ホテルという業界にいたからなのか、ホテルリストというものが羽生の脳内にはあるらしく、案内されたところは広めの部屋に作られたシティホテルだった。
セミダブルの大きさはあるベッドが二つのツインルームで、反対側にはベッドにもなるソファが配置されている。
違う階には大浴場の設備まであった。
選ぶ基準は快適性らしい羽生の一面を知った春日だ。
高層階に部屋が取れたために港町の夜景が見下ろせる。
すぐ隣に熊谷たちの部屋もあるため、何かと連絡はつけやすい。
本庄は突然の『宿泊』という行程に変わったことで余裕ができたらしい。
万が一、店への遅刻が発生したとしても、言い訳をしてくれる羽生がいるのだから心強くもあるのか。便利な存在だ、と思われたらそれはそれで厄介かもしれないけれど…。
夕方も早い時間にチェックインして、それぞれ転寝などをして寛いでいたところに、本庄がやってきた。
「この先に海鮮居酒屋があるって聞いてきたんです。俺とタカ、そこで夕飯食ってきますけど、どうします?」
ほんの僅か寝ただけですごい回復力の本庄だった。
ホテルにはレストランもルームサービスもあったが、それらを利用する気はさらさらないといった感じである。
どこまでも地元品を喰いつくす根性には感心したいのか呆れたいのか…。
羽生はにっこりと頷いた。
「もちろん、一緒にさせてもらうよ。お邪魔でなければね」
「全然。みんないたほうが色々な種類が食えるから俺としてはありがたいです」
羽生も食事を出す場所としての方針や態度などをチェックしにかかる『仕事人』になってしまうのだから、少し怖いものを感じる。
知らないからいいようなものの、店側からしてみたら、嫌な客だろうな…と春日はひっそりと思っていた。
早朝出発を控えているため、早くに部屋へ戻ってこようとして、すぐに4人はホテルを出た。
フロントでは丁寧に近隣の食事処を地図にしてくれたものを渡してくれる。
これも地元を活性化させたい目論みの一つなのだろうか。
本庄が選んだのは多くの席が並ぶような店ではなく、隣の客と肩があってしまいそうな、年季の入った店だった。
「なんか、料理している人の気合みたいなのが感じられて好きなんですよね~」
本庄は入店に際しての同意を求めてきたが、もちろん逆らうことのない羽生と春日だ。
熊谷は少し眠そうな顔をしたまま、何の口出しもしてこない。
まるで何を言っても無駄、と半ばあきらめかけている雰囲気すらある。それより3歩後ろを黙って歩く慎ましい…、女房…???
4人とも飲めない人間ではないのでまずはビールからはじまる。日帰りでは絶対に口にできない飲み物だったから嬉しくもあった。
そう、できることなら、昼間の炭火焼の時に飲んでみたかったな…と振り返ってみたりする。
あの本庄が焼いてくれた朝ごはん(昼ごはん)は本当に美味しかった。
こじんまりとした店で、さらに早い時間で客もそれほどいなく、本庄はしきりに店員にあれこれ尋ねながら次々と注文をしていた。
本来メニューにないものまで作らせ、出させてしまう口車(?)には、誰もが唸ってしまう。
「絶対に熊谷さんって『美味しい旅』してますよね」
「だから春日、それは嫌味なの?」
「そうじゃないけどー。なんかこれからもこうやっていっぱい動きたいな~って思っただけ」
春日にとってはなにしろ、初めてのお出かけで全てが新鮮だった。酒も入ったせいでみんなが饒舌になっていく。
「やっぱり嫌味じゃない」
「いつでも圭吾、貸すけど?」
「タカ、それひどいっ!」
「いや、貸されても困るから」
羽生が苦笑いしながら目の前の二人に答えてくれる。
「ですよね~。観光もしないで食べるだけの人間なんて~」
「タカ~ぁ」
クスクスと笑いが零れる。
本庄の隣に熊谷、春日の隣に羽生がいてくれるこの空間が一番いいのだ。
強行突破ではあるけれど、このような機会が持てたことを春日は心底嬉しく思う。
二人だけでいる空間ももちろん大好きだが、みんなでワイワイとするのも楽しい。
みんなが揃うから突然の機転も利く部分もある。
春日は、良い人たちに恵まれたことに感謝していた。
いつでも楽しい話題を振りまいてくれる人たち。そして一緒にいてくれる愛しい人。
こうして安全な旅は幕を閉じた。
―完―
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終わった―ヽ(゚∀゚)ノ
セミダブルの大きさはあるベッドが二つのツインルームで、反対側にはベッドにもなるソファが配置されている。
違う階には大浴場の設備まであった。
選ぶ基準は快適性らしい羽生の一面を知った春日だ。
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すぐ隣に熊谷たちの部屋もあるため、何かと連絡はつけやすい。
本庄は突然の『宿泊』という行程に変わったことで余裕ができたらしい。
万が一、店への遅刻が発生したとしても、言い訳をしてくれる羽生がいるのだから心強くもあるのか。便利な存在だ、と思われたらそれはそれで厄介かもしれないけれど…。
夕方も早い時間にチェックインして、それぞれ転寝などをして寛いでいたところに、本庄がやってきた。
「この先に海鮮居酒屋があるって聞いてきたんです。俺とタカ、そこで夕飯食ってきますけど、どうします?」
ほんの僅か寝ただけですごい回復力の本庄だった。
ホテルにはレストランもルームサービスもあったが、それらを利用する気はさらさらないといった感じである。
どこまでも地元品を喰いつくす根性には感心したいのか呆れたいのか…。
羽生はにっこりと頷いた。
「もちろん、一緒にさせてもらうよ。お邪魔でなければね」
「全然。みんないたほうが色々な種類が食えるから俺としてはありがたいです」
羽生も食事を出す場所としての方針や態度などをチェックしにかかる『仕事人』になってしまうのだから、少し怖いものを感じる。
知らないからいいようなものの、店側からしてみたら、嫌な客だろうな…と春日はひっそりと思っていた。
早朝出発を控えているため、早くに部屋へ戻ってこようとして、すぐに4人はホテルを出た。
フロントでは丁寧に近隣の食事処を地図にしてくれたものを渡してくれる。
これも地元を活性化させたい目論みの一つなのだろうか。
本庄が選んだのは多くの席が並ぶような店ではなく、隣の客と肩があってしまいそうな、年季の入った店だった。
「なんか、料理している人の気合みたいなのが感じられて好きなんですよね~」
本庄は入店に際しての同意を求めてきたが、もちろん逆らうことのない羽生と春日だ。
熊谷は少し眠そうな顔をしたまま、何の口出しもしてこない。
まるで何を言っても無駄、と半ばあきらめかけている雰囲気すらある。それより3歩後ろを黙って歩く慎ましい…、女房…???
4人とも飲めない人間ではないのでまずはビールからはじまる。日帰りでは絶対に口にできない飲み物だったから嬉しくもあった。
そう、できることなら、昼間の炭火焼の時に飲んでみたかったな…と振り返ってみたりする。
あの本庄が焼いてくれた朝ごはん(昼ごはん)は本当に美味しかった。
こじんまりとした店で、さらに早い時間で客もそれほどいなく、本庄はしきりに店員にあれこれ尋ねながら次々と注文をしていた。
本来メニューにないものまで作らせ、出させてしまう口車(?)には、誰もが唸ってしまう。
「絶対に熊谷さんって『美味しい旅』してますよね」
「だから春日、それは嫌味なの?」
「そうじゃないけどー。なんかこれからもこうやっていっぱい動きたいな~って思っただけ」
春日にとってはなにしろ、初めてのお出かけで全てが新鮮だった。酒も入ったせいでみんなが饒舌になっていく。
「やっぱり嫌味じゃない」
「いつでも圭吾、貸すけど?」
「タカ、それひどいっ!」
「いや、貸されても困るから」
羽生が苦笑いしながら目の前の二人に答えてくれる。
「ですよね~。観光もしないで食べるだけの人間なんて~」
「タカ~ぁ」
クスクスと笑いが零れる。
本庄の隣に熊谷、春日の隣に羽生がいてくれるこの空間が一番いいのだ。
強行突破ではあるけれど、このような機会が持てたことを春日は心底嬉しく思う。
二人だけでいる空間ももちろん大好きだが、みんなでワイワイとするのも楽しい。
みんなが揃うから突然の機転も利く部分もある。
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甲斐様
こんにちは。
> レンタル圭吾
> ぜひお願いしたいです
> 美味しい旅したいもん
レンタル(゚∀゚)
いいですね~。美味しいものを食べる時に是非一緒に。
あと、あの、どっかの添乗員をぶるさげていけば大満足な旅行になることでしょうヽ(゚∀゚)ノ
コメントありがとうございました。
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