せっかくの休日だ。
ふたりの生活時間が昼夜とズレているために、一緒に出かけられる機会など少なかった。
美琴の仕事の多忙さも理解してくれて、また、今まで同様、インドア派の生活を送ろうとする美琴に無理は言ってこない。
そんなところは感謝してもしきれないと、美琴は常々思っている。
またそれを楽しみに待たれていることも知っている。
遠くに行かなくてもいい。
ちょっと近所を散歩するくらいでいいから・・・と提案されては、叶えてあげたい思いにかられる。
しかし、決して美琴から『行きたいから』と言わないところは性格でしかない。
まあ、その性格もすでに承知している瑛佑で、不機嫌になるようなことはないが。
「水族館・・・とおっしゃっていましたか?」
出かけて最寄駅まで歩く途中で、美琴が尋ねると、瑛佑が「美琴さん、水族館がいいの?」と返された。
自分の希望ではない、と強調したいと思いながら、「あなたが出かけようと言いだしたんでしょっ」と押し付け合いになってしまう会話に、瑛佑はクスクスと笑っている。
こんな会話ですら楽しまれてしまうのだから、少々居心地が悪くなる美琴なのだが、そこは瑛佑がうまく事を運ぶように仕向けてくれる。
彼のさりげなさが、本当は嬉しいのだが、やはり感情を素直に表すようなことはできなかった。
さすがにどこに行っても人ごみだ・・・と閉口しかける。
それを良い方に捉えた瑛佑は、こんな時は必ず必要以上近づいてきた。
「ちょっと、瑛佑・・・」
多くの人の視線にさらされているような感覚もあって、美琴は掴まれた手を振りほどこうとしたり、腰に回った腕に戸惑いを感じたりして、困惑続きになってしまう。
「だって、迷子になっちゃうよ」
「まい、ご・・・って、迷子になるのはあなたのほうでしょうっ」
「だからさ、一緒にいよう。迷子にさせないでよ」
『瑛佑が迷子になるのだ』と言い変えてくれるところあたりも、彼の優しさだと理解できているから、その後は美琴は頬を染めつつ、瑛佑の好きにさせるのだ。
水槽の前には多くの家族連れが列をなしていた。
「美琴さん、見える?抱っこしてあげようか?」
「ばっ、バカなこと、言っていないでください(////)」
スッと大きな体を人の間に潜り込ませて、美琴を前に立たせてくれたりする。
長い観察時間でなければ、これといって文句を言われるわけでもない。
ふたりとも物を瞬時に見分ける動体視力も良い方だったから、きっと滞在時間なんて、他の人よりも短いはずだ。
こんな日は、『一緒に過ごした』という思い出があればいい。
想像以上の混雑ぶりに、見学も思ったより時間がかかってしまった。
遅い時間の昼食をカフェでとり、歩き疲れた足を休める。
無駄な動きが多い分、予想外に疲れた・・・と言ったところだろうか。
美琴の体力もすでに熟知していた瑛佑は、あえてそのことに触れてはこなくて、雑談に花を咲かせてくれた。
まず第一に美琴のことを気遣ってくれる。
胸の内があたたかくなる時でもあった。
素直に思いを告げたほうがいいのだろうな・・・とは幾度も思ったことだったが、どうしても美琴の持っている性格が邪魔をしてしまう。
瑛佑が分かってやってくれてるとも知れてくるから、余計に口に出しづらくなってしまったのだろうか。
でも、甘えていることは確かだった。
「今日はさ、早く帰って一緒にお風呂に入ろうか。マッサージもしてあげるよ」
「こ、こんなところで、何言い出すんですか」
幾分声は抑えたとしても、やはり人で賑わっている店内なのだ。
焦る美琴に、クスリとした笑みを向けてきた。
「誰も聞いてないって。ホント美琴さんって純情で可愛いよね」
「それ以上言ったら、置いていきますよ・・・」
「はいはい」
ニコニコとした瑛佑の笑みはいつまでも続く。
帰るには少し早いだろうか・・・
あまりにも中途半端な時間に、逡巡していると、瑛佑も悩んでいるような素振りを見せた。
視線を投げかけただけで言いたいことは伝わっている。
「美琴さん、もう少し出歩いてても平気?」
滅多にある"お出掛け"ではない。
何かしら意とするものがあることに気付きもする。
せっかくの時間を、少しでも有意義に・・・と思考を巡らせるのは当然のことだった。
「えぇ、構いませんが・・・」
「本当にマッサージしてあげるからね」
「それは結構です」
その後、商業施設を人波にもまれながら、店舗をひやかし歩いて、外に出ると、すっかり暗くなっている。
「美琴さん、見てよ」
人の間を潜り抜けるように歩いていた美琴は、瑛佑に道路端に寄せられて、顔を上げた。
人が一斉に同じ方向を見ている、その最後列。
さえちゃんが撮ってきてくれました。お持ち帰り厳禁です。
「あ・・・」
なかなかじっくりと見ることのない建造物が、優しい灯りを放っている。
見上げれば見上げるほど、その大きさに圧倒もされる。
瑛佑がさりげなく美琴の背後にまわり、肩から胸の前で腕を組んだ。
耳元で囁かれる声は、静かで、でもはっきりと聞こえてくる。
「俺も夜は出ちゃうことばっかりだし。今日は我が儘言ってごめんね。愛してるよ。これからもいっぱい色々なもの、二人で見ていこう」
同じように眺めあげる人が足を止めていた。
自分たちの世界に浸ってしまっている人たちに触発されてしまったのか。
この暗がりが気を緩めてしまったのか。
自分の表情は少しでも隠れてくれるだろう。
少し振り返り気味に、やはり小さな声が漏れる。
「・・・えぇ・・・」
瑛佑は、その唇を素早くふさいで、今日一番の笑顔を見せてくれた。
「・・・もぅっ・・・(////)」
途端に身を捩ったが、これまでの時間で、残っている体力差は歴然としていた。
―完―
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ふたりの生活時間が昼夜とズレているために、一緒に出かけられる機会など少なかった。
美琴の仕事の多忙さも理解してくれて、また、今まで同様、インドア派の生活を送ろうとする美琴に無理は言ってこない。
そんなところは感謝してもしきれないと、美琴は常々思っている。
またそれを楽しみに待たれていることも知っている。
遠くに行かなくてもいい。
ちょっと近所を散歩するくらいでいいから・・・と提案されては、叶えてあげたい思いにかられる。
しかし、決して美琴から『行きたいから』と言わないところは性格でしかない。
まあ、その性格もすでに承知している瑛佑で、不機嫌になるようなことはないが。
「水族館・・・とおっしゃっていましたか?」
出かけて最寄駅まで歩く途中で、美琴が尋ねると、瑛佑が「美琴さん、水族館がいいの?」と返された。
自分の希望ではない、と強調したいと思いながら、「あなたが出かけようと言いだしたんでしょっ」と押し付け合いになってしまう会話に、瑛佑はクスクスと笑っている。
こんな会話ですら楽しまれてしまうのだから、少々居心地が悪くなる美琴なのだが、そこは瑛佑がうまく事を運ぶように仕向けてくれる。
彼のさりげなさが、本当は嬉しいのだが、やはり感情を素直に表すようなことはできなかった。
さすがにどこに行っても人ごみだ・・・と閉口しかける。
それを良い方に捉えた瑛佑は、こんな時は必ず必要以上近づいてきた。
「ちょっと、瑛佑・・・」
多くの人の視線にさらされているような感覚もあって、美琴は掴まれた手を振りほどこうとしたり、腰に回った腕に戸惑いを感じたりして、困惑続きになってしまう。
「だって、迷子になっちゃうよ」
「まい、ご・・・って、迷子になるのはあなたのほうでしょうっ」
「だからさ、一緒にいよう。迷子にさせないでよ」
『瑛佑が迷子になるのだ』と言い変えてくれるところあたりも、彼の優しさだと理解できているから、その後は美琴は頬を染めつつ、瑛佑の好きにさせるのだ。
水槽の前には多くの家族連れが列をなしていた。
「美琴さん、見える?抱っこしてあげようか?」
「ばっ、バカなこと、言っていないでください(////)」
スッと大きな体を人の間に潜り込ませて、美琴を前に立たせてくれたりする。
長い観察時間でなければ、これといって文句を言われるわけでもない。
ふたりとも物を瞬時に見分ける動体視力も良い方だったから、きっと滞在時間なんて、他の人よりも短いはずだ。
こんな日は、『一緒に過ごした』という思い出があればいい。
想像以上の混雑ぶりに、見学も思ったより時間がかかってしまった。
遅い時間の昼食をカフェでとり、歩き疲れた足を休める。
無駄な動きが多い分、予想外に疲れた・・・と言ったところだろうか。
美琴の体力もすでに熟知していた瑛佑は、あえてそのことに触れてはこなくて、雑談に花を咲かせてくれた。
まず第一に美琴のことを気遣ってくれる。
胸の内があたたかくなる時でもあった。
素直に思いを告げたほうがいいのだろうな・・・とは幾度も思ったことだったが、どうしても美琴の持っている性格が邪魔をしてしまう。
瑛佑が分かってやってくれてるとも知れてくるから、余計に口に出しづらくなってしまったのだろうか。
でも、甘えていることは確かだった。
「今日はさ、早く帰って一緒にお風呂に入ろうか。マッサージもしてあげるよ」
「こ、こんなところで、何言い出すんですか」
幾分声は抑えたとしても、やはり人で賑わっている店内なのだ。
焦る美琴に、クスリとした笑みを向けてきた。
「誰も聞いてないって。ホント美琴さんって純情で可愛いよね」
「それ以上言ったら、置いていきますよ・・・」
「はいはい」
ニコニコとした瑛佑の笑みはいつまでも続く。
帰るには少し早いだろうか・・・
あまりにも中途半端な時間に、逡巡していると、瑛佑も悩んでいるような素振りを見せた。
視線を投げかけただけで言いたいことは伝わっている。
「美琴さん、もう少し出歩いてても平気?」
滅多にある"お出掛け"ではない。
何かしら意とするものがあることに気付きもする。
せっかくの時間を、少しでも有意義に・・・と思考を巡らせるのは当然のことだった。
「えぇ、構いませんが・・・」
「本当にマッサージしてあげるからね」
「それは結構です」
その後、商業施設を人波にもまれながら、店舗をひやかし歩いて、外に出ると、すっかり暗くなっている。
「美琴さん、見てよ」
人の間を潜り抜けるように歩いていた美琴は、瑛佑に道路端に寄せられて、顔を上げた。
人が一斉に同じ方向を見ている、その最後列。
さえちゃんが撮ってきてくれました。お持ち帰り厳禁です。
「あ・・・」
なかなかじっくりと見ることのない建造物が、優しい灯りを放っている。
見上げれば見上げるほど、その大きさに圧倒もされる。
瑛佑がさりげなく美琴の背後にまわり、肩から胸の前で腕を組んだ。
耳元で囁かれる声は、静かで、でもはっきりと聞こえてくる。
「俺も夜は出ちゃうことばっかりだし。今日は我が儘言ってごめんね。愛してるよ。これからもいっぱい色々なもの、二人で見ていこう」
同じように眺めあげる人が足を止めていた。
自分たちの世界に浸ってしまっている人たちに触発されてしまったのか。
この暗がりが気を緩めてしまったのか。
自分の表情は少しでも隠れてくれるだろう。
少し振り返り気味に、やはり小さな声が漏れる。
「・・・えぇ・・・」
瑛佑は、その唇を素早くふさいで、今日一番の笑顔を見せてくれた。
「・・・もぅっ・・・(////)」
途端に身を捩ったが、これまでの時間で、残っている体力差は歴然としていた。
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- 関連記事
当然マッサージでしょうか?ムフ? 瑛佑さんたら、大人になって「迷子にさせないでよ」 これだから美琴さんが安心できるのよ~~褒め殺し! きえちん、SSありがとうございます
さえさん これは雅のライトだね うふ♪どじゃれとでしょうかね
初コミックシティは J庭とまた違い 3次元?飛び出す絵本(表現追いつかず)とか小物出品があったりしました 大御所の方はこないけど盛り上げは熱いです その後、池袋某K・B○ksへ流れたのですが(笑) これはツアーかと思うくらいお仲間が多くて 「今日はあの人来てなかった」とかetc。。。
腐・癒しって 大事ですよね 休み明けはふんどし締めて頑張らねば!!!(・・。)ん?違うか
さえさん これは雅のライトだね うふ♪どじゃれとでしょうかね
初コミックシティは J庭とまた違い 3次元?飛び出す絵本(表現追いつかず)とか小物出品があったりしました 大御所の方はこないけど盛り上げは熱いです その後、池袋某K・B○ksへ流れたのですが(笑) これはツアーかと思うくらいお仲間が多くて 「今日はあの人来てなかった」とかetc。。。
腐・癒しって 大事ですよね 休み明けはふんどし締めて頑張らねば!!!(・・。)ん?違うか
こんにちは~。
このたびはリクいただきましてありがとうございました。
> だはは、きえちん、ありがとう!!!美こっちゃんはメインキャラじゃないけど、なんか有能なくせに自分の感情をうまく出せない不器用さがツボにはまっちゃったのよね。初めの方では英人に意地悪して(仕事だったんだけどね)千城に思い切り殴られたり・・なんてあったけど、こんなに有能なのに私生活がさみしすぎてつい応援したくなっちゃった。瑛佑とも接し方が奥手すぎて笑えちゃう。思い切り甘えさせたい一人です。ありがとうございました。嬉しかったです。ウフ。
仕事とプライベートの両立(?)というものがうまくできない人でしたね。
そうか~、美琴人気が高いのは、そんな理由があったからなのか~(←全然意味が分からなかった作者 汗)
瑛佑の押しの強いところも、美琴にはいい刺激かもしれません。
いつか甘える日がくるかどうかは疑問ですが、まぁ、現状で満足している瑛佑でもありますしね。
楽しんでくれたようで良かったです。
またね~(^.^)/~~~
このたびはリクいただきましてありがとうございました。
> だはは、きえちん、ありがとう!!!美こっちゃんはメインキャラじゃないけど、なんか有能なくせに自分の感情をうまく出せない不器用さがツボにはまっちゃったのよね。初めの方では英人に意地悪して(仕事だったんだけどね)千城に思い切り殴られたり・・なんてあったけど、こんなに有能なのに私生活がさみしすぎてつい応援したくなっちゃった。瑛佑とも接し方が奥手すぎて笑えちゃう。思い切り甘えさせたい一人です。ありがとうございました。嬉しかったです。ウフ。
仕事とプライベートの両立(?)というものがうまくできない人でしたね。
そうか~、美琴人気が高いのは、そんな理由があったからなのか~(←全然意味が分からなかった作者 汗)
瑛佑の押しの強いところも、美琴にはいい刺激かもしれません。
いつか甘える日がくるかどうかは疑問ですが、まぁ、現状で満足している瑛佑でもありますしね。
楽しんでくれたようで良かったです。
またね~(^.^)/~~~
おんぶされて(←)おうちに帰って お風呂に入れられて マッサージという名の愛撫でしょうかね(o´艸`o)
瑛佑ってばどんだけ美琴を可愛がっているんだか・・・
傍からみたら、『ハムスターっていうより、ハリネズミじゃん』と思われている美琴なのに。
さえちゃん、誰と見に行ったんですかね~ こちらも隠れてチューとかしてんのかなぁ
癒しのために腐はかかせませんよ~。
にっちん、そこは勝負パンツで(笑)
またね(^.^)/~~~
瑛佑ってばどんだけ美琴を可愛がっているんだか・・・
傍からみたら、『ハムスターっていうより、ハリネズミじゃん』と思われている美琴なのに。
さえちゃん、誰と見に行ったんですかね~ こちらも隠れてチューとかしてんのかなぁ
癒しのために腐はかかせませんよ~。
にっちん、そこは勝負パンツで(笑)
またね(^.^)/~~~
こんにちは~♪
写メ使ってくれてありがとう~(*^^*)
この写メは仕事帰りにふらっと寄って撮ったので一人ですよ~♪
ちゅーしてませんよ~♪
みこっちゃんはツンツンデレだよね~。
素直になれないんだよね~(*^^*)
そこがまたいいの~。
ふふふ…( ´艸`)
写メ使ってくれてありがとう~(*^^*)
この写メは仕事帰りにふらっと寄って撮ったので一人ですよ~♪
ちゅーしてませんよ~♪
みこっちゃんはツンツンデレだよね~。
素直になれないんだよね~(*^^*)
そこがまたいいの~。
ふふふ…( ´艸`)
仕事帰りでこんなに素晴らしい光景がみられるのですね~。
そう、美琴は見上げもしなかったでしょうが。
美琴がツンデレだとは読者様に教えられましたよ。
私の中ではただの脇役だったので(笑)
どこがいいんだか、まったくわかりませんでした(冷汗)
皆様に育てていただいたキャラたちです。
ありがとうです またね(^.^)/~~~
そう、美琴は見上げもしなかったでしょうが。
美琴がツンデレだとは読者様に教えられましたよ。
私の中ではただの脇役だったので(笑)
どこがいいんだか、まったくわかりませんでした(冷汗)
皆様に育てていただいたキャラたちです。
ありがとうです またね(^.^)/~~~
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