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BLの丘
見下ろせる場所 13
2011-07-10-Sun  CATEGORY: 見下ろせる場所
慎弥の安心したような寝顔を見られて皆野もどこか落ち着いた。
兄弟間の確執は残ってしまうかもしれないが、少なくても素直に寄り添ってきてくれる『自分』という存在があることが嬉しくもある。
短時間で触れあってしまったお互いは、まだ知らないことが多すぎるのに目が離せない危うさを纏っていた。
それでいて、良く知ったように見透かせる無垢さ…。

転寝…とも言うくらいに浅い眠りを貪った後、朝の5時過ぎに皆野は目を覚ました。
勤務は7時からだったが、いくらなんでも時間どおりに出社するわけにはいかない。昨夜の騒動があったから余計に他の従業員には気を使うところがあった。
慎弥は目覚める気配もなく眠りの世界を満喫している。
握り締めるようにして皆野のシャツを掴んでいた手をそっと離しても、慎弥は起きなかった。気を許されていることが喜ばしいのか悲しいのか…。
こんな表情を他の人間に見せてほしくない悔しさが浮かんでくる。
岩槻は簡単に皆野の侵入を許してしまっていたが、こんなことが他の人間にも晒されるのかと思うと心中は穏やかでなどいられなかった。

軽く朝のシャワーを浴び、早目にこの部屋を出ようとベッドルームを音もなく飛び出せば、リビングルームでコーヒーをすすりながら朝刊を読む岩槻に出くわした。
まさか、6時前のこの時間に起きているとも思っていなかった。
「おはようございます。昨夜はご迷惑をおかけいたしました」
咄嗟に挨拶をする皆野に、岩槻は落ち着いた表情で微笑みかけてくる。
「早いですね…。朝食は?」
「スタッフルームの方に軽食もありますので…」
「そうですか。…でもコーヒーの一杯くらい、飲んでいかれる時間はあるのでしょう?」
この後の勤務のことは岩槻も充分に承知している。引き止めるわけではないが、暗に目の前に座るように勧められては断る言葉も浮かばなくなる。
立ち上がった岩槻が慣れた仕草で、デカンタの中に残っていたコーヒーをすぐに注いでくれた。

「慎弥は…、あの後、すぐに寝ました?」
気にかけるのはやはり『弟』のことなのか。
わだかまりを作ってしまったから余計に病んでしまうのだろう。
皆野が頷くと、ホッとした息使いが感じられた。
「草加さんにもご迷惑をおかけいたしましたね。慎弥が気を許しているのをいいことに、こんなことにまでお付き合いをしていただくよう望んでしまうなど…」
いくらホテルの従業員とはいってもここまで付き合う必要はないはずで…。
充分に理解はしているものの、押しを通してしまったのは慎弥に対する甘えでしかないと言わんばかりだ。
皆野は咄嗟に首を振った。
そんなふうに、業務上の付き合い、とは捉えられてほしくなかったのもある。

「慎弥くんのことは私も心配致します。ずっと閉じ込めてきた感情をどこに向けたら良いのか分からないのでしょう。岩槻様が新事業でご多忙になることも、理解はできても受け止めるまでには至っていないのです。今までとの生活が変わってしまう脅えがあり、加えて昨夜の叱責に心を痛めているご様子でした」
皆野が口を開けば驚いたように目を見開かれる。
直後に感心したような視線が投げかけられた。
「さすがですね。人を見る目のプロ、とでもいうのでしょうか。短時間で慎弥のことをそこまで分析できるとは…」
「彼は素直な子ですよ。隠そうとする部分は確かにありますが…。全ては岩槻様を心配させないため。お気づきでいらっしゃったのでしょう?」
唐突に告げられたことに岩槻は額に掌を当てながら束の間黙った。
第三者にここまで言われては皮肉なだけなのかもしれない。
皆野は一瞬言葉を間違えたかと思ったが、岩槻からは責められるような台詞は聞かれなかった。寧ろ感心されるだけだ。
「慎弥が我が儘を言う。私がそれを受け入れる。そうすることで『兄弟』という絆を掴んできたんです。…驚きました。まさかこんな簡単に見透かされるなど…」
「それが良かったか悪かったかの判断までは私にはつきません。ただ、私が心配するのは慎弥くんは確実に『殻』を作り始めています。それが『岩槻家』から離れるためのものなのかどうかまでは判断ができませんが…」
「『離れる』?!」
あまりにも予想外だった言葉らしく、皆野の言葉は途中で遮られた。
『事業には携わらない』云々の話は、岩槻には伏せられていた内容だったのか…。
慎弥が淡々と語ってくれただけに当然岩槻の耳にも届いているものだと思っていた。
自分を押し込むような態度になったのは昨日の話なのだろうが、少なくとも慎弥の中では以前からあった感情だと思えた。
だから皆野にも平然と『岩槻とは関わらない』と伝えてきたのだろう。

「それ、…慎弥が言ったんですか…?」
「すみません。差し出がましい口をきいたようです」
ふっ…と岩槻の表情が歪んだ気がした。
見つめた先で苦々しいような、安堵したような笑みが見えた。
「面白いですね…。慎弥が、初対面の貴方にここまで気を許すなど…」
それは、喜びと受け止めていいのだろうか…。決して責めてこないのは慎弥の意思を尊重しているからなのか…。

皆野は口にしようかどうしようかと悩んでいたことを思い出した。
今日の午後、慎弥と一緒に出掛ける、と昨夜の寝る前に約束をしたことだ。
岩槻も、本日慎弥が帰宅するかここにもう一晩泊まるかの答えを出していないと承知している。どちらでも受け入れてしまうのだろう。
なんだか、想い人の親に、外出の許可を貰いに行く人間の気持ちがものすごく良く分かる…と、この時の皆野は思った。
同じように皆野も今、保護者の許可が欲しい…と心の底から願っていたりした。

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