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ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
木漏れ日 16
2013-08-15-Thu  CATEGORY: 木漏れ日
翌日も晴天だった。
能代と森吉はダイビングをしに行くのだと、部屋の中でウェットスーツに着替えている。
「だーからさぁ…」
顔を真っ赤にした鳥海と白神は目のやり場に困って、俯いては畳の目を追いかけていた。
相変わらず気にしないふたりは全裸になってしまったのだ。
敷きっぱなしの布団を手繰り寄せて、こっちが頭を隠すのって、どうなのだろう…。

「おまえら、どうする?俺たちの雄姿を見に来るか?」
能代が着替え終わっては鳥海たちが潜っていた布団をはぎ取った。
口調は冗談交じりだが、放っておくことを危惧しているのが伝わってくる。
『預かった以上責任がある』とは、無防備に振る舞った昨日のことがあったからだろう。
声をかけられてはホイホイとついていきそうになり、雰囲気に飲まれては体を委ねてしまったことが、繰り返されてもおかしくない、と。
森吉が言葉を重ねてくる。
「一緒にいくだろ?鳥海たちも潜ればいいじゃん」
「え?そんな簡単にできるものなの?」
「インストラクターの資格くらい、持ってるよ」
淡々と答えられて、見かけ以上にしっかりした人なのかと、驚かされた。
少なくとも海辺で相手に困ることはない容姿と技術は備えている…。
昨日の手際の良さも甦って、喰った数は何人に上るのだろう…といらぬ妄想が湧いた。
ある意味、海の危険を知った男と来られて良かったのかもしれない。
身をもって教えてもらえたことに感謝も浮かぶ。
もうあんなに軽く身を預けることはしないだろう。

海の中は予想以上に綺麗だった。
ずっと森吉がついてくれているので不安もなく、自由に動けるようになると、これがまた楽しい。
自然の水族館に入れた気分ではしゃいで、能代がその光景を写真に収めてくれたのも嬉しかった。
動きに不自由がある水中で、能代にからかわれている白神も可愛い。
そんな数々を後で見せられると、楽しい思い出として残したくて、データをくれと強請った。
自分が被写体になるのはどうかと思っても、やっぱり自分が映っている光景は証拠として残したいのだ。
全員が機械に強いと言われる学部の人で、部屋に戻ればすぐにデータのやりとりは完了された。

夕方、自宅まで送り届けてもらった。
帰り道、すっかり車内で眠ってしまった鳥海と白神に、「おまえら、良く似ているよ」とは能代のセリフだ。
夕食をどこかで…と考えていたらしいが、あまりにも爆睡しているため、起こすのも憚られてこの後能代と森吉の二人で出かけるらしい。
家に着くと同時に八竜が顔を出してきた。
『弟が世話になった』挨拶をするのもいつものことだ。
気まずげな森吉のことを思っても、さっさと帰ってもらおうと身体が動く。
「にぃ、お土産」
「土産?なんだよ、この発泡スチロールは?」
「魚、買ってきたの。氷、いっぱい入れてもらったよ」
「そーゆー問題じゃなくてさ…」
生ものは早く冷蔵庫にいれてほしい。

「藤里、送っていこうか?」
能代が白神に声をかけたことで、そちらに気がそれる。
前夜は鳥海の家に泊まることで話がついていたが、帰宅した今は何の約束もされていない。
一緒に降りるのか、別行動をとるのかの確認に、白神が「えーと…」と鳥海と八竜を交互に見た。
能代がわざとらしく男の色気を今まで以上に撒き散らしての声掛けは、獲物を狙う熊にしか見えない…と思ったのは鳥海だけではないだろう。
白神の縋ってくるような目が余計に庇護欲をかきたてた。
…この熊、意外と演技派だな…というつぶやきは胸にしまっておく。
案の定、口を挟んだのは八竜だった。
「藤里くん、嫌でなかったら話でも聞かせてもらおうかな。一人暮らしだろ?また泊まっていけばいいよ」
こちらも羊の皮をかぶった狼である。
もっともらしい理由を述べているが、同時にふたりが嘘をついていないか、ボロをださないかの証拠を掴むために虎視眈々と狙っていた。
もちろん、アヤシイ出来事がなかったかの確認も含めて。
そんなことを脳内に過らせる雰囲気を、充分なほど、能代は醸し出していたのだ。

「じゃあ、またな」
森吉と能代は、鳥海たちと荷物を下ろして帰っていった。
発泡スチロールを持たされた八竜が、「随分重いな」と中身を訪ねてくる。
「うん、民宿のおじさんが船、持ってて、朝の獲りたてをお土産にしてくれたの」
「そうか。藤里くんもいるし、母さんに何か作ってもらうか」
「本当ですか~?僕、一人暮らしで滅多に手料理なんて食べられないから、すっごく嬉しいです~っ」
喜びを無限大に表した邪気のない姿は、もしかして最大の武器だろうか…。
ただでさえ、外面の良い八竜はニコニコと白神に応じていた。
「手作りのありがたみが分かる藤里くんは、しっかりしたいい子だね」
どうして歯の浮くようなセリフが吐き出せられるのか、普段の言動を知るだけに鳥海は舌打ちしたくなっていた。
何より、最初から母に作らせることを前提とした言動に、その母のありがたみを分かっていないのは八竜のほうではないかと…。

玄関に入ると、脇に段ボール箱があった。
その中に小さい物体が毛布にくるまれて埋もれている。

ねこ
ちー様からお借りしました。お持ち帰りは厳禁です。

「なに?」
「あー、貰い手探していた猫でさ。ずーとこの調子で寝ているんだよ。……なんかこうして見ると、お前たちに似ているなぁ」
しみじみとした口調で動かないものを覗き込む。
二人で寄りそって眠った最近のことが重なったのか。
栗色の頭髪を持つ鳥海と、黒髪の白神。
そんなふうに比べられたら愛着が湧いてしまうのは人情なのだろうか。
「うちで飼うの?」
「いや、親父の友達が明日朝一で見に来るってんで一晩預かったとこ。どっちにするか決めるらしい」
八竜の説明には白神が目を見開いた。
「え?離されちゃうの?」
一緒に遊んだこともあったから、白神はもらわれていく淋しさが瞬時に浮かんだようだ。
もらわれていくことは頭で理解していても、その現場に居合わせてしまったことは、白神の心を悲しみに落ち入れていた。
同時に何か思うものを八竜に植え付けたようだった。

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木漏れ日 17
2013-08-16-Fri  CATEGORY: 木漏れ日
もともと兄は父親に似た、人情味にあふれたところがある。
外面のよさもそんなものが生み出すのだろう。
白神の悲しげな声を聞いて、何を思ったのだろう。
白神からつぶやかれる声を黙って聞いていた。
「でも、仕方ないよね。僕、飼ってあげたいけど、アパート暮らしだし。この子たちね。ミルクあげる時、チューチューって奪いあいっこするんだよ。兄弟なのにね。…兄弟だから容赦なく我が儘言えるのかな」
まるで悪態つきまくりの鳥海と八竜のように…。
離れたくないと訴えているようだ。
愛しいものを見つめる眼差しは、一人暮らしで疲弊した何かがあったのだろうか。
眠りから覚めない猫を、大事そうに撫でる手がとても慈愛につつまれていた。
いつか…、一緒に育った自分たちも別々の道を歩む。
それこそ、もうずっと前から分かっていたことなのに。
どうして自分たちと重ねてしまうのだろう。
兄であり、友人であり…。離れていかない存在をどこかで求めているのは、人間の本能なのだと、なんとなしに思ってしまう。

「藤里くんは飼いたいの?」
八竜の問いに、やはり思いを隠しはしない。
「うん。誰かがそばにいてくれるような温かさがある。機械にかこまれるばかりだからぬくもりが欲しいのかな」
日常の中、学んでいることが電気工学に人の感情なんてなかった。
でもその世界にあこがれるのは、+と-が確実に出会って新たな何かを生むことを知るからなのだろう。
無意識に誰かを求めるものは、危険も孕んでいた。
足場が頼りない波の上にいて、咄嗟になんでもいいからすぐそばにあるものを求めるような不安定さは安全とは程遠い。。
身元が分かるものだけを与えたい八竜の気持ちは、鳥海に近づくものを品定めするのと似ている。
八竜の中で、藤里は鳥海と同じ立場に位置付けられていた。
何の悪態をいったところで、最終的には"弟のわがまま"を聞き入れてしまう兄心。

ねこ
ちー様からお借りしました。お持ち帰りは厳禁です。

「うちで飼ってやってもいいけど…」
「「えっ??」」
同時に漏れた疑問の声。
何の意図があって、八竜が発するのか。
「ただし、世話をしてくれること」
もし白神が拒否するなら、白神と八竜の別れも意味していた。
白神にとってはこれ以上ない、通う口実が含まれていることを八竜が気付かないわけはないだろう。

八竜にしてみたら、熊男のような存在から守ってやりたい思いでしかなかったのかも。
弟を守るのと同じ感覚だ。
視界の範囲にとりいれられることが、何よりも安心する。
猫を人質に、通うことを約束させて、不埒な人間を監視する意味もあるのか…。
自分のそばにおくための、卑怯な手立てでもあるのに。
『似ている』…。
瞼に映るものが似ているからこそ、寄せつけたくない存在を排除したい思い。
鳥海と並べて見ている感覚は分かったけれど。
その奥底に潜むものが白神の願うものと同じだったらいいのにと漠然と願っていた。

…にぃってぜったい我が儘だ。
そう思えたのも、自分の手中で泳がせたい背景が見えたからだろう。
更にいけすの中で可愛がられたい白神を思っては、束縛し合える"情"が強い絆になることもなんとなく把握できた。
自分ならお断りなのに。
守られてはいたけれど、自由に泳ぎたかった。

でもそこは、白神にはちがっていた。
『八竜さんのものであることが喜びになる』…。
束縛…の意味は、分かるようで分からなかったが好きな人に思われることは嫌でないとは理解できた。

もしかして、鳥海が何かの手を加えるよりも早く、このふたりには"惹かれ合う"という何かがあったのだろうか。
後を押したのは、間違いなく能代だろう。
危機感だけを八竜に置いていったのだ。
放っておいたら喰い物にされるぞ、と。
…えーと、通われるたびに"デザート"を強請ってもいい…?
邪な考えが掠めていくが、八竜の性格を思うと、白神のために買い与えてしまうのが想像できた。
買うことは言い訳のひとつになる。
白神の満足は鳥海の満足にも繋がると知って甘やかし続けることだろう。
それは鳥海と白神のふたりを大事にしたい、愛情でもあるのだろうけれど。

「親父。明日の人、断わってよ。やっぱり兄弟は引き離しちゃだめだろ。…離れたくないって全身で訴えてるよ」
抱きあってはなれようとしない猫を前に同情を買おうとする口上は立派なものだ。
情に弱い父親の弱点を確実についていた。
母親だけが口を酸っぱくする。
「あなたねぇ。昔っから『自分で飼う』って言って連れ込んだペットが何匹いたと思ってるのっ。お母さん、熱帯魚の水槽も洗ったし、犬の散歩も行ったのよ。最期のお別れの時がどれだけ悲しかったか…」
それでも自分に懐かなくなった息子の代わりに癒された心はあった。
もう一度、息子たちと繋がれるアイテムと言っては失礼なのだろうか、生きるものに向けられる愛情は人一倍濃い。
見つめられる瞳に言葉はなくても諦めが漂う。
言いだしたら折れない兄弟の絆は母親だからこそ理解しているのか。

「食費、入れなさいよっ。あなたたちのごはんも、"ねこまんま"にしてあげるからっ」
手抜きを堂々と言われて。

「僕っ、僕っ、働きますっ。八竜さんとお父さんの足手まといにならないようにっ、将来のためにもっ」
白神は必死に訴えて、自分の我が儘でもあることを母に伝えていた。
白神の発言が八竜を動かし、そう言わせたのだと。

…えーと、…就職活動、もうしなくてもいいけど…。つか、うち、人手足りてる?給料払える?
何もかもが、この家に収まることを前提としている。

…それより、オレと藤里って"兄弟"になるの???
その疑問だけは口にされなかった。

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木漏れ日 18
2013-08-17-Sat  CATEGORY: 木漏れ日
新鮮な刺身を前にして、父親と八竜の酒も進んでいた。
鳥海ではまずしない白神のお酌もあって、父親など上機嫌である。
「藤里くんはエライなぁ。こんなに若いのに将来のことも考えていて~」
「僕もおとうさんみたいに、誰からも頼られる技師になりたいです~」
「本当にいい子だなぁ。うちにもこんなに素直な息子が欲しかったよ。いまからうちの息子になるか?」
「はいっ、もちろんっ」
…いらなねぇよ…。
苦虫をつぶした表情で、思わず鳥海と八竜の視線があってしまう。
こんなところだけは兄弟の息があう。
親を褒めなければ、息子も褒めないだろう、ここんちは…。

母親が傍らで洗濯物の選別をしていた。
スポーツバッグに入れっぱなしの状態で放置してあったので、見かねたようだ。
どうせまともに処理もしていないのだろうと、生地の痛みも心配されて、早速洗濯機の準備をしている。
「鳥海~っ、あんた、機械が入ってるじゃないっ。塩水でダメになっちゃうでしょ」
何かと思えば、能代にコピーしてもらった写真のデータが入ったフラッシュメモリだ。
能代はダイビングと共に写真撮影も趣味としていたようで、小型のパソコンも持ち込んでいた。備品もいろいろとあって、借りてきたのだ。
USBメモリの一つや二つは持ち運ぶのに邪魔ではないのか、また、今回は森吉の車での移動だったこともあって予備を用意していた。
「あ、写真だ。すごいんだよ。水中でもカメラ撮影しちゃうの」
小さい物体を受け取りながら身に起こった出来事を報告する。
昨日のジェットスキーも楽しかったし、今日のダイビングも面白かったと、白神と意気揚々と話をすれば、是非その"旅行記"を見たいと乗りだしてくる。
「じゃあちょっと待ってて。パソコン持ってくるから。あっ、テレビに繋げちゃえばみんなで見られるか」
普段はあまり使われることのない電気コードの塊を引っ張り出してくる。
仕事柄もあるのか、いたる所に何かと部品が転がっている五城目家だった。

「おかあさんも見たい」という要望があって、全員が揃って上映会が始まった。
鳥海がこうして誰かに撮られたものを欲しがるのは、もしかして成長記録が少ないせいかと脳裏を過った。
長男の八竜の写真は山ほどあるのに、次男である鳥海は家族写真くらいしか残っているものがない。
特に八竜が生まれたばかりのころは、昼寝をしているところ、ハイハイをしているところなど、コマ送りのようにあるのに、鳥海がアルバムに登場したのはお宮参りの時だった。
仕事が忙しかったんだ、と父親に言われて、稼ぐのに必死だったのか、と思うことができても、関心が薄れていたことは否めないだろう。
次男坊なんてそんな扱いだ。

能代の撮影の腕はなかなかのものだった。
いつの間に撮られていたのだろうと思うものもあって、遠くから眺められている風景は、映画のスターにでもなった気分にさせてくれる。
スライドショーの機能を使って順に映した。
「水中カメラみたいな本格的なものはなかったのにね」
白神がウェットスーツにくっつけられるような小型の物を所持していたと教えてくれて、手軽だからこそ、すぐに扱えたのかと納得もさせられる。
スナップ写真として見るには充分だ。

「あら、鳥海ってば、バイクにも乗ったの?」
「森吉が免許もってたから乗せてもらえたの」
「女の子ひっかけていそうな野郎だったな」
写真は森吉の後ろに乗せてもらっている風景に切り替わる。
これも遠方から撮られていたから、能代が記念の一つとして撮っておいてくれたものだろう。
こんな感じで乗っていたのか…と鳥海も改めて自分を見つめてしまった。
八竜の感想には苦笑も浮かぶ。
実際、あの手の速さと雰囲気づくりは手本とすることができるかもしれない。
もちろん、その餌食になっていたことは黙るが…。
黙っていたが、次の瞬間映し出されたものには全員が動きを止めた。
水上バイクの上で、抱き合っている人がいる。唇はくっついている。
森吉の両足が揃ってこちらを向いているとは、運転している時ではないと物語っていた。
「「Σ (゚Д゚;)?!」」
「あ、鳥海、"秘密のデート"に行っちゃった時のだ」
白神の淡々とした解説は余計に空気を冷えさせた。
…絶対にそれも誤解を生むからって~っ!!…
それより能代に対して筋違いな文句が嫌というほど浮かんだ。
さっさと消してくれればいいものを…っ。自分の脳内の記憶媒体で保存するというのにっ。

「『秘密のデート』?」
八竜の低い声が詳細を求めていた。
鳥海はドタバタと機械に近づいては、強制終了させようとパニクる。
「鳥海ね、この時のレースに勝ったの。だから勝者にご褒美でチューしてあげたんじゃない?」
その説明の仕方もどうかと睨みつけるが、見られた今となっては後の祭りだ。
どれだけ濃厚な"チュー"をしていたのかが分からないだけ、救われる。
「藤里っ」
「お…っまえは、昔っから簡単に人を信用しすぎるんだよっ!!無傷で帰ってこられるのが"普通"だと思うなって何回言わせるんだっ。このまま海の中に引きずりこまれて全部剥かれて、そこで放置されて、コイツだけ素知らぬ顔で陸に戻ってる可能性だってあるんだぞっ」
こうやって始まった八竜の説教は、なかなか止まらない現実を何回も繰り返されてきた。
『知らない人についていってはいけません』という教えは、『この人は知っている人だった』という言い訳は聞いてもらえるのだろうか…。
「べ、べつに、何もなかったし…」
「何かあってからじゃ遅いって言ってんだっ!!秘密じゃなくて、堂々としたデートにしろっ。相手、ここに連れてこいっ」
「だから、森吉、そんなんじゃないし…」
「もっと悪いわっ!!自分を安売りするなっ!!羊の皮をかぶった狼がこの世の中、何人いると思ってんだっ」
…それは自分のことでしょうか…と、延々と続きそうな説教にため息が混じる。
そのまま白神によーく聞かせてやりたいセリフだった。
しかし、肝心の白神は、「おにいさんの信念はしっかりしていて立派です」と褒め称えていた。
能代を前にしても惑わされず、揺るがなかった思いは、こんなところでも繋がるのだろうか…。
「…ったく、藤里くんを見習ってしっかりしてもらいたいものだ…」
父親の嘆きに母親の陽気な声が被さった。
「まぁ、男の子だからね。『妊娠させました』って言われないだけいいわ」
「自分で責任もとれないくせにな」
「にぃ~っっっ」
ズタボロに言われるのはいつものことで慣れていたけれど…。
そんな尻軽ではないと声を大にして言いたい。
証拠写真を前でも力説したい。
でもなんだろう。
白神が"安心できる"と八竜を言ったように、鳥海も同学年には感じない"何か"に憧れる差がはっきりした。
もっと違う何か。
森吉にはなかった安堵や落ちつきといったものか…。

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木漏れ日 19
2013-08-18-Sun  CATEGORY: 木漏れ日
八竜がペットの飼育なんて、まずやらないだろう…とは、母親だけでなく鳥海も予想していたことだった。
情だけはあるから、ちょっとでも『可哀想』などと思えば、拾ってきたりした過去がある。
おかげで血統書付きなどというものはいなかったが…。
可哀想なんて思うのは最初だけだ。
懐の中に入ったら安心するのか、いつの間にか相手もしなくなり、気付けば兄に命令されて世話をする鳥海を見て満足していたヤツだ。
だから今回もなんとなく予想はできていたけれど、白神がいたので、今度は自分が白神に押し付ければいいや、と簡単に考えていた。

案の定、八竜は仕事を理由に、段ボール箱から遠ざかっていった。たまに近づいた仔猫の頭を撫でるくらいで「遊んでもらえ」と撥ねのけられる。
白神だけが意気揚々と鳥海の家に足を踏み入れてくる。
白神をおだててその気にさせている八竜を、なんて酷い兄だと罵ってやりたかったが、白神は「僕の好きにさせてくれている優しいおにいさん」と喜んでいるのだから口をつぐんでいる
「一人暮らしでつまらない」と言う白神に料理をベタ褒めされて、気を良くした母は、大歓迎で白神を受け入れていた。
五城目家の男たちは、滅多に料理なんて褒めないのだ。
一時間も二時間も鍋の前で頑張ったって、胃袋に消えるまでは十分足らずである。
自分がテーブルに着席した時には皿の上が空っぽになっていたことも何度あったことか…。

毎日ではさすがに悪い…と言いながら、白神は一日置きに五城目家にやってくる。
そして猫と一頻り遊んでご飯も一緒に食べてからアパートへと帰っていった。
週末は泊まっていくこともあって、たまに父親に「引っ越してくればいいのに」と言われて喜んでいたけれど、鳥海と八竜に揃って「ありえないだろ~」と咎められてシュンとしていた。
単に鳥海も八竜も、猫っかわいがりされる白神が気に入らない息子心で不貞腐れただけだ。
家事はほとんど…というより、まずできない息子二人とは雲泥の差で、白神は細かいことに気がつく。
「おかあさん、買い物に行くんですか?ごゆっくりどうぞ。洗濯物たたむの、時間がかかるし、僕、やっておきますから」
鳥海など、そんなセリフは、小学生の頃『母の日』の感謝券に書いたきりだ。(実際やったことはない)

夕食を囲んでいる時に、八竜がどこで聞いてきたのか、大型のディスカウントストアでキャットフードの安売りをするらしいと言いだした。
話を聞いてきたのなら自分で買いに行けばいいのに、その役目は鳥海たちに回ってくる。
一番腰が思い理由は『先着何名様』と特売品だからである。並んでまで買う人間ではない。
「おまえら二人、いるんだから倍量買えるだろ。一回の買い物で済むし。ほら、あの高いヤツも特売だからこの際まとめて買ってくれば?毎回、半分こずつ食べさせるのも可哀想だろ」
以前ナントカという高額のキャットフードを分け与えていたのを見ては、「デザート食ってる時のおまえらか?!」と呆れられたことがあった。
そんなことを言ってもペットの食費もバカにならないのだ…と痛感しているこの頃で、どうしても安物に頼りがちだった。
白神など自分が言いだした手前、引っ込みもつかず、結構な量を差し入れてくれているが、自分の食費が浮いた分猫に回されているだけだろう、と鳥海は内心で思っている。
それでも明るい笑顔を見ると、なんとも言えない気分になってしまう。
充実している、と全身が語っていた。
一人暮らしではどことなくつまらなかったのだろう。
「鳥海~、鳥海~」となにかにつけて近づいてくる姿は、やっぱり弟ができたような気分でしかなかったけれど。
まぁ、そんなこともあって、白神と一緒にいる時間は増えたし、たまに声をかけてきた能代が「おまえら、目立つようになったなぁ」と意味深な言葉を吐いては、分け隔てなくからかって去っていった。
海で一緒に過ごして以来、親近感は増していたので、他の友人たちよりも親しくなった一人なのは確かだった。

キャットフードの大量買いの計画に、八竜が行くはずもなく、近所のおばあちゃんの掃除機が壊れたから見に行く理由をつけられて逃げられた。
カレンダー通りの休日は仕事も休みなので、父親に休日をゆずった形らしい。
「親孝行なおにいさんだ」と尊ぶ白神には何も言わない。
母親が友人宅に行く、というのでついでに車で送ってもらって、買い物で時間を潰して帰りも迎えに来てもらうことで話がついた。
買いたい『猫グッズ』は山ほどあったのだ。
なんていったって、二匹の猫にはいまだに首輪がないくらいだったから…。
ショッピングセンター内で目的のものを仕入れ、他にも数種類買いこんだのはいいが、想像以上に重かった。
カートを押して動き回ってもいいが、力がないせいか、いらぬ方に向かってしまう。
細々と見て回りたい鳥海たちにとっては邪魔なものとなってしまって困り果てた。
フードコートに寄り道して、ベンチで休憩と称してソフトクリームを舐める。
これくらいの大きさであれば白神も一人で食べきれることができるので、鳥海も堪能できた。
「『バニラ』は赤い首輪がいいかな」
鳥海は赤い舌を出してバニラソフトをぺろぺろ舐めている白神に聞いた。
ちなみに『バニラ』とは白い方の猫の名前である。
「赤だったら『ビター』にも似合うと思うよ」
チョコソフトに器用に舌を這わせる鳥海に、今度は白神が頷いた。
何かとお揃いのものを揃えたがるのはどうしてなのか鳥海にはやっぱり理解できなかったが、個々に選択するのも面倒なので従うことにする。

そうこうするうちに、白神はソフトを垂らし始めた。
「あっ」
「あー、もう。藤里、食べるのヘタ過ぎだってぇ。ほら、こっち、もうコーンからこぼれることないから交換してやるよ」
「どう見ても鳥海のほうが、食べる量が多い気がする」
縦に細く長くなったチョコソフトと、小太り気味なバニラソフトをそれでも文句なく交換した。
鳥海が食べる姿を見ていても、気持ちいいくらい綺麗に食べてくれると感心する。

食べ終わって一息ついた時、背の高い男がふたり、並んで目の前に立っていることに気付いた。
一人はニヤニヤして目尻が垂れ下がった人好きのしない顔で、もう一人は金髪に髪を染めた目つきのキツイ、ガラの悪い男だった。
「ボクたち~、お買い物~?疲れちゃったの~?オニイサンたちと一緒に『休憩』できるところに行こうか~?」
「ゆっくり横になれるイイトコ、知ってるぜ」
大事な商品の入ったカートを両脇から掴まれてはビクともしなくなっていた。
「オレたち、まだ買い物あるしっ」
そんな手に引っかかるか、と鳥海は睨みつけてみるが、ニヤニヤ男は全く怯む気配はない。
「そんなの後でいいじゃん。キミ、今、めっちゃくちゃ良い舌使いしてたからさ~。是非俺の『ア・ソ・コ』もお願いしようかな~と思って~」
カートに肘をついて身を屈めては顔を近づけて来ようとする。
「"ボクちゃん"は俺がじっくり教えてやるゼ」
白神に手が伸びようとして、咄嗟に鳥海は叩き落としていた。
「うるさいっ。あっち行けっ」
こんな時、気が強いのはいつも鳥海だった。冷静に物事に対応しない性格だから…ではなく、優しさが勝るのだと思っている。
キッと男の目つきが益々悪くなって、「ガキ~っ」と声が荒くなった。
通りすぎる客人が数人視線を送ってくるが、誰も関わり合いにならないようにとすぐに通りすぎていった。
どうしたって立っている男たちのほうが悪目立ちしている。
「お~、ボウヤ。手癖が悪ぃなぁ。縛りあげて可愛がってやるから覚悟しとけよ」
ひっこめたはずの手首をグイッと掴まれて、握力の強さに驚く間もなく立ちあがらせられた。
「…っ!!」
「鳥海っ!!」
白神の甲高い声が響いて、また周りの客の目を振りむかせた。
…誰かっ…!!
咄嗟に胸の奥で助けを求める。


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木漏れ日 20
2013-08-19-Mon  CATEGORY: 木漏れ日
「こんなところで粋がっているなよ」
声を掛けてきた男がいる。30歳前後か、縦長の顔つきに切れ長の目は大人の貫録を滲ませていた。
続いて彼よりは幾分若い、しかし短髪で体躯の良い男が揃って、鳥海の手を握ったヤツを視線だけで侮蔑していた。
その背後を同じ顔をした人間がふたり、じっと見ていては、四人に囲まれたのも同然で、注目の的になったのを把握して、男たちが怯む。
「な、なんだよ、お前ら…」
「警備員、呼ぶけど?この辺りは顔がきくんだよ」
年上の男は淡々と言い放っていた。
私服でいながらジャケットの胸元に手を入れようとする仕草を見せられて、どう思ったのか、サァと消えていく存在があった。
何が起こったのか分からない鳥海と白神は呆然と事の成り行きを見守っているしかない。
気付けば人だかりができている。
彼らの背後に隠れていた、双子だとはっきり分かる線の細い男が「君たち、大丈夫だった~?」と声をかけてきた。
今目立っているのは、自分たちよりも、この双子だと、なんとなしに気付いてしまう。
"注目の的"のお裾分けを浴びたからこそ、男は逃げだしたのだろう。
外見だけで威張っていた意外と気の弱い奴だった…と、鳥海はホッと安堵したが、心配げな問いに次の緊張が走った。

「あ、えぇ…」
助けてもらったお礼を言おうと思うものの、緊張に晒された喉はすぐには感謝の言葉が浮かばなかった。
人だかりはすぐにも散っていってしてしまう。
その直後に「鳥海くんっ?!」と響いた遠くの驚嘆の声には、その場に残った全員が視線を向けてしまった。
近づいてくる声と同様、驚いて目を見開いた人間は、ほぼ全員だった。
「せ、瀬見さんっ?!」
ようやく知った顔の登場にかろうじて喉から音が発されれば、続いて鳥海の前にいた若い男のほうが「あれ、新庄じゃん」と 落ちついて彼を認めた。
そしてまた、懐くように双子の視線も注がれていた。
近づいてきた瀬見はグルリと視線を回してから、改めて鳥海に眼差しを向ける。
そして「鳥海くん?」と改めて確認された。
「えー、新庄さんの知り合いなの?」
双子の一人が問うと、あぁ…と短い返事。続けて「見たことある連中がいるなぁと思ったら…」って男たちに苦笑いを浮かべていた。
どうやら、この集団、どこかで繋がりがあるのだと理解するのに時間はかからなかった。
やっぱり偶然の出会いには世間の狭さがついて回るらしい。

瀬見がなんとなく空気を読んだのが分かったのか、双子とその両脇の男はほとんど何も語らずに、自分たちの買い物に戻っていった。
改めて視線を向けてきた瀬見が、「八竜は?」と状況説明を求めてくる。
こういった状況において、逐一報告することを教え込まれた脳がある鳥海は、瀬見を前にして安心した気持ちもあったし抵抗もなく、猫を飼っての買い物と、逃げ出した兄のことを細かく説明してやった。
半ば呆れたため息が聞こえてきて、やはり瀬見は八竜を咎めてくれる自分たちの味方だ、と内心でガッツポーズを作る。
瀬見は休日に暇つぶしにここに訪れていて、たまたま見かけただけだったそうだが、最初に目についたのが『目立つ双子だった』とは納得できたけれど、少し悔しかったのはなんでだろう。
だけど常に周りに気を使ってくれる精神的なものが感じられ、黙って通りすぎない態度の優しさがジンときた。
白神も以前、八竜たちと交えて飲んだ席のことを思い出したのか、抵抗なく受け入れてくれる。
「瀬見さん、さっきの人は?」
鳥海が不躾な内容でありながら問うと、瀬見は嫌な顔せず微笑んでくれた。
「あぁ、会社の奴らだよ。双子の片割れは同僚なんだ」
説明されては親しい間柄が自然と想像できた。
ふぅんと頷く鳥海と白神に、「ところでもし邪魔でなかったら、付き合うけれど?」と首を傾げられた。
「「え?!」」
なんのことかと疑問が浮かぶ鳥海たちに聞こえたのは、想像を越えた素晴らしいほどの提案だった。

「俺も車で来ているから荷物を一度しまってくればいいし、一人でプラプラしていてもつまらないから御供させてもらえればいい暇つぶしになるんだけどな。鳥海くんと藤里くんの邪魔はしないつもりだけど。俺が送っていけばお母さんにわざわざまたこっちに寄ってもらわなくても好きな時に帰れるでしょう。ついでに猫も見せてもらおうかな」
自分の希望を優先的に口に出してくるところは話し方がうまい。

うんうん、と鳥海と白神は揃って首を縦に振った。
どうにも白神の判断に偏りがちな猫グッズも、第三者の意見があったら変わるかもしれない。
送ってもらった時に八竜がいたなら、どれだけ大変だったかの文句を瀬見からもしてもらおうという、邪な思いも脳裏を過っていった。
一応瀬見の都合を、本当に大丈夫なのかの確認はしたけれど、人の良い笑顔で信用させられた。
白神とはしゃぎながらアレコレと見て、かさばるものも購入できた。
意外と必要になるものがあるのだとは売り場に来て気付かされたが、予算上購入できるものも限られてくる。
瀬見に「急ぐ必要がないなら徐々に揃えていく楽しみもあるんじゃない?」と言われて、素直に頷けた。
大人からの意見というのは何かと得心できるものだ。

家に帰るとすでに帰宅した八竜が、仕事上がりのビールだというものを、この昼間っから飲んでいた。
先に連絡を受けていた母親がエプロン姿で台所から飛び出してきて、瀬見に愛想の良い笑みを撒き散らしている。
一緒に買い物袋を持って家に入った瀬見は、もう車に戻ることのできない勢いで出迎えられた。
「瀬見くん、わざわざありがとうね。今お昼ご飯用意していたところなの。もうちょっと時間かかっちゃうから八竜と話でもしていて」
「いえいえ、そんな…」
恐縮する瀬見の逃げ道はすぐに塞がれる。
「だぁってもう作っちゃっているのよ。瀬見くんが鳥海たちを見てくれるっていうから、お母さん、時間かけて調理してることができたのに~」
いかにも"手をかけた"のだとの言いっぷりに、少しだけ苦笑いを浮かべたが、「ありがとうございます」と靴を脱いでくれた。

玄関脇にあった段ボール箱の中身はからっぽになっていて、バニラとビターは遊びに出かけている様子だった。
それに気付いた瀬見が、「もしかしてこれが猫の家なの?」と尋ねてきた。
白神が「うん、そう。この中に二匹で仲良く寝られちゃうくらいちっちゃいの」と説明すると、何か考えている様子だった。
いつでも同じ行動で、何も言わなくてもそこに戻っていく仔猫二匹を引き離そうとは微塵も思っていない。

ねこ3
またちー様からお借りしました。転載等厳禁です。

大量の買い物品をリビングに持ち込むと、八竜が呑気に「おぉ~、瀬見、悪かったな」と全く悪びれていない態度で声を発した。
瀬見も特に気にした雰囲気もなく、いつも通りの返事をしている。
「にぃ~っ、重かったんだよっ。今度っからにぃの車、借りていくからねっ」
「ばかやろー。在学中は貸さねぇって言ってあるだろ。俺が特訓してペーパードライバー脱皮できてからだ」
いけしゃあしゃあと鳥海の生活に制限をかけてくるのはいつものことだった。
事故を起こしたら大変だと免許証を取り上げられていた鳥海が、不携帯で運転できるわけもない。
ちなみに白神は免許すら持っていなかった。
あとで家族総出で片付けるからと、端っこに荷物を積み重ねて、とりあえず四人でテーブルを囲むべく座りこんだ。
すると、家主(すっかり家の一員になった白神)の気配を察したビターとバニラが、ちょこちょことした足取りで、でも勢いよく鳥海たちの膝に飛び乗ってきた。
鳥海が「ビター、ひっかくな」と声をあげるのと、白神が「バニラ、いい子にしていた?」と語りかけるのがほぼ同時で、瀬見が興味深げに見つめている。
八竜だけが呆れと謎を浮かべた表情を見せた。
「なーんか、逆なんだよなぁ、コイツラ」
そう言うのは、鳥海たちの外見があったからだろう。
鳥海は栗毛色のくせっ毛で、白神は漆黒のストレートな髪を持っていた。
懐いたのは対照的な色だった…と。

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