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BLの丘
ただそこにいて 3
2011-08-28-Sun  CATEGORY: ただそこにいて
再び担がれるようにして寮に戻った。
ロッカーから取り出した私物の中から、吉賀は部屋の鍵を見つけ出す。
狭い部屋で、寝る場所なんてすぐに知れる。シングルサイズの小さなベッドの上に下ろされて、勝手に弄った先から濡れタオルを持って来られた。
額に触れたそのひんやり感が気持ち良かった。

「ありがと…」
「気にすんなって。ちょっとコンビニに行っておかゆでも買ってくるからさ」
「あ、い、ぃよ…そんな…」
「食うもん、食わなきゃ倒れるだけだって」
俊輔の意見なんて聞かない素振りで、吉賀はくるりと部屋を見渡す。
会社から支給…ともいえるべき、小さな家具類があるだけだ。壁に沿うように置かれたテレビと衣類をかけるためのパイプハンガー。申し訳程度につけられた二口のガステーブルの上に一つの鍋が乗っている。
身を折らなければ入れない浴槽のあるバスルームには、一本のロープが引かれていて、共同の洗濯機で洗われた洗濯ものが干されていた。
生活の全てを見られた気がして、今更ながらに情けない思いが胸の中に湧きおこる。
単調な労働を同じようにこなしているはずなのに、吉賀が見せる雰囲気は明らかに俊輔とは違っている。
上司にすらため口をきく堂々とした振舞いか…。
クビにされたくないという思いが強くて、俊輔はいつも控え目でいたことにふと気付いた。
だから余計に、吉賀の態度に羨望の眼差しと憧れが混じった。
仕事に誇りを持って働いている人は山ほどいる。卑屈に考えてしまうのは自分が『支払う』ものを抱えているからなのだろうか…。

パタリと玄関ドアが閉まると、吉賀がいた緊張から解き放たれたのを感じた。
同僚として、友人として見てくれるだけでもありがたい存在の人だ。
ふぅっと大きな溜め息が零れる。
…みっともないところを見せちゃったな…。
すでに知られていることとはいえ、部屋の中まで入られると、恥ずかしさのほうが込み上げてくる。
気持ちを寄せた相手だから余計に、もっと人間らしいところを見てほしかった。

薬がきいたのか、布団の中で俊輔は眠気を覚えた。
ボゥとする体が鉛のように重たい。
のどが渇いたな…。そう思うのに動く気力もなく、瞼を閉じれば闇に吸い込まれる。
吉賀が戻ってくるかもしれない…。
待っていなければ、と気遣うが、閉ざされる視界と弱った精神は世の全てを投げ捨てていた。

ピチャリ…と音がした。
乾いた喉の奥が潤う感覚に、必死で求めるように注がれるものを嚥下した。
自分の体に熱があるからか、触れてくる唇にひんやりとしたものが当たる。
それが唇だと理解できたのは、瞼を上げたあとのことだった。
目の前にある顔が、様子を確かめるように凝視している。

俊輔の前にいたのは、自分を診てくれた津和野だった。

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すいません。とりあえず、今日ここでup…。
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