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BLの丘
木漏れ日 1
2013-08-07-Wed  CATEGORY: 木漏れ日
住宅街の中の二階建ての一軒家。
休日の朝、のんびりと起きた五城目鳥海(ごじょうめ うみ)は、部屋を出た。
生まれ育った家から近い大学に通うために、21歳になっても実家暮らしである。
朝に晩に…と、ご飯が用意されていて、家事は全部母親がやってくれる。…いつまでも成長しない。

鳥海の実家は電気工事を請け負う、地域に密着した自営業だった。
長男である5歳上の八竜(はおり)が跡を継いだために、鳥海は自由が与えられていると思っている。
家に囚われることはない。
それでも家系の血か、工学を学ぶ道に進んでいたのだけれど。

休みの朝は非常にのんびりしている。
階下に降りれば、町内会に出かけたという母親の手作り料理がダイニングテーブルに出しっぱなしだった。
くせっ毛の栗色の髪も整えず、とりあえず、空腹にそれらを流し込む。
二重のぱっちりとした目は母親譲りで、鼻から下は父に似ている、と良く言われた。
だけど全体的に細い体つきには、長男の八竜に全部持っていかれた、と恨めしく思う。
いつの頃からか、同じ歳を過ごしたのに、成長度は違っていたと気付かされた。
逞しく育った長兄と、強かに育った次男の構図が出来上がっている。
体格は負けても、意地は持ち合わせていた。

鳥海は朝食を平らげたあと、決まって冷凍庫に向かっていた。
食後の楽しみはデザート。
覗き込んだ冷凍庫に、忍ばせていたはずのアイスクリームが無い。
母親が無駄に冷凍保存する全てを取り払っても、目的のものが見当たらなかった。
こんなとき、疑いの目は必ず八竜に向けられる。
幾度となく繰り返されてきた過去が過っていった。
肝心の人間は、やはり呑気に朝のシャワーなんて浴びていた。

タイミング良く現れた、パンツ一丁にタオルで髪をゴシゴシと擦る八竜は、いたってのどかな雰囲気でいた。
「おー、メシ食った?おまえ最後だし、後片付けしておけよ」
食いっぱなし、散らかしっぱなし…の状態は後から箸を付けた人間に全てを押し付けている。
さっぱりとした様子でリビングに移ろうとする背後に鳥海の機嫌の悪さが飛ぶ。
「にぃっ、アイス、食った~~~っ!!」
「え?何?入ってたから母さんが買っておいて食っていいもんだと思った」
たとえ何時だろうが、食後にデザートを求める体は遺伝である。
悪びれた様子など微塵も見せず、フッと笑いながらシレッと答えられては地団太を踏む。
「俺の~っ!!」
叫んでも八竜にはどこ吹く風だ。
「名前、書いておかないおまえが悪いんだろ」
ルールを守らないと自己責任を押し付けられる。

どこの家庭だって当たり前だが、一台しかない冷蔵庫は家族のものである。
中身も当然、共有してあたりまえ…がモットーの五城目家。
幼い頃から、競争激化の中で暮らしてきたのだ。

いい歳して、いい加減一人暮らししろよっ、という悪態も飲み込まれるのは、家業を継いだ兄の苦労を見ているからだった。
親からの技術を教えられ、盗みみるのは間違ったことではない。
また、自分は親のスネをかじりまくった学生身分。
お小遣いをもらっていて、その中から買った品々は、行く末『家族の物』とみなされるのだろうか。
変な理屈をつけられては、鳥海はいつも負けていた。
それでも身体の欲求は抑えられなく、「俺っ、コンビニ行ってくるっ」とまた自腹を切るはめになった。
食べたいものは食べたいのだ。

「あー、じゃあ、ついでに煙草、買ってきてよ」
やはり呑気な声が鳥海の背中に届いた。
今更ながら、自分では動きたくない姿勢が見えてくる。
煙草が切れた アイスも切れた = 買いに行く弟は予想できる 自分は"ついで"を頼む。
兄の思惑どおりに動いている結果だ。
こうやって、幼い頃から"ついで"と走りまわされていた。
下の子のほうが強い…とか良く言われるけれど、理屈で言い含められる五城目家には当てはまらない、といつも苦虫をつぶす鳥海なのだ。

「ほら、駄賃」
そう言って投げ出されたQuoカードは500円の未使用カード。
煙草一つ買ってもおつりがくるものは、返却不要であるのが、やっぱり五城目家のルールだった。

先程の不機嫌は霧散し、万遍の笑みで近所にあるコンビニまで出かけた。
おつりで好きなアイスがもうひとつは買える、と張り切った。

コンビニまでは徒歩5分もかからない。休日のせいか、少し混んでいた。
どこかに出かける団体らしき男女のグループも映り込んでくる。
アルコールやロックアイスなどを買い込んで…、バーベキューでもするのだろうか。

そんな中で鳥海はお気に入りのアイスと新発売のデザートケーキを選んだ。
レジカウンターで兄の煙草も注文する。
なんとなく脇にある"からあげ"も欲しくなって、それも頼んだ。
兄にお小遣いをもらった…という気の緩みがあった。
しかし、いざ財布を開けた時、現金が想像以上に入っていない現実を思い知らされた。
考えてみれば、昨日、新聞の集金に来た人に、誰もいない事情もあって立て替えておいたのが甦る。
今日の朝、母からもらえばいいや、と思っていた呑気さは、『町内会』まで予想していなかった。

しばしの葛藤がその場で繰り広げられた。
煙草代はもらってあるのだから、それを削るわけにはいかない。
でもアイスは欲しいし、また注文してしまったフライヤーで良い匂いを漂わせる"からあげ"は買って帰るべきだろう。
「えーと…」
モタモタした背後には、すでに行列ができていた。
パニクった頭は咄嗟に何を削るべきか判断出来なかった。
今更『お金が足りません』と言うのも憚れる。
確かに馴染みのコンビニで、店員も知っていたけれど、ツケにしてくれとは言えない。
思わず見やってしまったバイトの"お兄ちゃん"と無言のアイトークが交わされ…、しかし「ん?」と首を傾げられた。

急いでいるのは誰も同じなのか、遅々として進まない会計処理に背後の不満が確実に伝わってくる。
後ろにいた薄汚い親父が、「何してんだよ~っ」とあからさまに声を荒げる。
「あ…」
「こんなとこで"デート"してんなよ~」
酒臭い息が近づいて、いきなり尻を掴まれた。
無言の会話はそんなものじゃないのに…っ。

…っ、こ、この酔っ払い…っ!!こんな昼間から飲んでんのかよっ!!
見た掌にはワンカップの瓶が2本握られている。
…っていうか、尻、触るかっ?!
「『桃尻』だなぁ」
ニヘラァと笑ったオヤジの笑みが不気味で鳥肌がたった。
鳥海は赤面しながらも怒りを滾らせた。
だけど、もっと後ろに並ぶ人間は、ふざけているなよと、時間の無駄だと更に表情を不機嫌にあらわした。
人の感情を察知する力くらいある。
ここで揉め事を続けるなんて、どうしたって、状況は良くない。
近所だけに、問題は避けたかった。

その時、スッと差し出された缶コーヒーと似たようなQuoカードに意識を向けられる。
「一緒に会計してくれないかな」
落ちついた声が騒動を遮っていた。
鍛えられた体格が、私服の上からも見てとれる。
鳥海より10センチほどは高い身長のせいか、隣に並んだ人を見上げていた。
八竜と同じ歳くらいの、しっかりとした社会人だと思わせる人が、"まとめて支払い"を店員に訴えていた。
大人の落ちつきがさりげない仕草から醸し出される。
「え…?」
もちろん動揺したのは鳥海で…。
彼の視線だけは『早く』と促していた。

ここでもっと時間を取るようなことは回避したいのは店員も同様の思考なのだろう。
ピッと会計終了の音が響いた。

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またスピンオフです…。
え?!誰?!…次回登場の予定。
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コメント

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゚+。(ノ`・Д・)ノオォオォ。+゚スピンオフ!
コメントけいったん | URL | 2013-08-07-Wed 07:52 [編集]
新作かと思ってたら スピンオフって!!

鳥海は お初の登場とならば、
コンビニのレジ前で 途方に暮れている鳥海に サッとQuoカードを差し出した 落ち着いた声の年上の男性が、既に 登場している人って事ですね~

誰かなぁ~誰かなぁ~アノヒト カナ?((o(・∀・*o)(o*・∀・)o))コノヒト カナ?...
拍手コメ  sさま
コメントたつみきえ | URL | 2013-08-07-Wed 08:09 [編集]
おはようございます。

> 久々のコメです。毎日お邪魔してます。新連載、誰かな???とっても楽しみです。

いつも読んでくださいましてうれしいです。
またいろいろと登場していきますのでお待ちくださいね。
コメントありがとうございました。
Re: ゚+。(ノ`・Д・)ノオォオォ。+゚スピンオフ!
コメントたつみきえ | URL | 2013-08-07-Wed 08:15 [編集]
けいったんさま おはようございます。
ご一緒したみたいです。

> 新作かと思ってたら スピンオフって!!

(o´艸`o)
残していた一人を見つけたのでそちらを片そうかな~と思いつきました。
ご存知でしょうが、忘れられていたなら、まぁ、そんな存在だったんだなぁということで(笑)
コンビニで痴漢されている鳥海って…。
そこを救ったヒーロー?!
コメントありがとうございました。
うん?
コメントnichika | URL | 2013-08-07-Wed 19:41 [編集]
痴漢から助けるって。。。もしやもしや~~謎
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