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BLの丘
見下ろせる場所 48
2011-08-22-Mon  CATEGORY: 見下ろせる場所
時の流れは早い。
皆野は岩槻の指示に従う部分も多くあったが、自らの意見を押しとどめたりもしない。発展させようとするからこそ。
状況や立場をわきまえた上で、岩槻に提案することも多々ある。良いか悪いかはまた別の問題だ。
こちらの業界においてまだ知らないことが多い皆野にとって、戯言の部類であるかもしれないが、岩槻は真剣に聞いてくれたし、容赦ない意見も言ってくれる。
意見するからこそ気付かされることもある。
燻らせずに新しい視点へと変えさせる意見交換があるから、皆野も切り替えが素早くできた。順応力もある。そのことが尚更皆野を周りの人間よりも上へと昇り詰めさせる要因となったのかもしれない。
普通の企業であれば、思い悩んでいるだけで長い時間を使ってしまうのではないだろうか…。もちろん、岩槻と言う、身近な立場がフォローしてくれているところは過分にあるが。
直接申し渡されることは嫌味でなく安堵感として皆野自身の考え方を変えていた。
また、自分が言うだけではなく、言わせる。
部下が何かを言いたそうなことに気付けば黙らせるようなことはしない。そこも皆野の人柄の良さが発揮される。
一瞬の迷いが他社から遅れを取ることもあった。スピード感はこの業界に入ってから改めて知らされたことだ。
人とは、言わなければ伝わらないことは多々ある。
それが良いと判断されるか否と言われるかはまた別問題として…。声を上げることは悪いことではないと皆に浸透させた。
岩槻同様、皆野も失敗以外の事で声を荒げることはなかった。
常に沈着冷静に物事を判断する力…。一目を置かれる存在になるまでに、長い月日はかからない。


たった1年という短さで、皆野は『統括部長』という、組織全体を見渡す位置に昇格していた。
もうすでに『営業部』という部分的な部署を離れている。
どちらかといえば運営する岩槻に近い。
『雇われていた』側から、『雇う』側に変わったのだ。
岩槻は徐々に、その術を皆野に教え込んでいた。営業社員や顧客を見張らせたのも戦略の一つだった。
人を見やる配慮の仕方は他を抜く。社員に対しても顧客に対しても…。
ますます力をつけた皆野の立場は、『営業部』の中では持て余す存在とまでなっていた。
居づらさを感じる前に岩槻はさっさと配置換えをした。まさに、文句を言わせない実力をつけた上での人事異動だ。

岩槻の計画性の高さには本当に閉口する。
営業部で叩き上げ、社内外の動向を把握させて、状況を素早く認識させる力を付けさせる。全体の動きを視野に入れさせたうえでの上層部への引き込み。
現場を知るからこそ、上辺だけの意見を述べないこと…。
皆野が活かせるものを最大限に引き出した。
ここまで見出してくれたことにも感謝しかない。

皆野は岩槻とデスクを並べる存在となっていた。
一日の中でこの部屋から出ることはまずないくらい、内勤の仕事に追われている。
正確には岩槻の秘書的存在といえるのだろうか。
そつなく動き回る姿は誰からも一目置かれている。仕事を越えた上でのプライベートな付き合いがあるから尚更、他の人間とは違う親密さが滲み出る。
公私混同するつもりはなくても、どことなく表れてしまうものなのか。時に考えてしまうこともあるが、岩槻が気にしないので皆野も細かいことにこだわってはいない。

皆野の人柄の良さは、社員の言いづらいことも口にさせる術すら持っていた。
あからさまに岩槻に伝えることはないが、それとなく話ぶりから内容は伝わっていく。
岩槻は取り立ててその話題をあげることもなく、そっと回避策を巡らせる。
まるで、ナントカの仕事人だな…などとのんきなことを思っている皆野だったりするが、全てを丸く収めようとする力は見習うことが多かった。

「早く帰って」
就業時間を過ぎ、今日も岩槻は皆野を促す。待つ人間のことを岩槻は知り過ぎるほどに知っている。
「たまにはいらっしゃったらいかがですか?」
皆野が世話になっている家の、実の息子は目の前の男だ。突然の帰宅だって困られることなど何一つない。それどころか喜ばれる存在のはず。
皆野が誘うと、ニコリと笑みを浮かべたが、「行く時は先に連絡を入れますよ」と母親の準備の事を気遣う。
これも家族愛…と言ってしまっていいのだろうか…。
皆野はそれ以上の事を口にできなかった。黙っていても繋がっているものは見えてくる。

岩槻が幸せでいいと思えるなら、口出しもしないという両親の態度。同じように、慎弥の近くにいる皆野に対しても『息子』という意識が芽生えている。
「今度ゆっくり飲みましょう」
岩槻に誘われて、皆野は何度も頷いた。
岩槻家の中に入った喜びと、岩槻が近くにいてくれるという安堵。
知らずのうちに、彼の存在は皆野の中で大きくなっている。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-08-22-Mon 12:12 [編集]
さすが皆野サン、
身内ってだけで側近になってるんじゃなくて
ちゃんと実力で会社での地位も築いていったんですね
こう言ってはナンですが
お兄ちゃんにとっても得難い人材だっと思います
皆野サンはよき伴侶と共に家族も職場を得て幸せですね
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-08-23-Tue 08:42 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> さすが皆野サン、
> 身内ってだけで側近になってるんじゃなくて
> ちゃんと実力で会社での地位も築いていったんですね
> こう言ってはナンですが
> お兄ちゃんにとっても得難い人材だっと思います
> 皆野サンはよき伴侶と共に家族も職場を得て幸せですね

ちゃんと力をつけている皆野です。
文句言わせねーぜってとこに持って行ったのはお兄ちゃんだけど、素質は十分ありましたね。
見込んだから引きこんだのか、慎弥のそばにいる許可を与えたのか(?!)
とっても良いお買い物をした気分のお兄ちゃんです。きっと。
大事な弟も見てくれるしね~。
文句のつけどころが一つもないよ~。さすがです。皆野サン。
人を見る目があるんですね、この人…。
今後も頑張っていただきたいものです(←)
コメントありがとうございました。
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