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BLの丘
緑の中の吐息 3
2013-06-04-Tue  CATEGORY: 吐息
最寄りの市街地から走ること一時間以上。
つづら折りの坂道を登っていくと、二股に分かれる道で、今にも崩れ落ちそうな『植樹祭記念公園』と表記された看板に出会った。
分かれ道の中央に立てられた小さなものには矢印がついていたが、長年の腐食のせいか、その矢印は天を指していた。
「『天国へまっしぐらコース』とか、いやだよ…」
どんな危険な場所だ、と嫌味を込めて瑛佑がつぶやくと、美琴が小さく笑みを浮かべる。
「道から反れない限り、いたって安全な場所ですよ」
それから「早急に直させましょう」と持っていた地図に赤い印を残した。
どんなに形ばかりではあっても、一応、『仕事』をしている姿は見せたいらしい。
脇道に方向を変えるが、そこはさすがに過去、多くの人が訪れた名残か、道幅も道路状況も悪いものではなかった。

「対向車と全くすれ違わないね」
「こんな朝から降りてくる車があったら、そちらの方が心配になりますよ」
この先が行止りになることを思えば、いなくて当然と美琴は思っている。
きっと夜には外灯の一つもない暗闇の世界に覆われるのだろう。
様々な動物とご対面できそうだし、遭難者を生まないためにも、一定の時間になったら閉鎖したほうがいいと思わせる静けさが広がっていた。
同じことを瑛佑も思ったのか、「まぁ、夜に来たい場所じゃないね」と頷いた。

眼下に緑が多い茂る山々を見ながら進むこと十数分。一気に視界が開けて、広々とした駐車場に到着した。
県外ナンバーの車が二台、ポツンポツンと離れたところに停められている。
「あれ?先客ありなの?捨てられているわけじゃないよね?」
放置されたにしては綺麗すぎる車に瑛佑は驚いていたが、それなりに『ハイキングコース』として紹介された過去があり、また週末の本日、誰が来ていてもおかしくない場所だった。
管理棟に立ち寄ってみたが、人の姿は見受けられなかった。

「美琴さん、荷物、俺が持つよ」
瑛佑が後部座席に積まれていたリュックを手にすると、ひょいと背中に背負った。
植樹祭が行われた公園までだったら、貴重品だけを手にする程度で済んでしまうが、今日は山頂まで目指す気でいる。
それだって片道二時間、かかるかかからないかの距離だ。
美琴は瑛佑に感謝して、ジャンパーのポケットに小型のデジタルカメラと携帯電話だけを入れて歩きだした。
見上げた空は、今日一日、雨を降らすのを待ってくれるだろうか。

公園までの道は、アスファルトが敷かれ、なだらかで歩きやすいほうだろう。
途中、植物の名前などが表記されたプレートも立っていて、ロープで隔てられた道から読むことができた。
ロータリー風に円形の花壇があり、その周りを、休憩用のベンチがいくつか囲んでいる。
一番奥の場所に小さな売店があって、脇の階段を使ってその屋上に登れるようになっており、コインを入れて風景を眺めることのできる双眼鏡が設置されていた。
見えるものと言えば遠くの街並みと、ここまで続く山の中の道がチラホラ、くらいで、運が良ければ動物でも発見できそうだと思ってしまう。
「ホント、何もないんだな…。こんなところ引き継いで、経営、ヤバくなんないの?」
美琴の勤める会社がどんな計画を立てているのかは、瑛佑の知るところではないし、口を挟む気は毛頭ない。
それでも、自分たちしかいない光景を目の当たりにしてしまえば、色々と心配事が浮かんでしまう。
社長と美琴の経営理念を持っては失敗することはないだろうと分かっていても、危惧してしまうのだ。
「今現在は『記念公園』としてだけの存在ですからね。最低限の管理はしてきた、といったところでしょうか。雑草まで手が回っていない箇所も多々ありましたし、遊歩道の痛みも激しいところがありました。どこの自治体も予算を回せないところというのは出てきます。手をかけて『見せられる』ものにすれば、客足も変わってくるでしょう」
こうやって静かな風景が人で賑わいすぎるのもどうかと思いますが…、と美琴は少し淋しそうに付けくわえた。
また、一度だけの植樹祭ではなく、今後も何らかの形で『継続』していけるものができてくれば、認知度も変わっていくだろう。
自然と共存していくことは、何かと問題も起こりやすいが、そのあたりは企画室からの提案を待つしかない。

「では山頂に向かいましょうか。ここから一時間ほどと聞いております。天気のことも心配ですし」
この場所でのんびり過ごしてしまいそうな瑛佑を促した。
正直、美琴が考えていることは、『山頂まで』をメインとしたハイキングコースの整備だった。
お手軽に、気軽に。
美琴自身が行動範囲を承知しているからこそ、自分の体力を基準にしたコースを組むことができると思っていた。

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