感じたのは、瀬見の軽薄さだった。
“頼まれて付き合った人間は、過去の数に入れない”…。
すでに聞いた話は、その場では笑えたことでも、今は違っている。
真室が苦しむ姿だけは見たくなかった。
…もてあそばれる…。
勝手な妄想なのかもしれないけれど。
そのことが脳裏をよぎり、流されているように、判断できない幼い真室に、苛立ちが増しているのだ。
自分だったら…。
そう思った時、初めて、守ってやりたい感情があることを知った。
これまでかまってきたことも、理由がつくような気がした。
萩生にまでたしなめられたことで、ますます胸糞が悪い状態に陥った。
バンっと書類を叩きつけて、立ち上がった。
「あつみっ、どこ行くんだよっ?!」
「トイレっ!!生理現象まで止められるのかっ?!」
ただの八つ当たりだとは分かっている。
止められないのは自分の感情のほう…。
どうしてこんなに…。
たった一日と一瞬で、全てが変わった。
トイレの流し台で顔を洗っては、「クソッ」とやりきれない気持ちが溢れ出た。
そばに居過ぎたせいで見えなかったもの…。
流れる空気は昨日とは違っている。
“お兄ちゃんのお弁当”は家庭の味に飢えていた自分のためにと真室が気遣ってくれていたと思っていたのは…、勝手な思い込み。
こんなことなら、瀬見に同調を求めるものではなかった…と後悔しても後の祭りだ。
自分を通り越して、確実に瀬見と真室は近付いた。
自分がこんな感情を持っていたなんて…。
「クソッ」
もう一度呟いたあつみは、明日からの行方を考え始めていた。
こんな状態で、三人で仲良く弁当など食えないだろう。
だからといって、その弁当を断る気にもなれなかった。
唯一、真室とあつみを繋ぐものだと分かっていたから。
なにより、兄が知っていることだけに…。
見せかけの見栄とも捉えられそうだが、今となっては、繋ぎとめたい心理が働いている。
改めて気付いてしまったから尚更…。
真室は、双子に負けず劣らず、充分に可愛い存在だった。
(年齢のことはともかく…)
瀬見が自分よりも早くにその魅力に気付いてしまったことが、とにかく悔しいのかもしれない。
簡単に横からかっさられる…。
男としての、扱いの違いまで見越されたようだ。
全てにおいて、上を行く人間…。
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それは咎められるようなこともない、僅かな時間だった。
誰も気にしていない。
「真室、他社のデータ、揃えておいて」
萩生の指示にもいつもどおり頷いて、午後の仕事として取りかかっている。
どことなく、表情に煌々としているような雰囲気が見えるのは気のせいか…。
訳のわからない苛立ちを抱えながら、あつみは時間の経過とともに、真室を責めていた。
「まだ出ないのかよっ」
慣れない仕事なのだとは充分承知している。
普段では聞かれない、あつみのとげとげしい言葉に委縮した真室は声を失っていた。
キツイ発言をしたことを、すぐさま萩生が咎めてきた。
「あつみ?!これがどれだけ難しいかわかってんだろっ。おまえ、何、苛立ってんのっ?!」
性格は知られていることがある。
手伝う…というならともかく、あつみの言動は叩いているだけだ。
行き場のない感情は、出しぬかれたような悔しさが混じっている。
劣等感…だろうか…。
瀬見は、あつみの欲しいものを簡単に手に入れているような錯覚が襲ってきていた。
すでに知った瀬見の性格は嫌味でもなく馴染んではいたが、親しみを通り越した形だった。
いつも呟かれるあつみの声を聞いていて、だけど簡単に心の隙間を埋める存在を手にしてしまう…。
そして、それだけではないだろう。
見聞きしてしまったものが言いようのない妄想を生み、胸の苦しさを孕んでいた。
ふたりに対して、何を思うのだろう。
瀬見の人当たりの良さはすでに知るところである。
無邪気な真室の性格も…。
だけど逆に感じたのは、瀬見の軽薄さだった。
“頼まれて付き合った人間は、過去の数に入れない”…。
すでに聞いた話は、その場では笑えたことでも、今は違っている。
真室が苦しむ姿だけは見たくなかった。
…もてあそばれる…。
勝手な妄想なのかもしれないけれど。
そのことが脳裏をよぎり、流されているように、判断できない幼い真室に、苛立ちが増しているのだ。
自分だったら…。
そう思った時、初めて、守ってやりたい感情があることを知った。
これまでかまってきたことも、理由がつくような気がした。
萩生にまでたしなめられたことで、ますます胸糞が悪い状態に陥った。
バンっと書類を叩きつけて、立ち上がった。
「あつみっ、どこ行くんだよっ?!」
「トイレっ!!生理現象まで止められるのかっ?!」
ただの八つ当たりだとは分かっている。
止められないのは自分の感情のほう…。
どうしてこんなに…。
たった一日と一瞬で、全てが変わった。
トイレの流し台で顔を洗っては、「クソッ」とやりきれない気持ちが溢れ出た。
そばに居過ぎたせいで見えなかったもの…。
流れる空気は昨日とは違っている。
“お兄ちゃんのお弁当”は家庭の味に飢えていた自分のためにと真室が気遣ってくれていたと思っていたのは…、勝手な思い込み。
こんなことなら、瀬見に同調を求めるものではなかった…と後悔しても後の祭りだ。
自分を通り越して、確実に瀬見と真室は近付いた。
自分がこんな感情を持っていたなんて…。
「クソッ」
もう一度呟いたあつみは、明日からの行方を考え始めていた。
こんな状態で、三人で仲良く弁当など食えないだろう。
だからといって、その弁当を断る気にもなれなかった。
唯一、真室とあつみを繋ぐものだと分かっていたから。
なにより、兄が知っていることだけに…。
見せかけの見栄とも捉えられそうだが、今となっては、繋ぎとめたい心理が働いている。
改めて気付いてしまったから尚更…。
真室は、双子に負けず劣らず、充分に可愛い存在だった。
(年齢のことはともかく…)
瀬見が自分よりも早くにその魅力に気付いてしまったことが、とにかく悔しいのかもしれない。
簡単に横からかっさられる…。
男としての、扱いの違いまで見越されたようだ。
全てにおいて、上を行く人間…。
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あぁ~あつみの八つ当たりの乱反射~!
嫌だ 嫌だよ~ こんな あつみを見たくないよ(*・ε・*)ムー
瀬見と真室の事があって 自分の気持ちに気づいたのは 良かったじゃないの?
この苛立ちは まさしく嫉妬と寂しさでしょうね。
その沸騰した頭を 少し冷やしなよ~
一人でね…il||li(*'I')il||li ショボン ......byebye☆
嫌だ 嫌だよ~ こんな あつみを見たくないよ(*・ε・*)ムー
瀬見と真室の事があって 自分の気持ちに気づいたのは 良かったじゃないの?
この苛立ちは まさしく嫉妬と寂しさでしょうね。
その沸騰した頭を 少し冷やしなよ~
一人でね…il||li(*'I')il||li ショボン ......byebye☆
あっちゃんが可哀想だよー。
瀬見は瀬見、あっちゃんはあっちゃんなんだから。
なんで、比べないといけないのさ?
自信を持てー、頑張るんだ、あっちゃん!
あっちゃんの良いとこだってたくさんあるよ。
誰にでも分け隔てなく接するとこ、明るいとこ、さりげない優しさ。
自分を卑下するなんてしないで(泣)
しくしく、しくしく。しくしく、しくしく。
『もしもし?』
「隊長~っ!瀬見が、瀬見がぁっ!」
『蝉がどうかしたか?』
「あっちゃんの恋路を邪魔するの~。えーん」
『蝉がどうやって邪魔するんだ?季節外れだろう?』
「隊長のオタンコナス~。アンポンタン!お仕置きだべ~!やっぱり、師匠に相談すれば良かったっ!」
注。
私のせみちゃん彼氏持ちは、きえさんの素敵な本編とは関係ありません。ただの妄想でございます。
瀬見は瀬見、あっちゃんはあっちゃんなんだから。
なんで、比べないといけないのさ?
自信を持てー、頑張るんだ、あっちゃん!
あっちゃんの良いとこだってたくさんあるよ。
誰にでも分け隔てなく接するとこ、明るいとこ、さりげない優しさ。
自分を卑下するなんてしないで(泣)
しくしく、しくしく。しくしく、しくしく。
『もしもし?』
「隊長~っ!瀬見が、瀬見がぁっ!」
『蝉がどうかしたか?』
「あっちゃんの恋路を邪魔するの~。えーん」
『蝉がどうやって邪魔するんだ?季節外れだろう?』
「隊長のオタンコナス~。アンポンタン!お仕置きだべ~!やっぱり、師匠に相談すれば良かったっ!」
注。
私のせみちゃん彼氏持ちは、きえさんの素敵な本編とは関係ありません。ただの妄想でございます。
けいったん様
こんにちは。
> あぁ~あつみの八つ当たりの乱反射~!
> 嫌だ 嫌だよ~ こんな あつみを見たくないよ(*・ε・*)ムー
乱れておりますね~。
こんな展開も時にはあり、ということで…(←?)
> 瀬見と真室の事があって 自分の気持ちに気づいたのは 良かったじゃないの?
> この苛立ちは まさしく嫉妬と寂しさでしょうね。
>
> その沸騰した頭を 少し冷やしなよ~
> 一人でね…il||li(*'I')il||li ショボン ......byebye☆
漠然と過ごしてきた日々に火がつきましたね。
気持ちをしれたのは瀬見のおかげなんですから、まぁ、良いと言えば良い?!
その感情をどう処理していくのでしょうか。
そして、瀬見と真室は?!
一人で…? そんな悲しいこといわずに、萩生とかに手伝ってもらいましょうよ。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> あぁ~あつみの八つ当たりの乱反射~!
> 嫌だ 嫌だよ~ こんな あつみを見たくないよ(*・ε・*)ムー
乱れておりますね~。
こんな展開も時にはあり、ということで…(←?)
> 瀬見と真室の事があって 自分の気持ちに気づいたのは 良かったじゃないの?
> この苛立ちは まさしく嫉妬と寂しさでしょうね。
>
> その沸騰した頭を 少し冷やしなよ~
> 一人でね…il||li(*'I')il||li ショボン ......byebye☆
漠然と過ごしてきた日々に火がつきましたね。
気持ちをしれたのは瀬見のおかげなんですから、まぁ、良いと言えば良い?!
その感情をどう処理していくのでしょうか。
そして、瀬見と真室は?!
一人で…? そんな悲しいこといわずに、萩生とかに手伝ってもらいましょうよ。
コメントありがとうございました。
ちー様
こんにちは。
> あっちゃんが可哀想だよー。
> 瀬見は瀬見、あっちゃんはあっちゃんなんだから。
> なんで、比べないといけないのさ?
> 自信を持てー、頑張るんだ、あっちゃん!
瀬見と比較しちゃいましたね。
スムーズに物事をこなす印象があったのでしょうか。
それは過去の"付き合った数"もあるのでしょう。
一人身をあつみのように晒さない性格なども…。
> あっちゃんの良いとこだってたくさんあるよ。
> 誰にでも分け隔てなく接するとこ、明るいとこ、さりげない優しさ。
> 自分を卑下するなんてしないで(泣)
そうそう。あっちゃんもいい男なんです。
後輩思いでねぇ。
真室も可愛がられてきたことを振り返りましょう。
> しくしく、しくしく。しくしく、しくしく。
> 『もしもし?』
> 「隊長~っ!瀬見が、瀬見がぁっ!」
> 『蝉がどうかしたか?』
> 「あっちゃんの恋路を邪魔するの~。えーん」
> 『蝉がどうやって邪魔するんだ?季節外れだろう?』
> 「隊長のオタンコナス~。アンポンタン!お仕置きだべ~!やっぱり、師匠に相談すれば良かったっ!」
>
> 注。
> 私のせみちゃん彼氏持ちは、きえさんの素敵な本編とは関係ありません。ただの妄想でございます。
暑かった夏も過ぎ、すっかり秋めいて…。
ってそっちのセミでは…。
瀬見って実のところ、彼氏いるんですかね。
でもまぁ、なんかいそうだなっていう余裕は見え隠れしておりますが。
じゃあ、真室は?!
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> あっちゃんが可哀想だよー。
> 瀬見は瀬見、あっちゃんはあっちゃんなんだから。
> なんで、比べないといけないのさ?
> 自信を持てー、頑張るんだ、あっちゃん!
瀬見と比較しちゃいましたね。
スムーズに物事をこなす印象があったのでしょうか。
それは過去の"付き合った数"もあるのでしょう。
一人身をあつみのように晒さない性格なども…。
> あっちゃんの良いとこだってたくさんあるよ。
> 誰にでも分け隔てなく接するとこ、明るいとこ、さりげない優しさ。
> 自分を卑下するなんてしないで(泣)
そうそう。あっちゃんもいい男なんです。
後輩思いでねぇ。
真室も可愛がられてきたことを振り返りましょう。
> しくしく、しくしく。しくしく、しくしく。
> 『もしもし?』
> 「隊長~っ!瀬見が、瀬見がぁっ!」
> 『蝉がどうかしたか?』
> 「あっちゃんの恋路を邪魔するの~。えーん」
> 『蝉がどうやって邪魔するんだ?季節外れだろう?』
> 「隊長のオタンコナス~。アンポンタン!お仕置きだべ~!やっぱり、師匠に相談すれば良かったっ!」
>
> 注。
> 私のせみちゃん彼氏持ちは、きえさんの素敵な本編とは関係ありません。ただの妄想でございます。
暑かった夏も過ぎ、すっかり秋めいて…。
ってそっちのセミでは…。
瀬見って実のところ、彼氏いるんですかね。
でもまぁ、なんかいそうだなっていう余裕は見え隠れしておりますが。
じゃあ、真室は?!
コメントありがとうございました。
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