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BLの丘
ただそこにいて 4
2011-08-29-Mon  CATEGORY: ただそこにいて
明らかに今、俊輔の唇に触れていたものは、津和野の唇だった。
気安く語りかけてくるし、ボディタッチも平然と繰り返す津和野だったけれど、さすがに今の行為は過剰ではないかと疑問が湧く。
「せ、…んせ…?」
僅かばかり潤った喉の奥から掠れた声が漏れた。
眠りにつく前より、いくらか体が軽くなった感じがしたが、体を気遣うより状況の方に神経が向く。
よくよく考えれば…、いや、考えなくても、俊輔が誰かと唇を触れ合わせるのは初めてのことだ。
そのことに俊輔自身が気付かなかったけれど…。

「水分を摂ってって言ったのに、何も飲んでいなかったの?もっと欲しいでしょ」
確かに喉は乾いている。
水気がある場所に舌が伸びてしまったことから、津和野は判断出来たようだ。
津和野からの質問に素直に頷いてしまうのは、熱のために思考能力が低下しているからか…。
考えるよりも先にとられる行動に、俊輔はただ流されていた。
津和野はペットボトルのスポーツ飲料を口に含み、仰向けで寝転がったままの俊輔の上に、再び覆いかぶさってきた。
少しずつ流れ込んでくる液体は俊輔が飲み下せるように、なのか、溢れることもない。
この行為が”おかしい”と気付くべき所なのに、俊輔はあたりまえのごとく受け入れていた。
熱のせい、と言ってしまえばそれまで。世間知らず、という言葉も当てはまるかもしれない。
少なくとも、座薬を入れるために、指まで突っ込まれる必要がないことを、俊輔は知らなかった。

「なーにしてんだっ!!このエロジジィっ!!」
3度目の”吸水”の最中、突然部屋に響き渡った声。
誰かが部屋に入ってくる物音すら気付かなかったのは、津和野とのやりとりに夢中になっていたせいだろうか。
吉賀の登場で夢見心地だったような世界から引きずり出された気分になった。
ここでようやく、俊輔は”医療行為”としてはおかしいことに気付いたのだ。
「んっ…」
吉賀に見られたことも俊輔を慌てされた。抵抗する仕草など、ひとつも起こしていない。
津和野との仲、という誤解を与えたと思った。
給水作業を途中で中断した津和野の喉がコクッと鳴る。
残った分は津和野が飲みほしたらしい。
「よくここに入ってこられたじゃない」
大股で歩み寄ってきた吉賀に、何も変わることのない態度で津和野が語りかける。
「俊輔から鍵預かってたからな。俊輔、まだ眠ってると思ったのにっ」
鍵を預けた覚えはないが、俊輔が眠りに落ちる前に、コンビニに行ってくると出ていった時に、戸締りをしていってくれたのだろう。
『まだ眠っている』とは、眠っている最中にも一度来たことを意味していた。
それを言われると、どうして津和野がここにいるのかの方が不思議になる。

ベッドの端に腰かけた姿勢で、津和野の掌が俊輔の髪を梳いた。
「寮の鍵を勝手に増やしたり他人に渡すことは禁止のはずだけど?」
こちらはこちらで、俊輔と吉賀の間柄をしっかりと咎めてくる。合い鍵を作ったわけではないが、そう捉えられてもおかしくない吉賀の発言だった。
「ちが…」
「俊輔を責めんなよ。俺が勝手に持って行っただけだし」
ふくれっ面の吉賀も同じように俊輔の額を撫でる。熱を計っているといった感じの手の伸ばし方だ。
さりげなく庇ってくれる優しさに、またジンときていた。

「せ、せんせ…は、どうやって…?」
吉賀に対して、自分が入れたのではないという誤解を晴らしたかった。今の状況では、完全に津和野とのことを疑われている。
口移しで水分を与えられていた現場を見られているのだから、言い訳も何もあったものではないが…。
「俺は管理人に開けてもらったから。患者を診るのが仕事ですからね」
「どうせ中から返事がないのを理由にしたんだろ。『意識がないかもしれない』とか言ってそうだよな」
「犯罪者みたいに言わないでくれるかな」
「つか俊輔っ!意識あるくせにキスまでされてるって、なんだそりゃっ?!」
「あ…、と、え…と…」
「俊くんは大人しく身を任せてくれる。本当に可愛くていい子だよ」
「体調不良に付け込んでるだけだろーがっ。そんな簡単に体明け渡すような奴じゃないんだよ、こいつはっ」
「さすが『同僚』。よくご存知で。という君も、夜遅くにやってくるなんて夜這の練習?」
「一緒にするなっ」
二人が交わしていく会話に入り込めず、俊輔は布団の中で余計に体が火照っていく気分だった。
恋愛ごとに関わっていられる余裕がなかった俊輔の知識は同年代の人間に比べて少ない。
吉賀に気持ちを伝えられないのは生活の苦しさもあったけれど、未熟すぎて呆れられるのが怖かったこともある。
こうしてやってきてくれたのも、単なる親切心なのだと思っている。
分かっていたけど、『夜這』という言葉のあと、その気がないと告げられるような『一緒にするな』発言は、俊輔の中に小さな影を落とした。
毎日吉賀の姿を見られることが幸せなのだ。
勘違いしそうになる弱った心に、俊輔は再び喝を入れた。

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