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BLの丘
ただそこにいて 2
2011-08-27-Sat  CATEGORY: ただそこにいて
同じ社員とはいえ、班が違うと面識はあってもなかなか話す機会がない。
上司同士は色々な機会で話すこともあるようだが、単純作業を続ける俊輔たちには、早々交流の場もなかった。
たまに行われる飲みの席などで、違う班の人間を知ったり、人事異動で人が入れ変わって、新しい人物を紹介される。
あとは社内報などで、写真だけの人を知った。
身近にいる班の中の人間とはいやでも親しくなるし、そんな中で吉賀の存在は特質だった。俊輔が勝手に思っていることも過分にあるけれど…。
職場と寮の往復。それがここで働く人間のほとんどの生活パターン。
人のことなんて気にしなくていいはずなのに、吉賀は色々な人とマメに会話をする。
そこも彼の人間性が表れていた。
突き放されていたら、感情もない淡々とした日常と諦められたのかもしれない。でも、それをさせてくれない吉賀がいる。
放っておいてほしい時ですら、こうして何かと手をかけてくれようとする。
吉賀の人の良さは、こんなときほど良く見えて、気付かされた。
同じ班で、理解しているからこそ、嬉しくも悲しくもなることにもなる。
決して上辺だけではない。本心から心配されていること。

「座薬が一番早いかな」
津和野はぐったりとした俊輔を見下ろしてくる。
何やら薬を考えているらしいが、その詳しい内容までは今の俊輔に把握などできない。
「ん…」
とにかく楽になりたい気持ちがあった。だから曖昧な返事になってしまったのだろうか。
認めたともいえる台詞を吐いた後では否定のしようもなかったのだけれど…。
いきなりユニフォームの下衣を引き下ろされては拒絶の言葉が室内に響き渡る。
「な――っっっ?!」
横向きに寝転がされて臀部は剥き出しだ。
おおっぴろげに晒されているわけではないが、自分でも見えない場所が他人の目に触れるのは問題だ。
熱も吹き飛ぶ。
ましてや…、吉賀がそこにいる…。
せめて治療行為に第三者を遠ざけてほしいと思うのは我が儘なのだろうか…。
性急な行為には、早く直してやりたい気持ちも伝わってくる。休むほど給料は減る。無理をして立ち尽くした俊輔の意思まで汲み取っているかのようだ。

高卒で働きだした俊輔には、仕送りをしている母と妹がいた。
母はパートで働いてはいるものの、安定した収入があるわけでもない。妹はまだ中学生だ。せめて自分が出たように、高校だけは出してやりたかった。
父は…、行方が知れなくなって何年も過ぎる。暴力団関係の借金を残していかなかったことだけ、感謝した。
同じように働く人の中に、自分の身柄も何もかもを拘束された人がいることを知って身震いをした。
逃げ出すこともできない人がこの工場にはいる。自由も給料も本人には与えられない。彼らよりはずっと幸せだと感じさせられた。
家庭環境を言いふらしているわけではないが、自然と吉賀と津和野は知っている。
だからこそ、一日でも無駄にできないことも…。
そして、こんな身で吉賀に思いなど言えないと、俊輔は根底から諦めていた。

「大人しくしてっ!薬を入れたら終わるからっ!!」
はっきりとした津和野の物言いに返す言葉も見当たらない。津和野にとってはただの医療行為にしか値しない。
双丘を指で割られる感触と、小さな異物が入り込んでくる痛みに体が硬直する。
異物を吐き出そうとする力に、指が食い込んできた。
「あぁぁぁぁっ」
「少し我慢。今出したら、意味がないからね」
俊輔が痛みに喘ぐのも、全く気にした様子もなく、体の奥に馴染ませるようにと指は抜けず、座薬が埋もれていく。
こんな場所に、平気で指を突っ込めることに逆に感心したくらいだ。
痛みがあったけれど、つるっと潜り込んできた存在に深い吐息が漏れていく。
「…っんぅんっ…ん」
「はい、終了。あと二日位は安静だね。まだ熱が高いようだったら座薬、入れて。水分、こまめにとることと…、あ…、会社に来ないとご飯もないかな?」
津和野は用意してあった布で指を拭きながら今後のことを話してくる。
剥き出しにされた尻が下着などの布で覆われた。羞恥心はあるが、呆気ない幕引きと意識の朦朧さで、どうでもいいことに思えてくる。
独身寮の一人暮らしなんてだいたい想像ができるといった感じだ。
休憩時間の昼食はもちろんのこと、朝から食堂は開いていたし、勤務終了後も夕食を提供してくれる。
それこそ、身ひとつで就職できる環境だった。
働いている限り、制服の支給もあり、食事も給料天引きで衣食住は保証されている…とでもいえた。
日々の食べるものに困った俊輔にとっては贅沢過ぎて、呼べるものなら母と妹を連れてきたかったくらいだ。
「メシ、届けてやるよ。今はゆっくり休めって」
吉賀からあまりにも意外な言葉が漏れて、口がぽっかりと開く。
親切な人間だとは以前から知っていたが、まさか、こんなことまで言われるとは思ってもいなかった。
「な…、…、俺、平気…」
「これのどこが平気だよ。一人で動けもしないくせにさっ」
吉賀はどことなく悔しそうに言葉を発する。
その悔しさは、同じ班にいながら異変に気付けなかった後悔なんだろうか…。
勝手な勘違いが生まれそうになって、必死で押し留めた。

津和野の手が、布をまとった薄っぺらい尻を静かに撫でた。
薬を馴染ませるおまじないみたいだった。
「津和野センセーっ!いい加減にしろってっ!!」
一連の行動を見ていた吉賀が途端に奇声をあげるが、全く意に介していない津和野だ。
「俊くんを連れてきたのはキミ。診察しているのは俺。触診は大事」
津和野は平然と言い返しながら、抵抗できないでいる(するきもない)俊輔の体をさすった。
「つか、触りてーだけじゃんよ―――っ」
なんとなくやけっぱちになって反論する吉賀の姿が可愛い。
いつでも感情を剥き出しにする吉賀だが、こんな風に機嫌を悪くした姿を晒すのは珍しかった。
どちらかといえば場を和ませる雰囲気のほうが強い。
慣れた医師に触れられて嫌と言うものはないけれど…。
強い口調で異議申し立てをされていることが、余計に心配されているようで単純に嬉しいことと感じた。
熱でぼーっとしているというのに、「おまえもなんか言えよーっ!!」と吉賀の悔しそうな言葉が振り下りてくる。

何か言え、と言われて、何をどう言えばいいのかすら分からないでいる俊輔である。

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不幸物語じゃないと思うんですけど…。身売り…とか考えたらきりがなくなってきた…。どうしよう。
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