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BLの丘
ただそこにいて 32
2011-09-25-Sun  CATEGORY: ただそこにいて
俊輔はベッドの中で目を覚ました。
辺りは闇に包まれ、離れた場所にある間接照明が一つだけ、ほんわりとした明りを灯していた。
眠りについた時は確か車の中だったはずだ。ここにいるとは伊佐が運んでくれたのだろう。
「着いたら起こしてくれるって言ったのに…」
手を煩わせたことを考え、思わず愚痴めいたものが口をついて出てくる。
俊輔はベッドを降りると階下のリビングに向かった。
寝室にいなければそこに伊佐がいるのはすでに知っていることだ。

伊佐はキッチンで何やら調理をしていた。夕食の時間にしては少し遅い気がするが、それは俊輔が眠っていたからだろうか。
入っていった俊輔に気付いて伊佐が笑顔を向けてくる。
「おっ。起きたね」
「すみません…。俺…」
「眠れたっていうのは良いことだよ。もうすぐできるからちょっと待ってて」
伊佐はフライパンに向かって「よっ」と掛け声をあげながらハンバーグをひっくり返した。
それを見て今日の夕食のメニューを知る。
待ってて、とは言われても、目の前で動いている人間がいるのに大人しく座っているのもどうなんだ、と思ってしまう。
しかも今まで眠りこけていたのだ。
普段は家政婦の手が入るからあまり意識しなかったが、休日には自分で作ったりもするのか…。
「あの…、俺、何か手伝えること、ありますか…?」
「え~?いいよ。お疲れでしょう、休んでいてください」
悪戯っぽく笑ってはやんわりと断られてしまう。
確かに眠ってしまうほどだったけれど、充分休んだ後だ。
「でも…」
「うーん。冷蔵庫の中に残っているおかずがあるから出しておいてくれる?」
渋る俊輔に、苦笑を浮かべては顎先で冷蔵庫を示された。突っぱねるわけでもなくすぐにこちらの意思を汲んでくれるところの対応は早い。
俊輔は促されるまま冷蔵庫の扉を開けた。当たり前だが俊輔がこれまでの生活で関わってきたどの冷蔵庫よりも大きい。
これまでに伊佐がとってきた行動をそれとなく見ていたから、どこになにがあるかくらいは把握していた。
とはいえ、初めて見る世界。庫内の広さに口が開いてしまう。
「広っ!!」
その中に整然と並べられた食品の数々。同じ一人暮らしだというのに、まさに雲泥の差だ。
もっとも俊輔の場合、部屋で食事をするなんてことはまずないのだから保存されている食品もないのだが…。
一つ一つ伊佐に確認をしながらダイニングテーブルへと運ぶ。
途中、「あ、それはチンしなきゃ」とか、「げっ。それまだあったの?ゴミゴミ」と声がかけられてくる。
昼間の時間があったからだろうか。やけに伊佐の存在が近くに感じられた。
まだ魔法の国を歩いている。そんな感覚が俊輔の中を占領している。差し伸べられた手を取り、その手はまだ離れていない…。
「伊佐さん、食べ物を無駄にしちゃダメだから~」
「は~い、分かってますよ~。あ~、やっぱり自分でやるべきだったかな~」
「気付かれないように?」
「そう、さりげなく、なにげなく」
「生ごみの量で分かっちゃうじゃない」
「俊くん、キッチン出入り禁止」
「水の一杯も飲めない…」

年上の人間とこんなにきさくに会話ができる性格だっただろうか。まだ良く知らない人なのに、津和野という後ろ盾があるからだろうか。
気を許している部分はあまりにも大きい。
こうして思ったことが口に出せる、周りに気を使う必要のない生活。
受け止めてくれる懐の大きさを知ってしまった今、以前に感じたことのある”恐怖”をまた覚えた。
自分が贅沢な人間になっていくようなのだ。
生活の面でも精神的なものも…。

ここに嵌り堕ちた時、元の生活に戻れるのだろうか。
俊輔を苛んでくる不安とは対照的に、今ある時間が楽しくて仕方ない。

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別宅に『淋しい~』の修正したのをチロッとだけ書いてみました。僅か何文字…。
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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-09-26-Mon 00:48 [編集]
俊輔、ちっちゃい子みたいでかわいい

あー冷蔵庫の中の謎の物体ね
よくありますよ
ミイラ化していたり
ほんとこれなんだっけ?みたいな物
誰にも気づかせずこっそり退去していただきたいものほど
家族の誰かが発見して責め立てるんですよね~
伊佐さんの気持ちよくわかります
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-09-26-Mon 07:01 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 俊輔、ちっちゃい子みたいでかわいい

うちの子たちはみんな幼児化するようです(^_^;)
でもこの子が一番若い…はず…23歳だっけ…。

> あー冷蔵庫の中の謎の物体ね
> よくありますよ
> ミイラ化していたり
> ほんとこれなんだっけ?みたいな物
> 誰にも気づかせずこっそり退去していただきたいものほど
> 家族の誰かが発見して責め立てるんですよね~
> 伊佐さんの気持ちよくわかります

冷蔵庫も魔法の箱ですね~。
何が出てくるか分からない…。謎のものが入ってますよね。
定期的に覗いてバックアップ(?)とって整理しておかないとなりません。
伊佐サン、人に任せっぱなしのところがあるので…。(←責任転嫁する人)
コメントありがとうございました。
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