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BLの丘
木漏れ日 3
2013-08-08-Thu  CATEGORY: 木漏れ日
新庄瀬見(しんじょう せみ)と彼は名乗った。
何でも高校時代、八竜と共に過ごしたらしい。
久し振りの再会に何故か八竜のテンションも上がっている。
「うっわー、久し振り。何?コイツ、迷惑かけたの?」
グリグリと頭上を撫でられることに、うっとおしさを訴えた。
バシンっと叩いた手も、気にされていない。
「そんなことないよ。ちょっと困っていたみたいだからさ」
助け船を出した過程は嫌でも知られていく。
そのたびに八竜から罵りの言葉が発された。
「バカかっテメェ。財布の中身を確認しないで飛び出すかよっ」
立て続けに頭を叩かれては、これ以上バカにしたいのか、と逃げを打つ。

「まぁまぁ。でも薄気味悪い客もいたからいいんだよ」と穏やかに話を進められて、また八竜は怪訝な眼差しで鳥海を見下ろした。
トラブルメーカーと言わんばかりだ。
「鳥海~っ」
過去の誘拐事件から、何かと気遣ってくれた兄を知るからこそ、それ以上の文句も出ない。
瀬見の言う『薄気味悪い客』は過去を彷彿させてくれるに充分だった。

「あー、悪い。で、何?さっき立て替えた…とか?」
八竜と瀬見は鳥海を無視して、事の成り行きを確認する。
やがて、玄関先ではなんだ…と思ったのか、「寄ってけよ」と室内に促していた。
知る人だからなのか、瀬見にも抵抗はない。
金を返してもらうというより、純粋に再会を喜んでいるようだった。

「鳥海、茶いれろ」
どこまでも図々しく動く八竜に、これまでの過程があって逆らえない。
本来なら母が隙なくお迎えしてくれるのに、肝心の存在は不在だ。
買ったばかりのアイスクリームと、グラスに注いだだけの麦茶をトレーに乗せてリビングに向かう。
何やら懐かしい話で盛り上がっているようだった。
「にぃ、煙草」
「おまえ、禁煙しろよ」
どんどんと繰り広げられる世界に、堂々と居場所を確認した鳥海は、買ってきたアイスの封を開けた。
体に悪い、と咎められた八竜は苦笑いで誤魔化している。
「息抜き、息抜き」
人の嗜好は分かるのか、瀬見も肩をすくめるに留めていた。
ようやく吸えたと言わんばかりに、八竜は煙の味を堪能していた。

「しっかし、迷惑かけたな」
「彼のカードを見て、しまっておいたものを甦らせてくれたよ」
良いきっかけだったと、決して鳥海を責めない口調には、大人のスマートさを見せつけられた気分だった。
アイスを頬張りながら、二人の違いを感じとる。
義理人情を大事にする兄もそうだが、瀬見も周りに配慮できる人間なのだろう。

それでも世間の狭さを教えられたと苦笑いされて、目があった時には、ドクンと心臓が高鳴った。
…なんていうか、寄りそえる安堵感がひしめいてる。
八竜は悪いと心底思っているようで、財布をとりだしていたが、瀬見は掌を見せていた。
「まぁまぁ、細かいことは気にしないでさ。鳥海くんが無事だったってことでいいんじゃない?」
意味深に告げられたことは八竜を充分に刺激していた。
「鳥海~っ?」
「ケ、ケツ、触られただけだし…」
「おまえはっ…っ、危機感持てって言うんだよっ」
だったら、一人で買い物に出さなきゃいいじゃん…とはまた飲みこまれることだった。
見張られるなど実行されたら、単にウザい存在だ。

彼らは懐かしい話に没頭していく。
新しく知れる兄の素行にも驚かされたが、鳥海は瀬見の行動に気を取られていた。
この近くに実家があり、その帰り道だったこと。
勤めた会社にいることや、社会人となってのお互いの苦労など。
サラリーマンも自営業も、働くことに大変さは在るのだと。

談笑を繰り広げているうちに、母親が帰宅した。
「まぁ、何のおもてなしもしないで」
「おかまいなく」
思えば、友人を呼ぶたびに、話しかけて、どんな付き合いなのかとさりげなく悟っていた母親だ。
挙句の果てには、使い走りに使われる。
「お菓子、何か買ってきて。ほら、お金」
「それより、新聞代なのっ」
「本当にお構いなく。俺、もうお暇しますので」
この場から消えてしまう危機感を覚えたのは何故なのだろうか。
すでに知れた彼の人の良さもあって、鳥海はまた「待ってて」とおしとどめた。

何が惹きつけるものなのかも分からない。
でもこの偶然の出会いを無にしたくなかった。
感じたスマートさは、これまで出会ったことが無い。
"大人"の世界に惹かれた瞬間だった。

「待ってて…」
今日何回目のセリフなのだろう。
逃げ場を失ったと言わんばかりの瀬見は、「ついていってあげる」と腰を上げた。
瞠目する鳥海を無視して、「また酔っ払いに絡まれたら困るから」ともっともらしい理由を口にしてくれた。
これだけ近い距離なら、苦もないのだろうか。
『絡まれた』事件は、家族にも影を落とす。
過剰な心配はどこから来るのだろう。

「いえ、いいです…」
すぐに断るのだが、まだ八竜と会話をしたいと暗に含まされては、また戻ってくることを約束されていた。
"一人では歩かせられない"…。
それもまた、影ながら漂う。
最初に見せた危機は、彼の胸に深く刻まれたのだろうか。

…子供じゃないのにっ…。
悔しさは瀬見には届いていない。
それどころか、付いてきてくれる安堵感は何なのだろう。
尻を揉まれる、などといった、理不尽な行動を浴びたせいだろうか。

「何食べたいの?」
「鳥海くんの好きなものでいいよ」

それは、レジ前でどれも手放したくなかった会計時間を振り返られているのだろうか。
どこまでも鳥海を気遣ってくれる姿勢に、もっと深く惹かれていくのだった。

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コメント

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あ、来たよ♪
コメントちー | URL | 2013-08-08-Thu 00:19 [編集]
ふふふ。得した気分だなあ。

瀬見ちゃんて、無自覚タラシ?
それとも、計画的なの?
計画的な方が楽しいけど。

鳥海くんは、可愛い系なんだよねえ。
で、瀬見ちゃんにハマって行くのね。
いや、瀬見ちゃんを落として、鳥海くん(笑)


にっかたん、瀬見ちゃんて気になるキャラじゃない?
双子ちゃん話を読んでる頃から、不思議と存在感があったんだよねえ。
ある男Sの登場だぁ~v(≧∇≦)v イェェ~イ♪
コメントけいったん | URL | 2013-08-08-Thu 09:08 [編集]
ちーさんも 気になってたんだね、瀬見を♪

私の密かな密かな願い☆彡 (-人- )  星に願いを・・・
とうとう 瀬見が主役に…嬉しい:(*〇>艸<〇)。.・*゚泣き

いつも双子ちゃんと その彼氏に存在を奪われてけど...
脇役ながらも その ただならぬ男の色気を振り撒いてたけど...
所詮 脇役でしたもんねー(´。_。`)ゞぅぅぅ…

コメ欄で 呟いていた私の想いが きえちんに届いたのね!!
…時間が かかったけど、そんな事は もう気にならないよーー

フニャリ笑顔の恋人は、鳥海だったんだね♪(*⌒ー⌒*)フニャリ♡
みなさま こんにちは~
コメントたつみきえ | URL | 2013-08-08-Thu 15:23 [編集]
またまたまとめレス失礼します。

お待たせいたしました~、瀬見の登場です~(←誰も待っていない?!)
ちょうど一年くらい前に双子ちゃんたち、書いていましたね。
他のはちゃんと良い人を割り当てたのに、一人だけあぶれていたから可哀想だったかな~と思って…。
そう、所詮脇役だったのです(笑)

鳥海が嵌っていくのか瀬見が落ちていくのかは謎ですが、過去が過去だけにねぇ。瀬見の性格はどうなんでしょう。
忘れている背景を探しに読み返したら、某コーヒーショップであつみと真室の前に現れたのが『黒髪の青年』になっていたから、あれ?鳥海じゃない???と焦りつつ、髪でも染めさせようか、また第三者の登場にしようかと密かに考えているところです。(誰も気付かないっていうのにねぇ)
セミだけにミンミンとうるさい環境になるんでしょうか。
幸運を祈る(←)

そして、今度もお兄ちゃんには食いつかないようにね~(先にくぎを刺しておく)

コメントありがとうございました。
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