夕日が差し込む眩しさで目が覚めた。
一日中何も食べていなかったから、少しだけ空腹感もあった。
こんなに悲しくて何もやる気が起きないのに、おなかは空くんだ…。
寝る前に未来に向けて僅かに希望を持ったつもりだったのに、それを打ち消してしまうくらいの悲しさと、傍にだれもいない淋しさに打ちひしがれた。ホテルには常に人がいたから…。
何もない部屋の中で、動く気も起きなかった。ベッドに寝そべったまま長い時を過ごした。やがて夕日は傾き、部屋の中が薄暗くなってくる。これからどうしたらいいのかも考えたくない暗い空間。
思い浮かぶのは精悍な榛名の顔ばかりで、最後に抱いてもらった優しい腕が恋しかった。
忘れなきゃいけないって思うのに…。
ふいに玄関の呼び鈴が鳴る音がした。
部屋に電気は付いていないし、英人は無視することに決めた。どうせ何かの勧誘だと思った。
これまでにあった支払は榛名が全て清算してくれていたし、取り立てがやってくることもないはずだ。
ただ寝そべって音の一つも立てずに、外にいる人間が過ぎ去ってくれるのを待っていた。
安いアパートの壁も玄関ドアも、簡単に物音を伝えてしまう。
黙ったままでいると、コンコンとドアを叩く音に変わった。
「暮田さん、お戻りですか?」
一番聞きたくないと思った野崎の声が外でして、英人は竦み上がった。昨日の刺々しい口調ではないのは分かったが、会いたくもない。
今度は何を言いに来たと言うのだろうか。本当にここに戻ったのか確認をしに来たのだろうか。
英人が口を開かずにいると、ポトンと郵便受けに封筒が差しこまれた。
それから立ち去って行く足音が聞こえた。
しばらくの間、英人は動くことができずじっとしていた。まだどこかで野崎が、部屋の電気が付くのを見張っているような気がしたからだ。手抜かりの無いあの男のことだから、それくらいのことでもして確認するのではないかと思った。
何を置いて行かれたのかは気になっていたが、たぶん一時間以上も英人は緊張して時間を過ごした。
のろのろと身体を起き上がらせて外の廊下から入ってくる外灯の灯りを頼りに、静かに玄関に歩み寄った。
差し込まれていたA4サイズの封筒をそっと拾い上げてみる。
ようやく部屋の明りを灯す気になった。
玄関ドアにある細いポストでも入るようにと丁寧に丸められたポスターと数枚の書類が入っていた。
ポスターはもちろん、榛名がプロジェクトに使用するために制作させたもので、書類には正式に英人に依頼をしたという内容の添え書きなどが記載されていた。榛名の会社名や関わった人間のサインもあり、信用度の高さを表している。
これを持って就職活動でもしろということなのだろうか。あれだけのことを言っておきながら、わざわざこんな物まで用意してくれなくて良かったのに…。
そして一枚の書類には英人の口座に500万円の金を振り込んだとあった。これまでの英人の年収の2倍かという金額にも驚かされたが、それが榛名の意思で、迷惑をかけたことへの謝礼金だと書き込まれていた文を読んだ時、地獄の底まで叩き落とされたような絶望感に見舞われた。
自分はまだどこかで、心の本当に隅っこのようなところで、まだ期待していたのだ。
もしかしたらまた逢えるのではないだろうかと…。
榛名が言い残してくれた「不安にならなくていい。心配しなくていい」という言葉をどこかで信じていた。
ホテルを出てしまったことに気付いて、もしかしたら迎えに来てくれるかも、と馬鹿なことまで思っていたかもしれない。
もう待っても榛名は来ないとはっきりとこの紙切れが伝えた。
「…あ…ぁ……」
言葉にならない嗚咽だけが、苦しむ喉の奥から掠れて出てきた。
胸が張り裂けて心臓が壊れるのではないかというくらいの激痛が走った。
責めるべきは榛名ではないと分かってはいたが、最後に希望も失わされる現実に、衝撃は大き過ぎた。
完全に自分は榛名から見放された…。榛名が嘘をついたとは思いたくなかったが、結果的に英人は弄ばれたのだと落胆した。
英人はこのみすぼらしいアパートに居ることがものすごく惨めに感じて、ここを出ようと思った。
何かをしよう、気分を切り替えようなどという向上心はなかった。
今まさに断崖絶壁から身を投げようとした瞬間だった。
…どこかに行こう…
この部屋は昔の自分を彷彿とさせ、どれだけ夢を描いても世間の人は厭らしくみすぼらしい存在だと疎む。所詮自分はその程度の人間でしかない…。
まるで死の入口に呼ばれたような気分で、何もかもを置き何も持たずに宛てもなく夜の街に出て行った。
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一日中何も食べていなかったから、少しだけ空腹感もあった。
こんなに悲しくて何もやる気が起きないのに、おなかは空くんだ…。
寝る前に未来に向けて僅かに希望を持ったつもりだったのに、それを打ち消してしまうくらいの悲しさと、傍にだれもいない淋しさに打ちひしがれた。ホテルには常に人がいたから…。
何もない部屋の中で、動く気も起きなかった。ベッドに寝そべったまま長い時を過ごした。やがて夕日は傾き、部屋の中が薄暗くなってくる。これからどうしたらいいのかも考えたくない暗い空間。
思い浮かぶのは精悍な榛名の顔ばかりで、最後に抱いてもらった優しい腕が恋しかった。
忘れなきゃいけないって思うのに…。
ふいに玄関の呼び鈴が鳴る音がした。
部屋に電気は付いていないし、英人は無視することに決めた。どうせ何かの勧誘だと思った。
これまでにあった支払は榛名が全て清算してくれていたし、取り立てがやってくることもないはずだ。
ただ寝そべって音の一つも立てずに、外にいる人間が過ぎ去ってくれるのを待っていた。
安いアパートの壁も玄関ドアも、簡単に物音を伝えてしまう。
黙ったままでいると、コンコンとドアを叩く音に変わった。
「暮田さん、お戻りですか?」
一番聞きたくないと思った野崎の声が外でして、英人は竦み上がった。昨日の刺々しい口調ではないのは分かったが、会いたくもない。
今度は何を言いに来たと言うのだろうか。本当にここに戻ったのか確認をしに来たのだろうか。
英人が口を開かずにいると、ポトンと郵便受けに封筒が差しこまれた。
それから立ち去って行く足音が聞こえた。
しばらくの間、英人は動くことができずじっとしていた。まだどこかで野崎が、部屋の電気が付くのを見張っているような気がしたからだ。手抜かりの無いあの男のことだから、それくらいのことでもして確認するのではないかと思った。
何を置いて行かれたのかは気になっていたが、たぶん一時間以上も英人は緊張して時間を過ごした。
のろのろと身体を起き上がらせて外の廊下から入ってくる外灯の灯りを頼りに、静かに玄関に歩み寄った。
差し込まれていたA4サイズの封筒をそっと拾い上げてみる。
ようやく部屋の明りを灯す気になった。
玄関ドアにある細いポストでも入るようにと丁寧に丸められたポスターと数枚の書類が入っていた。
ポスターはもちろん、榛名がプロジェクトに使用するために制作させたもので、書類には正式に英人に依頼をしたという内容の添え書きなどが記載されていた。榛名の会社名や関わった人間のサインもあり、信用度の高さを表している。
これを持って就職活動でもしろということなのだろうか。あれだけのことを言っておきながら、わざわざこんな物まで用意してくれなくて良かったのに…。
そして一枚の書類には英人の口座に500万円の金を振り込んだとあった。これまでの英人の年収の2倍かという金額にも驚かされたが、それが榛名の意思で、迷惑をかけたことへの謝礼金だと書き込まれていた文を読んだ時、地獄の底まで叩き落とされたような絶望感に見舞われた。
自分はまだどこかで、心の本当に隅っこのようなところで、まだ期待していたのだ。
もしかしたらまた逢えるのではないだろうかと…。
榛名が言い残してくれた「不安にならなくていい。心配しなくていい」という言葉をどこかで信じていた。
ホテルを出てしまったことに気付いて、もしかしたら迎えに来てくれるかも、と馬鹿なことまで思っていたかもしれない。
もう待っても榛名は来ないとはっきりとこの紙切れが伝えた。
「…あ…ぁ……」
言葉にならない嗚咽だけが、苦しむ喉の奥から掠れて出てきた。
胸が張り裂けて心臓が壊れるのではないかというくらいの激痛が走った。
責めるべきは榛名ではないと分かってはいたが、最後に希望も失わされる現実に、衝撃は大き過ぎた。
完全に自分は榛名から見放された…。榛名が嘘をついたとは思いたくなかったが、結果的に英人は弄ばれたのだと落胆した。
英人はこのみすぼらしいアパートに居ることがものすごく惨めに感じて、ここを出ようと思った。
何かをしよう、気分を切り替えようなどという向上心はなかった。
今まさに断崖絶壁から身を投げようとした瞬間だった。
…どこかに行こう…
この部屋は昔の自分を彷彿とさせ、どれだけ夢を描いても世間の人は厭らしくみすぼらしい存在だと疎む。所詮自分はその程度の人間でしかない…。
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きえ | URL | 2009-10-14-Wed 02:27 [編集]
t様
いらっしゃいませ。こんばんは。
記事を上げてすぐだったらしいコメントを嬉しく思いました(^O^)
>初めてのコメント、失礼致します。いつも更新を本当に楽しみにしています。胸を鷲掴みにされる様な...人を引き込む世界観に自分の事の様に感じ読ませて頂いております。
お越しいただけて感謝しております。
……いえいえ、そんな風に言われてこちらが恐縮です。
もう本当に文章力がなくて、伝えたいことの半分? 4分の1くらいが書けているのかな~って状態です(汗)
>過去は塗り替えられませんが、未来はいくらでも変えていけると知りました。英人の気持ちが分かる分、幸せを願います。初めてで長文失礼しましたm(_ _;)m
失礼と思い途中の記事は切り取らせていただきました。m(__)m
英人に想いを寄せていただいたこと、また辛く感じさせてしまったようで申し訳なくも思います。
けれど私の人生観としては、ちっぽけで醜い存在の人間なんていないと思っています。
『生きる』ための努力をされる方は、みんな輝いていると思います。
t様の言うように、過去は変えられなくても未来は自分で切り開くものです。
それを英人にも分かってほしいな~。
コメントいただき本当に嬉しかったです。
ぜひまたいらしてください。
いらっしゃいませ。こんばんは。
記事を上げてすぐだったらしいコメントを嬉しく思いました(^O^)
>初めてのコメント、失礼致します。いつも更新を本当に楽しみにしています。胸を鷲掴みにされる様な...人を引き込む世界観に自分の事の様に感じ読ませて頂いております。
お越しいただけて感謝しております。
……いえいえ、そんな風に言われてこちらが恐縮です。
もう本当に文章力がなくて、伝えたいことの半分? 4分の1くらいが書けているのかな~って状態です(汗)
>過去は塗り替えられませんが、未来はいくらでも変えていけると知りました。英人の気持ちが分かる分、幸せを願います。初めてで長文失礼しましたm(_ _;)m
失礼と思い途中の記事は切り取らせていただきました。m(__)m
英人に想いを寄せていただいたこと、また辛く感じさせてしまったようで申し訳なくも思います。
けれど私の人生観としては、ちっぽけで醜い存在の人間なんていないと思っています。
『生きる』ための努力をされる方は、みんな輝いていると思います。
t様の言うように、過去は変えられなくても未来は自分で切り開くものです。
それを英人にも分かってほしいな~。
コメントいただき本当に嬉しかったです。
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