2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
木漏れ日 11
2013-08-12-Mon  CATEGORY: 木漏れ日
森吉と能代にシュノーケルの備品を用意してもらって浜辺に出た。
何人か釣りの準備をしている人も見受けられた。
他にもゴムボートやビーチボールなどのレンタルもしている。
みんなが集まったらビーチバレーもいいだろうなんて計画を立てている。
最初は足がつく範囲でピチャピチャと水中眼鏡越しに見える光景に感動していた。
「地面が見える~」「魚がいる~」とはしゃいでいたのだが、能代が手漕ぎボートを持ってきて、沖に行くというのでついていくことにした。
隆起した岩場まで行くそうだ。
「ダイビングってするの?」
鳥海が尋ねると、体慣らしするだけだからまだいいという。
マリン用語はさっぱり分からない鳥海と白神は、とりあえず楽しめればいいやと、難しいことは考えない。

とんがり帽の形の岩は大小ふたつあって、小さい方は大人がふたりも登ったらいっぱいになってしまう小ささだ。
もう一つのほうには高さが5メートルほどあって、松の木が何本か生えていた。水中でふたつは繋がっている。
「ビーチがないじゃん…」
「あるかよっ、こんなところにっ」
おかげで誰も来ない。
森吉と能代はTシャツを脱ぐと手早く自分たちの足にフィンを付けマスクを頭上に乗せて準備を終え、呆然とする鳥海たちにスッと手をかけ始めた。
どちらが…という相談もなく、それぞれに取りかかれる連係プレーは時間の無駄をしていない。
「五城目、足出して」
森吉は揺れる船上でも難なくしゃがみこんで、装着してくれた。
「あと、ライジャケも着とけよ」
「ライジャケ?」
答えるより、黒地にオレンジのラインが入ったベストに腕を通されたほうが早い。鳥海たちのTシャツは脱がされることがなかった。
「ほっせー体だなぁ。キッズ用でも良かったんじゃねぇ?」
ベルトをしっかり締めながらつぶやかれ、目の前にある筋肉隆々と改めて比べると、ライフジャケットを巻かれても細いことを目の当たりにされた。
それは白神も変わらない。
だけど森吉たちは裸のままなので、首を傾げると、「俺たちは素潜り」と言うだけで、海に飛び込んでいった。
ボートを押さえて水中で待たれているところをみると、自分たちも行くべきなのだろうとそろりとヘリから足を付ける。
腕の力で水中に落ちたのはいいが、思っていた以上に深いところで、両手両足が同時にバタバタと動き回る。
…お、おぼれる…っ!!
「五城目っ、こっちっ。押さえててやるから足、かけるだろ」
正面から抱き寄せられてパニクりながらも安堵の息をつく。
しがみついて浮かべてもらっている状態だった。
「ふ、深いよ~っ」
「ライジャケ着て溺れたやつって初めて見た」
クスクスと笑われて、すぐ近くに森吉の顔があることに驚いた。
ぎゅっと首にしがみついている自分も何なのだが…。
「あ…」
マジマジと視線を合わせたところで、状況を理解した森吉は困惑に少し体を離す。
「おまえ、ヤバい気にさせてくれるよ…」
「?」
「ヘルプ要請一回ごとにキス一つで請け負ってやるから安心しておぼれろ」

…水に濡れた男は普段の数倍格好良く見える…、って誰かが言っていたか???と脳裏をよぎっていったが、目の前の男はお構いなしに鳥海の髪を梳くと頬に唇を寄せてきた。
呆然とする鳥海を抱えたままで、森吉はポートの中に手を伸ばすと、ロープと浮輪を寄せてくる。
ロープの先の金具を鳥海のライフジャケットの腰の部分にカチャリと取りつけた。
森吉の体の変わりに浮輪を握らせる。
「ロープは50メートルあるから、遭難はないだろ。俺、潜って気分転換してくるから上から見てて」
つまり、船に括りつけられたらしい。浮輪もボートにつながっている。
…"おぼれろ"とは、水に、だろうか。それとも、森吉に…だろうか。
レンズを嵌めた森吉はザブンと水中に消えていった。

「さかなだ~っ、魚がいる~っ」
白神の雄叫びが響いて気が取られる。
同じような格好で放りだされた白神の言うものが、本物の魚ではなく能代を揶揄ったものだとはすぐに判断ができた。
「藤里~」
鳥海の呼びかけに、今更ながらに出会えたことを喜べたように、こちらも抱き合う。
「フィンって思いのほか早く泳げるんだね~」
こちらはすでに、シュノーケルの楽しみ方を教えられていたようだった。
「う、うん…」
鳥海も顔を付けて中を覗き込んだ。
海藻が揺れて小型の魚が泳ぐ合間を、浅黒い肌の二匹の男が優雅に舞っていた。
太陽の光を浴びた身体が上を向いて、ニカッと笑っては手を振ってくる。
鳥海は先程直に触れた筋肉を思い出して、ドキリとした。
いつもでは何も感じない蜜が甘く香りだした瞬間に巡り合ったような錯覚に陥った。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ 
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)

祝1900話目!! あと100話で2000だねぇ。(途中の雑記も含まれているけど…)
いつもお付き合いありがとうございます。

拍手コメ 通りすがりさま
> 私も暇なので、更新されると嬉しいです。
温かいお言葉嬉しいです♪
トラックバック0 コメント1
木漏れ日 12
2013-08-13-Tue  CATEGORY: 木漏れ日
少しの間潜っていた森吉も、スーッと海上に顔を出してはふーっと息をついた。
「もう溺れずに済んでいる?」
「あ…」
森吉もつかまるように鳥海の浮輪に掌を乗せた。
その重みで沈みそうになってバランスを崩しては、焼けた腕が腰を支えた。
わざとらしく腕を取られては、つかまるものが森吉だけにされて、嫌でも掌がギュッと求めてしまう。
「なんか、そういう仕草がいちいち可愛いんですけど。…おまえんちのにぃちゃんに会っちゃったしなぁ。あれって無言の圧力だろ?」
なんのことやら首を傾げたら森吉は相変わらず苦笑いを浮かべていた。
「傷者にできねぇってことだよ。"フリ"でいいから、俺の相手になっとけよ。あんまり離れるな」
何やら危険な匂いを発しながら、この先の流れを危惧された。
海に慣れた男は雰囲気の危険度も把握しているのか…。
カモフラージュがあったほうがいい、とは、森吉だけでなく、能代の意見もあるらしい。
白神はこわごわとしながらも、ざっくばらんな能代の手中に笑い声を立てていた。
「手ぇ、入れないで~っ」
海パンの裾から潜り込んでいる掌は、完全な"犯罪"に匹敵するだろう。
だけど、じゃれあいだったけれど。
一部のおかしな行動も受け入れてしまえるおおらかさは、開放的な気分にさせてくれる"海マジック"かもしれない。

妙な駆け引きを棚に上げても、すぐそばに白神がいたし、普段では見られない景色を届けてくれることは充分心を盛り上げた。
浜の近くとは違って、澄んだ海水と、通り抜ける風が心地よくて、同時に、心も心地よくしてくれる。

海

少しばかり潜っては森吉と魚と泳いで、海上に浮き上がらせてくれる動きも楽しい。
徐々に水にも慣れた。
「鳥海、水飲んどけよ」
久し振りにボートの上にあがると、小さなクーラーボックスからペットボトルのスポーツ飲料を差し出される。
『鳥海』と自然に呼ばれることがまた不思議だったけれど、知らずに乾いた喉に、その声も飲み込まれていた。

「そろそろ戻るか?」
約束したバーベキューの時間のことを考えても、こちらでのんびりしているわけにもいかない。
名ばかりの幹事でも放ったらかしにできないと声をかけられればお腹が鳴るのだから体は正直だ。

浜辺に戻ると全員が揃ったようだ。
民宿の従業員の手伝いもあって、大きなコンロがすでに用意されていた。
何より驚かされたのは新鮮な魚介があったこと。
「サザエの壺焼き~っ♪」
「ホタテもいい感じ」
「アワビの踊り食い~」
次々と出される肉の串焼きや飯盒のご飯もやってきた。
お焦げまで舌鼓をうち、手渡された缶ビールを喉越し良く嚥下すれば、ほどよく疲れた体は脱力感に襲われる。
白神と二人して、"お昼寝コース"にまっしぐらだった。
森吉と能代がつかず離れずの位置で気遣ってくれていて、まだ見たことのない人間は挨拶だけにとどめられている。
あらかた食べつくして、後片付けだ、午後のレジャーだと散っていった頃、パラソルの下、レジャーシートに白神と横たわっていると、釣り具を持った二人組に声をかけられた。
鳥海と白神は全員の顔など把握していなかったから、今回のメンバーだと疑わなかった。
「今夜、ここに泊まりだろ?俺たち、この後ジェットに乗りに行くんだけど、一緒に行く?」
「『ジェット』?」
「水上バイクのことだよ。こっちの入江じゃ乗れないから移動するけどさ。ずっと沖まで行ってスピード出て面白いよ」
楽しそうな遊びには眠気も飛んでいく。
目配せだけで鳥海と白神は同意を相手に伝えていた。
「迎えにくる」という言葉に、そのまま民宿に向かうと、途中で森吉に出会う。
「何?昼寝?」
部屋に戻るのかと確認され、逐一報告は鳥海の中では普通だった。
正直に成り行きを口にする。
「ううん。『ジェット』っていうのに行くの」
白神も頷いて、無邪気な答えは、すぐさま森吉の眉間を寄せてくれた。
「ジェット?誰が?」
「えー、分かんないけど、そこにいた人だよ」
当たり前だが、浜辺を振り返っても誘い主はいない。

「ダメダメダメっ。免許持っているヤツ、今回はいないはずだからっ。どこのどいつだよーっ」
行く手を阻まれてこちらも何事かと訝しがるが、鳥海たちの気分はすでに『水上バイク』だった。
自らの実体験が百聞は一見にしかずと教えられたのは、森吉たちとの"潜り"の中にもある。
「えー、乗りたいよ~」
「乗りたいよね~」
鳥海と白神の脳内は海上を颯爽と走っていく水しぶきの中にある。
森吉は鳥海の腕を掴みながら能代の姿を探していた。
やはり午後のプランに外に出ようとした熊を捉える。
「能代さーん、能代さぁぁぁん、こいつらナンパされてるよ」
「あぁぁ?」
「ジェットだって。乗りに行くんだって止まんないの」
「誰?」
「わかんねぇ。磯釣りのヤツか出入りの業者かなんかだろうけど」
歩み寄ってきた能代は眉間に皺を寄せて、森吉の言葉を脳内に入れながら逡巡していた。
しばし考え込んでいたけれど、白神のランランとした眼差しに負けたようだ。
「乗せてやるから、知らないヤツについていくなよ。行方不明ってマジでシャレになんねぇ」
多くの人が入り組む浜辺…なのだろうか。
危機感を植え付けられる。

その後、民宿まで迎えに来た"ナンパ男"を睨みつけて、森吉は鳥海の腰に腕を回していた。
今更密着されることに抵抗がないのはなんでだろう。
熊男能代を前にしてはさすがに怯んだようだ。
すっかり"恋人"にされて、「ジェット乗れるエリアって決まっているんだよ」と連れていかれた。
免許がないと乗れないと教えられたのもこの時で、また人目を惹くよう騒ぐ連中も目の当たりにされた。
遊びに長けた森吉と能代が最低限の資格を取得していることにも驚かされた。
本人たちは「あいつらと一緒にするな」とどこか差別意識が浮かんでいたけれど。
身に降り注ぐ危機感はともかく、颯爽と走る水上バイクに鳥海と白神の歓喜の声が上がる。
「爽快~っ」「気持ちいい~っ」
泳いだり、船の上にいるのとは全く違う。
足元を掠める水流や磯の風。

沖からはずっと離れた場所で、休憩とばかりにエンジンを止めた森吉は、「鳥海…」と背後にしがみつく鳥海に視線を落としてきた。
さざなみのように打ちよせる波音と、遠くで響くモーター音が耳元をくすぐる。
「おまえ、可愛いよ…。そういう態度とか、マジになりそう…」
戸惑いを多く含んではいたけれど。
体を捻った森吉の体が被さってくる。
…逃げ場がない…。
肉厚の唇が鳥海のソレに触れた。
熱い眼差しと熱い空気、熱い情熱が鳥海を昂らせた。
何かが誤魔化されている。
だけど流されていた。
怖いくらいの"雰囲気"。
差し込まれる舌先に、閉じた瞼の奥が輝く太陽を反射した。

"魔性の海の世界"に身を委ねてもいいのだろうか…。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ 
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)

トラックバック0 コメント5
木漏れ日 13
2013-08-13-Tue  CATEGORY: 木漏れ日
ドキドキした心臓が喉から飛び出しそうだ…。
どんなふうに動かしたらいいのか分からない舌を森吉の舌で絡められる。
唇が吸い上げられるように蠢いて、「ぁ、ふ…」と口を大きく開けようとひらいてしまうと、一旦顔を離した森吉がフッと口角を上げた。
「鳥海って今、付き合っているヤツ、いないんだっけ?」
「え、あ、…い、いないけど…」
妙に冷静な森吉に戸惑いながら、どんな顔をしたらいいのかと俯くと、体を捻っていた森吉が一度前を向いてから足を上げて横向きに座りなおした。
車体が大きく揺れたことに焦り、「ひゃぁぁぁ」と慌ててしがみつくとフフと笑われる。
「そんな簡単に横転しねぇよ」
海の中に投げ出される心配はないと言いきられても、不安定な状態で浮かんでいることに変わりはない。
うまくバランスをとっている森吉は鳥海の体を片腕でぎゅっと抱きしめる。
不思議な感覚だった…。
遠くに人の気配も物音もするのに、ここだけが切り取られたような感じ。
見えるものが森吉だけに絞られる。
「あ、あの…」
「し。黙って」
親指の腹で唇の上をひと撫でされて、近づいた唇がまた塞いできた。
腰を抱かれて、顎に手をかけられて…、濡れた髪の間に指が潜り込んできて後頭部を押さえられる。
揺れ動く波間に不安もあって、頼れるものが森吉だけだと判断する脳が、自然と森吉に縋るよう寄りそった。
歯列を割って注がれてくる熱さが鳥海の思考を融かしてしまう。
熱に浮かされたような感覚で森吉の全てを受け入れてもいいと思えてくるもの…。
何事もスムーズにこなしてしまう、これまで見てきた動きが脳内に甦って、他の人物とは違う印象を刷り込んでいた。
啄ばむ唇が幾度も角度を変えて鳥海を刺激してくる。
太陽と一緒に、森吉の熱で焦がされそうだ。

うまく酸素が取り入れられなくて、息を乱す鳥海に少しずつ隙間を与えてくれる。
「…ぁ、もり、よ、し…」
「鷹巣だって…」
「たか…?」
波音と吐息だけが耳に届く合間にささやかな声が上がると、すぐに咎められた。
そっと薄目を開けて見た先、眩しそうに目を眇めた森吉が、そう、とチュッと音を立てたキスを落としてくる。
「森吉鷹巣。鳥海、俺の名前、知ってた?」
確認をするような意地悪な質問だ。
それを言うなら、つい数時間前まで森吉も鳥海の名前なんて知らなかったのではないだろうか?と過っていった疑問は棚に上げられる。
一応、頷いておいたけれど…。
「鳥海、可愛いな…」
あまり嬉しい言葉ではないが、褒められていることが分かるのでくすぐったくなる。決して嫌な気分にはならない。
「…バカ…」
なんて答えたらいいのか分からず、悪態をついて視線を伏せれば、もう一度唇を塞がれていた…。

しばしの"恋人気分"を味わって船着き場に戻り、森吉がジェットスキーの返却手続きをとっているのを背後で黙って聞いている。
すぐ横の売店では、先に戻っていた能代と白神が海の色に染められたかき氷をパラソルの下のテーブル席で二人でつついていた。
鳥海の姿を捉えるなり、「よぉ、おかえり」と能代はいつもと変わらない態度で声をかけてきたが、白神はチラリと不躾な視線を送ってくるにとどまっていた。
能代と何か嫌なことでもあったのかと勘繰るが、本人を前にして問うわけにもいかないだろう。
鳥海の背後に寄った森吉もふたりに気付いて、「鳥海も食べる?」と声をかけてくる。
円陣を組むように森吉が能代の隣に座れば、立っているわけにもいかず、白神の隣に腰を下ろした。
どことなくぎこちない雰囲気がなんとも嫌だ…。

森吉が白神と同じものを注文して、目の前に届けられた時、俄かに唇が尖ってしまった。
できればイチゴミルクの上にアイスクリームが乗っているのが良かったのに…との不満は喉奥に飲み込まれていく。
こちらも一つのかき氷をふたりで食べようという動きは丸見えで、だけど好きじゃない味を平らげられる自信もなかった鳥海には都合が良かったのかもしれない。
すぐに森吉と能代はジェットスキーのコンディションの話に夢中になってしまう。
どれくらいのスピードを出したとか、白神がギャーギャーうるさくて楽しめなかったとか、冗談混じりでも遊んでいた光景は充分伝わってくる。
興奮しているぶん、能代だって満更ではなかったのだろう。
鳥海も白神に話しかけた。
「藤里、どっちのほうに行ってたの?最初、競争していたのに、いなくなっちゃったじゃん」
「あっちだよ。能代さんたらヒドイの。負けたのは僕のせいだって言って、いきなり海に突き落とすんだもんっ」
思考と会話は違うのか、思い出話には素直に答えてくれる。
能代との間に問題はなかったような口調だ。
「え?落とす?」
信じがたいセリフだったが、直後にはニコニコと楽しそうに話すのだから、本気で苦言をつきたいわけではなさそうだ。
「一度落っこちちゃえば全身ずぶぬれじゃん。急ターンしてみたり、スリル万歳だったけど。もう何度振り落とされたことか」
クスクスと笑っては、「鼻が痛かった」と経験談を語る。
鳥海はそんな手荒なマネはされなかったと振り返った。
モラルを守るのは当然のことだが、その中でも更なる刺激を求めてしまうこと。
自分たちはそれが、"キス"の方に向いてしまったのか…。

白神と普通に話せたのは良かったが、チラリチラリと鳥海と森吉を交互に伺うような視線は、やはり何か言いたいことがあるのだと悟る。
買ってもらったかき氷もそこそこに、鳥海は「もう帰ろう」とみんなを促していた。
鳥海が声をかけると森吉が鳥海の様子を伺ってくる。
「鳥海、疲れた?」
何故か名前を呼ばれることに、イラッとしている自分を感じた。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ 
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)

*ジェットについては私の妄想です。安全を守って正しく走行してくださいね。
トラックバック0 コメント0
木漏れ日 14
2013-08-13-Tue  CATEGORY: 木漏れ日
そろそろ日は西へと傾きつつあるが、まだ灼熱の空気をまとっていた。
民宿に戻るまでの道、前に森吉と能代が歩き、少しの距離を置いて鳥海と白神が続く。
燻っている気持ちはお互いにあるのが、態度から知れてくる。
耐えきれずに「藤里…」と不安げな声を上げてしまえば、白神も困ったと小さく鳥海を伺ってきた。
「鳥海さ…。森吉くんと…、どうなっちゃうの?」
これまでの行動を振りかえられる。そしてこの後のことを問われる。
「え?」
正面から切り込んでこられるのは、知れた性格で、隠すことがないところが、やはり鳥海の本心も曝け出させてくれた。
「鳥海~っ」
咎めてくる口調も混じっている。それでいながら、鳥海の意思も尊重してくれていて、全てを非難してはいない。
明確にいっては来ないけれど、一時期の感情の流れのことを言われているのだとは知れることだった。
「あ…」
「鳥海、森吉くんと、キスしてたでしょ。なんか、すごいイイ雰囲気だったけど」
「み、見てたのっ?!」
誰にも知られない場所だと思っていたが、考えても考えなくても公の場所だった。
簡単に気を許していた行動にも羞恥が走った。
あの時はふたりきりだと思っていたけれど…。
突然のことに顔を染めて、目を見開けば白神はクスッと首をすくめる。
「能代さんが教えてくれた。『あいつら、うまくやっているなぁ』って」
白神どころか能代にまで見られていたとは、不覚の自体と、背中を冷汗が流れる。
何気なく会話も交わしていたけれど、白神と同様に、内心では何を思われているのだろう…。

「あ、あの…」
それと同時に過ったのは、白神は能代とアヤシイ雰囲気にならなかったのかという疑問。
あのまやかしのような時間に翻弄されることもなかったのかと不思議な気持ち。
なにがあっても水に流せるような軽さ、足元もさだかではない空気に飲み込まれなかった白神の存在が、確実に責めてきている。
思わず縋ってしまったのは一時期の幻の世界で、間違っているのだと告げられているようで…。
唇をとがらせながら俯くと、「どっちのためになるのか分からないけれど、能代さん、証拠写真撮っていたからね」ととんでもない事実をつきつけられた。
「しゃ、写真っ?」
「からかうことが目的なのか、森吉くんの裏付けをとるためなのか…」
『恋人のフリ』は、森吉の手の中で踊っている。
はっきりとした、そんな存在にはなりたくないのに…とは正直な気持ちなのだろう。
キスまで交わしていたのに、不思議と嫌だったのだ。
そう、先程、あれほど赦していた森吉の発言が耳ざわりだったように。

「まぁ、能代さんの性格だから、からかうのが一番の目的だろうけどね」と、ここだけで悟った雰囲気は鳥海と違うものがはっきりとしている。
この冷静さはなんなのだろう。
そこまできて、どうして揺るがなかったのか単刀直入に問いが漏れる。
同じような時を過ごしたのに…。
白神は当たり前のように、当然のように言い切ってくれた。
「だって僕、最初から八竜さん、鳥海のお兄さんが好きって能代さんに言ったもん。ちょっかいしないでねって」
操立てするのとは違うのかもしれないけれど、明確な発言には能代も納得して"フリ"だけに収まっていたのだ。
だからこそ、全てが"上辺"の範囲。
まわりに知らしめるだけの存在。
いたずらに触れるものも、スキンシップのひとつでしかない。
あくまでも周りを牽制する動きでしかなかったことは、能代の人間性を高めていた。
軽い存在ではないこと。
その違いが分かるからこそ、鳥海は軽はずみな動きをとる森吉を嫌ったのかもしれない。

恥ずかしさが鳥海の全身を覆っていく。
尻軽な存在にされたくはないと、せめて白神にだけは分かってほしい焦り。
戸惑う鳥海を分かるのか、白神はあどけなさを見せないいつもと逆の雰囲気で、鳥海を包んでくれた。
「八竜さんにはだまっていてあげるから。能代さんにもこれ以上、イタズラしないでって言っておいてあげるから」
それは、撮られた写真を公開せず、消してほしいという願いだった。
あの能代を掌で操れるような態度にも感心する。

「いっぱい、怖いこと、あるんだって」と、白神は教えられたものを語ってくれた。
「下半身欲求の塊の人間に囲まれて逃げ場がなくなったりとか、それこそ、もう絶対に見られたくない恥ずかしい証拠写真とられて、いつまでも脅されたりとか。能代さん、『連れてきた以上、責任がある』って、無責任にしなかった。イタズラと本気の違い、分かっている人だよ。鳥海が傷つかないって分かっているから、たぶん写真、撮ったんだ」

笑って許される範囲にあること…。
鳥海にも本気さがないと分かって、遊びのひとつに収まっていることも。

変なムシがつかなかったことには感謝するけれど。
やっぱり森吉とは本気になれない現実を突きつけられる。
一時期の気の迷い…とはこのことなのだろう。
白神がはっきりと自分の立場を告げてきたことで、自分も冷静になれた。

「僕、八竜さんに、後ろめたいこと、いやだもん」
潔い発言は、純粋さを教えてくれる。同時に、健気な態度は今まで以上の好感を与えていた。
鳥海は考えさせられていた…。

遊び人のように捉えられるのは嫌だ。

民宿に戻ると、両手両足を投げ出した能代の姿があった。
ありのままの隠さない姿が自然で、ホッとさせられる。
"友達"以上に変わらないこと。
「夜って鍋だしてくれるって言ってたな」
「鍋ぇえ?!この暑いのにっ?!」
能代のつぶやきに目を剥いた森吉が異議をとなえる。
それでもメニューは民宿側に委ねられていた。
なにもかもが、受け入れられる範囲にある。
束の間の心の隙間も、彷徨った戸惑いも肯定してくれる安堵。
赦されないことなのかもしれないけれど、赦してくれるのは、『夏』というものや『海』という、翻弄してくれる波のマジックなのかもしれない。

鳥海はもうこれ以上、森吉の雰囲気には飲まれない、と心に刻んだ。
分かったのか、能代はフッと口角を上げたし、森吉は『ダメかぁ』と残念そうな表情を見せた。
危険な香りが霧散するところも、慣れた森吉たちのようだ。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ 
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)

暇な時間が終わった…。
しかもまた間違えたΣ(T▽T;)


トラックバック0 コメント2
木漏れ日 15
2013-08-14-Wed  CATEGORY: 木漏れ日
民宿の一階のダイニングで大鍋が用意された。
参加人数は全部で17人だと、その時に教えられて、ビールや地酒とか、好き勝手に飲み食いしている。
食事が終われば部屋に退散して、各自で宴会を始めてもいた。
一階の端に浴場もあって…。温泉ではないし、狭いけれど、大人でも3人は余裕で入れる。
一部の団体は単に汗を流す目的で、さっぱりとカラスの行水のごとく利用していた。

鳥海は白神と一緒に風呂場に向かった。
あとをついてきた能代と森吉には困惑もあったのだけれど…。
幹事は幹事らしく、表に『使用中』の看板を立ててくれた。

「能代さん、いらなーいっ」
「なんでだよ。見るだけはタダだろ」
「そういう問題じゃなくて…」
時間の無駄だと発言する能代と白神のやり取りは、半ば、コントだ。
さらに、危険の一つも孕んでいないことを告げてくる。
お互いに分かって、"それ以上"の意識を持たないこと。
鳥海は森吉の存在を少しばかり意識したけれど、やはりこちらも慣れたものがあったようだ。
一人、意識したことが恥ずかしいと思えるほど、森吉は"普通"だった。
男同士で裸を見せ合うことは、最初に能代の全裸を見せられた時と変わらない。

「背中、流してやろうか?」
「それこそ、いらなーいっ」
どこまでも能代と白神の明るい声が響いた。

その片隅で、森吉が「悪かったな…」と小さくつぶやいた。
体に触れたことを後悔している雰囲気は、悪い人間ではないのだろう。
鳥海は自分も雰囲気に流された反省があって、もう水に流そうとこれ以上の何かはないとはっきりと告げることにした。
傍から見ていても、能代と白神の"裸の付き合い"は心地よく感じられるもの。
とはいっても…、あからさまに見せられる下半身には抵抗があったのだけれど。
白神の雄は鳥海と変わらなかったし、能代の龍は静寂なのに迫力がある。
森吉は意識したのか、絶妙に見せないよう、タオルや仕草で誤魔化されていた。

部屋に戻っても、隣の部屋からは賑やかな声が響いてきた。
どこの部屋が何人の滞在になっているのかはわからないけれど、それぞれに"夏の夜"を満喫しているのだけは伝わった。
危険がない関係なら、素直に楽しむことができて、そこには、自分のはっきりとした態度が欠かせないのだとも教えられた。
もちろん、かばってくれる存在が必要なのだとは、守られてきた過去があるだけに、重要性も理解する。
邪魔だとばかり思っていた兄の配慮が感じられて、何故か嬉しかった。
そのことを直接言葉には表すことはないだろうけれど、感謝だけはしたのだ。

好き好きに敷けと言われた布団を、鳥海と白神はくっつける。
部屋の隅っこで丸くなるふたりに向けられたカメラを知らなかった。
安堵した表情は、気を許した人間にしか見せられないもの。
でもそれは悪用されるわけでもなく、偽の"真実"として、能代が周りに言い含めるために使われていた。
能代は心底、邪魔を排除して、八竜との仲を応援してくれていたのだ。

純粋に向かっていける存在があることが鳥海には羨ましかったけれど。
そんなふうに、誰かを想うときがくるのだろうか。
やはり"大人の階段"を踏みしめる姿が、焦燥を運んできたのかもしれない。
その焦りが、森吉という存在を受け入れることになったのだろうか。
ふと過った、"恋人の感覚"だけが、鳥海の中に宿された。
あんなふうに、大事にされたい"憧れ"。
その相手となってくれる人は、誰なのだろう…。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ 
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)

超特急で書いた…(汗)
ってことで、夏のバカンスはここで終了です(←欄外で話を終了するなってなぁ)
鳥海の心の変化を楽しんでください。

【私信】
ちーさま。 猫写真、お借りしてもいいですか?まーぶるとちろのお昼寝の…。
トラックバック0 コメント3
<< 2024/04 >>
S M T W T F S
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.