あれからまた1年。
美祢も大翔も30歳という大台を迎えようとしていた。
谷口は取引先の社員と結婚していたが、理解力のある旦那だからなのか、今でも勤務を続けている。
就業時間は交代制になっていた。
10時開店に合わせて準備をする『早番組』と8時閉店後の片付けをする『遅番組』だ。
社員がいなくても事が足りるくらいにまで成長したパートさんの力も大きい。
「大翔~っ、起きなよ。パートさん来ちゃうよ」
ダブルサイズのベッドの中でまどろんでいた美祢が、「早く出勤しろ」と大翔を小突いた。
美祢はまだ起き上がれる体力も、起きようとする気力もない。
それでも大翔が一向に起きそうにないから気が気でない。
休みなのに気を使わなければならない自分が少し可哀想に思えた。
有言実行か、大翔は本当に店から徒歩5分の場所に家を買ってしまった。
仕切ればどうにでも部屋を作れる、ただ広いだけの部屋がある2LDKという、それほど大きな家ではないが、2人で住むには充分な広さがあった。
従業員は当然この場所を知っているので、店の鍵が開いていなければここに取りにくる。
寝起きのボサボサな格好で人前になど出したくもない。
「あー、うん、そのうち、誰か来るよ…」
「店長がそんなことでどうすんのっ?!」
「だってゆうべ、遅かったから…」
「大翔が全然やめようとしないからじゃんっ。僕なんか動けないよっ」
「美祢が休みの前だとつい張り切っちゃってさ」
「張り切んなくていいからっ」
ブーブーと文句を言い続ける美祢の体をくるりと包まれる。
「んー、じゃあ、おはようのキスといってらっしゃいのキスと今日も一日がんばってね、のキスを美祢がしてくれたら…」
「もう実家に帰るっ」
「みね~ぇっ」
それこそ息もできないほど強く、大翔の胸板に顔を押し付けられる。
「~~~っ!!!」
ジタバタと大翔の背中を叩けば、腕の力が緩んで顔を覗きこまれた。
「おはよう、美祢。今日は一日寝てていいから」
この切り替えの早さには感心してしまう。
分かるから美祢もしつこく起こそうとしてしまうのだが。
ちゅっと額に唇を落とされ、それから唇を塞がれる。
まだ熱が籠るような体に、再び火が付きそうで少し脅える美祢だった。
その時、けたたましく玄関のチャイムが鳴り響いた。
パートさんが来るにはいささか早い時間だった。
それにこの鳴らし方をする人物を一人しか知らない。
「くっそー、兄貴、こんな朝っぱらからっ」
一歩間違えれば乗り込まれるのではないかと思ってしまう。
緊急の場合を考え、国分寺家には玄関の鍵の1本が渡されていた。
起きあがれない姿など、絶対に見せたくない。
「大翔、ほら、早く行ってよ」
「あー、ムカつくっ!!」
美祢が大翔の胸を叩くと、全裸のままベッドから降りた。
床に投げられていたガウンを身につけて玄関へと向かっていく。
やがて玄関から言い争う声が聞こえてくる。
「いつまで寝ている気だ?自覚が足りなさ過ぎだろう」
「まだ遅刻してねーしっ」
「ギリギリに行けばいいって言うもんじゃないんだよ。よっぽど従業員のほうがしっかりしてる」
「すぐ支度していくから。兄貴、先に店、あけといてよ。よろしく」
言い終わるより玄関が閉まる音の方が早い気がした。
この図々しさは大翔ならでは、だ。
いまでは店から離れてしまった駆だが、用事があれば来店する。
かつての経験から駆も、出勤してくる他の人間の事が分かるからここに長居はしない。
しっかり逆手に取っている。
戻ってきた大翔が、再びベッドに潜り込んできた。
「ちょっ、大翔?!」
「店開ける心配もなくなったし。あともうちょっと、こうしてよ」
きゅっと抱き込まれてしまえば逆らう気力も失った。
一緒に居られる時間は、美祢だって嬉しい。
あとで一緒にお店に行って、駆に謝ろう…。
美祢が休みの日だと分かるから駆がやってくる。
なかなか休みが合わない2人だから…。
それは『兄』からのちょっとしたプレゼントであることを気付く日は来るのだろうか…。(来ないな)
―完―
にほんブログ村
長いことお付き合いくださいましてありがとうございました。
無事新居にも引っ越しして、幸せいっぱいの美祢と大翔だと思います。
優しいお兄様もいることだし。
遠まわしにいろいろ仕組みますね、兄様。
ふたりを追いだしてみたりとか。
幸あれ、兄様。(←他人事)
そのうち、新作も出していきたいのですが、年末に差し掛かって、途切れ途切れになるかと思います。
美祢も大翔も30歳という大台を迎えようとしていた。
谷口は取引先の社員と結婚していたが、理解力のある旦那だからなのか、今でも勤務を続けている。
就業時間は交代制になっていた。
10時開店に合わせて準備をする『早番組』と8時閉店後の片付けをする『遅番組』だ。
社員がいなくても事が足りるくらいにまで成長したパートさんの力も大きい。
「大翔~っ、起きなよ。パートさん来ちゃうよ」
ダブルサイズのベッドの中でまどろんでいた美祢が、「早く出勤しろ」と大翔を小突いた。
美祢はまだ起き上がれる体力も、起きようとする気力もない。
それでも大翔が一向に起きそうにないから気が気でない。
休みなのに気を使わなければならない自分が少し可哀想に思えた。
有言実行か、大翔は本当に店から徒歩5分の場所に家を買ってしまった。
仕切ればどうにでも部屋を作れる、ただ広いだけの部屋がある2LDKという、それほど大きな家ではないが、2人で住むには充分な広さがあった。
従業員は当然この場所を知っているので、店の鍵が開いていなければここに取りにくる。
寝起きのボサボサな格好で人前になど出したくもない。
「あー、うん、そのうち、誰か来るよ…」
「店長がそんなことでどうすんのっ?!」
「だってゆうべ、遅かったから…」
「大翔が全然やめようとしないからじゃんっ。僕なんか動けないよっ」
「美祢が休みの前だとつい張り切っちゃってさ」
「張り切んなくていいからっ」
ブーブーと文句を言い続ける美祢の体をくるりと包まれる。
「んー、じゃあ、おはようのキスといってらっしゃいのキスと今日も一日がんばってね、のキスを美祢がしてくれたら…」
「もう実家に帰るっ」
「みね~ぇっ」
それこそ息もできないほど強く、大翔の胸板に顔を押し付けられる。
「~~~っ!!!」
ジタバタと大翔の背中を叩けば、腕の力が緩んで顔を覗きこまれた。
「おはよう、美祢。今日は一日寝てていいから」
この切り替えの早さには感心してしまう。
分かるから美祢もしつこく起こそうとしてしまうのだが。
ちゅっと額に唇を落とされ、それから唇を塞がれる。
まだ熱が籠るような体に、再び火が付きそうで少し脅える美祢だった。
その時、けたたましく玄関のチャイムが鳴り響いた。
パートさんが来るにはいささか早い時間だった。
それにこの鳴らし方をする人物を一人しか知らない。
「くっそー、兄貴、こんな朝っぱらからっ」
一歩間違えれば乗り込まれるのではないかと思ってしまう。
緊急の場合を考え、国分寺家には玄関の鍵の1本が渡されていた。
起きあがれない姿など、絶対に見せたくない。
「大翔、ほら、早く行ってよ」
「あー、ムカつくっ!!」
美祢が大翔の胸を叩くと、全裸のままベッドから降りた。
床に投げられていたガウンを身につけて玄関へと向かっていく。
やがて玄関から言い争う声が聞こえてくる。
「いつまで寝ている気だ?自覚が足りなさ過ぎだろう」
「まだ遅刻してねーしっ」
「ギリギリに行けばいいって言うもんじゃないんだよ。よっぽど従業員のほうがしっかりしてる」
「すぐ支度していくから。兄貴、先に店、あけといてよ。よろしく」
言い終わるより玄関が閉まる音の方が早い気がした。
この図々しさは大翔ならでは、だ。
いまでは店から離れてしまった駆だが、用事があれば来店する。
かつての経験から駆も、出勤してくる他の人間の事が分かるからここに長居はしない。
しっかり逆手に取っている。
戻ってきた大翔が、再びベッドに潜り込んできた。
「ちょっ、大翔?!」
「店開ける心配もなくなったし。あともうちょっと、こうしてよ」
きゅっと抱き込まれてしまえば逆らう気力も失った。
一緒に居られる時間は、美祢だって嬉しい。
あとで一緒にお店に行って、駆に謝ろう…。
美祢が休みの日だと分かるから駆がやってくる。
なかなか休みが合わない2人だから…。
それは『兄』からのちょっとしたプレゼントであることを気付く日は来るのだろうか…。(来ないな)
―完―
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長いことお付き合いくださいましてありがとうございました。
無事新居にも引っ越しして、幸せいっぱいの美祢と大翔だと思います。
優しいお兄様もいることだし。
遠まわしにいろいろ仕組みますね、兄様。
ふたりを追いだしてみたりとか。
幸あれ、兄様。(←他人事)
そのうち、新作も出していきたいのですが、年末に差し掛かって、途切れ途切れになるかと思います。
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無事、新婚(?)生活を迎えられて良かったです。美祢は色々な意味で大変そうですが(笑) 兄ちゃんは最後までお邪魔虫扱いでしたね。その内幸せになれるよ、多分…うん多分(-_-)
作品に参加させて頂いて本当に嬉しかったです。改めてありがとうございました。これからも、2人の生活をカメラを通して見守っていきたいと思います(え、いらない?/笑)
これから忙しくなったりもしますし、寒くもなったのでお体に気をつけて下さい<m(__)m>
作品に参加させて頂いて本当に嬉しかったです。改めてありがとうございました。これからも、2人の生活をカメラを通して見守っていきたいと思います(え、いらない?/笑)
これから忙しくなったりもしますし、寒くもなったのでお体に気をつけて下さい<m(__)m>
miki様
こんにちは~。
> 無事、新婚(?)生活を迎えられて良かったです。美祢は色々な意味で大変そうですが(笑) 兄ちゃんは最後までお邪魔虫扱いでしたね。その内幸せになれるよ、多分…うん多分(-_-)
きっと、たぶん。(←疑問形)
兄ちゃん、いい仕事しているのに邪魔者ですよ。可哀想に。
美祢も、無事新婚生活を迎えて満喫していることと思います。
> 作品に参加させて頂いて本当に嬉しかったです。改めてありがとうございました。これからも、2人の生活をカメラを通して見守っていきたいと思います(え、いらない?/笑)
> これから忙しくなったりもしますし、寒くもなったのでお体に気をつけて下さい<m(__)m>
楽しんでいただいたようで私も嬉しいです。
突発的にお名前、拝借して申し訳なかったかな…と思いましたけど、喜んでいただけたようで私も嬉しかったです。
しかし、隠しカメラがまだ何台もありそう…(冷汗)
miki様もどうぞご自愛くださいませ。
コメントありがとうございました。
こんにちは~。
> 無事、新婚(?)生活を迎えられて良かったです。美祢は色々な意味で大変そうですが(笑) 兄ちゃんは最後までお邪魔虫扱いでしたね。その内幸せになれるよ、多分…うん多分(-_-)
きっと、たぶん。(←疑問形)
兄ちゃん、いい仕事しているのに邪魔者ですよ。可哀想に。
美祢も、無事新婚生活を迎えて満喫していることと思います。
> 作品に参加させて頂いて本当に嬉しかったです。改めてありがとうございました。これからも、2人の生活をカメラを通して見守っていきたいと思います(え、いらない?/笑)
> これから忙しくなったりもしますし、寒くもなったのでお体に気をつけて下さい<m(__)m>
楽しんでいただいたようで私も嬉しいです。
突発的にお名前、拝借して申し訳なかったかな…と思いましたけど、喜んでいただけたようで私も嬉しかったです。
しかし、隠しカメラがまだ何台もありそう…(冷汗)
miki様もどうぞご自愛くださいませ。
コメントありがとうございました。
いつもたのしく読ませてもらってます。
無料安心出会い様
おはようございます。
> いつもたのしく読ませてもらってます。
ご訪問感謝です。
こんな駄文にお付き合いくださいましてありがとうございました。
コメントまで残していただいて…感無量です。
またいらしてくださいね。
おはようございます。
> いつもたのしく読ませてもらってます。
ご訪問感謝です。
こんな駄文にお付き合いくださいましてありがとうございました。
コメントまで残していただいて…感無量です。
またいらしてくださいね。
MO様
おはようございます。
>公私ともに充実して、幸せな生活を送ってるようですね。陰ながら色々な気配りをして、協力してくれてるお兄ちゃんの存在にも、気づいてあげて~!連載、ありがとうございました♪
幸せ生活を満喫している二人です。
お仕事も順調そうだし。
陰ながら二人をサポートする兄が少々気の毒ですが…。
なんだーかんだーいいながら可愛い弟たちなんでしょうね。
こちらこそお付き合い感謝です。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
>公私ともに充実して、幸せな生活を送ってるようですね。陰ながら色々な気配りをして、協力してくれてるお兄ちゃんの存在にも、気づいてあげて~!連載、ありがとうございました♪
幸せ生活を満喫している二人です。
お仕事も順調そうだし。
陰ながら二人をサポートする兄が少々気の毒ですが…。
なんだーかんだーいいながら可愛い弟たちなんでしょうね。
こちらこそお付き合い感謝です。
コメントありがとうございました。
拍手コメち様
こんにちは。
>たまたま、ランキングを覗いていて(普段見ないんですが)こちらにお邪魔しました。すっかり、はまりこんで一気に読みました。この二人を見ているととあるグループの王道カップルを思い出します(笑)みねと大翔の幸せバカップル。いつまでもお幸せに。個人的には、菊間さん乙が大好きでした。
このようなところにいらしてくださいましてありがとうございます。
そして一気読みにも感謝いたします。
王道カップルですか~。
困っちゃうくらい甘々なバカップルです~。本人たちが気付いていないところがまた…。
菊間もいつか出したいな~なんて思っていた登場人物の一人でした。こちらも気に入ってくださって嬉しいです。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
>たまたま、ランキングを覗いていて(普段見ないんですが)こちらにお邪魔しました。すっかり、はまりこんで一気に読みました。この二人を見ているととあるグループの王道カップルを思い出します(笑)みねと大翔の幸せバカップル。いつまでもお幸せに。個人的には、菊間さん乙が大好きでした。
このようなところにいらしてくださいましてありがとうございます。
そして一気読みにも感謝いたします。
王道カップルですか~。
困っちゃうくらい甘々なバカップルです~。本人たちが気付いていないところがまた…。
菊間もいつか出したいな~なんて思っていた登場人物の一人でした。こちらも気に入ってくださって嬉しいです。
コメントありがとうございました。
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