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BLの丘
見下ろせる場所 47
2011-08-21-Sun  CATEGORY: 見下ろせる場所
朝の食事の時間、時々騒動に巻き込まれる。
大概は先に父親と皆野の二人だけが食事を摂った。父親と顔を合わせることに躊躇いを持ったのはいつまでだったのか。
岩槻が滅多にこちらの家に寄りつかなくなったもので、すっかり話相手にされている。その気安さも馴染みやすい。
今ではそれぞれ、直接動向を話せるといった点で貴重な時間になっていた。(今更内緒にする話もない)
ビシッとアイロンのかけられたワイシャツの、襟元も留めていないようなラフなスタイルで気軽な朝食。その端で話の邪魔をしないようにと母親が遅くなる自分や慎弥の食事の準備を進める。
その静かな食事風景の中に、たまに慎弥が早起きをすると、慎弥の賑やかな声が2階から響き渡る。
「おかーさーんっ、靴下がかたっぽ、ないーっ」
「研究所用のはちゃんと別の引き出しに入れてあるはずでしょ」
「だって見つかんないんだも―んっ」
2階から大声を張り上げる慎弥の声は、充分なほどダイニングに届く。
お茶の用意をしかけた母親が出入り口の扉から上に向かい、やはり声を張り上げるが返される声は半分泣きペソだ。
そこを脇から父親が、「数をもっと買ってやればいいだろう」と母親を諭している。
責めるべきはきちんと探そうとしない慎弥ではないところがまた素晴らしい…と感心している時ではない…。皆野は父を相手にする母親の手を煩わせたくもなく、すぐに立ち上がった。
「ちょっと見てきます」
「引き出しに全部揃えて入れてあるのよ。朝慌てないように、寝る前に枕元に用意しておきなさいって言ってちょうだい」
慎弥の部屋については皆野も詳しくなった。この台詞もこの家に来てから何度聞いたことか…。
しかしながら、昨夜用意をする前にベッドに誘い込んだのは皆野だ。返す言葉も見当たらない。

かつてはその作業は岩槻の役割だったのか…などと、ふと思ってしまう。
欲望が突っ走る皆野とは、慎弥に対する理性の持ち方と冷静さが違いすぎた。
それを比べられているようで悔しくもあるのだが…。

慎弥の部屋に入ると、引っ張り出した衣類があちこちに散乱していた。
慎弥なりに目的のものを探していたのだとは理解できるが、もう一度仕舞い直す余裕まではないらしい。
「みなの~ぉ」
時間がない焦りが伝わってくる。
岩槻と同じことができない不甲斐なさを感じ、慎弥に対して申し訳なく思うのだが、困った光景を見ては頼られることに胸を躍らせる自分はマヒしてしまっているのか…。
「片方の靴下はどこにあったの?」
床に散らばった服の間に隠れていないかを確認しながら、ベッドの上に放り投げていく。
研究所に入る日、時によって濡れてもいいようにと何枚もの着替えを用意する日がある。ボストンバッグが出ているのを見れば、今日がその日なのだとはすぐに判断出来た。
「白衣と一緒に…」
「白衣は?」
「もう入れちゃった…」
バッグに視線を投げられたことで、皆野は先にそちらを確認することにした。
一度詰め込まれたものを全て出しきってしまえば、数着の着替えの間から迷子になったような片方の靴下がポロンと出てきた。
「あっ」
慎弥は一瞬パッと瞳を輝かせたが、黙ったままそれを持ち上げた皆野を目にした瞬間、引き攣った笑いを浮かべつつ、「おかーさーん、ごは――んっ」と部屋を飛び出していく。
慎弥の照れ隠しであるのは分かるのだけれど…。
とりあえず無事片付いたことに肩から力が抜ける。
ボストンバッグに荷物を戻し入れ、出しっぱなしの衣類を乱雑ではあるがたたんでいると、母親が顔を出してきた。
惨状に大きな溜め息が零れてくる。それから手を止めさせられ促された。
「またこんなに散らかしてぇ。皆野さんもごはん、食べちゃって。ここは後で私がやるから」
「ですが…」
「慎弥はあなたに甘えたいだけなのよ。たぶん口実を作ったんじゃないかしら?…さぁさぁ、急いで。責任者が遅刻なんて話にならないわよ」
背中を叩かれては留まることもできない。
何もかもを理解している母親の台詞は今日も優しい。
慎弥が最初にあげる第一声は母親を表していても、根の奥は皆野なのだと伝えてくる。

岩槻が先に全てを整えてしまっていたせいなのか。この程度のことで慎弥が騒ぎ立てることはこれまでなかったようだ。
そのことは皆野を落ちこませもしたが、そんなことでも子供のように正直に感情を表してくる態度は誰にとっても喜びの一つだった。
居場所を探して彷徨うわけでもない。
慎弥が一人でやりこなそうとするのは成長の証でもあるのに、皆が甘えてくることに安堵の息をつく。
それこそが、ありのままの慎弥なのだと思わせてくれたから…。

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足踏みしている…(汗)
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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-08-21-Sun 21:13 [編集]
皆野サン、岩槻家にしっかり居場所ができて、というか
初めっからいたみたいにしてますね
お兄ちゃんは最高の弟婿との出会いだったようだし
仕事の片腕としても有能だしいうことありませんよ
こういうの逆玉っていうのかな
しんちゃんは相変わらずだけど
適当に甘えたり寄り掛かったりしながら
彼のテンポで成長していくって気がします
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-08-22-Mon 07:22 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 皆野サン、岩槻家にしっかり居場所ができて、というか
> 初めっからいたみたいにしてますね
> お兄ちゃんは最高の弟婿との出会いだったようだし
> 仕事の片腕としても有能だしいうことありませんよ
> こういうの逆玉っていうのかな
> しんちゃんは相変わらずだけど
> 適当に甘えたり寄り掛かったりしながら
> 彼のテンポで成長していくって気がします

すっかり家族の一員になりました(笑)
慎弥の無茶ぶりもたまには役に立つ(?!)
さすが面倒見てきた『弟』ですね。見る目があるというか…(爆)
逆玉っていうんですかね~。
まぁ、本人、そんなこと考えていないでしょうが。
慎ちゃんは成長していくんですかね~(←
マイペースなのは確かですね。
コメントありがとうございました。
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