よほど疲れたのか、俊輔は起きる気配がない。それは伊佐にとって良くもあることだったが。
ベッドに寝かしつけると安定した寝心地に体から力が抜けていった。
安心して眠る俊輔の脇に、万一のために小型の機械を置いて伊佐は寝室を出る。
待合室には壁に沿うように背もたれつきの椅子と、あとは幾つかの長椅子が並んでいるだけだが、その端に吉賀は腰かけていた。
前かがみになり、膝に肘をついて頭を抱えている。
伊佐の物音に、はじかれたように顔を上げた。
「飲み物を用意してあげられる時間がなかったんだけれど」
病院は休みだったし自分たちだって今帰って来たばかりなのは流れからして分かるだろう。そして話をさっさと進めたい気持ちも…。
「いえ、結構です…。それより俊輔は…」
立ち上がりかけた吉賀を掌で制して、伊佐も一人分のスペースを空けて隣に腰を下ろす。
「良く眠っているよ。うなされなければいいけれど」
「うなされる…って…?」
吉賀は俊輔のことが心配なのか気にかけてくるが、それに対して伊佐は盛大な溜め息で答えた。
怒りよりも呆れだ。淡々と語れるのは医師としてのプライドだろうか。
「君は俊くんに何をしたのか分かっているの?体を傷つけただけでなく、トラウマになるほどのものを植え付けたんだよ」
「え…?!」
「人に対して脅えを表すんだ。意識がない時ほど潜在しているものが働くんだろうね。触れられることに激しい恐怖心を抱く。今は体に受ける痛みがないし思い出すきっかけもないからいいようなものの、それがどこで出るかは分からない」
「それって…」
「今後君に対してどういう反応をするかは予測不可能ってとこかな」
隠すことなく伝えれば、呆然とした表情から更に色がなくなっていった。
彼なりにも色々と悩んできたのは承知しているが、綺麗事を言って済ませられる問題でもない。若気の至り…の一言で片付けたら俊輔があまりにも気の毒でならなかった。
責めるような内容になってしまうのは致し方ないこと。
この事実は津和野にも知らせていない。吉賀が耳にしていなくて当然のことだった。
だから津和野も、吉賀にこの場所を伝えたのだろう。
性行為に対して恐怖心を抱くであろうことは二人ともそれとなく予想できていたが…。
だけどそれだけではない伝えたいものもある。
「俺…」
吉賀の言いかけた言葉が途切れた。項垂れて床を見つめている。”あの時”のことでも振り返っているのだろうか…。
伊佐は急かすつもりもなく、黙ったまま吉賀の続きを待つ。
実際の真相など、詳細は知らないのだからあれこれと口を出すのも筋違いな話だ。
「俺、なにして…んだろ…。俊輔、守ってやりたい、とか言いながら、全然…、ダメじゃん…」
「気持ちを態度で示すのは間違ったことではないけれど、相手の確認を得なきゃ。今回のことがあっても、俊くんは少なくとも君のことを嫌ってはいないから、時間をかければ心の傷も癒えていくと思う。辛かったことを楽しいものに変える、その役目を果たすのが今後の君じゃないかな。慌てるのは禁物」
ますます気落ちしていくだけの吉賀に声をかける。セックスというものが痛みだけのもの、にならないと気付ける日が来ればいい。
それを知った時、俊輔の中に巣食うものは消滅していくだろう。
「焦ってた…。すげぇ焦ってた…。津和野先生とどんどん仲良くなっていって、俺が知らないことも知っていって…」
「アイツも調子いいところがあるからね。反省させとくよ」
「俊輔だって…、……」
「俊くんからそれらしい態度をとったわけではないでしょう?そこんとこ、信じてあげなきゃ」
ほんの僅かな期間、俊輔を見ていても容易に知れることだった。
俊輔は自ら何かをねだったりしない。逆に甘えてもらうくらいのほうが受け止めやすいことにも気付いていない。
甘えてくれないから他の人間に気があるのではないかという思いも湧く。
吉賀にとって『焦り』になる理由も伊佐は納得ができる。
しかし、それとこれとは別問題だ。
うん…、と吉賀は小さくうなずいた。項垂れながらも自身に言い聞かせるように、何度も首を縦に振っている。
たぶんその辺りのことは津和野からも耳にタコができるほど聞かされた内容だとは思うが…。
伊佐は吉賀の肩を叩いた。
「君自身がもっと元気になってからまたおいで。今の姿を見たら”寄りかかることもできない頼りない奴”って思われちゃうよ」
頬のやつれ具合は返って不安を煽るようなものだろう。俊輔は余計に落ち込みそうでもある。
吉賀に発破をかけ、出口を促した。
吉賀はまた頷いて重い腰をあげた。伊佐の言いたいことは理解してくれたようである。
だが吉賀は黙って帰ることはしなかった。
「俊輔の…、寝顔だけでいいから、見させてください」
にほんブログ村
ポチっとしていただけるとありがたいです。
寝室になんか行ったらますます吉賀、落ち込んじゃいそうだけど…。いや、嫉妬の炎がメラメラ?!
ベッドいっこしかないもんなぁ…。
あと今日キリ番いきますね~。
ごっそりとデータが消えました。・゚・(ノД`)・゚・。
パソコンが壊れたと思っていたから動いてくれただけでも良かったのですが…。
ブログから文章拾い集めて繋ぎ合わせてバックアップとってる私って…(汗)
ベッドに寝かしつけると安定した寝心地に体から力が抜けていった。
安心して眠る俊輔の脇に、万一のために小型の機械を置いて伊佐は寝室を出る。
待合室には壁に沿うように背もたれつきの椅子と、あとは幾つかの長椅子が並んでいるだけだが、その端に吉賀は腰かけていた。
前かがみになり、膝に肘をついて頭を抱えている。
伊佐の物音に、はじかれたように顔を上げた。
「飲み物を用意してあげられる時間がなかったんだけれど」
病院は休みだったし自分たちだって今帰って来たばかりなのは流れからして分かるだろう。そして話をさっさと進めたい気持ちも…。
「いえ、結構です…。それより俊輔は…」
立ち上がりかけた吉賀を掌で制して、伊佐も一人分のスペースを空けて隣に腰を下ろす。
「良く眠っているよ。うなされなければいいけれど」
「うなされる…って…?」
吉賀は俊輔のことが心配なのか気にかけてくるが、それに対して伊佐は盛大な溜め息で答えた。
怒りよりも呆れだ。淡々と語れるのは医師としてのプライドだろうか。
「君は俊くんに何をしたのか分かっているの?体を傷つけただけでなく、トラウマになるほどのものを植え付けたんだよ」
「え…?!」
「人に対して脅えを表すんだ。意識がない時ほど潜在しているものが働くんだろうね。触れられることに激しい恐怖心を抱く。今は体に受ける痛みがないし思い出すきっかけもないからいいようなものの、それがどこで出るかは分からない」
「それって…」
「今後君に対してどういう反応をするかは予測不可能ってとこかな」
隠すことなく伝えれば、呆然とした表情から更に色がなくなっていった。
彼なりにも色々と悩んできたのは承知しているが、綺麗事を言って済ませられる問題でもない。若気の至り…の一言で片付けたら俊輔があまりにも気の毒でならなかった。
責めるような内容になってしまうのは致し方ないこと。
この事実は津和野にも知らせていない。吉賀が耳にしていなくて当然のことだった。
だから津和野も、吉賀にこの場所を伝えたのだろう。
性行為に対して恐怖心を抱くであろうことは二人ともそれとなく予想できていたが…。
だけどそれだけではない伝えたいものもある。
「俺…」
吉賀の言いかけた言葉が途切れた。項垂れて床を見つめている。”あの時”のことでも振り返っているのだろうか…。
伊佐は急かすつもりもなく、黙ったまま吉賀の続きを待つ。
実際の真相など、詳細は知らないのだからあれこれと口を出すのも筋違いな話だ。
「俺、なにして…んだろ…。俊輔、守ってやりたい、とか言いながら、全然…、ダメじゃん…」
「気持ちを態度で示すのは間違ったことではないけれど、相手の確認を得なきゃ。今回のことがあっても、俊くんは少なくとも君のことを嫌ってはいないから、時間をかければ心の傷も癒えていくと思う。辛かったことを楽しいものに変える、その役目を果たすのが今後の君じゃないかな。慌てるのは禁物」
ますます気落ちしていくだけの吉賀に声をかける。セックスというものが痛みだけのもの、にならないと気付ける日が来ればいい。
それを知った時、俊輔の中に巣食うものは消滅していくだろう。
「焦ってた…。すげぇ焦ってた…。津和野先生とどんどん仲良くなっていって、俺が知らないことも知っていって…」
「アイツも調子いいところがあるからね。反省させとくよ」
「俊輔だって…、……」
「俊くんからそれらしい態度をとったわけではないでしょう?そこんとこ、信じてあげなきゃ」
ほんの僅かな期間、俊輔を見ていても容易に知れることだった。
俊輔は自ら何かをねだったりしない。逆に甘えてもらうくらいのほうが受け止めやすいことにも気付いていない。
甘えてくれないから他の人間に気があるのではないかという思いも湧く。
吉賀にとって『焦り』になる理由も伊佐は納得ができる。
しかし、それとこれとは別問題だ。
うん…、と吉賀は小さくうなずいた。項垂れながらも自身に言い聞かせるように、何度も首を縦に振っている。
たぶんその辺りのことは津和野からも耳にタコができるほど聞かされた内容だとは思うが…。
伊佐は吉賀の肩を叩いた。
「君自身がもっと元気になってからまたおいで。今の姿を見たら”寄りかかることもできない頼りない奴”って思われちゃうよ」
頬のやつれ具合は返って不安を煽るようなものだろう。俊輔は余計に落ち込みそうでもある。
吉賀に発破をかけ、出口を促した。
吉賀はまた頷いて重い腰をあげた。伊佐の言いたいことは理解してくれたようである。
だが吉賀は黙って帰ることはしなかった。
「俊輔の…、寝顔だけでいいから、見させてください」
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ポチっとしていただけるとありがたいです。
寝室になんか行ったらますます吉賀、落ち込んじゃいそうだけど…。いや、嫉妬の炎がメラメラ?!
ベッドいっこしかないもんなぁ…。
あと今日キリ番いきますね~。
ごっそりとデータが消えました。・゚・(ノД`)・゚・。
パソコンが壊れたと思っていたから動いてくれただけでも良かったのですが…。
ブログから文章拾い集めて繋ぎ合わせてバックアップとってる私って…(汗)
やったー
150000越えたんですね
こうして淋しい夜から読ませていただいている者としては、完結小説も増えてお宝がどんどんたまっていくみたいですごくうれしいです。
さて、吉賀くん
超落ち込み中ですね
激しく後悔と反省の嵐の中
会いに来たのはいいけれど…
俊輔くんは、人に甘えたり頼ったりできない子なんですよね
だから、それが物足りなかったり自分との隔たりのように感じちゃったかもしれないけど、そこんとこが分かるほど吉賀くんも大人じゃなくて
人生経験積んだ津和野先生や伊佐先生にはどっちの気持ちもわかるだけに、どちらも助けてあげたいんだなと感じました。
え?寝顔ですか~
そんな中途半端なことしていいのかな
見るだけじゃがまんできなくなっちゃうかもー
ああーそれにベッドねぇ
”他の男と寝てる”なんて許せねーっ!
あるいは
もう俺の出る幕なしと落ち込む
やめといた方がいいんじゃないでしょうか、吉賀くん
150000越えたんですね
こうして淋しい夜から読ませていただいている者としては、完結小説も増えてお宝がどんどんたまっていくみたいですごくうれしいです。
さて、吉賀くん
超落ち込み中ですね
激しく後悔と反省の嵐の中
会いに来たのはいいけれど…
俊輔くんは、人に甘えたり頼ったりできない子なんですよね
だから、それが物足りなかったり自分との隔たりのように感じちゃったかもしれないけど、そこんとこが分かるほど吉賀くんも大人じゃなくて
人生経験積んだ津和野先生や伊佐先生にはどっちの気持ちもわかるだけに、どちらも助けてあげたいんだなと感じました。
え?寝顔ですか~
そんな中途半端なことしていいのかな
見るだけじゃがまんできなくなっちゃうかもー
ああーそれにベッドねぇ
”他の男と寝てる”なんて許せねーっ!
あるいは
もう俺の出る幕なしと落ち込む
やめといた方がいいんじゃないでしょうか、吉賀くん
甲斐様
こんにちは。
> やったー
> 150000越えたんですね
> こうして淋しい夜から読ませていただいている者としては、完結小説も増えてお宝がどんどんたまっていくみたいですごくうれしいです。
いきました―――ヽ(゚∀゚)ノ150000 すごい数です!!
いえ、こちらこそ、長い間お付き合いくださいまして感謝感激。・゚・(ノД`)・゚・。
> さて、吉賀くん
> 超落ち込み中ですね
> 激しく後悔と反省の嵐の中
> 会いに来たのはいいけれど…
> 俊輔くんは、人に甘えたり頼ったりできない子なんですよね
> だから、それが物足りなかったり自分との隔たりのように感じちゃったかもしれないけど、そこんとこが分かるほど吉賀くんも大人じゃなくて
> 人生経験積んだ津和野先生や伊佐先生にはどっちの気持ちもわかるだけに、どちらも助けてあげたいんだなと感じました。
> え?寝顔ですか~
> そんな中途半端なことしていいのかな
> 見るだけじゃがまんできなくなっちゃうかもー
> ああーそれにベッドねぇ
> ”他の男と寝てる”なんて許せねーっ!
> あるいは
> もう俺の出る幕なしと落ち込む
> やめといた方がいいんじゃないでしょうか、吉賀くん
落ち込みまくって登場したのはいいけれど。
しっかり伊佐に丸めこまれて(?)さっそくご帰還…。
ですが、黙って帰るやつでもなかった?!
津和野や伊佐って見守る親ですよね~。
さりげなく(?)背中を押してやって…。
二人が近づけるための基礎を築いたのが津和野で、尻拭いを兼ねて上手に導くのが伊佐ですか…(←そんな深いところまで読んで書いてないからっ!)
えっと、でも、うん。← 若者を導いてくれる人たちです。きっと。
そうね。何も見ないで帰るのがいいと思います。吉賀。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> やったー
> 150000越えたんですね
> こうして淋しい夜から読ませていただいている者としては、完結小説も増えてお宝がどんどんたまっていくみたいですごくうれしいです。
いきました―――ヽ(゚∀゚)ノ150000 すごい数です!!
いえ、こちらこそ、長い間お付き合いくださいまして感謝感激。・゚・(ノД`)・゚・。
> さて、吉賀くん
> 超落ち込み中ですね
> 激しく後悔と反省の嵐の中
> 会いに来たのはいいけれど…
> 俊輔くんは、人に甘えたり頼ったりできない子なんですよね
> だから、それが物足りなかったり自分との隔たりのように感じちゃったかもしれないけど、そこんとこが分かるほど吉賀くんも大人じゃなくて
> 人生経験積んだ津和野先生や伊佐先生にはどっちの気持ちもわかるだけに、どちらも助けてあげたいんだなと感じました。
> え?寝顔ですか~
> そんな中途半端なことしていいのかな
> 見るだけじゃがまんできなくなっちゃうかもー
> ああーそれにベッドねぇ
> ”他の男と寝てる”なんて許せねーっ!
> あるいは
> もう俺の出る幕なしと落ち込む
> やめといた方がいいんじゃないでしょうか、吉賀くん
落ち込みまくって登場したのはいいけれど。
しっかり伊佐に丸めこまれて(?)さっそくご帰還…。
ですが、黙って帰るやつでもなかった?!
津和野や伊佐って見守る親ですよね~。
さりげなく(?)背中を押してやって…。
二人が近づけるための基礎を築いたのが津和野で、尻拭いを兼ねて上手に導くのが伊佐ですか…(←そんな深いところまで読んで書いてないからっ!)
えっと、でも、うん。← 若者を導いてくれる人たちです。きっと。
そうね。何も見ないで帰るのがいいと思います。吉賀。
コメントありがとうございました。
拍手コメち様
こんにちは。
>どうなるの?どうなるんですか?この二人。先が読めないですね。だから、楽しいんですけど。パソコンの調子はいかがですか?続きの更新できると嬉しいですが・・・
謎の多い二人です(笑)
先が読めたら、それはそれで楽しいんでしょうね。
パソコンのご心配もありがとうございます。
とりあえず、なんとか動いてくれています。
動いてくれないと更新もできませんからね~。
いっぱい画面を開いたりするとキーボードが反応しないので。
あと、さささささーーーと入力したりすると…。
なのでゆっくり地味に子供みたいに打っています。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
>どうなるの?どうなるんですか?この二人。先が読めないですね。だから、楽しいんですけど。パソコンの調子はいかがですか?続きの更新できると嬉しいですが・・・
謎の多い二人です(笑)
先が読めたら、それはそれで楽しいんでしょうね。
パソコンのご心配もありがとうございます。
とりあえず、なんとか動いてくれています。
動いてくれないと更新もできませんからね~。
いっぱい画面を開いたりするとキーボードが反応しないので。
あと、さささささーーーと入力したりすると…。
なのでゆっくり地味に子供みたいに打っています。
コメントありがとうございました。
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