「絶対にお前のことなんか好きって言わないっ」
那智の小さな唇から発された声。涙に濡れてくぐもってはいたが、久志の耳にはしっかりと届いた。
言葉とは裏腹に合わせられた唇の温もりがいつまで経っても消えずに久志の全身をかきむしった。
腕の中に抱き入れた細い身体が怯えるかのように震えだすのを、久志は必死で繋ぎとめようとした。
「だめ…だから…。俺は那智の全部が好き…。絶対、誰にもやれないくらい、閉じ込めたいくらい那智のことが好き。どんなに那智がいやって言ったって、絶対に手放すことなんてできないから…。俺から離れるなよ。俺だけを見て…。俺だけを好きって言ってっ!」
那智からは返事の代わりに嗚咽が漏れただけだった。
久志の首筋に回された腕が、これまでにないほどにきつく絡められる。
久志から与えられた口付けを、那智は何のためらいもなく受け応えた。幾度も角度を変え、久志は果てが無いほどに那智の口腔内を我が物として蹂躙し続けた。伸びた舌先が那智の全部を吸い取るかのように蠢く。かつてこれほどまでに焦がれて唇を合わせたことがあっただろうか。貪欲に求める自分など見たことがなかった。
悲しみに暮れる時間はもう終わりにしていいんだよ、と久志は願った。
那智が言ったように、これまでは付き合った人から告白されるとすぐに別れた。単純に面倒くさかったからだった。久志はずっと那智が気になっていたし、他の人間のことまで考えるのが煩わしかった。不必要な拘束にも耐えられなかった。
恋愛感情が見えないほうが、久志には後腐れなく気楽な時間を過ごしてこられた。そういった人間の方が、人から見たら短かったかもしれないが、久志の中では長く続いたと思える。
だけど、今は違う。那智だけは違う。誰よりも一番その言葉を言ってほしい人…。
久志ははっきりとした那智の想いを言葉で聞きたかった。
たった一言でいい。
「ヒサが好き」
その言葉を聞けたら、どれだけの幸福感に包まれるのだろうか。
唇で零れ落ちた涙を掬った。那智の柔らかな髪を梳き、額から頬を指先でそっと撫でる。綺麗な顔だった。
二重の大きな瞳の上には長い睫毛が涙で濡れていた。赤く熟れた果実のような小さな口。無駄な贅肉のないほっそりとした輪郭。
あどけなさを残し、表情は子供のように豊かだと思う。
那智を抱き始めた頃から、艶っぽさが含まれるようになった。妖しいくらいの美貌が見え隠れした。
「何百回でも何万回でも言うよ。俺は那智が好き。愛してる。それと、那智は俺だけのものだって。…わかった?」
那智は何も言わなかった。ただ小さく、コクンと首を縦に振った。
言葉は聞かれなかったけど、今はこれだけでいいと久志は思った。
少なくとも自分の本心は伝わったし、那智の溜め込んでいた苦痛を知ることができたから。
外は雨。那智は泣き顔。今日はどこにも出かけないよね、那智…。
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よ、ようやくヒサ編が終わりました…(ゲッソリ)
いーんだろうか、こんな中途半端で…
勝手に歩きだされちゃったとこがあってもう途中で冷汗ものでしたが、なんとか無事まとまってくれて良かったです。
こんなにしおらしいヒサが見られるのはたぶんこの番外限りかと…
さて明日からまた那智視点に戻ります。
ストーリー自体の完結まではあともうちょっと(?)なので、どうぞ宜しくお願いします。
一人歩きされるのでかなりあやしい…完結…
那智の小さな唇から発された声。涙に濡れてくぐもってはいたが、久志の耳にはしっかりと届いた。
言葉とは裏腹に合わせられた唇の温もりがいつまで経っても消えずに久志の全身をかきむしった。
腕の中に抱き入れた細い身体が怯えるかのように震えだすのを、久志は必死で繋ぎとめようとした。
「だめ…だから…。俺は那智の全部が好き…。絶対、誰にもやれないくらい、閉じ込めたいくらい那智のことが好き。どんなに那智がいやって言ったって、絶対に手放すことなんてできないから…。俺から離れるなよ。俺だけを見て…。俺だけを好きって言ってっ!」
那智からは返事の代わりに嗚咽が漏れただけだった。
久志の首筋に回された腕が、これまでにないほどにきつく絡められる。
久志から与えられた口付けを、那智は何のためらいもなく受け応えた。幾度も角度を変え、久志は果てが無いほどに那智の口腔内を我が物として蹂躙し続けた。伸びた舌先が那智の全部を吸い取るかのように蠢く。かつてこれほどまでに焦がれて唇を合わせたことがあっただろうか。貪欲に求める自分など見たことがなかった。
悲しみに暮れる時間はもう終わりにしていいんだよ、と久志は願った。
那智が言ったように、これまでは付き合った人から告白されるとすぐに別れた。単純に面倒くさかったからだった。久志はずっと那智が気になっていたし、他の人間のことまで考えるのが煩わしかった。不必要な拘束にも耐えられなかった。
恋愛感情が見えないほうが、久志には後腐れなく気楽な時間を過ごしてこられた。そういった人間の方が、人から見たら短かったかもしれないが、久志の中では長く続いたと思える。
だけど、今は違う。那智だけは違う。誰よりも一番その言葉を言ってほしい人…。
久志ははっきりとした那智の想いを言葉で聞きたかった。
たった一言でいい。
「ヒサが好き」
その言葉を聞けたら、どれだけの幸福感に包まれるのだろうか。
唇で零れ落ちた涙を掬った。那智の柔らかな髪を梳き、額から頬を指先でそっと撫でる。綺麗な顔だった。
二重の大きな瞳の上には長い睫毛が涙で濡れていた。赤く熟れた果実のような小さな口。無駄な贅肉のないほっそりとした輪郭。
あどけなさを残し、表情は子供のように豊かだと思う。
那智を抱き始めた頃から、艶っぽさが含まれるようになった。妖しいくらいの美貌が見え隠れした。
「何百回でも何万回でも言うよ。俺は那智が好き。愛してる。それと、那智は俺だけのものだって。…わかった?」
那智は何も言わなかった。ただ小さく、コクンと首を縦に振った。
言葉は聞かれなかったけど、今はこれだけでいいと久志は思った。
少なくとも自分の本心は伝わったし、那智の溜め込んでいた苦痛を知ることができたから。
外は雨。那智は泣き顔。今日はどこにも出かけないよね、那智…。
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よ、ようやくヒサ編が終わりました…(ゲッソリ)
いーんだろうか、こんな中途半端で…
勝手に歩きだされちゃったとこがあってもう途中で冷汗ものでしたが、なんとか無事まとまってくれて良かったです。
こんなにしおらしいヒサが見られるのはたぶんこの番外限りかと…
さて明日からまた那智視点に戻ります。
ストーリー自体の完結まではあともうちょっと(?)なので、どうぞ宜しくお願いします。
一人歩きされるのでかなりあやしい…完結…
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