一言の挨拶で帰るつもりでいたのに、瑛佑にまでヤギのえさを買われてヤギ牧場に向かう。
瑛佑も過去の色々(事故の件とか今日の欠勤とか)があったので、一度くらいは顔を拝みたいようだったからちょうどいいのかもしれない。
それにしても、何が楽しくて『ヤギのえさやり体験』なんて、大の男がやりたがるのか、気が知れなかった。
だが久し振りの外出に瑛佑が楽しんでいるのがせめてもの救いだ。
目立っていた…。
非常に目立っていた…。
ただでさえ、園児の中にいる大人である。
遠目からでもはっきりと分かる千城と英人に、近づくことに躊躇いを覚える。
柵の外からえさを与えるというものだったが、周りにいた保護者の視線を一様に集めている。
好奇の目ではなく、目の保養といった感じだろうか…。
「ね、もしかしてあの人が社長さんっ?!」
「えぇ、そうですよ…」
先程見かけた英人が一緒にいるのだから確認の必要もないだろうが、改めて聞きたくなる気持ちも分からなくはない。
いつも見ている仕事中の威圧感など微塵もなく、どこにでもいる普通の青年だったが、それが余計に千城の華やかさを引き立てていた。
休日に会うことは滅多になかったものの、久し振りに見る姿は美琴でも惹かれるものがある。
「もっと怖い人かと思ってた…。っていうか、すごい二人じゃない?美男美女…じゃないや、なんていうの?あんな人といつも一緒に仕事してんの?」
「普段とは全く異なりますよ。たぶん同一人物と判断するのは難しいです」
「はぁ?!美琴さんが俺の心配をするよりも、俺の方が美琴さんの心配をするよ」
美琴がさっきポロリと見せてしまった感情を瑛佑に繰り返されて少しだけ心が和んだ。
相手の雰囲気などでほとんど判断できてしまう美琴でも、やはりきちんと言葉にされるとは安心するものなのだ、とも知る。
自分に可能性がないのと同じように、瑛佑に対して憂えることはないのかもしれない。
「ありえませんね」
「信じてますよ」
ニヤッと笑った瑛佑の笑顔がなんとも嬉しく感じた。
「随分と遅いじゃないか。逃げ出したかと思ったぞ」
近付けば、気付いた千城が先に声をかけてきた。
英人に向けている表情とはまた異なる。
外見こそ見慣れないものだが、美琴を見返してくる目も聞こえてくる声も『上司』のものだった。
「そんなことはしませんよ。それよりも勝手に休まれるなど…」
「小言はいい。1日や2日の仕事量など簡単に取り戻せるだろう。…挨拶が遅れたな。榛名だ。野崎がいないと俺の首が回らないところもあるんだが、相談ならいつでも受け付けるから気軽に連絡をしてくればいい」
さりげなく握手を求められ、瑛佑は少し瞠目したようだ。
「こちらこそ。色々していただいたのに、きちんと御礼もできないままですみませんでした」
瑛佑がちょこんと頭を下げれば、「過ぎたことはいい」と千城にかわされていた。
もちろん、連絡などさせる気はないが…。
「それより、もう出歩けるようになるとは。手加減しすぎなんじゃないのか?明日も休ませていいと言っただろう」
「馬鹿なことを言っていないでくださいっ」
口角を上げて笑った千城に、美琴がピシャリと言葉を重ねた。
早速始まった話題に、だから長居したくなかったのだ…と美琴は、瑛佑にヤギのえさを買わせたことを後悔した。
本人たちを目の前にして、こんな話をいきなりされると思っていなかったらしい瑛佑も驚いている。
が、さすがに水谷の店で働いているだけあって、この手の会話には慣れているようだった。
それに瑛佑の性格もあるのだろう。
「手加減しているつもりはないんですけど、美琴さんの体力がついてこないんですよ」
美琴を全く無視して勝手に会話が始まってしまった。
自分が止めて黙る二人ではない…。
喫茶スペースでほとんど話などせずに立ち去ったために、聞き耳を立てていた英人がまた不思議そうな表情になった。
本気で『親戚』だと思っていたのだろうか。
「ねぇ、『美琴さん』って?」
千城の袖口を引っ張った英人が疑問を口にする。
…食らいついたのはそっちなのか…。
にほんブログ村
終わらない…
あと、あんけーと3の締切日です。
瑛佑も過去の色々(事故の件とか今日の欠勤とか)があったので、一度くらいは顔を拝みたいようだったからちょうどいいのかもしれない。
それにしても、何が楽しくて『ヤギのえさやり体験』なんて、大の男がやりたがるのか、気が知れなかった。
だが久し振りの外出に瑛佑が楽しんでいるのがせめてもの救いだ。
目立っていた…。
非常に目立っていた…。
ただでさえ、園児の中にいる大人である。
遠目からでもはっきりと分かる千城と英人に、近づくことに躊躇いを覚える。
柵の外からえさを与えるというものだったが、周りにいた保護者の視線を一様に集めている。
好奇の目ではなく、目の保養といった感じだろうか…。
「ね、もしかしてあの人が社長さんっ?!」
「えぇ、そうですよ…」
先程見かけた英人が一緒にいるのだから確認の必要もないだろうが、改めて聞きたくなる気持ちも分からなくはない。
いつも見ている仕事中の威圧感など微塵もなく、どこにでもいる普通の青年だったが、それが余計に千城の華やかさを引き立てていた。
休日に会うことは滅多になかったものの、久し振りに見る姿は美琴でも惹かれるものがある。
「もっと怖い人かと思ってた…。っていうか、すごい二人じゃない?美男美女…じゃないや、なんていうの?あんな人といつも一緒に仕事してんの?」
「普段とは全く異なりますよ。たぶん同一人物と判断するのは難しいです」
「はぁ?!美琴さんが俺の心配をするよりも、俺の方が美琴さんの心配をするよ」
美琴がさっきポロリと見せてしまった感情を瑛佑に繰り返されて少しだけ心が和んだ。
相手の雰囲気などでほとんど判断できてしまう美琴でも、やはりきちんと言葉にされるとは安心するものなのだ、とも知る。
自分に可能性がないのと同じように、瑛佑に対して憂えることはないのかもしれない。
「ありえませんね」
「信じてますよ」
ニヤッと笑った瑛佑の笑顔がなんとも嬉しく感じた。
「随分と遅いじゃないか。逃げ出したかと思ったぞ」
近付けば、気付いた千城が先に声をかけてきた。
英人に向けている表情とはまた異なる。
外見こそ見慣れないものだが、美琴を見返してくる目も聞こえてくる声も『上司』のものだった。
「そんなことはしませんよ。それよりも勝手に休まれるなど…」
「小言はいい。1日や2日の仕事量など簡単に取り戻せるだろう。…挨拶が遅れたな。榛名だ。野崎がいないと俺の首が回らないところもあるんだが、相談ならいつでも受け付けるから気軽に連絡をしてくればいい」
さりげなく握手を求められ、瑛佑は少し瞠目したようだ。
「こちらこそ。色々していただいたのに、きちんと御礼もできないままですみませんでした」
瑛佑がちょこんと頭を下げれば、「過ぎたことはいい」と千城にかわされていた。
もちろん、連絡などさせる気はないが…。
「それより、もう出歩けるようになるとは。手加減しすぎなんじゃないのか?明日も休ませていいと言っただろう」
「馬鹿なことを言っていないでくださいっ」
口角を上げて笑った千城に、美琴がピシャリと言葉を重ねた。
早速始まった話題に、だから長居したくなかったのだ…と美琴は、瑛佑にヤギのえさを買わせたことを後悔した。
本人たちを目の前にして、こんな話をいきなりされると思っていなかったらしい瑛佑も驚いている。
が、さすがに水谷の店で働いているだけあって、この手の会話には慣れているようだった。
それに瑛佑の性格もあるのだろう。
「手加減しているつもりはないんですけど、美琴さんの体力がついてこないんですよ」
美琴を全く無視して勝手に会話が始まってしまった。
自分が止めて黙る二人ではない…。
喫茶スペースでほとんど話などせずに立ち去ったために、聞き耳を立てていた英人がまた不思議そうな表情になった。
本気で『親戚』だと思っていたのだろうか。
「ねぇ、『美琴さん』って?」
千城の袖口を引っ張った英人が疑問を口にする。
…食らいついたのはそっちなのか…。
にほんブログ村
終わらない…
あと、あんけーと3の締切日です。
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確かにこの4人が平日の動物園でヤギさんにえさをやっている図は異様です。もちろんここは、変な人がいる、じゃなくて、目の保養ですわね。
幼稚園ママ達、得しましたね。キリンの親子を眺めるよりずっと眼福でしょう。
ワタシもガン見どころか写メです。
華やかな美丈夫千城さんとの仲を心配されるみこっちゃん、速攻ありえないと否定するもはもっともで、おそらくオフィスにあるコピー機と恋愛する以上にありえない話ですよね。
『美琴さん』は英人君には初お目見えだったんですね。(確かに”そこかい、食いつくとこは!!”)
幼稚園ママ達、得しましたね。キリンの親子を眺めるよりずっと眼福でしょう。
ワタシもガン見どころか写メです。
華やかな美丈夫千城さんとの仲を心配されるみこっちゃん、速攻ありえないと否定するもはもっともで、おそらくオフィスにあるコピー機と恋愛する以上にありえない話ですよね。
『美琴さん』は英人君には初お目見えだったんですね。(確かに”そこかい、食いつくとこは!!”)
甲斐様
こんばんは。
> 確かにこの4人が平日の動物園でヤギさんにえさをやっている図は異様です。もちろんここは、変な人がいる、じゃなくて、目の保養ですわね。
我が子の記録映像と共にしっかり撮られていそうですね。
こんな日に遠足で良かったわ~と腐ママたちは子供以上にはしゃいでいそうです。
今日、遊園地に行ってきましたが、ダブルデートらしい(勝手にそう見ていた男子高校生4人組)から目が離せなかった私です。
> 華やかな美丈夫千城さんとの仲を心配されるみこっちゃん、速攻ありえないと否定するもはもっともで、おそらくオフィスにあるコピー機と恋愛する以上にありえない話ですよね。
この二人はお互いに心配しあっているんですね。
まだ初々しいお二人です。
いい年なのに…。
瑛佑もよくオフィスラブなんて思いついたものです。
> 『美琴さん』は英人君には初お目見えだったんですね。(確かに”そこかい、食いつくとこは!!”)
一応、次話で少々説明(?)が入りますが…。
ちょっとピントのズレている英人です。
最終回はいつになったらやってくるのか…。
コメントありがとうございました。
こんばんは。
> 確かにこの4人が平日の動物園でヤギさんにえさをやっている図は異様です。もちろんここは、変な人がいる、じゃなくて、目の保養ですわね。
我が子の記録映像と共にしっかり撮られていそうですね。
こんな日に遠足で良かったわ~と腐ママたちは子供以上にはしゃいでいそうです。
今日、遊園地に行ってきましたが、ダブルデートらしい(勝手にそう見ていた男子高校生4人組)から目が離せなかった私です。
> 華やかな美丈夫千城さんとの仲を心配されるみこっちゃん、速攻ありえないと否定するもはもっともで、おそらくオフィスにあるコピー機と恋愛する以上にありえない話ですよね。
この二人はお互いに心配しあっているんですね。
まだ初々しいお二人です。
いい年なのに…。
瑛佑もよくオフィスラブなんて思いついたものです。
> 『美琴さん』は英人君には初お目見えだったんですね。(確かに”そこかい、食いつくとこは!!”)
一応、次話で少々説明(?)が入りますが…。
ちょっとピントのズレている英人です。
最終回はいつになったらやってくるのか…。
コメントありがとうございました。
きえ | URL | 2010-05-15-Sat 23:59 [編集]
MO様
こんばんは。
>子供をだしにして、ぜひ私も御一緒したいものです。辛辣な千城の言葉を受けても、たじろがない瑛佑との会話が楽しみです♪ 千城にとっても、良い出会いになりそうですよね。またまた妄想は膨らみます♪
瑛佑も根性据わっているところがあるというか…。
千城よりも年上という余裕(?)もあるんでしょうね。
みこっちゃんもはっきり物申しているし。
千城の気さくさも重なっていたり…。
(あくまでも今は"休日"だし。仕事以外の人間には人当たりが良さそう(?)な性格の人…本当か?!)
みこっちゃんと神戸が何気に裏でつながっているので、自分は瑛佑…と考えているんでしょうか。
楽しんでもらえているようでうれしいです。
コメントありがとうございました。
こんばんは。
>子供をだしにして、ぜひ私も御一緒したいものです。辛辣な千城の言葉を受けても、たじろがない瑛佑との会話が楽しみです♪ 千城にとっても、良い出会いになりそうですよね。またまた妄想は膨らみます♪
瑛佑も根性据わっているところがあるというか…。
千城よりも年上という余裕(?)もあるんでしょうね。
みこっちゃんもはっきり物申しているし。
千城の気さくさも重なっていたり…。
(あくまでも今は"休日"だし。仕事以外の人間には人当たりが良さそう(?)な性格の人…本当か?!)
みこっちゃんと神戸が何気に裏でつながっているので、自分は瑛佑…と考えているんでしょうか。
楽しんでもらえているようでうれしいです。
コメントありがとうございました。
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