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BLの丘
白い色 31
2010-11-17-Wed  CATEGORY: 白い色
大翔はまだ先の話だ、と言っていたが、直営店の話が社員たちの耳に入ったのはそれから1カ月もしない2月半ば、朝礼でのことだった。
すでに部長クラス以上の人間は話を聞いていたようで動揺もない。
実際に動き出すのは半年後とか1年後といった、世の情勢を見ながらのことであって、すぐに何が変わる、というものでもなかった。
が、企画が決まればそれに伴って動きださなければならない。
新年度から入社してくる新入社員の配置も踏まえて、具体的な案が提示された。
『店長』という形で駆が代表に立つこと。
だが実際に店を見るのは大翔らしい。
根本的な事務管理は本社の方で統括して処理をされるそうだが、店で発生する細々とした事務処理は、店に配属された人間が執り行うことになる。
そこに携わる人間を本社から抜擢し、さらに新入社員を組み合わせようとのことだった。
新しい部門ができるとは会社にとっても『挑戦』なわけで、誰にとっても新しいスタート地点だ。
現在いる社員の中から「希望があれば優先的に考える」と社長は今後の計画を口にしたが、好き好んで、慣れた環境を変えたいと思う人間もそういるはずがない。

朝礼からしばらく日をおいて、大翔の我が儘から美祢の名前が上がったのではないかという状況に、予想通り目梨が渋い顔をした。
呼び出された夕方の会議室には、社長、駆、大翔と、50代の営業部長、目梨、美祢、菊間が向かいあって座っていた。
社長が腕組みをしながら口を開く。
「菊間君と美祢ちゃんのどちらか…と思っているんだが。なんといっても商品と数字に一番強い『営業部』だからな。営業部はまだこれからどんどん人も増やしていく予定だ。当然、『指導』ということも頭に入れてもらいたい。今、事務所で実質的に中心にいるのは美祢ちゃんと菊間君なんだよ。かつて目梨君が担当していた顧客を東御君に担当替えしたことも関係する。もちろん、他の子たちもがんばってくれている。この先、部署内の事務員をまとめていってくれる立場として期待した時、適役は菊間君の方じゃないかと私は思う」
これは性格の問題もあるのだろうと、美祢は感じた。
面倒見がいいのはどうしたって菊間のほうだった。
厳しいことを言われているようだが、事実、美祢には人を見守る力はない。
社長が言いたいのは、事務員全員をまとめ上げる能力の差だろう。
直営店に配置される事務員の人数などたかが知れている。
それに比べて営業部は人の出入りも顧客の変化も激しい。
自分が上に立つのか、と考えた時、美祢は確かに怖気づいた。
「すぐに何かが変わるわけではない。担当の一部は菊間君にも担ってもらうつもりだ。美祢ちゃんから引き継がれた新入社員だけでは心許ないだろうし、目梨君にも後輩を育てるための余裕を持ってもらいたいから、また部長と相談して幾つかの取引先を別の人間に移らせようとも考えている」
現状維持だけで済ませたら会社は成長しないのは、目梨も良く知るところだ。
常に変化はやってくる。
社長の意見を聞いては、目梨も首を縦に振らざるをえなかった。

駆から盛大な溜め息が聞こえた。
「大翔にとっては好都合ってところか…」
誰もが思うことは同じらしい。
社長に入れ知恵でもしたのではないかとすら疑ってしまう。
大翔の性格も理解している美祢は、正面から大翔を見つめてしまい、ニヤリとした笑みを視界に入れた。
「別に。これは偶然。俺、美祢をうちの会社に入れることでとりあえず満足していたから」
「え?」
何のことかと美祢から疑問の声が上がれば、大翔が肩をすくめた。
「同じ会社にいれば仕事上の付き合いもプライベートも把握しやすいじゃん」
何気ないことのようにさらりと言い放ってくれたが、執着心の恐ろしさを感じて、その場にいた全員が呆れ絶句した。
どうやら、就職先に悩む美祢を気の毒に思って引き取ってくれた…だけではなかったらしい…。

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自分の思ったように行動する大翔です…。
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コメント

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No title
コメントmiki | URL | 2010-11-17-Wed 02:19 [編集]
コワいコワい。というか、なぜここまで思ってて今まで付き合う事がなかったかが逆に不思議(?_?) 美祢が他の人と付き合っても特に何も言わなかったり…。最後には自分の所へ帰ってくるとでも考えていたのでしょうか。う~ん、この兄弟の思考回路は難しすぎて理解できません←私がアホなだけですがね(--)
Re: No title
コメントきえ | URL | 2010-11-17-Wed 07:32 [編集]
miki様
おはようございます。

> コワいコワい。というか、なぜここまで思ってて今まで付き合う事がなかったかが逆に不思議(?_?) 美祢が他の人と付き合っても特に何も言わなかったり…。最後には自分の所へ帰ってくるとでも考えていたのでしょうか。う~ん、この兄弟の思考回路は難しすぎて理解できません←私がアホなだけですがね(--)

無意識に捕獲作戦に出ていたようです。
当時から大翔は美祢が誰と付き合ってもいいと思っていたでしょうが、『見えない姿』になっちゃうのが嫌だったようですね。
その点、そばにいれば近況報告くらいもらえますから。
接点がなくなるのが嫌…ってタイプでしょうか。
付き合うまでの未来を想像していたかいなかったか…。
確かに兄弟の思考回路は理解に苦しみます(←私が言ってどうする?!)
コメントありがとうございました。
No title
コメント甲斐 | URL | 2010-11-17-Wed 08:48 [編集]
大翔くん思った以上に腹黒な部分があったり策略家なところがあったんですね。
美祢を守りたいがために眼の届くところに置いておきたいのね
大事に大事にしてたんだ~
幸せにするのが自分じゃなくてもいいだなんて言っていた大翔くんでしたが
しっかり自覚したし、2度とよそ見したり傷つくようなことがないようにこれまで以上に厳重に”保護”しないと、近くでね
Re: No title
コメントきえ | URL | 2010-11-17-Wed 15:16 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 大翔くん思った以上に腹黒な部分があったり策略家なところがあったんですね。
> 美祢を守りたいがために眼の届くところに置いておきたいのね

大翔ってば言葉巧みに美祢を誘惑(?)したんでしょうね。
素直に従っちゃう美祢ですから、やっぱり手を離れるのは心配で心配で…。

> 大事に大事にしてたんだ~
> 幸せにするのが自分じゃなくてもいいだなんて言っていた大翔くんでしたが
> しっかり自覚したし、2度とよそ見したり傷つくようなことがないようにこれまで以上に厳重に”保護”しないと、近くでね

心も体も自分のものにしましたからね。
檻の中に閉じ込めて厳重に"管理"することでしょう。
それを見てはみんなに呆れられるんでしょうが。
こめんとありがとうございました。
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