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BLの丘
白い色 37
2010-11-23-Tue  CATEGORY: 白い色
秋口にさしかかる頃、営業時間は1時間延長されることになった。
店舗内に置いたアンケート調査の結果でもある。
19時閉店は早い…という意見がいくつかあった。
働く女性や、帰りに寄りたいというサラリーマンらしき人からの要望に答えようと、試験的に始まった。
何でも「やってみなければ分からない」という社長の意見に、反論する言葉もない。

だからといって、夜遅くまで残りたいパートさんもいない。
多少の譲歩は試みるが、毎日は難しいのが現状だ。
誰だって家族を大事にしている。
店舗に立つ人間は、必然的に、美祢や空知、谷口…という『社員』になった。
そして社員は何かと判断が早い。
19時以降の、”あまり物のセール”時間にやってくるのは(たぶん一人暮らしの)サラリーマンがほとんどだった。
猫なで声の谷口に「ちょっとおまけしま~す」と言われてホイホイとお持ち帰り用パックを手にする客だったり。
空知のマッチ売りの少女みたいな悲壮漂う顔で「今日分はこれが最後なんです~」と涙目で語りかける姿とか。
美祢が家庭でも簡単に作れる調理レシピを渡したり。(そこには分量を計らなくてもいい”たれ”とかある。同時に売ろうという意気込み)
その力強さは『パート』とは比べ物にならない…と駆は思っていたが、風波を立てないためにも黙っていた。
社員の逞しい力をパートが見れば良い刺激になり、士気も高まるだろう。

途中でつまみ食いやら差し入れと腹に収めるものがあったとしても、連日の夜の8時以降の帰宅は結構こたえるものがあるだろうが、可能なら、もう少し営業時間は伸ばしてみたい。
この辺りの社員配置も、どうにかしたいと駆の中では考えられていた。

久し振りの国分寺家での晩餐。
母、春代は、これまでにないほどに腕をふるっていた。
大翔が持ち帰った、『残り物の総菜』…はともかく…。

8人が座れるダイニングテーブルの上には、すでに所狭しと料理の数々が並べられている。
何事か?と集まった全員が思ったくらいだ。
美祢と大翔が一緒に風呂に入っているうちに、駆が帰ってきて部屋着に着替えて食卓に顔を出す。
すでに社長は一人で晩酌を始めていた。
基本的に国分寺家は、”全員が揃ってご飯”である。(とはいえ、この勤務時間になってからはあまり叶えられる話ではない)
社長と社長夫人を前にして、美祢を中心に右に大翔、左に駆が座った。
美祢と大翔の椅子の隙間は無い。

「美祢ちゃんが久し振りに来たのよ~っ。嬉しくて仕方ないわ。こんなムサイ男たちを眺めているより、綺麗なものを見たら食欲が進むって言うものよねぇ」
…だから僕も男ですから…という美祢の内心は春代に届いていない。
駆が嫌々そうな表情で母親を見つめた。
「自分が生んだ息子に対して言う台詞か?」
「自分で生んだ息子のおかげで美祢をゲットできたんだよな~ぁ」
「あらっ、美祢ちゃん、お嫁さんになるのねっ?!」
大翔の図々しさを無視し、喜々とする春代に、何と答えたら良いのだろうか…。

躊躇わない大翔の性格は母親譲りだろうと、駆は大翔と見比べた。
間違いなく、この母にして、この子ありだ…。

甲斐甲斐しく大皿から料理を取り分けた大翔が、一口食べては「あ、これ、美味しいかも。ほら、美祢も、あーん」と箸先を口元に寄せる。
ためらいもなく美祢は口をあける。
ずーっと昔から繰り返されていたことだけに目の前の二人からは反論も出なかったが…。
「場所、わきまえろって、いつも言ってんだろっ」
駆から大翔めがけて枝豆のからが飛んできた。
すかさず大翔の反撃が出る。
「一人身、ひがんでんじゃねーよっ」
「おまえらっ、店にでも住んどけっ!帰ってくんなっ」
「せまっちぃ男っ!!」
枝豆のからが飛び交う。
「ひろとぉっ!!てめぇなぁっ!!」
「あなたたちっ、いい加減にしなさいっ!!顔を合わせれば喧嘩ばっかりでっ!!…ブツブツ…(育て方が悪かったのかしら…どうして美祢ちゃんみたいに素直でいい子にならないの?????←母の悩み)」
「言われなくったって新居探してやるっ」
「し、新居?!」
突然の大翔の発言に、ひっくりかえるような美祢の声が響いた。
「店に近い方が、夜も朝もゆっくりできるじゃん。休みも合わないしさ。あの辺の住宅街、一つくらい買おっかぁ」

豆腐を一丁買うような話ではないのだ…と美祢は思う。
確かに自宅でヤるのは嫌でホテル続きだが…、大翔の考えもどうなのか…???
分かっているのかどうか、駆は遠くで「あぁ、それがいい」と呟いていたし、春代は「美祢ちゃん、来なくなっちゃうの?」と嘆いていた。
どっちの味方についていいのか分からない美祢である。

「でも、美祢ちゃんがお嫁さんに来てくれるなら、お店の方は大翔と美祢ちゃんに任せてもいいんじゃないの?駆も本社の方に力を入れられるでしょ?」
春代の穏やかな雰囲気に、兄弟喧嘩は自然と流れていった。
妻の言葉に社長が熱燗の追加を促しながら応える。
「あぁ。いずれはな。だけど、まだ大翔には管理能力というものがない。あと2,3年は様子を見ようかと思う」
話は尽きることがない。
営業に関してはどこまでも貪欲で、チャレンジ精神が旺盛な一家だ。
そしてその中に美祢の存在も深く関わっていた。
それが単純に嬉しいことだった。

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次回最終回です。
お付き合い感謝です。
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コメント

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No title
コメントmiki | URL | 2010-11-23-Tue 02:44 [編集]
やはりどこでも母は最強ですね(^・^) 美祢、嫁入りが決まりましたね。式はどこでしましょうか?(笑)大翔は新居を買う事をアッサリと決めたし、そんなに簡単に買えるものですか?家って…(これだから、金持ちは)←貧乏人のひがみ
いいさ、2人の新婚生活(?)を撮って儲けてやるーー(=^^=)
Re: No title
コメントきえ | URL | 2010-11-23-Tue 07:30 [編集]
miki様
おはようございます。

> やはりどこでも母は最強ですね(^・^) 美祢、嫁入りが決まりましたね。式はどこでしましょうか?(笑)大翔は新居を買う事をアッサリと決めたし、そんなに簡単に買えるものですか?家って…(これだから、金持ちは)←貧乏人のひがみ
> いいさ、2人の新婚生活(?)を撮って儲けてやるーー(=^^=)

母は最強(爆)www
美祢、嫁ぎ先が決定しました。
式はきっとまたお姫様抱っこで入退場してそうです。
駆兄ちゃんからはフラワーシャワーの代わりにおからシャワーとかもらいそうですね(笑)
簡単に買えるものだったらいいですよね~。家。
あ、新居にもカメラが…。(mikiちゃん、建設業者と結託してるし)
コメントありがとうございました。
ご結婚おめでとうございます[i:63892]
コメントさえ | URL | 2010-11-23-Tue 19:21 [編集]
美祢ちゃん良かったね~。
結婚式は間違いなくお姫様抱っこで入場でしょう
きっと新居では大翔ママがお夕飯作っておいてくれそう。
たまには社長と駆の兄さんも待っていそう
帰ってきてびっくりみたいな。
最終回も楽しみです
Re: ご結婚おめでとうございます
コメントきえ | URL | 2010-11-24-Wed 08:07 [編集]
さえちゃん
おはようございます。

> 美祢ちゃん良かったね~。
> 結婚式は間違いなくお姫様抱っこで入場でしょう
> きっと新居では大翔ママがお夕飯作っておいてくれそう。
> たまには社長と駆の兄さんも待っていそう
> 帰ってきてびっくりみたいな。
> 最終回も楽しみです

はーい(^O^)/
もう最終話も出ておりますが…。
賑やかそうな新居です、きっと。
新居…の意味がない?!

常にお姫様抱っこされている美祢っぽいですね。
ってか、本人たちが抱っこ大好きみたいで…。
照れることもない二人ですから、惜しむことなく見せてくれると思います。
一番の理由は美祢を守ろうとする大翔の根回しかも?!
コメントありがとうございました。
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