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BLの丘
見下ろせる場所 12
2011-07-09-Sat  CATEGORY: 見下ろせる場所
これまでの慎弥の暮らしがどのようなものだったのかは想像するしかない。
幼い時に両親を失い、まだ甘えたい盛りの頃を支えたのは岩槻家の人間だ。中でも岩槻が一番可愛がってきたのだろうとは短い間でも見ていれば容易く知ることができる。
そこにあるのは家族愛のようなものなのだろうが、慎弥が淋しがるたびにこうして一緒に寝てあげたのだろう。
甘えられることがあたりまえであり、慎弥の特権なのだと教え込まれてきた。岩槻の望む態度を見せることで岩槻を安心させようとした健気さが伝わってくる。
それとは違って素直に寄り添われているような気がして、皆野は単純に嬉しいと思っていた。

髪を梳いてやると猫のように丸まって瞼を閉じる。
皆野の立場を知るから安心しているのだろうが、出会って間もない人間にこのような無防備さを簡単に露呈するのは些か問題だろう、と内心で溜め息をついた。
人肌の温もりを探すように、慎弥の指先が皆野のシャツに触れる。
お気に入りのぬいぐるみがないと眠れない子供のようで、またそんなところも愛らしく見えた。
「腕、痛くない?」
「単なるかすり傷ですから」
「草加さんがいなかったらどうしてたか分かんないや…」
「感情のままに、悪い方へと転がるのは良くないことです」
「…うん…」
岩槻に対しても言えることだったが、人間なのだから完璧に感情が抑えられるものでもない。
時にこうして吐き出すのも必要であったし、だからこそ、心を割って話せるときも来る。
「岩槻様も反省されていましたから…」
「うん…。征司くん、新しい事業に関わるんだ…。だからただでさえピリピリしてたの…」
「そうですか…」
立場を重んじる態度に出てしまったこともなんだか納得できる気がした。勢い余って慎弥に当たってしまったのか…。
「慎弥くんもお疲れでしょう。お休みになられたほうがいいですよ」
原因が分かっているのであれば慎弥の心の整理も早いかもしれない。
状況を理解できない慎弥ではないし、岩槻の態度からすれば大きな溝になることもないはずだ。
ただ、慎弥がますます本音で物事を語らなくなるのではないかという不安はありはするが…。
「また草加さんと遊びに行きたいな…」
ひとり言のようにポツリと呟かれたことにドキリとする。
一瞬社交辞令のようでもあるが、今の状況でそんな余裕が慎弥にあるとは思えない。
今日遊びに出たことを思い出しているのか、振り返ってそんなふうに感じてもらえるのは皆野にとっても喜ばしいことだった。
「えぇ。いつでもお付き合いしますよ」
口に出してみれば、皆野の方が上辺だけの返事のようだった。
うまく伝えられないもどかしさが皆野の中に湧きあがる。
一時的な、遊びのような存在になりたくはないのに…。
もっと見てみたい。もっと知りたい。求める感情がどんなものであるのか、気付かない皆野ではなかったが、いかせん、今の立場はあまりにも不利だった。
違う場所で出会っていたならぶつかっていくことも可能だっただろうか…。

「草加さん、明日お昼までで仕事おわるんだっけ?」
ふと、思い出したように慎弥が上目遣いで皆野を見上げた。
「明日?」
確かに明日の勤務時間については先程伝えた経緯があった。それを慎弥が覚えていたとは予想外だった。
「うん…。あ、でも、いいや…」
さりげない『誘いの言葉』だとはすぐに気付く。
控え目に断ってくるのは皆野を振りまわしているとでも思ったからか…。
そういえばこの部屋は3連泊だった。昨日今日の宿泊はレセプションが絡んでいるので理解できるが、明日の夜は何のためなのだろう。
客に対して込み入ったことを尋ねるのは失礼にあたるが、この場合は問いかけても大丈夫だろうか。
逡巡したあと、慎弥に返す言葉も重ねて口に乗せてみる。
「岩槻様とはご一緒に過ごされないのですか?」
今日の後ではまだ躊躇いを残しているのかもしれない。だが、二人にすでに予定があったのであれば皆野が入り込むわけにはいかなかった。
「征司くんは明日、仕事で一日いないの。先に帰ってもいいって言われてたんだけど…」
つまり、明日の夜、慎弥がここに泊まるかどうかは今現在でもはっきりしていないらしい。
話ぶりからすると、明日は丸一日慎弥に関われないのだと伝わってくる。だからこそ今夜、駄々をこねても岩槻と夕食を共にしたかったのだろうか…。
淋しそうな眼差しに見つめられては頬も緩むというものだ。ここで抱きしめ返してあげられないことが何とも残念であるが…。
「またお食事にでも行かれますか?」
皆野から出された提案に慎弥の曇っていた表情がぱぁっと晴れやかになる。
この隠すことのない笑顔を見られるだけで皆野の心もホッと息をつける気分になった。
こうやってありのままの姿でいてほしい…と心から願う。

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