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ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
七色の虹 11
2012-09-23-Sun  CATEGORY: 七色の虹
バレたくはなかったけれど…。
気付かれてしまって誤魔化す手段も浮かばなければ、隠そうとする意思も薄れた。
良く知れた新庄を前にしているからだろうか。
由良はカクッと項垂れてしまう。
それを見ては、新庄は笑みを浮かべて、「そういうところは正直だよね」と呟かれる。
…普段は強がり…とは、誰にも言われることなのだろうか。
そして裏返った本性のようなもの。
今までを見てきた新庄だからこそ、由良が抱えるものも見破れたのかと思われた。
何も言えなくなる由良に、新庄の手が伸びてきて、宥めるように頭上をさすった。
黙ってしまったことが、肯定につながったのだとは由良でも理解できることだった。

「なんで、分かっちゃうかな…」
ここにも悔しさが混じった。誤魔化しきれなかったとは、高畠にも知られているのかもしれないし、由利に気付かれているのかもしれない。
由利が居辛さを覚えることだけは避けたいのに…。
呟いた由良の言葉を新庄が汲み取ってくる。
「なんとなく…かな」
温かみのある新庄の声が響いた。
同時に『我慢しなくていいんだよ』という、励ましてくれるもの。
でも、そんなに簡単に事は運ばないのだと頭を上げられずにいる。
新庄の気の回し方は、時に酷だと、初めて知ったのかもしれない。そして頼れるものだとも…。
人の良さはそばにいたから、より分かるものがある。

「由良が本気なら、力添えしてあげたいところだけれどね。引っかかるのは本荘君かな?」
「新庄さん?」
咄嗟に飛び出した会話は由良でも判断がつきにくかった。
決して由利を邪魔にしたつもりはないが…。自分たちの行く末を見たなら…。
くっついてくる由利を引き剥がせない由良を理解できているのだろう。
新庄は苦笑いを浮かべながら、掴みかかってきそうな由良を嗜めた。
「悪いこと、しようなんて考えてないよ。ちょっと引き離してあげようかなってとこ。由良だって高畠さんと二人きりでいられるほうがいいでしょ」
もちろん由利には相手がいて、その間を狙うものではないのははっきりと分かることだし、今日の出来事の延長だとも判断がつく。
その意見には手放しで喜んでしまいたいところだが…。
今日の食風景が一つのきっかけになったかのように。
いつまでも由良は由利の隣にいないことを、由利自身に教えたいのだろうか…。

「なんで…?」
どうして気付かれてしまったのかの疑問は由良の中に渦巻いてくる。
新庄はふわっと笑うだけに留まった。
「由良が、家に誰かを呼ぶとかあり得ないよ。そこまで許した人なんでしょう。会話の流れを見ても分かるって。由良は以前から高畠さんだけにはなついていたからね」
…全てを知った人の存在が時に恐ろしくて、だけど安堵できるものでもあって…。
認めてくれる人がそばにいることに酷く心が落ち着いてしまった。
まだ気持ちを打ち明けられもしないのに…。

新庄は笑みを絶やさない。
「ぶつかってごらん。たぶん叶うはずだよ」
「でも…」
安直にけしかけられているのではないとは分かっても、由良には踏み込めない最後の砦のようなものがあった。
同じ会社…。由利がいるからこそ…。
“我慢をする”ということを自然と教え込まれていたのだろうか。
それらを無視すればいいと、新庄は語りかけてくる。
自分のために生きること…。

「君たち兄弟の仲をどうこう言う気はないよ。最終的に委ねるものは違ってくるんだろうし。でも本荘君が恋人を得た今、由良が頑張ることはないんじゃないの?そこは高畠さんも思っていることじゃないかな…」
「え…?高畠さん…?」
なんだか意味の分からない言葉に問いが続いてしまう。
由利が恋人の近くでまったりとするのは分かることだけれど…。
呆然としてしまう由良に新庄がはっきりと告げてきた。
「由良はさぁ。本荘君を守りの姿勢で見ているでしょ。自分が甘えたいって思う感情を隠し過ぎなんだよ。由良にとって半身をとられるような、悔しかったり憎たらしかったりすることかもしれないけれど、本荘君は手を離れた…くらいの開き直りが必要なんじゃない?そう思うことで自分を解放してやれるんじゃないの?」

つい先程、高畠に言われた台詞が脳内を掠めていった。
…『由良は”お兄ちゃん”なんだって思いすぎなんだよ』…。
コーヒー店で呟いた高畠の言葉は、今の新庄の言葉に重なるものがあるような気がした。
分かってくれているからこそ、新庄は由良の気持ちを応援してくれるのだろうか。
自分から告白すること…。不安はつきまとってくるけれど、自分とは違う視点で高畠を見ている新庄にしてみたら、『叶うはず』の意味も上辺だけの言葉ではないのかもしれない。
それでもやはり、葛藤する心は払拭できるものではない。
…万が一…。

自分が傷つくのも怖かったが、一番近くにいる由利がどんなふうに思うのか、まず第一にそちらを考えてしまった。
項垂れる由良の頭上に温かな手が添えられる。
「そうやって考えちゃうところが…さ…。…まぁ、すぐに、とは言わないけれど、本荘君みたいに正直になることは悪いことじゃないよ」
いつだって由利のほうが思いを表していた…ということだろうか。
そしてそれを守っていたのも自分…。
今の自分にできることは何だろう。
高畠に向けて思いを告げられる日が来るのだろうか。
何にしても、味方がいてくれるとは、由良にとって心強いものになったのは確かだった。

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お彼岸のため、ちょっと留守にします。
更新時間、不順になると思いますがお許しください。


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七色の虹 12
2012-09-24-Mon  CATEGORY: 七色の虹
新庄が由良の思いを察してからは、日頃の扱いが少しずつ変わった。
…とはいえ、食堂での出来事であったのだが…。
触れあえるのはそこでしかない…のは言わずと知れたこと。
その時間を新庄は大切にしてくれる。

先に席に着いていた由良と新庄は、向かい合わせに座っていた。
「本荘君、限定品の肉巻きサラダ、買えたよ~」と新庄がさりげなく由利に隣の席を促す。
湯田川が「あ、うらやましーっ」と唸っている隙に、由良は高畠に目配せを送った。
今まで決まっていたかのような着席風景だったが、それが少しずつ変化していく。
とはいえ、一つのテーブルに着いていれば、特別な違和感にはならない。
もちろん周りの人間は、何が変わったかなど気付いてないのだろうが…。
由利に恋人ができた一件は、確実に由良への依存度を下げていた。
更に追い打ちをかけているのが新庄の存在だったのだが。
自然な態度でありながら、新庄は故意的に接する。
新庄にしてみたら、由良に接するのと同じ感覚である為に、ぎこちなさの一つも見当たらなかった。
由利ももう慣れたもので、由良の隣の席を強請ることはしない。
由良の隣に高畠が腰を下ろし、その隣に湯田川が座る。日常はそんなふうに変わった。

一つの皿の料理を分けあうこともある。
これまでそういった時は遠慮がちに待つ由利であり、由良が率先して由利の分を取り分けていた役を新庄がさりげなく奪っていた。
一抹の淋しさはあったが、それが『離れていく』ことに繋がるのだろう。
もちろんその光景は、羽後に見せられたものではないが…。
そして時が経てば、冗談半分で新庄がフォークの先にクルクルと巻いたナポリタンを由利に寄せ、「食べる?」と問いかけて、素直に頷いた由利がパクリと食べてしまったことには、一瞬全員が黙ってしまった。
誰よりも驚いていたのは新庄のようだったが…。
そこまで気を許した存在になったのか…。
ますます周りの人間は、二人の違いを見つけることが困難になるというもの。
「ユーリ、躾け直したほうがいいんじゃねーの?」
呆れかえったようにボソッと高畠が呟いた言葉には、由良も笑ってしまった。
無防備さもここまでくれば困ったものであり、心配を誘うだけだ。

カフェへの買い出しも自然と任されるようになった。
新庄は先輩特権を振りかざしているし、湯田川は自ら動くような性格でもない。
当たり前のように由利は新庄から足止めをくらって、結局は高畠が付き合ってくれる結果となる。
高畠にしてみたら迷惑ではないのかな、と心配する気持ちも湧くが、そういった雰囲気を見せる高畠ではないので、由良としては嬉しさが前面にたち、素直に貴重な時間を楽しんでいた。
「高畠さん、明日の夜、暇?」
「明日?」
「うん…。仕事終わった後…」
週末を前にして、それだけで何を意味するのか、高畠には伝わってしまっている。
最近、双子の接触が極端に減ったことは、そばにいる人間なら誰でも知れていることだった。
また誤解を生むものかもしれないけれど…。
理由として、他の手が考えられない由良でもあった。
卑怯なのは分かっているが…。
「おまえたち、何かあったの?まぁ、悪いことじゃないけれどさ。ユーリは以前より明るくなった雰囲気があるけれど、逆に由良は考え事をする時間が多くなっただろ」
「え…」
「それが分かってユーリにまで気が回らないから、新庄さんが代わりにユーリにちょっかいかけてるのかと思ってたけれど。どっちにしてもユーリ絡みなんだろ。ユーリに気を使いすぎて自己を隠すのは昔からだもんな」
高畠の大きな手がいつものように頭上を撫でた。
知っていてくれている人、という感覚はあったけれど、近くにいなくてもこんなにも分析できてしまうものなのだろうか。
心がほわんと浮いていくようだ。
考えているのは高畠のことだったが、繋がるのはやはり由利のこともある。
片想いが片想いのままで終わってしまった時、同じ職場の人は何と思うのだろうか…。
由利の性格を知るからこそ、好きだった同僚を責め、由良のために泣くのだろう。
新庄は背を押してくれるが、やはりまだ由利に勇気はない。
僅かな、こういった時間を楽しむことに満足を得ようとしている。
「別に考え事なんか…」
「そうやって強がっちゃうところがなぁ…。由良らしいって言っちゃえばそれまでだけれど。ま、そんな由良からの『一人で淋しいの』って言ってくるところに、お付き合いさせていただきましょう」
茶化した高畠は、先程の由良の誘いに応じてくれる。
クスクスと笑って見つめてくれる態度は、いつもと変わらない。
由良の悩みを無理に聞きださないところも、高畠なりの優しさなのだ。
「『淋しい』なんて言ってないじゃんっ。ただ、週末の食材、余っちゃうから…っ」
「お。また手料理?いいねぇ。あつみには内緒にしておいてやろう」
唇を尖らせ、睨み見た高畠は相変わらずの調子良さを醸し出してくれる。
どこまで本気なのか。
でも喜んでくれる表情が分かれば、誘えたことに、また受けてくれたことに、『期待』という言葉が浮かんだ。
「じゃ、由良の手料理の”前金”ってことで、今日はお兄さんがおごってあげよう」
「この一杯っ?!なんか割に合わなくない?」
「どんなゲテモノを出されても完食してやるってことで」
「ひどーっっっっ」
賑やかに進められる会話に、心が躍る。

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七色の虹 13
2012-09-25-Tue  CATEGORY: 七色の虹
翌日の終業後、会社のロビーで高畠と待ち合わせた。
こんな風に故意に時間を合わせられることはとても新鮮で、由良は一日どこか上の空だったような気がする。
実のところ、今後の予定は由利にも新庄にも伝えていなかった。
高畠が『あつみには内緒にしておこう』と言ったことに、秘密を共有するようで、思わず口を閉じたのだった。
それこそ童心に返るようなワクワク感が生まれた。
由利はとっくに社屋を後にしているのだろう。
メンテナンスの日ではないから羽後を社内で見かけることはなかったが、この出口まで迎えに来たことは確かだろう。
由利を一人にしないでいてくれることは、由良にとって一番安心できること。
なんといっても、自分がずっと守ってきた存在なのだから…。

ロビーに降りるとすでに高畠が待っていたようだ。
思わず小走りになって寄る由良を視界に入れて、笑顔を浮かべてくれる。
「走って転ぶなよ」
「もうっ。ユーリじゃないんだからっ」
「あぁ、ユーリは間違いなく転びそうだな」
「それも馬鹿にしているよね」
「由良が言い出したことだろう」
どっちが先に言い出したんだと苦笑を向けられた。
別に由利のことを隠れてけなしているわけではなく、話題の一つなのだが、はっきりと言われては気分も良くないもの。
その辺りは高畠も理解できるのか、それ以上何も言ってはこなかった。
雰囲気はそれぞれに読めるところがある。

家に帰り、由良は高畠をバスルームに促した。
「着替え、持って来たんでしょ?その格好のままだと寛げないよ」
前回招いた時よりも、ずっと早い時間だった。
その分ゆっくりしてほしいからと、すでに申し合わせた話。
その間に由良は準備を進めることができる。
「先にいいの?由良は?」
「あとでいい。タオル、棚にあるやつ、適当に引っ張り出していいから」
押し問答をすれば由良が気遣ってしまうと思うのか、素直に従ってくれる高畠で、由良はホッと一息ついていたりした。
気を使わない、と捉えられることが精神的にも安らげるものになる。
醸し出される空気はより近くに寄れているような嬉しさを運んでくれた。
事前に話を通しておいたおかげで、実はある程度の準備はできていたりする。
タジン鍋に鶏肉と野菜、きのこを入れて蒸し料理を一品。アボカドとエビを味噌とマヨネーズで和えただけでチーズを乗せてグラタン。昨夜作っておいたレンコンのきんぴらと、残っていたアジの骨のからあげ。
自分でも驚くくらい豪華で手際がいいと思える作業だった。
何より、シャワーを浴びて出てきた高畠の驚く顔が…。
まだテーブルまで運んでいないものの、漂う香りに品数の多さを悟るのだろうか。
「由良、何、作ってんの?カップラーメンでも出されるかと思っていたのに…」
「それこそ、ユーリじゃないからっ」
これくらいできるのだと言いたくなりながら、剥れた由良の隣に高畠が立つ。
見慣れたスーツ姿とは一変。Tシャツにゆったりとしたパンツをあわせただけの軽装は、印象をガラリと変えてくれて、気を許されていると実感できて一拍の間ができたくらいだった。
また見慣れない姿は心臓を激しく刺激してくれる。
ほんのりと香る使い慣れたボディソープの匂いが鼻腔をくすぐった。
「あと何するの?」
「あ…、パスタでも茹でようかと…」
「じゃあ、やっておいてやるよ。由良も汗、流して来いよ」
用意しておいたペンネと市販のソースを見ては、残る作業は想像できるものだった。
高畠を呼んだのに、やらせてしまうのはどうかと戸惑いを浮かべれば、「ほら」と背中を押される。
今更…といった雰囲気バリバリで、由良もこれ以上の抵抗はできなかった。
本当に、どんどんと近付いていける甘い思いを抱けたのだ。

自分の部屋から着替えを掴んでは、慌てて一日の疲れを流した。
高畠が寛いでくれれば何よりも嬉しいし、特別な時間が持てる、普段にはないことが由良の感情を押し上げてくる。
濡れた髪を乾かすこともせず、タオルドライしただけでキッチンに戻っていけば、テーブルの上に料理が運ばれていた。
たった一度だけでも来たことがある余裕なのか、勝手に取りだされた皿やグラスなども並ぶ。
高畠はちょうど茹であがったペンネに『アラビアータの素』を絡ませている時だった。
「あ、高畠さん、冷蔵庫の中にビールあるよ。先に飲んでてよかったのに…」
待たせてしまった後ろめたさが過る。
チラッと注がれた視線が、一瞬驚いたように見開かれたが、すぐに反らされて鍋へと落ちた。
「いや、……」
なんとなくぎこちなさが漂った気がした。
こんなふうに間が開いたことは滅多にあることではなく、高気圧に覆われていた気分が急降下した。
やはり、やらせてしまったことが悪かったのだろうか…。
咄嗟に近付いては、「あの、ね…、座ってて…」と高畠を見上げたが、高畠は困惑の色を隠さず、視線を合わせようとしなかった。
「あぁ…」
小さく頷くにとめて、スッと由良の脇を通り抜けていく。
先程までとは全く異なった居心地の悪さだけが、部屋の中を包んでいた。

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七色の虹 14
2012-09-26-Wed  CATEGORY: 七色の虹
何か悪いことがあったのだろうか…。
不安になる気持ちを隠しながら、由良は最後の料理、高畠が作ってくれたアラビアータ味のペンネを皿に盛ってテーブルへと運んだ。
冷蔵庫の中からビールと冷えたグラスを取りだす。
慣れたように隣に座った由良に、さりげなく隙間を開けられたことを、気付かないわけではなかった。
だけど知らないふりをした。

「おつかれさま~」
いつもと変わらない会話を喉奥から絞り出した。
ぎこちなさを、高畠が感じていないわけではないだろう。
何も変わらないはずだが、漂う空気は普段とは全く違っていて…。
一応由良に合わせてはくれている。
会話もいつも通りだし、話しかけ、返され、話題を振られて、由良も明るく答えていた。
端に人がいたなら、何も気付きはしないのだろうか…。
昔の由良と由利の関係のようだった。近寄る時はあってもさりげなく避け続ける…。

何が変えてしまったのだろう…。
ただここに高畠が居てくれることだけを期待して由良は続きの時間を強請っていた。
テーブルに並べられた食品は確実に減ってくれていて、口にあっていないわけではないのだとはわかるのだけれど…。
「あ、ビールのおかわり…っ」
由良が咄嗟に立ちあがりかけた時、「いらない」と冷たくもある声が響いた。
「え…?」
「もういいよ。これ、食べ終わったら帰るから…」
冷やりとした言葉が響いた。
ズクン…っと鉛が胸の奥に落ちた。
「『帰る』…?もう…?」
今の時間は何時なのだろう…。
見上げた時計はさほど時間がたっていないことを表していた。
急いて食を進めたのかと思うくらい…。
この前の時だって、もっとゆっくりとしていってくれたはずなのに…。
だけど言われては逆らうとか、留めるとかできなかった。
なにもかも、受け入れるしかない。
高畠には何かやりたいことがあって、時間を必要としたのか。
由良は頷いて見送ろうとした。
それは、過去からの、”諦める”精神が影響したのだろうか…。

陰りを浮かべても頷いてしまった由良の表情に、高畠にはあからさまなほど困惑が伺えた。
そして、激しい舌打ち…。
「…ったくっ…」
どれだけの機嫌を損ねてしまったのだろうかと…。由良は微動だにできなくなった。
そんな由良の反応をどんな風に受け止めたらいいのだろうかという、普段では見られない落ち着きの無さが高畠に浮かぶ。
極力、高畠には負担をかけないように選んだ道筋だったのに…。
この顔を見たなら…。

何もかもの計画が打ち捨てられていく…。
ゆっくり寛いで…と願ったことは、逆に負担を与えてしまったのか…。

由良の落ち込みを感じるのだろうか。
束の間の沈黙の後、ふわりと温かい肌に全身が包まれた。
一瞬どうしたのか状況が掴めなくなる。
自分を包んでいてくれているのは…温かな腕だった。
頭上を撫でてくれる手、それとは違って、全身を抱きしめてくれる温かさが肌を這う。

「言えよ。『帰ってほしくない』とか、なんのためにここに呼んだとか…。このまま送り出されたら、何て言えばいいの?つか、納得いかないし…。俺、自惚れていいのかな…」
咄嗟に判断がつかない台詞が鼓膜を揺らす。
今、抱きしめられていることも、囁かれていることも、それこそが由良にとって『自惚れ』になる。
「高畠…さん…?」
どういう意味なのかと渦巻く心が疑問を投げかけた。
直接言葉にしなくても、由利のように通じてくれる意思の疎通がここにはある。
少しだけ顔を上げた高畠が、苦笑いと動揺を滲ませて呟いた。

「気付けよ、それくらい…。…由良に誘われるたび、ユーリにどう言い訳付けようか、散々考えさせられてた。ユーリに嫌われることも避けたかったし。羽後さんが”お兄ちゃん”の許可を得たかったように、俺は”弟”の承諾が欲しかったのかな…」
由良の見開かれた目が真正面からその姿をとらえる。
フッと笑った顔はいつもと変わらないと思える優しさがあった。
僅かな緊張感が、本音を晒されたことで弾け飛んだようにも思える。
「高畠…さ…」
「おまえのこんな姿、見せられて、マジで戸惑ってるんだけど…。無意識に表現しているのはユーリだと思っていたけれど、やっぱり由良も変わらないよ。ホント…、困ってるの…」
どんな意味で言っているのかと…。
何度も発言を脳内で繰り返した。
もっとはっきりと言ってくれればいいのに…。さりげなくとも誤魔化してしまう口調は高畠ならではなのか…。
それ以上に発展するものがあるのか、確かめたい気持ちがムクムクと湧いた。
「高畠さん…」
高畠は由良の肩口に額を伏せた。
「おまえは『虹』だよ…。濡れても輝いていて手が届きそうで、幾つも色を変えて…。いつの間にか消えていく…。すりぬかれていくようで怖いんだ…。帰らなきゃ…。マジで、襲うぞ…」

感情を押さえたことは由良も高畠も同じだったのだろうか…。
平静を失うこと…。普段と変わってしまうこと…。
限界を訴えた高畠に、『正直になれ』と言ってきた由良に言っていることとは矛盾しているのではないかと思えた。
耐えているのは高畠の方ではないのか…。
高畠の発言には頷けるものがある。
このきっかけを、フイにする気にはなれなかった。
“解放”とは、由良の精神だったのか、高畠の耐えたものだったのか…。

「襲ってくれなかったら、一生恨む…」
由良の呟きに、フッと吐息が漏れたのを、耳朶の奥で聞いた。

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ドキッ!!
2012-09-26-Wed  CATEGORY: 七色の虹


皆様ぁぁぁぁ。
以前に続き、里の野山に此花咲くやの此花様が双子ちゃんを描いてくれました~~~ヽ(゚∀゚)ノ


由利由良

※イラストの版権は此花様にありますので、お持ち帰りはご遠慮ください。


どっちがどっち????

そりゃ、この雰囲気で分かるでしょうよ~。
すっごく特徴を捉えてくれていると思います。
由利(左)と由良(右)ですよ~。

あぁぁ、もう、萌え萌えの私です。

ちゅーしたり、並んでおねんねしたりしている二人です。
ダーリンは妬けて妬けて…。
けど二人の間に入ってはいけないのか…。

それすらも眼福もので許せちゃうよね♪


ちょうど一か月前、けいったん様がコメント欄で恐+喝してくださって、
(いえ、あの、冗談です…。私も言った…かなぁ…。由利のイラストを頂いた時ですね)
此花様はちゃんと答えてくださった、とてもお優しいお方です。


此花様、お忙しい中で、本当にありがとうございました。
大事に飾らせていただきます。



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