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BLの丘
囁きは今日も明日も 11
2010-09-18-Sat  CATEGORY: 囁きは今日も明日も
理由があるのかないのか分からないが、日曜日の午後に指定された朝比奈の車のメンテナンス時間に、営業所まで持ってきたのは中條だった。
「あのさー、これ、どういうこと?」
てっきり朝比奈自身が顔を出すと思っていた磯部にはクエスチョンマークが花束のように浮かんだ。
毎日のようにメールも電話もしていたのに、来るなんて一言も聞いていない。
思わず疑問の声を上げてしまえば、「まぁ、いいじゃん」とにこやかに微笑まれる。

メンテナンスの依頼は前もって受けていた。
定期点検なので1時間もしないうちに終了する。
朝比奈の車なのに”代理人”という人間が現れた異常事態は作業員にも広まっていた。
加えて、所長の磯部が、車を持ち込んだ中條に近づけば誰も寄ってくる者などいない。
「一葉ちゃんが”臨時”のお仕事で抜けられないっていうから、僕が代わりに」
「まこ、安住さんちに良く行ってんの?」
「それ、嫉妬?」
突っ込むんだか突っ込まれているんだか、返す言葉もない…。

「享が、点検後も異常がないか点検しながら帰ってきてって言ったんだけど、僕、機械のこと、なーぁんにもわからないだよね」
建設機械の営業に従事する人間のいうセリフか?!
わざとらしい言い訳に内心で溜息をつきつつ、磯部の頬は緩んでいた。
「少し走らないと状態はわからないんだけど」
「じゃあ、走って」
「俺に付き合わせたら朝帰りになること、知ってる?」
悪戯な口調に返すのはジョークともとられない言葉。
もちろん、曖昧な言葉が通用しない相手だとはもう分かっている。
意図が分かるからこちらからも釣ってみる。

言えば、内容を理解して、こちらの動向を探ってくる。
「返却期限、言われてないから明日でもいいんじゃないの?」
「まこ、明日休み?」
「半休とった」
「ぬかりないな。俺が月曜休みって知ってのことかよ…」
中條が誘う時間は今、今日、このあと…。

中條と雑談をしているうちに点検は終わり、「作業終了書に確認サインを」と竹島が書類を持ってきた。
「竹島、俺、この後出てくるから。直帰にしといて」
中條がサインした書類を返しながらそっと耳打ちすれば、「しょちょーっ?!」と驚愕の声に見まわれた。
「走行点検に付き合ってもらうことになっちゃってごめんね」
中條に微笑まれては返す言葉もないのか…。
それにしては、赤らんだ顔を見て、どっちに蹴りを入れようかと思う。

「ほらっ、行くぞっ」
とても『客』に対しての言葉使いなどではなく、また部下に聞かせられたものでもなかったが、心が跳ねていた磯部は身の回りのものをまとめると、さっさと朝比奈の車に乗り込んだ。
「初ドライブだー」
助手席に座った、喜んだ顔が何とも眩しい。

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短い?!ごめんなさい。今日はこれだけ書くのが精一杯で…。
次こそは…
てか、仕事しろーっ!!
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囁きは今日も明日も 12
2010-09-20-Mon  CATEGORY: 囁きは今日も明日も
R18 ちょっとの性描写があります。閲覧にはご注意ください。

お互い残業続きである。
休みが合わなければ誘いあうこともなかった。
たまに会って食事をして…それも勤務時間に。
最後の砦を崩せないもどかしさを、どうしようかと悩んでいたのは磯部だけではなかったようだ。
ドライブどころではなく、向かった先は磯部のマンションだった。
間違いなく『直帰』したのである。

「こんな、すごいところに住んでたんだぁ」
高層マンションを見上げながら中條から感嘆の息が漏れた。
「高層階なら話はわかるけど。うちは低いんで夜景も何も堪能できません」
30階建ての中の3階と説明しながら、エントランスで解除キーを打ちこむ。
エレベーターに続いて入ってきた中條を、ドアが閉まると同時に抱き寄せれば、抵抗もなく縋ってきた。
「何で今日来るって先に言わなかったの?」
「驚かせられないじゃん」
「いない可能性だってあったのに」
「一葉ちゃんが来る日に外になんか出ないでしょ」
「かなわないなぁ」
この言葉を何度繰り返しただろう。
自分の行動を読み透かした動きには感心すらする。
同時に嬉しさも湧いた。
それだけ、自分のことを良く知ってくれているのだ。

「さぼっちゃってよかったの?」
「さぼらせたかったんだろ?」
「所長の特権だね」
「まこの計画性には返す言葉もないよ」
軽く唇を合わせたところで、『チーン』と到着を告げられた。
手を取り引っ張っていく後ろを、喜ばしそうについてくる。

玄関を入った途端、待ち切れないと細い体を抱き寄せ口づけた。
「ずっとこうしたかった…」
「こうされたかった…」
なかなか先に進めない二人だったことを物語っている。
初心な年頃とは違って、目指すものは分かり切っているのに、進めなかったのは大事に思いすぎるせいだろうか。
時間の無さという言い訳もあったけど…。

もつれるようにしてベッドルームになだれこむ。
壊さないように、と、中條から眼鏡を取り上げれば、「何も見えない」と抗議を浴びた。
「見えなくていいよ。俺の浅ましさを見せなくて済む」
「ずるい…」
「代わりに全部見てやるよ。脱いだらすごいんだろ?」
「ばーか」
憎まれ口は照れ隠しなのだと分かる。
着ていた衣類をはぎ取って、上も下も裸にしてしまえば、悦んだように期待して待つ分身が目に飛び込んできた。
「待たせてごめん」
「待ちくたびれた」
どこまでいっても、この減らず口には敵わないだろう。

「悪かった」
とりあえず下手に出て、中條の一番大事な部分に唇を寄せれば、「あぁ…」と小さな吐息が聞こえた。
つるっとした亀頭を嬲り、根元まで咥えてやる。
広げた足の根元、すぼまる秘部に指を這わせ、唾液と共に指を滑りこませれば、ぶるっと震えた。

「まさぁ…」
この声だけで一回イケそうだ…。
磯部自身を掴み取ろうとする手を振り払い、なんとか自分のペースを保とうとする。
「まこの中に挿れたい…」
「いいよ、来て…」
確認の必要などない、といった感じで、腰に巻きついた両手は全てを受け入れてくれている。
狭い入り口を突けば、「あぁっ…っ」と白い首筋が仰け反った。
妖艶な姿だった。
歳を重ねたとは思えないほど…、いや、重ねたからこそ映る淫靡さなのだろうか。

「まこと…」
まだ日は明るい。
熱い肉壁の中に己を押し込み、絞り取られる狭さを感じながら、磯部は白濁を零すことを止められなかった。
同時に、中條の腹に、本人が撒いた液が飛ぶ。
「あぁぁっ!!」
「すっげぇ、いい…」
一度果てた分身が、すぐに力を付けて中條の中を擦った。
「ねぇ…まって、むり…」
「誘ったのはおまえだろ」
「こんなの…っ…」
「半休までとってくれたんだろ。答えてやらなきゃな」
「まさぁぁっ!!」
どちらの欲求を満たすことが先なのか…。

時間はたっぷりある。
中條を満足させてやらなければ自分の存在が廃ると磯部は思った。
実際、どっちが満足するのかは疑問だったが…。

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囁きは今日も明日も 13
2010-09-22-Wed  CATEGORY: 囁きは今日も明日も
R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。

お互いを求め過ぎたせいか、一度目はあっという間に撃沈した磯部だったが、2ラウンド目には余裕も生まれた。
中條の体の細かい部分にまで目と指と唇と這わせて堪能する。
仰向けになった中條の体内に雄を忍ばせたままで、耳朶から首筋を舐め上げ、胸の尖りを口に含んでカリカリと長いこと弄っていれば、全く動かない腰をじれったそうに揺らしてきた。
「そこばっか、やぁ…っ」
甘い声に、埋めた分身がビクンとまた膨張した。
「煽るなよ」
「いじ…わる…っ」
「俺は自分が情けなかったよ。あんな、あっという間にイッちまって」
「僕、だって、良かったんだから、いいじゃない…」
はぁはぁという息の間から満足そうな表情が見えれば満更でもない。

「ねぇ、もう、いいから…」
腰に回された手が「こっち」と叩いて促してきた。
「分かったよ」
口角を上げて返事をし、そのまま中條の腰をとって体勢を入れ替えた。
シーツの上に寝転がった磯部を跨ぐ形で、中條がしどけなく座ることとなる。
「あぅっっ!!」
自らの重みで一番深いところを擦り、仰け反りそうに中條の白い首筋が天を向いた。

「まこが動けよ」
「ま、て…、そんな…」
下から小さな振動を与えてやると、胸の上に両手を突いた中條が荒い息を吐く。
「欲しかったんだろ?」
「あぁぁ…ぁぁ…、ま、て…、揺らさな、で…」
自分でも意地悪だな、と少し思った。
それでも貪欲に求めてくれる姿には感動を覚える。
長いこと、特定の相手など作らずにいたから、誰かが傍にいてくれる、ということが単純に悦びでもあった。

「まこ…」
いくらか声のトーンを落として、汗に湿った髪をすくいあげてやった。
視力が弱い、という中條が、どんな風に自分を捉えているのかは正直なところわからない。
自分だけがはっきりと見えることも、彼の中では羞恥なのだろうか。
色づく肌が余計に艶めかしさを醸し出した。

「辛いか?」
「だいじょ…」
馴染む時間を待って、問えば、小さく首を振った。
磯部の胸に手を置いたまま、ゆっくりと上体を起こして、膝に力が入る。
幾度かゆるく動かされることに、磯部のほうが痺れを切らしていた。
もっと激しい動きが欲しくて、中條の腰を掴んで差し抜いた。
「あぁーっっ!!」
大きく仰け反られるたびに、孔が締まって、余計に強く突き入れたくなる。
角度を変えながら繰り返す下からの挿入に、喘ぐ声は響き渡り、閉じることを忘れた口端から透明な唾液が流れ落ちてきた。
「あっ、あぁぁっ、もう、だめ…っ」

磯部は上体を起こすと、ふらふらになる中條の体を抱きこんだ。
「無理なこと、させてごめん…」
「い、から…」
「気持ちいい?」
「い…」
その言葉を裏付けるように、ベタベタに濡れた股間を握り締めて扱いてやると、我慢していたと分かる怒張がぶるっと震えて射精した。
強く絞られる内壁に、思わず自身も持って行かれそうになるのをグッと堪える。
ガクンと力の抜けた中條の額が肩の上に乗ってきて、整わない呼気が磯部の肌を滑っていった。
抱き締める耳元に唇を寄せる。
「好きだ…」
「…ん…」
「今日はありがとう…」
「…ん…」
手に入れたいと思いながらいつまでも先に進めなかった臆病者に、着いてきてくれる姿に心から感謝した。
瞼や頬に唇を落とし、まだ苦しげな唇を塞ぐ。
膝の上に乗った体を本当に愛おしいと思った。
「ま、さ…、まだ、でしょ…?」
「待ってるさ」
「待たされ過ぎるから、やだ…」
確かに中條の中ではドクドクと脈打つものが、放出の時を今か今かと待ち侘びている。
中條の様子を伺ってやっているというのに、キュッと内筒に力を入れられて、「こいつはっ!」と声が漏れそうになった。
自分が思っていたよりも、ずっと『ついてこられそう』な体のようだった。
中條の体をそっと横たえてやる。
秋になり、陽が短くなってきたことを表すように、夕刻の時間が刻一刻と過ぎていく。
部屋に届く西日は、二人の心を投影するかのよう、燃えるような赤い色をしていた。

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囁きは今日も明日も 14
2010-09-23-Thu  CATEGORY: 囁きは今日も明日も
月曜日の午前中(とはいえ、お昼前だ)のうちに、朝比奈の車を返却しに行った。
安住の家には朝比奈の車の代わりに中條の車が置いてあった。
帰りは中條に営業所に送ってもらえばいい。(自分の車は会社に置きっぱなしなので)
こちらにも仕事を休んだ、という人間が一人いた。
朝比奈だ…。
あの喫茶店はそんなに『自由業』だったのだろうか…。
朝比奈からも、中條からも安住には『詳細』は伝わっているようだ。

そして、見慣れないガタイの良い男がいて、来客ならすぐに帰ろうと思った。
客…とは思えない、随分とラフな格好ではあったが…。
車に異常はなかったし、特に報告することもない。
それに朝比奈自身も車に全く無知なわけではない。
だが、気を使った磯部とは対照的に、男の姿をとらえた中條が笑顔で近づいていった。
「みっちゃん、来てたんだ~」
「おう。誠の車があるのにいないからどうしたのかと思ったぜ」
誰だ?!こいつは…。と磯部の脳内にクエスチョンマークが浮かぶと同時に、あまりの親しさに訝しさも湧いたが表情に出すほど人間ができていないわけではなかった。
「うん、ちょっと享から頼まれごとをされちゃって」
「一葉君の車の点検、代理で行かせられたんだって?享利も人使いが荒いからな」
「失礼な。…あ、磯部さん、わざわざすみません。お休みのところ、ここまで来ていただいて」
“みっちゃん”と呼ばれた男と中條の繰り広げる会話に、奥から顔を出してきた安住が磯部へと向き直った。
磯部は即座に営業スマイルを張り付けて少し頭を下げる。
「いえいえ。こちらこそなかなかご挨拶にも寄れずに…。今日はちょっと中條さんにも頼みたいことがありましたので…」
会社から直帰した、とはさすがに口に出しづらい。
「そうなんですか」
安住も分かってはいるのだろうが、それ以上は突っ込んではこなかった。
それからすでに”みっちゃん”の横に座ってしまった中條の隣を進めてくる。
「今コーヒーを淹れますから、どうぞ、掛けていてください」
「しかし、お客様では…」
「マサ、大丈夫。客でもなんでもないから」
「口の悪さは相変わらずだな。で、どちら様?」
一応恐縮する磯部だったが、飛び交ってくる言葉は、”心配ご無用”と伝えてきた。

「一葉ちゃんが以前勤めていたところの所長さん、磯部さん。こっちは高校の時の同級生で佐貫光也(さぬき みつや)。だから気にしなくて大丈夫だよ」
同級生ということは安住も一緒か…と磯部は頭を巡らせたが、それにしてはそれぞれ歳の取り方が違うな、と感じてしまった。
中條は若作りのところがあるし、佐貫は自分よりも年上に見える貫禄のようなものがある。
どことなく、人を見定めるような鋭さが見え隠れするようだった。

「所長?!まだ若いのに大したもんだな」
「佐貫!仮にも年上の人に向かって失礼過ぎだよ」
「安住さん、そんな…。私のことなら…」
「それは失礼しました。誠があまりにも親しげにしていたものでつい…」
安住に咎められた途端に、スッと居住まいを正した佐貫がぺこりと頭を下げてきた。
先程の寛いだ姿から一瞬にして変わる態度も”大した”ものだ…。
磯部は苦笑を浮かべながら、見た目は逆だろうと内心で思っていたが。
「年上って一つしかちがわないじゃない。それにみっちゃんのほうがずぅっと年上に見えるから気を使う必要なんてないんだよ」
磯部が感じたことを中條に堂々と告げられては返す言葉もない。

「で、なんでみっちゃん、ここにいるの?その格好、仕事じゃないでしょ?」
中條が場を宥めるように話題を振った。
普段、どんな格好で仕事をしているのかは知らないが、寛いだ風貌は、自分同様、本日が休日なのだと思わせる。
中條の問いかけに苦笑いを浮かべて口端を上げた。

「事故ったんだよ…。マンションの壁に激突。自爆だったからまぁいいとしてもさ…」
「事故ぉぉぉぉ?!」
「車、お釈迦にしたんだって」
中條の問いに隙なく安住が口を挟んでくる。
車が大破するほどの事故と聞けば、その体にも衝撃がなかったのかと心配してしまう磯部だったが、頑丈そうな体は『被害は車だけ』と主張していた。
「車は治りそうにないって言うしさ。そういえば一葉君が販売に『知り合い』でもいたっけぇって思い出して寄ったってわけよ」
めちゃめちゃ安くしてくれるなら車種は選ばない、といった感じの佐貫が、ちらっと朝比奈を伺っていた。
その視線は、当たり前のように、自分に戻ってくる。

「売り上げのない所長さん…。いいネタ掴んだみたいだね」
中條が、ここぞとばかりに磯部を振り返った。
休日ではあったが、四の五のといっていられない。
素早く名刺を差し出せば、「休日までそんなもの、持ち歩いているの?!」と中條が眼鏡の奥を光らせた。
「基本だろ」
しかめっつらをされたところで、これまでのスタンスが変わるわけではない。

中條の意見など無視して、「今すぐにでもお話を」と含ませれば、あっという間に却下された。
まぁ、当然のことと言えばそうなのだが…。
「その話はまたの機会にしてもらえませんか?誠がいたんじゃ、まともな話にもならないでしょ?」
言葉の裏には『今日は休みだろ』と言われるような仕草があった。
中條を出すのは口実なのだろう。
すぐに口を出してくる…と嫌味を交えていても、相手に気を使わせない。
が、磯部にしては、中條について知り過ぎることがきにいらないことでもあった。
付き合いの長さは今更覆せるものではないのに…。

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別宅にも書きましたが23日~25日までプチ旅行に出かけます。
更新できる文を今書いていますが、なかったら見捨ててください。
次はいつ、パソに向かえるか…。
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囁きは今日も明日も 15
2010-09-28-Tue  CATEGORY: 囁きは今日も明日も
安住と朝比奈の共同作業で淹れてもらったコーヒーを前に、5人で雑談を繰り広げている最中も、磯部は相槌を打ちながら、心の底では燻るものを感じていた。
佐貫が『客』と分かるからどうしても下手に出るし、そのたびに中條に「畏まらなくていい」と訂正される始末で。
磯部と中條の仲を知れば、佐貫という男も容赦なく中條をからかったし磯部にも平然と接してくる。
それはそれで、この間柄に入り込めたようで嬉しいことに間違いはないのだが…。
自分が知らない中條のことを教えてくれようとしているのだろうが、それを口にされるたびに知らない部分を確認されるようで面白くなかった。

中條の仕事の時間もあったから、早々に切り上げることにした。
「勉強させていただきますので、どうぞ宜しくお願いいたします」
きっちりと頭を下げる磯部に対して、佐貫が、「また後日、改めて詳しい話を聞かせてください」と脈のある発言をしてくれた。
中條の立場を思ってくれてのことなのだろうか。
今一度挨拶をして、安住の家を出る。

中條の車に乗り込むなり、運転席に座った中條が重苦しさを吹き飛ばすように明るい声を出した。
「もしかして、機嫌が悪かったりする?」
「べつに…」
然したる意味もないと応えたかったのだが、どこか棘でもあったのか。
中條は持ち前の洞察力で磯部の言葉をそのままには受け止めなかった。
「その態度がさぁ。『べつに』じゃないでしょ。僕たち、何か、マサに失礼なこと、しちゃったかなぁ」

明るい態度ではあっても、首を傾げた中條が気遣ってくれているのがよく分かる。
分かるから、些細なことで中條を煩わせる自分が、いかにちっぽけな人間かと思わされた。
…情けない…。

助手席のシートにぐったりともたれながら、運転する中條の横顔を伺った。
信号待ちなどでは必ずこちらを向く。
「ん?」と小首を傾げる仕草など、年甲斐もなく可愛いな、と思ってしまうくらいだ。
「前見て運転しろよ」
思わず零れる憎まれ口に、つくづく自分が素直でないことを後悔した。
きちんと付き合う前はそれなりに会話もあって、誘うことに必死で、決して相手を責めるような発言などなかったというのに、位置が確定した途端、…なんだろう、この独占欲。
中條が触れる友人の輪は気に入らないし、まるで命令でもするかのような口ぶり。
奔放な中條を閉じ込めることなどできないのは承知のうえなのに、どこかで征服してやりたい気分になる。
それとなく、目に付いたものなど、何気ない景色の中から話題を探し会話を成り立たせた。
営業所が近付けば、当然、二人の時間に終わりが来る。

あともう少しで…という距離になってから、意味のない雑談を遮るように中條が口を開いた。
「マサ、気に入らないことがあるなら言ってよ。こんなことでぎくしゃくするの、嫌だし。僕だって色々とマサには言ってきたつもりだよ。これじゃあ、一方通行みたいで納得できないよ」
中條はいつだって自分の感情に忠実だった。
素直な感情を持って自分に接してくる。それがより中條の魅力をあげている。
とはいえ、嫉妬しているなどとは面子にかけても言いたくない…のは、歳のせいか…。

「まこはいい友達に恵まれているなぁって思っているだけ」
「もしかして妬いてたりとかする?!」
「自信過剰」
クスッと口端を上げても真意は見透かされているのだろう。

スーッと駐車場に入ると、ぽつんと残されていた磯部の自家用車が待ち受けていた。
一人残された、自分の心のようだった。

車が止まれば降りる準備をする。
「ありがとう」
務めて明るく、改めて振り返った運転席。
いつもとは違う不安に晒された瞳が磯部の動きを止めた。
「まこ?」
「ばかっ!!」
何のことやら意味が分からず瞠目する磯部に、そっと腕が伸びてきた。

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