広々とした風呂で移動の疲れを癒した後、リビングに戻ると、すでに寛いでいた岡崎がソファに腰掛けて日本酒の入ったグラスを傾けていた。
パジャマ代わりだというグレーのスエットの上下を身に纏い、オットマンに足を投げ出している。
リビングには引っ越し業者が運んだという状態で、それなりに家具が揃っていた。自分だけならこのままでも充分に暮らしていける設備だ。
ダイニングにも丸いテーブルがある。大型の家具が片付いているために、あとは段ボール箱に入った小物類を片付ければいいだけだった。
「千種も飲む?」
「日本酒?あまり飲み慣れないんだけど…」
「こっちでは有名な酒蔵のものだよ」
酒好きな岡崎はそのようなことにも詳しいらしい。
地元産と聞けば手を出したくなるのは性格なのだろうか…。
「その辺にグラスがある」という、適当な答えに苦笑しながら、全く動く気のない岡崎を感じて千種は備品をあさる。
人に対して鷹揚に構える様があった外面と同じように、家の中でも堅苦しさを見せない。
だからこそ千種も普段通りの行動が取ることができた。
ソファの前にあるガラスのテーブルにグラスを置くと、ラグの上にペタンと座りこむ。テーブルを挟んだ向かいで身を起こした岡崎が一升瓶から注いでくれた。
「せっかくの酒だもんな~。明日、こういうのも買いにいくか」
岡崎はグラスに視線を這わせる。
千種自身、食器類に頓着する性格ではない。インスタントラーメンを鍋のままで食べたことがあるくらいだ。
岡崎がこだわっていくならそれに倣うのもいいかも…と意識を変えた。
鍋で食べるラーメンより、器によそったラーメンのほうが格段に美味しく見えるものである。
どんな料理も酒も同じようなものだろう。
「部長、この辺りに何があるのかもう見てあるんですか?」
「またそう呼ぶ…。吉良(きら)でいいって言ってるのに」
手が伸びてくる距離ではなかったから小突かれることはなかったが、明らかに不機嫌な表情を見せる。
とはいえ、かつての呼び名はそう簡単に変えられるものではなかった。
「あ…。…慣れるようにします…」
ペコリと頭を下げると不機嫌な表情もすぐに消えてくれる。岡崎も急激な変化に対応できないことくらい承知しているのだ。
ただ口うるさく言うことで意識させようとしているだけ。
「あぁ。ちょっと離れたところにでっかいショッピングモールがあるよ。あの一角で何でも揃う」
「へぇぇ」
「全部見て回るには一日じゃ足りないだろう」
「そんなに広いんですか?」
「どっかのテーマパーク並みだよ。必要なものを書き出しておけよ。目的のものをまずは買わないとだからな」
頷きながら、生活に必要なものがなんであるのかを頭の中に思い浮かべる。
ほとんどのものは岡崎がここに用意しているだけに、これといって必要と思われるものは思い浮かばなかった。
衣類を整理するためのケースと自転車くらいだろうか…。
「あ…」
ふと過ったことにポロッと声が漏れると即座に岡崎が反応してくる。
「何?車に詰めなきゃ配達してくれるぞ。指定時間に家にいられるだろう」
「そ、そうじゃなくて…。あの…、毛布の一枚、とか余ってます…?」
明日以降の何よりも、身近にある問題に気付いた。
千種には寝る場所がない。
身一つでやってきたのも同然。スーツケースにぎゅうぎゅうに詰め込んであるのは少ない衣類と歯ブラシなどの身近な生活用品だけだ。
そのことを理解したように岡崎はクスリと笑みを浮かべた。
無謀な行動に出たことを笑われているようでもある。
「ない」
続いて出てきた返事は無情なもので…。それでありながら楽しげな返しだった。
「あー…」
とりあえず今夜は厚着するなり何なりして一夜を過ごすしかないだろう。野宿することにならなかっただけでも救いものだ。
項垂れた千種に、からかいを含めた口調で岡崎が口を開く。
千種の考えていたこともすでに見透かされていたようだ。
「今夜は俺の隣に泊めてやるよ。明日の朝、凍死した死体とご対面じゃ嫌だからな」
一番奥の部屋にあったベッドはダブルサイズくらいはあっただろう。
体格の良い岡崎にとって安眠を取る為にはそれくらいの大きさがほしいのか。
そこで一緒に寝ればいいという誘いに、ありがたく頷きそうになって、慌てて現実問題を考えた。
…い、いきなり、ベッドインですか……?!
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パジャマ代わりだというグレーのスエットの上下を身に纏い、オットマンに足を投げ出している。
リビングには引っ越し業者が運んだという状態で、それなりに家具が揃っていた。自分だけならこのままでも充分に暮らしていける設備だ。
ダイニングにも丸いテーブルがある。大型の家具が片付いているために、あとは段ボール箱に入った小物類を片付ければいいだけだった。
「千種も飲む?」
「日本酒?あまり飲み慣れないんだけど…」
「こっちでは有名な酒蔵のものだよ」
酒好きな岡崎はそのようなことにも詳しいらしい。
地元産と聞けば手を出したくなるのは性格なのだろうか…。
「その辺にグラスがある」という、適当な答えに苦笑しながら、全く動く気のない岡崎を感じて千種は備品をあさる。
人に対して鷹揚に構える様があった外面と同じように、家の中でも堅苦しさを見せない。
だからこそ千種も普段通りの行動が取ることができた。
ソファの前にあるガラスのテーブルにグラスを置くと、ラグの上にペタンと座りこむ。テーブルを挟んだ向かいで身を起こした岡崎が一升瓶から注いでくれた。
「せっかくの酒だもんな~。明日、こういうのも買いにいくか」
岡崎はグラスに視線を這わせる。
千種自身、食器類に頓着する性格ではない。インスタントラーメンを鍋のままで食べたことがあるくらいだ。
岡崎がこだわっていくならそれに倣うのもいいかも…と意識を変えた。
鍋で食べるラーメンより、器によそったラーメンのほうが格段に美味しく見えるものである。
どんな料理も酒も同じようなものだろう。
「部長、この辺りに何があるのかもう見てあるんですか?」
「またそう呼ぶ…。吉良(きら)でいいって言ってるのに」
手が伸びてくる距離ではなかったから小突かれることはなかったが、明らかに不機嫌な表情を見せる。
とはいえ、かつての呼び名はそう簡単に変えられるものではなかった。
「あ…。…慣れるようにします…」
ペコリと頭を下げると不機嫌な表情もすぐに消えてくれる。岡崎も急激な変化に対応できないことくらい承知しているのだ。
ただ口うるさく言うことで意識させようとしているだけ。
「あぁ。ちょっと離れたところにでっかいショッピングモールがあるよ。あの一角で何でも揃う」
「へぇぇ」
「全部見て回るには一日じゃ足りないだろう」
「そんなに広いんですか?」
「どっかのテーマパーク並みだよ。必要なものを書き出しておけよ。目的のものをまずは買わないとだからな」
頷きながら、生活に必要なものがなんであるのかを頭の中に思い浮かべる。
ほとんどのものは岡崎がここに用意しているだけに、これといって必要と思われるものは思い浮かばなかった。
衣類を整理するためのケースと自転車くらいだろうか…。
「あ…」
ふと過ったことにポロッと声が漏れると即座に岡崎が反応してくる。
「何?車に詰めなきゃ配達してくれるぞ。指定時間に家にいられるだろう」
「そ、そうじゃなくて…。あの…、毛布の一枚、とか余ってます…?」
明日以降の何よりも、身近にある問題に気付いた。
千種には寝る場所がない。
身一つでやってきたのも同然。スーツケースにぎゅうぎゅうに詰め込んであるのは少ない衣類と歯ブラシなどの身近な生活用品だけだ。
そのことを理解したように岡崎はクスリと笑みを浮かべた。
無謀な行動に出たことを笑われているようでもある。
「ない」
続いて出てきた返事は無情なもので…。それでありながら楽しげな返しだった。
「あー…」
とりあえず今夜は厚着するなり何なりして一夜を過ごすしかないだろう。野宿することにならなかっただけでも救いものだ。
項垂れた千種に、からかいを含めた口調で岡崎が口を開く。
千種の考えていたこともすでに見透かされていたようだ。
「今夜は俺の隣に泊めてやるよ。明日の朝、凍死した死体とご対面じゃ嫌だからな」
一番奥の部屋にあったベッドはダブルサイズくらいはあっただろう。
体格の良い岡崎にとって安眠を取る為にはそれくらいの大きさがほしいのか。
そこで一緒に寝ればいいという誘いに、ありがたく頷きそうになって、慌てて現実問題を考えた。
…い、いきなり、ベッドインですか……?!
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いいなー
1日で見て回れないくらいでっかいショッピングモール
あれもこれもと目移りしそう
あまりものにこだわりのない千種クンにとってはあまり素敵!!ってもんじゃないかもしれないけど
わー!!同衾じゃ~
てか初夜?
…なわけないか
ドキドキ
1日で見て回れないくらいでっかいショッピングモール
あれもこれもと目移りしそう
あまりものにこだわりのない千種クンにとってはあまり素敵!!ってもんじゃないかもしれないけど
わー!!同衾じゃ~
てか初夜?
…なわけないか
ドキドキ
越して早々の夜から いきなりの同じベッドにIN!
明日の買い物・・・
もうベッドは、いらないでしょ♪
v(`ゝω・´)キャピィ☆...byebye☆
明日の買い物・・・
もうベッドは、いらないでしょ♪
v(`ゝω・´)キャピィ☆...byebye☆
甲斐様
こんにちは。
> いいなー
> 1日で見て回れないくらいでっかいショッピングモール
> あれもこれもと目移りしそう
> あまりものにこだわりのない千種クンにとってはあまり素敵!!ってもんじゃないかもしれないけど
でっかいショッピングモール…。歩くの、疲れます…。
目移りしそうなんですけど、千種はこだわりなんてないんでしょうね。
そこんとこは岡崎に調教(教育ですね…)してもらわないと。
> わー!!同衾じゃ~
> てか初夜?
> …なわけないか
> ドキドキ
はい、その通りです。
まだ早い…。
分別つく岡崎ですので(〃▽〃)
でもまぁ、同じ屋根の下にいますからね。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> いいなー
> 1日で見て回れないくらいでっかいショッピングモール
> あれもこれもと目移りしそう
> あまりものにこだわりのない千種クンにとってはあまり素敵!!ってもんじゃないかもしれないけど
でっかいショッピングモール…。歩くの、疲れます…。
目移りしそうなんですけど、千種はこだわりなんてないんでしょうね。
そこんとこは岡崎に調教(教育ですね…)してもらわないと。
> わー!!同衾じゃ~
> てか初夜?
> …なわけないか
> ドキドキ
はい、その通りです。
まだ早い…。
分別つく岡崎ですので(〃▽〃)
でもまぁ、同じ屋根の下にいますからね。
コメントありがとうございました。
けいったん様
こんにちは。
> 越して早々の夜から いきなりの同じベッドにIN!
>
> 明日の買い物・・・
> もうベッドは、いらないでしょ♪
> v(`ゝω・´)キャピィ☆...byebye☆
ベッドはいらない?!
部屋も一つでいい?!
そんな感じなんですけれどね。
まだ引っ越したばかりなので、心の準備がぁぁぁ。
何を買って帰るんですかね。
でも住んでいると、いつの間にか物が増えていきますよね…。
愛も徐々に増やしていただきたいものです。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 越して早々の夜から いきなりの同じベッドにIN!
>
> 明日の買い物・・・
> もうベッドは、いらないでしょ♪
> v(`ゝω・´)キャピィ☆...byebye☆
ベッドはいらない?!
部屋も一つでいい?!
そんな感じなんですけれどね。
まだ引っ越したばかりなので、心の準備がぁぁぁ。
何を買って帰るんですかね。
でも住んでいると、いつの間にか物が増えていきますよね…。
愛も徐々に増やしていただきたいものです。
コメントありがとうございました。
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