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BLの丘
ただそこにいて 18
2011-09-11-Sun  CATEGORY: ただそこにいて
同僚…、友情…。とは違って普段寄らないほどの近さ。
目の前に広がる吉賀のドアップに俊輔が怯む。
「俊輔…」
逃げようがなかった。
唇に触れてくる少し硬くて…だけど温かなもの…。
まるで追い求めるかのように枯れた心が縋っていく。

触れたものが吉賀の唇だと認識できるまでにどれだけの時間を要していたのだろうか…。
指の一つも動かせないまま、迫りくる吉賀の存在を感じる。
舌先が俊輔の口内に差し込まれて、初めてのことに驚きで身が竦んだ。
ぴちゃっと濡れた音がした。
僅かに離れた隙間で、相手を呼ぶ声がする。
「よし…」
「嫌か…?」
焦点すら合わないところで囁かれたこと。
吉賀を拒絶する意思なんて一つも存在しないのに、突然のことに受け入れられない動揺が俊輔の中を走り抜けた。
控え目がちに伏せられた吉賀の睫毛が見開いた俊輔の視界に飛び込んでくる。
いっぱい考えようとするのに、思考は何一つ追いついていかない。
「よし、か…」
「俺、俊輔のこと、好きだ…。先生が身の周りのこと、全部やってるの知って、すげぇ悔しくて…っ」
溜め込んだような心情が苦しげに発された。
俊輔にすれば思いもよらない発言で…。それこそ思考がついていかずに呆然とする。
握られた拳に視線が落ちた。
「それとなく、先生が俊輔の世話をやいてるってぶちまけたの…、俺…」
不協和音の原因は自分にあると懺悔した吉賀に一つの声も出なかった。
今、明かされた事実をどう受け止めたらいいのだろうか…。

俊輔は呆然としながら目の前の男を見つめ返していた。
何一つ結びつかない脳裏がある。
一つずつ整理していかないと…。
俊輔が倒れたこと。津和野があれこれと世話を焼いてくれたこと。その半面で気を揉んでいた吉賀。更に遠巻きに事態を見ていた倉岳。そして倉岳から発された蔑みの声…。
倉岳を煽る為に発言されたのか…、俊輔と津和野のやりとり…。

「よし…」
「ごめん。悪いと思ってる。でもまさかこんなふうになるなんて…。今までみたいに笑って済まされることかと思ってた。でも倉岳さんには違った…」
浅はかだった…と吉賀は後悔する態度を滲ませた。
吉賀の中では、軽い冗談のつもりで、いかに津和野が俊輔の面倒を見ているかを伝えたに過ぎなかったのだろう。
しかし、いざ俊輔の姿を見た時の倉岳は、憎悪の塊になっていた。
完全な嫉妬の表れで、さすがにそこまで吉賀も想像していなかったというべきか…。気付かされたというほうか…。

だけど今の俊輔の中で重要視されているのは倉岳のことでも津和野のことでもない。
さらりと言ってくれたが、『俊輔のこと、好きだ』…というそれは…。
俊輔が思っていることと同じことなのだろうか…。
間近にある体が、これ以上触れてもいいのかと躊躇いを含んで佇んでいる。
一度触れた唇や抱きしめられた体があるのに、戸惑われるのは、俊輔の気持ちが確かめられないから進めない…ということなのだろうか。
いつだって強引に進めてくるところがある。津和野とは全く違うけど、その強引さに惹かれたところもある。
でも今は、戸惑いの中に埋もれている。

恋愛ごとなんて無縁だった。
憧れているところがあっても叶わない夢のような空間。
ましてや、思っていた相手から告げられること…。

でも阻むものがある。
吉賀と一緒になることなどできない。自分の苦労を押し付けてしまうようで、気持ちなんて言えるはずがなかった。

「ありがとう…」
唯一言葉にできたこと。
倉岳とのことを気遣ってもらい、さらに俊輔のことも考えてもらった。
正直に告げてもらった吉賀への感謝の言葉だったのかもしれない。
そしてそこには、吉賀の気持ちには答えられないという、…拒絶。

「俊輔、それって俺じゃダメってこと?やっぱ先生が良いってこと?」
小さな拒絶は大きな誤解を与えている。
そんなことはないのに、まだ自由になれない自分をどこかで感じるから、そのことに撒きこませたくない予防線が間違った思考を生みだした。
「吉賀…、ちが…」
「ちがわねーだろっ!!そういうことじゃねーのっ?!俺じゃダメだけど先生なら何だって許せるってことだろっ?!」

どうしてこのように間違った方向に思いが進んでしまうのだろうか…。
倉岳といい、吉賀といい…。
もっとちゃんと聞いてほしい…。沸き立つ感情のおもむくままでなく…。

フッと津和野の存在が思い出される。
比べるわけではないけれど、黙って受け入れてくれた存在はあまりにも大きかった。
それを知るのだろう。再び寄った吉賀が唇を触れ合わせる寸前で囁く。
「俺、俊輔のためなら、なんだってする…」
返そうと思った言葉は、吉賀の口腔に飲みこまれた。

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吉賀も我慢の限界が…。
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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-09-11-Sun 22:16 [編集]
吉賀さん、思ったより結構子供っぽいんですね
愚痴まじりに倉岳にこぼしてしまうし
嫉妬心いっぱいになり俊輔の言葉も聞かないし…
今、津和野先生たちはどうしてるんでしょう
あっちはあっちで誤解したりもめたりしてそう
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-09-12-Mon 07:37 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 吉賀さん、思ったより結構子供っぽいんですね
> 愚痴まじりに倉岳にこぼしてしまうし
> 嫉妬心いっぱいになり俊輔の言葉も聞かないし…
> 今、津和野先生たちはどうしてるんでしょう
> あっちはあっちで誤解したりもめたりしてそう

吉賀はお子様ですね。
感情まかせに動いてしまうところとか、いいたいこと言っちゃうとか。
俊輔の言い分も聞いてほしいところなんですけど、今はやっぱり自分の気持ちのままに動いてます。
津和野先生たちは…。何してるでしょう。
あっちは大人ですからね~。
うまく手のひらの上で転がして…(え?ちがう?!)
誤解があってももめてもそこは津和野先生です(`・ω・´)ノ
コメントありがとうございました。
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