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BLの丘
ただそこにいて 15
2011-09-08-Thu  CATEGORY: ただそこにいて
翌日倉岳は出勤してこなかった。
朝吉賀と顔を合わせると心配そうに俊輔を見てくる。
昨日の騒動を知る周りのみんなは、俊輔の方が休むんじゃないかと思っていたらしい。
それくらい気落ちして帰っていく後姿を見送っていた。

自分で避けてしまった吉賀に俊輔から近付くと、硬かった吉賀の表情が俄かに緩んだ。
「俊輔…」
「あ、吉賀…、昨日はごめんね…。俺、ちょっと色々考えちゃって…」
「ん…。良かった…。夜にさ、津和野先生が来て…。あの後、会った?」
俯き加減で話しかけた俊輔に、吉賀は周りに気遣って小声だ。
俊輔が出勤できるまでに回復したのは津和野が関わったからだろうとは、吉賀も気付いている。
津和野と吉賀のやりとりは、詳細まではなくてもどんな内容だったのか、想像がついている。知っていると、頷く程度に留めておくと吉賀も理解したらしい。
今回のことには吉賀も振り返りたくない内容が含まれていたから、さりげなく「判った…」と返すだけで、それ以上口にはしないでくれた。
今は俊輔が出勤してきてくれたことで満足を得たいようだった。

しばらくしてから班長の元に、倉岳を津和野が預かっていると連絡が入った。
もともと無断欠勤する気だったらしいのを津和野が捕まえたとのことだった。
酷い言われようはしたが、やはり言葉に出した倉岳自身も本心では傷ついていたのではないかと俊輔は思う。
だから顔を合わせづらいと感じたのは倉岳のほうで…。それが『欠勤』しようという考えに向かったのではないだろうか。
今まで積み上げてきた職場での仲間という存在位置があるだけに、こんなことでお互いがギクシャクするのは残念であるように感じた。
何が原因だったのかは、津和野が明らかにしてくれるだろう。
俊輔の気持ちを元に戻してくれたように、津和野であれば何かの魔法を使ってくれるのではないかと期待してしまう。
あとは倉岳の気持ち次第なのかもしれないが…。

昼飯の時間、食堂の席は大概同じ班の人間同士で固まってしまう。
もちろん交流のある人間もいるわけで、この時間に班以外の人と約束している…なんて光景も見受けられた。
昨日の事があるからなのか、吉賀はできるだけ、というように、俊輔からあまり離れようとしなかった。
誰かに掴みかかられるような事態は未然に防いでやる、くらいの意気込みらしい。
そのことは俊輔にとってとても嬉しい出来事ではあるのだけれど…。

今も8人掛けのテーブルの端を陣取り、向かい合って座っている。
「俊輔、今夜、二人で飲まない?」
まるでかき込むように食べる他のみんなを尻目に、席につくと目の前の吉賀が俊輔に語りかけた。
ようやく味噌汁に手をつけたばかりの俊輔は突然のことに汁椀を口元に寄せ、その上から吉賀を見返す。
「?」
視線だけで吉賀は俊輔が抱いた疑問を理解した。
「たまには良くない?俺の部屋にくればいいし」
いつもの元気いっぱいの声よりもワントーン落とされた声音は、周りの人間を自分たちの会話に入れたくない心情が表れている。
昨日、あからさまに俊輔と吉賀、という組み合わせを口にされたこともあるからなのだろうか…。
だったら何もこんな人気のあるところで話を出さなければいいものを…と思いつつ、少しの人間でもさりげなく話が伝わっている方が隠し事をしていないと言っているようなものなのか。
堂々としていることで妙な噂が立つこともない。

仲間内で誰かの部屋に集まって雑談をすることもある。
吉賀の部屋に行くことも初めてではない。
別に会社と寮が生活の全てではないから、当然外の店に飲みに出る人もいるし、外泊をして帰ってこない人もいる。
ただ、俊輔の状況を知るからなのか、誘われる時はほとんど寮の部屋内で軽く飲んで気晴らしをする程度だった。
一応、割り勘を前提にしているので、相応の金額は受け取ってくれるが、明らかに控え目な金額を告げられることばかりだ。
吉賀が頑なにそれ以上を受け取ることを拒否するので、俊輔も甘えさせてもらってきた。

「ん…。どうしようかな…」
「俺、俊輔と飲みたい気分なんだけど…」
考える仕草を見せる俊輔に、ご指名で呼ばれては悪い気はしないし、それどころか嬉しすぎるくらいで、俊輔の心臓がドクンっと跳ねる。
こんなふうに誘われたことなど過去にあっただろうか。
「…う、ん…」
ここまで言われて断ることなんて俊輔にはできるわけがない。静かに頷くことで返事をすると、吉賀がニコリと笑みを見せる。それだけで俊輔は顔が赤くなりそうになって困ってしまう。
やっぱり吉賀の俊輔に対して近寄ってきてくれる態度はほんわりと俊輔の心を温かくしてくれるものだ。津和野とはちょっと違う。
たぶん今日も、昨日遠ざけてしまった二人の間を埋めたいからこそ、なんだろうと察しがついた。
噂にされることは吉賀にとって迷惑な話なのだろうが、実は少しだけ嬉しかった気持ちは俊輔の心の奥底に押し込められる。

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