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BLの丘
ちょうどいいサイズ 11
2010-04-06-Tue  CATEGORY: ちょうどいい
ダイニングテーブルの前で呆然とする一葉に、ふわふわと湯気のたった味噌汁を差し出しながら、分かり切ったような顔で中條がクスクスと笑いながら箸をそえてくる。
「まぁ、彼の言い分も分からなくはないよね」
磯部の怒鳴り声は中條にも聞こえていたようだ。
よくよく考えれば、中條と磯部はそう年も変わらないし、部下を持つ身としては同じような立場なのだろう。
中條は自分の部下である那智が同じ行動を取ったらやはり同じようにキレる…と言いたげだった。
「けどさ。取引とか契約とか、そんなのは関係なく、本当にただの気心知れた仲だからって言っちゃえばそれまでだよ。そこまで干渉できないし」
決して一葉を責めない点は安住と良く似ている…と思った。
「友達の前で気なんか使わないでしょ?」と重ねられて、頷きたいのだが、今の状況はやっぱり違う。
“気心知れた友達”などではない…。
安住は一葉にとってとても重要な”取引先”の一部なのだ。

何一つ言葉が返せないでいる一葉の心情を読んだように中條の淋しそうな声が聞こえた。
「表面上のお付き合い…とかさ、そんなこと思ったら、享が一番悲しむからね。話を持ち出したのは単純に一葉ちゃんの力になってあげたかっただけだよ。それに恩を着せようとかそんな下心ももっていないから」
安住が何かを企てるような性格ではないことは、一葉でも感じる。
まだ出会って何度かしか会ったことがないのに、安住の温厚な性格にはまっすぐさが表れていた。
安住の気持ちが嬉しいのに、一葉は素直に喜べなかった。

「ビジネスとプライベートは分けようね。所長さんへの言い訳はまた後で考えるとして。とりあえず今は、冷めないうちにこれ、食べちゃって」
あまり気はすすまなかったが、中條に促されてほとんど命令口調に、一葉はおずおずと箸を手にした。
しじみの味噌汁…というより、大量のしじみが入っていて、汁はどこ?というものだった。
「これ、殻入れね」
コトっと隣に違う碗を差し出され、中條も目の前に座った。
まるで見学されているようである。
「い、いただきます…」
「二日酔いにはいいらしいよ。他にも何か食べられそう?」
一葉は静かに首を振った。
これ以上手をかけさせるわけにはいかない。それ以前に食欲などあるわけがなかったのだが…。

中條は飽きさせないようにと思うのか、それからも色々と話をしてくれた。
それは自分たちの仕事状況だったり、安住の私生活だったりと、多種多様におよび、それとなく一葉のことも聞いてくる。
安住と中條の関係が気になっていた一葉だったが、二人の間に関しては「ただの友達」と繰り返されるだけだった。
もちろん、一葉が聞いたわけではなく、中條が勝手に呟いているといった感じだったけど。

出汁のよくきいた味噌汁は冷え切っていた心までホッとさせてくれるようだった。
大量のしじみに手を焼き、また会話もしながら相当な時間をかけて全てを食して息をついた頃、安住が帰ってきた。
トントントンと階段を昇ってくる音に、「早いな」と中條が呟いた。
リビングのドアが開けば、一仕事終えてきましたというようなびっちりと整えられた格好の安住が入ってきた。
両手にたくさんの袋を抱えて。

「一葉ちゃん、起きたんだね。…あぁ、今食べていたところ?よく眠れた?体調はどう?ちゃんとたべられた?」
優しい笑顔が安堵を纏ったように緩んだ。続け様に質問されて、一葉はぱちぱちと目を瞬かせながら頷く。
座ったままでは失礼、と咄嗟に頭をめぐり、立ち上がった一葉だったが、突然下半身を流れた空気に状況を思い出した。
「あ…っ!!」
シルクのパジャマはまたスルッと肌を滑って一葉の片方の肩を丸出しにした。

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一葉の運命はいかに?!
33333のキリ番踏む方いるかしら。
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ちょうどいいサイズ 12
2010-04-07-Wed  CATEGORY: ちょうどいい
…笑い事じゃない…。笑えない…。笑うどころか、穴があったら入りたい…。

真っ赤になる一葉の目の前で、中條が堪え切れないというように、涙を目に溜めながら笑い続けていた。
考えなしで行動を起こしては墓穴を掘る…、まるで園児のようでおかしすぎるらしい。
キョトンとした安住が一葉の頭のてっぺんから足のつま先までスーっと視線を走らせているのが良く分かる。
すっかり気を抜いていた自分が一番悪いけど…。
「一葉ちゃん…、ズボン、どうしたの…?」
「穿かないほうが可愛くていいじゃない。あぁ、でもあれか。享が犯罪者にならないために必要だったよね。白いお尻なんか見ちゃったら僕だってそそられましたよ」
「誠、黙りなさいっ」
中條のからかいをピシャッと押さえた安住が、もじもじとする一葉に静かに声をかけてくる。
自ら見せたわけではないが、中條にまで晒したのだと伝えられているのと同じだった。
「着たら大き過ぎちゃったかな。ウエストで止まらなかったんだね。気付かなくてごめんね」
安住はどうやら、穿いたはいいがずり落ちるものを身につけていられなかったと判断したようだった。
試してはいないが、その可能性もあったかもしれない…。
ぶかぶかのパジャマを身に付けた一葉に、安住が「着替えを買ってきてあげたよ」と、手にしていた紙袋の一つを手渡してくる。
「一葉ちゃんにちょうどいいと思うんだ」
「そりゃぁ、スリーサイズ確認済みなら合わないわけないよね」
「誠っ!!!」
眠っていた間に全てを脱がされていた一葉には返す言葉などあるわけがない。
安住がやましいことをするとは思えないが、記憶がないぶん、何とも言えない…。
かぁぁぁっと顔を赤らめたのは何も一葉だけではなかったようで、安住も中條を制しながら多少の照れを纏っているようだった。

「ほら、着替えておいで。夕ご飯は作ってあげるから食べていってね」
「そんなっ!!」
「逆らえる立場じゃないでしょ~」
「誠っ!!!」
中條は全く懲りた様子もなく茶々を入れてくるが、そのたびに安住に制されていた。
しかし聞く耳など持っていないようだ。

安住の手に背中を押され、リビングを出てまた寝室へと戻る。
「あ、スーツ…」
「お休みの日に着るものじゃないでしょ」
廊下に出て、着替えるものを忘れた…と呟けば、安住は俄かに顔をしかめた。
でも、そしたら着るものが…と頭を過った思いに、ふと手渡された紙袋がズシリと重いことに気付く。
ふと視線を落とせば、安住が「うん」と静かに頷いただけだった。
一葉は咄嗟にその場で袋の中身を確かめた。
下着だけではなく、普段一葉が着ているような、長袖のTシャツとカーゴパンツが入っていた。
「あ、あ、安住さん、これっ…」
「一葉ちゃんの趣味に合うか心配だったんだけど…。昨夜一葉ちゃんに無理をさせちゃったことのお詫びだと思ってくれればいいから」

どっちが詫びる立場なのだろう…と一葉は冷や汗ものだったが、安住は全く気にした様子もなく促すだけだ。
「終わったら戻ってきてね。僕も着替えたいから」
廊下に放り出されリビングの扉を閉められてしまえば一葉に選択肢など残っていない。
散々迷惑をかけた上に、安住から『お詫び』と言われるのは絶対に間違っている…と一葉の頭はちゃんと理解していたが、一言すら返すタイミングを掴めない要領の悪さにうなだれるしかなかった。

そういえば、昨日の会計だってどうなっているんだろう…。

とぼとぼと寝室まで戻りながら、全部まとめて、あとプラスアルファして返さなきゃ…と財布の中身を思い出す。
安住が買ってきてくれたものは一葉の体型にちょうど良いサイズだったし、選んでもらった服はセンスも質も良かった。
値札なんてもちろん付いてはいなかったから憶測でしかないけど、自炊生活はまだまだ続きそうだ…。

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ちょうどいいサイズ 13
2010-04-08-Thu  CATEGORY: ちょうどいい
出掛ける予定が以前からあった安住は、一葉が起きた時に一人にするのは心苦しかったし、見慣れない人物が居ては不安になるからと中條を呼んだらしい。
それなら起こしてくれればいいのに…と一葉は心の中で呟いていたが、安住の性格を思えばそんなことはしないのだろう。
「僕はこき使われていますので。ここまでさせて、作った夕ご飯も食べないで『帰ります』とか言ったら、所長さんに『誘いも断られた』って告げ口するからね」
中條の脅しに一葉は返す言葉もない。
磯部が『おとしまえつけてから帰ってこい』と怒鳴った台詞を中條もしっかりと聞いている。
できる限りの言い分を聞き入れてご機嫌を取ってこいと、その意味は中條では理解するのも容易いはずだった。
「誠、そういうことを言ったら一葉ちゃんが気を使うでしょ。…体調は大丈夫?まだ横になっていたかったら休んでいていいからね」
一葉の後に寝室へと向かった安住が、ビッチリとした服装からラフな格好へと変貌を遂げており、諭すように中條をたしなめた。
私服でいる時の安住からは”デキる男”の鋭敏さが消えて温和な雰囲気が全面に出てくる。
スーツを身に纏っている時でも凛々しさに惹かれるものがあったが、今はもっと寄り添えるような温かさがあった。

さすがにほとんど丸一日眠っていたといっていい状況なのに、これ以上の甘えた生活は送れない。
それに、さきほど食した味噌汁が浸透したように、重苦しかった身体がラクになっている。
一葉は小さく首を振ってもう大丈夫だから…と伝えた。

リビングで3人してティータイムを過ごし、昨夜同様の気兼ねのない会話にいくらか一葉の緊張も取れてはいたが、迷惑をかけた…という後悔は心をすっきりと晴れさせてはくれない。
安住も中條も、一葉の失態を話題に出すわけもないし、触れてもさりげなく反らされていく。
それはそれでありがたいのだが…。

しばらく雑談を楽しんだ後、夕食を用意してくれるという安住と中條の後ろ姿に何も言えず、ただダイニングテーブルのいすに腰かけているだけだった。
リビングで一人待たせるよりは…と連れて来られて、またここでも尽きることのない話がポンポンと飛び出していた。
通常であれば早いと思われる夕食時間。
隣り合った安住と中條の仲睦まじい世界が居たたまれなくて視線を反らしてしまう。
聞こえてくる会話も、憎まれ口…というより、じゃれあいのようだ。

「ピーマン、嫌いっていつも言うのに何でいれるの?!」
「誠の好き嫌いは聞いていないから。彩りも兼ねて。健康にもいいんだよ」
「苦いんだってばっ」
「子供みたいなこと、言わないの」

ぴしゃりと言いくるめてばかりのはずの中條にも苦手なものがあるのだと思えば何となく親近感も持つ。
それは安住相手だからこそ安心して口に出すことのできるもののような気がした。
一葉は手伝わなくても良いものかと思案したが、作り慣れない自分が手を出しては邪魔になるだけだし、なんとなく、二人の間にも入っていけなかった。
キッチンの前に立った二人に、更に気が重くなるが、帰るタイミングすらつかめない。
二人はいつも一葉に話題をふってきて返答を求められ、一葉も逃げられなかった。

胃に優しそうな雑炊や煮物、酢の物などの和食を用意され、一葉はここしばらく見たことのない豪華な食卓に圧倒された。
自炊生活では1品2品を作るのがやっとで、しかも3人分が並んでいるから余計に活気づいているように見えるのだろうか。
「すご…っ…」
テーブルいっぱいに並んだあれこれに呆然としていれば、そんな一葉の反応に満足したような安住が笑顔を向けてきた。
「一葉ちゃんの口に合うか分からないけど、遠慮しないで食べていってね」
「そう、僕も協力して作ったんだからね」
疲れていたはずの胃まで、食事を前にしてグ~っと鳴ってしまうのだからなんて単純な身体なんだろうと思う。
「いただきます」と3人で挨拶をしてからも、前に座った安住と中條がまるで一葉が箸をつけるのを待つように見つめているから、一葉は気まずくなりながらも先に雑炊を掬った。
細かく切った鶏肉や野菜と共に大根おろしで煮込まれていてホッとさせられる。
「おいし…」
一葉が感動で掠れた声をあげれば、万遍の笑みを返してくれる安住が目の前にいた。
「良かった」
柔らかな笑顔に一瞬見惚れる。
安住の顔を見ているのがなんだか辛いことのように感じられて、一葉は食べることに集中しようとした。
嬉しい時間のはずなのに、やっぱり心苦しさの方が勝っている。
それが安住の優しさに対してなのか、中條の存在に対してなのかはっきりとしなかったが、後ろめたさだけが一葉を覆っていた。

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ちょうどいいサイズ 14
2010-04-09-Fri  CATEGORY: ちょうどいい
「誰かと一緒に食べる食事って楽しくていいよね」
食事の後片付けをしながら安住が楽しそうに笑った。
食事を終え、お茶を飲んで一息ついたところで中條はさっさと帰り支度をしている。
「享、後片付けまでしろとか言わないよね。僕、資料作成があるから悪いけどこれで帰るよ」
「あぁ、ありがとう。今日は助かったよ」
テキパキと動く中條に一葉も慌てた。
自分も帰る、と言いかけてからまだ散らかったままのテーブルに視線が落ちれば口も閉じる。
いくらなんでもこの状況で中條と同じ台詞は吐けなかった。
「じゃあね、一葉ちゃん。また今度、ご飯でも一緒に食べようね」
去り際まで明るく元気に一葉に声をかけ、中條はさっさと部屋を飛び出していった。
自分のためにこの家に拘束させたのかと思えば申し訳なさが募るだけだ。
「ありがとうございました」の一言すら、言うタイミングを逃した一葉はまたうなだれた。

安住がクスクスと笑いながらテーブルの上の食器をまとめ始めた。
「弾丸みたいな人でしょ。誠のペースに嵌められると調子崩されるからいないほうがいいくらいだよね」
「そ、そんな…」
この期に及んで邪魔もの扱いなんてできるはずがない。
そりゃぁ、確かに強引なところはあるかもしれないけど、苛めたおすような態度ではなくて、親しみを感じさせるようなものばかりだ。
「少し待っていてね。食洗機に入れたら送っていってあげるから」
さらに一葉を送ろうとまでしてくれる安住に、心臓が飛び上がりそうなほど恐縮した。
これ以上手を煩わせるわけにはいかない。
「だ、大丈夫ですっ!そんなっ!一人で帰れるしっ!!」
「だってもう外は暗いんだよ」
毎日、暗い中を帰っているって…っ!!…車だけど…。

最寄りの駅から自宅までは確かに距離もあったけど、まだ公共機関はいくらだってある。
車があるから、と家賃の安さで選んだだけあって、アクセスは良いとは言えなかったが、何もない場所じゃない。
「本当に大丈夫ですから…。…これ以上安住さんに迷惑、かけられない…」
消え入りそうな声で呟けば、心外だと言いたそうに安住が悲しそうな表情を浮かべた。
「一葉ちゃん、僕は迷惑だなんて、そんなこと、少しも思っていないからね。僕がそうしてあげたいっていう気持ちも持つのはダメなの?」

この安住の優しさは『毒』だと思う。
浸れば浸るほど侵される。
勘違いも甚だしいと後で責めたてられるのだろうに、縋りたくなる思いやりは一葉の心を虜にしていった。
ただでさえ、成績も良くなく、周りから罵られるばかりの自分に、情けをかけてくれる人間などそういない。
安住から与えられる親切心を愛情と間違えてしまいそうで怖かった。
一葉は何と答えて良いのか頭が回らずに首だけを振った。
「じゃあ、送らせてくれるよね?」
頷いていいのだろうか…、頷くべきなんだろうか…。
躊躇う一葉が返事をできないでいると、クスッと笑みを浮かべた安住の顔が飛び込んできた。
「もしね、もしも気にかけてくれているのなら、僕のお願いを聞いてくれないかな」

それは予想外な申し出と言って良かった。
内容すら分からずに、一葉は咄嗟に自分ができることなら…!!と首を縦に強く頷いた。
自分が安住に対してできることがあるというなら受けてやりたい。

「一葉ちゃんの都合がつく時、たまにこうしてうちに寄ってくれないかな?夕ご飯を一緒に食べられたら嬉しいんだけど」


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2010-04-10-Sat  CATEGORY: ちょうどいい
これは、お願いを聞く…という部類でいいんだろうか…。

『夕食を共にして』という誘いは素直に頷けるものではなかった。
硬直した一葉に、「それは難しい相談かな」と柔らかく反らされれば、自分が拒絶したと受け止められているのだと判断できた。
「あ、ち、ちが…、そ、んなんじゃなくて…」
慌てふためいて否定をしてみたところで、安住は「無理しなくていいからね」と一葉を宥めるだけだ。
こんな状況で誘っては一葉の負担にしかならないと思っているのだろう。
安住自身、口を滑らせたかのような態度で「気にしないで」と言ってくる始末だった。

「そう、じゃないです…っ。あの、その…、だって俺なんかが居たら、中條さんとか…」
「誠?どうして?」
「だって…」
二人の中を疑い、言葉を紡げないでいる一葉に、安住はそれとなく中條とのことを危惧している一葉の心境を読んだようだった。
一葉の頭の中には先程まで繰り広げられていた、気安くお互いを信頼し合う間柄が離れずにいる。
親しい友人、という括りであると何度言われたところで、隠しているのかと思ってしまえばそんな二人の関係もありなのかと、深く関わるのはいけないと思えた。

またもじもじと俯いてしまった一葉に、溜め息が聞こえた。
「誤解をされているようだけれど、誠とは心配されるようなことは何もないから。僕が心配するのは一葉ちゃんのほうだよ。突然こんな話を持ち出してしまって悪かったよね。一葉ちゃんにだって都合はあるでしょ」
暗に付き合っている人間がいるのだろうと問われる内容に一葉は思いっきり首を振った。
これまですごした恋愛経験だって、内向的な性格が災いしてか、近寄れたことすらない。
いつも遠巻きに誰かの姿を見て満足して、散った。

「そんなことないです…、べつに、俺、いつも一人だし…。今日のご飯もすごく美味しかったし、俺、こういうの、作れないし…」
「いつもどんなものを食べているの?迷惑でなかったなら、本当に寄ってほしいよ。僕も一人で淋しいんだ」

安住が「誰かと食べる食事は美味しい」とさきほど呟いた言葉が脳裏を横切っていく。
受けてやりたい、こたえてやりたい…。だけどその先にあるのは…???
完全なる間違いの思いこみ…。
一葉は自分が傷つくと分かっていながら、この誘いを断れなかった。
仕事とか、付き合いとか…、磯部の言う『おとしまえ』とかでもない。
一葉自身が安住の傍にいたかったのだ…。

「いつもコンビニのお弁当とか…。最近は作るようになったけど、上手くいかなくて…」
自炊生活の内側を晒してしまえば、安住がクスリと笑う。
「働きながら料理なんて大変だよね。迷惑にならない範囲でいいよ。都合がついたら、ね。話相手になってくれる人がいるって僕も嬉しいんだ」

やっぱり『毒』だ…と一葉は思った。
恋愛の経験が少ないから余計にそう思うのだろうか。
安住が纏っている力に確実に引き寄せられていた。
そう、「恋」という重力が自分を襲う…。

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