熱を出し介抱された日の朝、重かった体とは対照的に、ひどく落ち着いた気分でいたのは紛れもない事実だった。
夢の中とはいえ、守られているような安堵感を味わっていた。
…と思っていた。
幸せな夢を見ていた、くらいにしか捉えていなかった。
何より『医療行為』から『キス』に向かわせたのは無意識に縋った海斗自身だろう。
事実を知れば、恥ずかしさは余計に膨らむ。
どこまで浅ましい人間なのだろうかと思われていておかしくない。
だが、そう海斗に思わせないのは、有馬の持つ独特の雰囲気なのか…。
…あの時癒してくれたのは有馬だったのか…。
「全然知らなかった…」
海斗がぽつりと呟けば、「海斗さんが後悔しなければいいな、と思って黙っているつもりだったけど」と有馬は口を濁した。
今更、海斗にとってキスの一つや二つ…といった部分はありはするが…。
あらためて伝えるのも憚られる。
「俺こそ、ごめん」
いくら後腐れない有馬だと知っても、どこまでを許してくれるかは疑問だった。
中には好きでもない人とのキス自体を嫌がる人間もいる。
フレンチキスで治まらなかったのだとは、記憶がなくても海斗が良く知っていた。
海斗自身が、自分は大丈夫と明言すれば、少し安心したような有馬の吐息が聞こえた。
きっと彼の中では燻っていたことなのだとなんとなく理解する。
隠し事を持つのは、誰だって気が重い…。
包まれることで安堵を覚えるのは、そんな過去があったからなのか…とおぼろげに感じた。
それこそ無意識に、甘え縋れる場所を、体と心は自然と感じ取っていたようだ。
「あの時は色々重なってたから…。大希とのことも悩んでいたし、他の人とのことも…。仕事もすごく忙しくて…」
さすがに鳥羽とのいさかいがきっかけとは口にできなかった。
寝不足で始まった週だったし、結局それを週末まで引きずっての結果だった。
「疲れを溜めこむと体に良くないんだよ。ストレスを溜めるなっていうのは無理な話だけど、少しでも気分転換が持てれば気の持ち方も変わるから。何かあったら言ってみて」
「ふふ。なんか鳥羽と同じこと言ってるぅ」
「健太も海斗さんのこと、心配しているんだよ」
わざと笑顔で返したつもりだったが、有馬に言われて嬉しいはずなのに、心が締めつけられるようだった。
心配してくれるのは有馬と同じ立場だからだろう。
だけど有馬と鳥羽の明らかに違うところは、鳥羽はもうこうして包んでくれることはなかった。
時々、髪や肩、手に触れる程度だ。
有馬なら、最初に出会った頃と鳥羽の態度が変わっていることに気付いているだろうと思ったが、問う勇気はなかった。
聞きたくない答えを耳にするようで、自らに追い打ちをかける言葉を改めて突き付けられたくない。
「二人には感謝している…」
出会ってすぐから迷惑ばかりをかけてきたこと。
鳥羽に告げているのと同じことを口に乗せれば「気にしないで」とまた同じ言葉が返ってくる。
どこまで甘やかされるんだろうな…。
心地よい肌の温もりを感じながら、そばに誰かがいてくれることに安心して、海斗は目を閉じた。
ただ、満たされない心を抱えながら…。
どれくらい眠ったのだろう。安眠をとれたのは久し振りだと自分で思ったくらいだ。
カーテンの隙間から差し込んでくる日の光の強さで、すでに『朝』と呼べないのは分かった。
物音に気付いた時、妙なスッキリ感があった。それと同時に響いてくる元気な声。
「蓮っ、海斗来てんのぉ?!」
玄関に見慣れた靴があれば来客が誰なのかも分かるのか。
何の迷いもなく、声をかけると同時に有馬の部屋のドアが開かれる。
海斗が聞いた物音は有馬が立てたものではない。
なぜなら、有馬は海斗が目覚めた時、隣で寝ていたのだから…。
鳥羽の行動は早かった。ただでさえ、移動距離などない、玄関からの各部屋までだ。
有馬が誤魔化す間もなかった。
鳥羽が部屋のドアを開けるのと、有馬が飛び起きるのがほぼ同時。
「…っに、やってんだよーっっ!!!」
鳥羽は部屋の光景を見るなり、聞いたこともないような怒鳴り声を上げた。
隣で盛大な有馬の溜め息が聞こえる。
海斗は頭を真っ白にして、思わず壁にくっつくように身を丸めた。
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あー、きちゃった…(by海斗)
いまさらですが、熱でやられているよ、私…(きえ)
夢の中とはいえ、守られているような安堵感を味わっていた。
…と思っていた。
幸せな夢を見ていた、くらいにしか捉えていなかった。
何より『医療行為』から『キス』に向かわせたのは無意識に縋った海斗自身だろう。
事実を知れば、恥ずかしさは余計に膨らむ。
どこまで浅ましい人間なのだろうかと思われていておかしくない。
だが、そう海斗に思わせないのは、有馬の持つ独特の雰囲気なのか…。
…あの時癒してくれたのは有馬だったのか…。
「全然知らなかった…」
海斗がぽつりと呟けば、「海斗さんが後悔しなければいいな、と思って黙っているつもりだったけど」と有馬は口を濁した。
今更、海斗にとってキスの一つや二つ…といった部分はありはするが…。
あらためて伝えるのも憚られる。
「俺こそ、ごめん」
いくら後腐れない有馬だと知っても、どこまでを許してくれるかは疑問だった。
中には好きでもない人とのキス自体を嫌がる人間もいる。
フレンチキスで治まらなかったのだとは、記憶がなくても海斗が良く知っていた。
海斗自身が、自分は大丈夫と明言すれば、少し安心したような有馬の吐息が聞こえた。
きっと彼の中では燻っていたことなのだとなんとなく理解する。
隠し事を持つのは、誰だって気が重い…。
包まれることで安堵を覚えるのは、そんな過去があったからなのか…とおぼろげに感じた。
それこそ無意識に、甘え縋れる場所を、体と心は自然と感じ取っていたようだ。
「あの時は色々重なってたから…。大希とのことも悩んでいたし、他の人とのことも…。仕事もすごく忙しくて…」
さすがに鳥羽とのいさかいがきっかけとは口にできなかった。
寝不足で始まった週だったし、結局それを週末まで引きずっての結果だった。
「疲れを溜めこむと体に良くないんだよ。ストレスを溜めるなっていうのは無理な話だけど、少しでも気分転換が持てれば気の持ち方も変わるから。何かあったら言ってみて」
「ふふ。なんか鳥羽と同じこと言ってるぅ」
「健太も海斗さんのこと、心配しているんだよ」
わざと笑顔で返したつもりだったが、有馬に言われて嬉しいはずなのに、心が締めつけられるようだった。
心配してくれるのは有馬と同じ立場だからだろう。
だけど有馬と鳥羽の明らかに違うところは、鳥羽はもうこうして包んでくれることはなかった。
時々、髪や肩、手に触れる程度だ。
有馬なら、最初に出会った頃と鳥羽の態度が変わっていることに気付いているだろうと思ったが、問う勇気はなかった。
聞きたくない答えを耳にするようで、自らに追い打ちをかける言葉を改めて突き付けられたくない。
「二人には感謝している…」
出会ってすぐから迷惑ばかりをかけてきたこと。
鳥羽に告げているのと同じことを口に乗せれば「気にしないで」とまた同じ言葉が返ってくる。
どこまで甘やかされるんだろうな…。
心地よい肌の温もりを感じながら、そばに誰かがいてくれることに安心して、海斗は目を閉じた。
ただ、満たされない心を抱えながら…。
どれくらい眠ったのだろう。安眠をとれたのは久し振りだと自分で思ったくらいだ。
カーテンの隙間から差し込んでくる日の光の強さで、すでに『朝』と呼べないのは分かった。
物音に気付いた時、妙なスッキリ感があった。それと同時に響いてくる元気な声。
「蓮っ、海斗来てんのぉ?!」
玄関に見慣れた靴があれば来客が誰なのかも分かるのか。
何の迷いもなく、声をかけると同時に有馬の部屋のドアが開かれる。
海斗が聞いた物音は有馬が立てたものではない。
なぜなら、有馬は海斗が目覚めた時、隣で寝ていたのだから…。
鳥羽の行動は早かった。ただでさえ、移動距離などない、玄関からの各部屋までだ。
有馬が誤魔化す間もなかった。
鳥羽が部屋のドアを開けるのと、有馬が飛び起きるのがほぼ同時。
「…っに、やってんだよーっっ!!!」
鳥羽は部屋の光景を見るなり、聞いたこともないような怒鳴り声を上げた。
隣で盛大な有馬の溜め息が聞こえる。
海斗は頭を真っ白にして、思わず壁にくっつくように身を丸めた。
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あー、きちゃった…(by海斗)
いまさらですが、熱でやられているよ、私…(きえ)
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ら様
おはようございます。
>(lll'□'o)ァ・・・・鳥羽に見られちゃったんですね。そんなに怒らなくても。。。 って温度計、40度振り切ってますね^^; 熱中症にならない様にちゃんと水分取ってくださいね。
鳥羽クンご帰宅です。
帰ってくるなり見ちゃった~っ!!って感じです。
「俺がいない間になにしてんだ~?!」と思っているかどうか…。
有馬の性格は知っているんでしょうし。
日中の外の気温は我が家の温度計では計測不能でした(ーー゛)
ら様もお気を付けください。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
>(lll'□'o)ァ・・・・鳥羽に見られちゃったんですね。そんなに怒らなくても。。。 って温度計、40度振り切ってますね^^; 熱中症にならない様にちゃんと水分取ってくださいね。
鳥羽クンご帰宅です。
帰ってくるなり見ちゃった~っ!!って感じです。
「俺がいない間になにしてんだ~?!」と思っているかどうか…。
有馬の性格は知っているんでしょうし。
日中の外の気温は我が家の温度計では計測不能でした(ーー゛)
ら様もお気を付けください。
コメントありがとうございました。
鳥羽と有馬は揉めるのかなぁ?
海斗のつぶやきには笑っちゃいました。
海斗くんの一番近い人は誰なのかなぁ?
毎日ほんと~に暑いですね~。ダレダレです。
さっき自分の部屋にいったらまだ31度ありました~。
今日も熱帯夜ですね。
アイス○ンが手放せません。
皆様も海斗じゃありませんが、熱中症に注意してくださいね~。
意外と夜に熱中症になる方が多いらしいです。
きえちゃん、その温度計大丈夫でしょうか?壊れちゃいそうです。
昼は涼しいとこにいてもちゃんと水分補給してくださいね~。
またまた写真を載せたのできえちゃん取りにきてくださ~い。
夏の思い出です♪
海斗のつぶやきには笑っちゃいました。
海斗くんの一番近い人は誰なのかなぁ?
毎日ほんと~に暑いですね~。ダレダレです。
さっき自分の部屋にいったらまだ31度ありました~。
今日も熱帯夜ですね。
アイス○ンが手放せません。
皆様も海斗じゃありませんが、熱中症に注意してくださいね~。
意外と夜に熱中症になる方が多いらしいです。
きえちゃん、その温度計大丈夫でしょうか?壊れちゃいそうです。
昼は涼しいとこにいてもちゃんと水分補給してくださいね~。
またまた写真を載せたのできえちゃん取りにきてくださ~い。
夏の思い出です♪
さえちゃん、おはよー。
> 鳥羽と有馬は揉めるのかなぁ?
> 海斗のつぶやきには笑っちゃいました。
> 海斗くんの一番近い人は誰なのかなぁ?
ますます謎が深まるこいつら…って感じになっています。
誰なんでしょうねぇ。(^_^;)
> 毎日ほんと~に暑いですね~。ダレダレです。
> きえちゃん、その温度計大丈夫でしょうか?壊れちゃいそうです。
暑いよ~。
温度計よりも私が壊れかかっている…。
> またまた写真を載せたのできえちゃん取りにきてくださ~い。
> 夏の思い出です♪
はーい。頂きにいきまーす♪
いつもありがとうございます。
> 鳥羽と有馬は揉めるのかなぁ?
> 海斗のつぶやきには笑っちゃいました。
> 海斗くんの一番近い人は誰なのかなぁ?
ますます謎が深まるこいつら…って感じになっています。
誰なんでしょうねぇ。(^_^;)
> 毎日ほんと~に暑いですね~。ダレダレです。
> きえちゃん、その温度計大丈夫でしょうか?壊れちゃいそうです。
暑いよ~。
温度計よりも私が壊れかかっている…。
> またまた写真を載せたのできえちゃん取りにきてくださ~い。
> 夏の思い出です♪
はーい。頂きにいきまーす♪
いつもありがとうございます。
MO様
おはようございます。
>あ~、鳥羽ったら、なんというタイミングでの登場でしょう(苦笑)。でもこれがきっかけで、三人の関係も動きそうですね。鳥羽の怒鳴り声、有馬の溜め息、その続きが楽しみです♪
どこまでも冷静な有馬って感じです。
ようやく、やっと、3人の関係が動きそうで…。
長かった…。
2か月くらいで終わるかな~。(夏の話なので夏で終わりにしたいらしい)
コメントありがとうございました。
おはようございます。
>あ~、鳥羽ったら、なんというタイミングでの登場でしょう(苦笑)。でもこれがきっかけで、三人の関係も動きそうですね。鳥羽の怒鳴り声、有馬の溜め息、その続きが楽しみです♪
どこまでも冷静な有馬って感じです。
ようやく、やっと、3人の関係が動きそうで…。
長かった…。
2か月くらいで終わるかな~。(夏の話なので夏で終わりにしたいらしい)
コメントありがとうございました。
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