就職のお祝いだと開けられた、地元名産の吟醸酒。
岡崎に慣らされたおかげですっかり日本酒の味を知ったこの頃だ。
「就職って…、でも、まだ半年先のことだし…」
ダイニングテーブルで、半額にされた食材の寄せ集めの鍋を囲いながら、千種はぼそっと不安を零す。
この先、いつ話を反故にされても文句も言えない状況だった。
そして、給料もない期間は続く。
「なんか…バイトしよっかな~」
「ヘタに仕事を見つけられて、そっちがいいって思われるのは相手側に失礼じゃない?」
「でも、バイトくらい…」
またここで岡崎と意見の違いが表れた。
岡崎は定職につくまでの間は今まで通り家事と趣味に専念すればいいという。
その間の支払いは全て自分で請け負う形で…。
必要外に知識を身につけるな…的な意見も含まれた。
しかし千種は一円でも家賃を払える仕事につきたかった。すっかり何もかもを岡崎に頼っているようで、自分の中で納得がいかなかったからだ。
ただ着いてきた…、重りのような存在ではいたくない。
言い出したら聞かない千種の性格を知るからなのか、岡崎も、「まぁ、今後の支障にならない、半端な仕事につくのがいいよ」と、あまりありがたくないアドバイスをくれる。
仕事につく上で中途半端な気持ちはないが、将来の仕事先が決まった今、尚且つ、その先が優良企業と捉えられているだけに、道を外させたくない保護者的な配慮があるのだろう。
『半端な仕事』などあるわけがないが、辞めることを見越した、それを認めてくれる就職先にしろと、『期間限定』を示唆される。
辞めることを前提に雇ってくれる先があるのだろうか…。
だがそれは、人との関連をもたらすものでもあった。
この地においては結びつきが大きい。やたらな行動は噂話となってはびこり、いずれ自分の身を貶めるものとなる。
先に言うのであれば問題視されない。逆に突然の行為は、全ての信用を失うことに繋がった。
すでにこの地に生きる岡崎だからこそのアドバイスのようだ。
なにより、信用を失う、人の怖さを、千種自身が体験していた。
それはまた、岡崎自身に降りかかることになるのだろうか…。
現に今、千種は岡崎の名を借りて、この地に佇んでいる。
ここまできて岡崎の名を穢すことだけは、千種には耐えられないものとなる。
岡崎の話は、無理して働くことはない、というに過ぎない。
決まった職があり、短期間、中途半端に勤めるくらいなら家の中にいろ、と主婦業を促される。
岡崎が家の中で何もしたくない表れでもあった。
弥富に言わせるところの『自由』のためなのだろう。
まぁ、働き出したとしても家の事はやる意思はある千種だったのだが…。
岡崎に任せたらどうなるのか分からない恐ろしいものが、すでに千種の中にあり、それなら自分が率先してやった方が早いだろうという推測。
単に水を飲んだコップ一個を食洗機にかけようという人間だ。
部屋の広さはともかくとして、一人分も二人分もさして変わらないと、これまでの生活で覚えた。
その全てを充分なほど理解していたが、でもやはり、のらりくらりの生活は千種には我慢ができなかった。
不動産屋に聞いた家賃はこれまで千種が支払っていたものの二倍にもなる。
その物件を買い、ローンの利息までついた現在は千種のしるところではない。
出世払い…などと大人しくかまえてもいられなかった。
そんなことをふと、スーパーの値切りコーナーに居た弥富に愚痴ってしまえば、しばし顎を抱えて黙られてしまう。
いきなり自分たちの生活事情を聞かされても迷惑なだけだよな…と後悔した先。
「ん、とさぁ…。千種くん、夕方の二、三時間、出られる?」
愚痴を大人しく聞いてくれた弥富は、何かの提案を向けてきていた。
「は?」
千種は自分が愚痴った話に向けられた答えに意味が掴めず呆然とした。
まだからっぽのスーパーのカゴを抱えて、その姿はこの場に何をしに来たのかと言いたいほどである。
暇な主夫は職場にきた客相手に逃げられない店員を押さえつけているようなものだった。
もちろん、そんな気はない弥富であったのだが…。
「夕方…。やっぱ忙しいよな…。つかね。うちの店、レジの人間足りなくてさ…」
あまりにもさりげない求人情報だった。
弥富は千種の状況を良く知っている。
つまり、半年後に辞めなければならないこともだ。
それを踏まえて声をかけてくれたとは、その半年の間に次の人材を確保したいという思いもあり、一時しのぎでもいいから力になってくれ、とあまりにも温かな声かけだった。
「い、忙しくないっ。夕飯の支度してからくればいいし。どうせ帰ってくるの遅いしっ」
岡崎の帰宅時間は一般の夕食時間を外れている。
極端な話、帰ってから簡単なメニューであつらえても間に合うくらいだろう。先に風呂を用意すればなおさらだ。
「ホントに?マジで言ってるならこの場で店長に話を通しちゃうけど」
「してしてしてっ。今履歴書もなんもないけど、明日にでも持ってくるからっ」
「つかさぁ。そんな簡単に決めていいわけ?相手の人の反感買うのはどうかと思うんだけど…」
「だ……だいじょうぶ…。…うん…、そこは、…うん、言うから…」
急に口籠った千種に弥富の動きも鈍くなる。
疲れて帰った時に、世話係がいないのはやはり問題視されるだろう。
そのことを弥富は心配するのだが、千種はしきりに『問題ない』と繰り返した。
そこまでして働きたいのかと、少々同情の意があったのも否めない。
結局千種は、夕方の五時から七時までの週五日、短時間のパートに勤しむことになった。
期間限定とはいえ、いやむしろ、期間が分かるからこそ、スーパー側も開き直って雇ってくれるところがあった。
その間は何にだって使えるのだ。
急に決まった仕事のことを、岡崎は特に咎めることはなかった。
ダイニングテーブルで夕食を囲む日常。
「せ、生活に支障のないようにするから…」
慌てて言い繕う千種に岡崎は溜め息を零す。
「千種が生きたいように生きろって俺は言ったよな。どうして許可がいる?それに俺は一人で生きていけない人間じゃないぞ」
そっと家事くらいできると言われているようだったが、これまでの暮らしを見たら心配になってくることばかりだ。
一応年長者を立てて黙っていることにするが、いつかそれを武器に岡崎を掌の上で転がしたい気になった。
そう…。もともと千種は気が強い性格なのである。
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岡崎に慣らされたおかげですっかり日本酒の味を知ったこの頃だ。
「就職って…、でも、まだ半年先のことだし…」
ダイニングテーブルで、半額にされた食材の寄せ集めの鍋を囲いながら、千種はぼそっと不安を零す。
この先、いつ話を反故にされても文句も言えない状況だった。
そして、給料もない期間は続く。
「なんか…バイトしよっかな~」
「ヘタに仕事を見つけられて、そっちがいいって思われるのは相手側に失礼じゃない?」
「でも、バイトくらい…」
またここで岡崎と意見の違いが表れた。
岡崎は定職につくまでの間は今まで通り家事と趣味に専念すればいいという。
その間の支払いは全て自分で請け負う形で…。
必要外に知識を身につけるな…的な意見も含まれた。
しかし千種は一円でも家賃を払える仕事につきたかった。すっかり何もかもを岡崎に頼っているようで、自分の中で納得がいかなかったからだ。
ただ着いてきた…、重りのような存在ではいたくない。
言い出したら聞かない千種の性格を知るからなのか、岡崎も、「まぁ、今後の支障にならない、半端な仕事につくのがいいよ」と、あまりありがたくないアドバイスをくれる。
仕事につく上で中途半端な気持ちはないが、将来の仕事先が決まった今、尚且つ、その先が優良企業と捉えられているだけに、道を外させたくない保護者的な配慮があるのだろう。
『半端な仕事』などあるわけがないが、辞めることを見越した、それを認めてくれる就職先にしろと、『期間限定』を示唆される。
辞めることを前提に雇ってくれる先があるのだろうか…。
だがそれは、人との関連をもたらすものでもあった。
この地においては結びつきが大きい。やたらな行動は噂話となってはびこり、いずれ自分の身を貶めるものとなる。
先に言うのであれば問題視されない。逆に突然の行為は、全ての信用を失うことに繋がった。
すでにこの地に生きる岡崎だからこそのアドバイスのようだ。
なにより、信用を失う、人の怖さを、千種自身が体験していた。
それはまた、岡崎自身に降りかかることになるのだろうか…。
現に今、千種は岡崎の名を借りて、この地に佇んでいる。
ここまできて岡崎の名を穢すことだけは、千種には耐えられないものとなる。
岡崎の話は、無理して働くことはない、というに過ぎない。
決まった職があり、短期間、中途半端に勤めるくらいなら家の中にいろ、と主婦業を促される。
岡崎が家の中で何もしたくない表れでもあった。
弥富に言わせるところの『自由』のためなのだろう。
まぁ、働き出したとしても家の事はやる意思はある千種だったのだが…。
岡崎に任せたらどうなるのか分からない恐ろしいものが、すでに千種の中にあり、それなら自分が率先してやった方が早いだろうという推測。
単に水を飲んだコップ一個を食洗機にかけようという人間だ。
部屋の広さはともかくとして、一人分も二人分もさして変わらないと、これまでの生活で覚えた。
その全てを充分なほど理解していたが、でもやはり、のらりくらりの生活は千種には我慢ができなかった。
不動産屋に聞いた家賃はこれまで千種が支払っていたものの二倍にもなる。
その物件を買い、ローンの利息までついた現在は千種のしるところではない。
出世払い…などと大人しくかまえてもいられなかった。
そんなことをふと、スーパーの値切りコーナーに居た弥富に愚痴ってしまえば、しばし顎を抱えて黙られてしまう。
いきなり自分たちの生活事情を聞かされても迷惑なだけだよな…と後悔した先。
「ん、とさぁ…。千種くん、夕方の二、三時間、出られる?」
愚痴を大人しく聞いてくれた弥富は、何かの提案を向けてきていた。
「は?」
千種は自分が愚痴った話に向けられた答えに意味が掴めず呆然とした。
まだからっぽのスーパーのカゴを抱えて、その姿はこの場に何をしに来たのかと言いたいほどである。
暇な主夫は職場にきた客相手に逃げられない店員を押さえつけているようなものだった。
もちろん、そんな気はない弥富であったのだが…。
「夕方…。やっぱ忙しいよな…。つかね。うちの店、レジの人間足りなくてさ…」
あまりにもさりげない求人情報だった。
弥富は千種の状況を良く知っている。
つまり、半年後に辞めなければならないこともだ。
それを踏まえて声をかけてくれたとは、その半年の間に次の人材を確保したいという思いもあり、一時しのぎでもいいから力になってくれ、とあまりにも温かな声かけだった。
「い、忙しくないっ。夕飯の支度してからくればいいし。どうせ帰ってくるの遅いしっ」
岡崎の帰宅時間は一般の夕食時間を外れている。
極端な話、帰ってから簡単なメニューであつらえても間に合うくらいだろう。先に風呂を用意すればなおさらだ。
「ホントに?マジで言ってるならこの場で店長に話を通しちゃうけど」
「してしてしてっ。今履歴書もなんもないけど、明日にでも持ってくるからっ」
「つかさぁ。そんな簡単に決めていいわけ?相手の人の反感買うのはどうかと思うんだけど…」
「だ……だいじょうぶ…。…うん…、そこは、…うん、言うから…」
急に口籠った千種に弥富の動きも鈍くなる。
疲れて帰った時に、世話係がいないのはやはり問題視されるだろう。
そのことを弥富は心配するのだが、千種はしきりに『問題ない』と繰り返した。
そこまでして働きたいのかと、少々同情の意があったのも否めない。
結局千種は、夕方の五時から七時までの週五日、短時間のパートに勤しむことになった。
期間限定とはいえ、いやむしろ、期間が分かるからこそ、スーパー側も開き直って雇ってくれるところがあった。
その間は何にだって使えるのだ。
急に決まった仕事のことを、岡崎は特に咎めることはなかった。
ダイニングテーブルで夕食を囲む日常。
「せ、生活に支障のないようにするから…」
慌てて言い繕う千種に岡崎は溜め息を零す。
「千種が生きたいように生きろって俺は言ったよな。どうして許可がいる?それに俺は一人で生きていけない人間じゃないぞ」
そっと家事くらいできると言われているようだったが、これまでの暮らしを見たら心配になってくることばかりだ。
一応年長者を立てて黙っていることにするが、いつかそれを武器に岡崎を掌の上で転がしたい気になった。
そう…。もともと千種は気が強い性格なのである。
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新妻として初々しいのも1~2ヶ月間くらいなもんよ♪
おほほ♪(*´ノO`)
かかあ天下が、家庭を円満にする一番の方法(*`艸´)ウシシシ♪
亭主を御機嫌にさせて 一生懸命に働いて貰って 出来れば家事もさせちゃおう!
ィェ━━v(o´∀`o)v━━ィッ..byebye☆
おほほ♪(*´ノO`)
かかあ天下が、家庭を円満にする一番の方法(*`艸´)ウシシシ♪
亭主を御機嫌にさせて 一生懸命に働いて貰って 出来れば家事もさせちゃおう!
ィェ━━v(o´∀`o)v━━ィッ..byebye☆
意外にもしたたかですね、奥様(笑) けいったん様も書かれてますがやっぱりかかあ天下が一番ですよ(^O^) このまま奥様には優しく掌の上でダンナ様を転がしてもらいましょう(^_-)-☆
まあ、何とも真面目な子なんですね
彼がいいって言うんだから
半年のんびりとしててもいいのに
ワタシがそんなこと言われたら限りなく羽伸ばして自由を謳歌しちゃいますよー
主婦のパートの定番ですね
ご近所のスーパーのレジ打ち
がんばって~
彼がいいって言うんだから
半年のんびりとしててもいいのに
ワタシがそんなこと言われたら限りなく羽伸ばして自由を謳歌しちゃいますよー
主婦のパートの定番ですね
ご近所のスーパーのレジ打ち
がんばって~
けいったん様
おはようございます。
> 新妻として初々しいのも1~2ヶ月間くらいなもんよ♪
> おほほ♪(*´ノO`)
初々しいのはね~。
生活を共にしていくうちに色々と相手の行動などが見えてくるものです。
でも何言っても岡崎に「ハイハイ」って言われていそうです。
> かかあ天下が、家庭を円満にする一番の方法(*`艸´)ウシシシ♪
>
> 亭主を御機嫌にさせて 一生懸命に働いて貰って 出来れば家事もさせちゃおう!
> ィェ━━v(o´∀`o)v━━ィッ..byebye☆
うまく誘導できるでしょうか。
その辺は可愛くおねだりして岡崎に頑張ってもらいましょう(笑)
気付かないうちにね。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 新妻として初々しいのも1~2ヶ月間くらいなもんよ♪
> おほほ♪(*´ノO`)
初々しいのはね~。
生活を共にしていくうちに色々と相手の行動などが見えてくるものです。
でも何言っても岡崎に「ハイハイ」って言われていそうです。
> かかあ天下が、家庭を円満にする一番の方法(*`艸´)ウシシシ♪
>
> 亭主を御機嫌にさせて 一生懸命に働いて貰って 出来れば家事もさせちゃおう!
> ィェ━━v(o´∀`o)v━━ィッ..byebye☆
うまく誘導できるでしょうか。
その辺は可愛くおねだりして岡崎に頑張ってもらいましょう(笑)
気付かないうちにね。
コメントありがとうございました。
miki様
おはようございます。
> 意外にもしたたかですね、奥様(笑) けいったん様も書かれてますがやっぱりかかあ天下が一番ですよ(^O^) このまま奥様には優しく掌の上でダンナ様を転がしてもらいましょう(^_-)-☆
最初、気弱な所から始まっちゃったから意外かもしれませんが、弱音ばっかり吐く子ではありません。
今までも色々な場面で岡崎にも堂々と言っちゃうところがありましたし。
そんな怖気づかないところも岡崎の気に入っているところなのかもしれませんね。
となれば、あとはもう…(o´艸`o)
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 意外にもしたたかですね、奥様(笑) けいったん様も書かれてますがやっぱりかかあ天下が一番ですよ(^O^) このまま奥様には優しく掌の上でダンナ様を転がしてもらいましょう(^_-)-☆
最初、気弱な所から始まっちゃったから意外かもしれませんが、弱音ばっかり吐く子ではありません。
今までも色々な場面で岡崎にも堂々と言っちゃうところがありましたし。
そんな怖気づかないところも岡崎の気に入っているところなのかもしれませんね。
となれば、あとはもう…(o´艸`o)
コメントありがとうございました。
甲斐様
おはようございます。
> まあ、何とも真面目な子なんですね
> 彼がいいって言うんだから
> 半年のんびりとしててもいいのに
> ワタシがそんなこと言われたら限りなく羽伸ばして自由を謳歌しちゃいますよー
責任を負っている感じが強いのでしょうね。負担をかけている~的な。
だからじっとしていられないんだと思います。
私も羽伸ばし続けますよ~。
> 主婦のパートの定番ですね
> ご近所のスーパーのレジ打ち
> がんばって~
自転車に乗って近所のスーパーで働いて、帰りにはお買い物♪
今まで以上に潤う生活になるかもしれません。
張り切って働きます(`・ω・´)ノ
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> まあ、何とも真面目な子なんですね
> 彼がいいって言うんだから
> 半年のんびりとしててもいいのに
> ワタシがそんなこと言われたら限りなく羽伸ばして自由を謳歌しちゃいますよー
責任を負っている感じが強いのでしょうね。負担をかけている~的な。
だからじっとしていられないんだと思います。
私も羽伸ばし続けますよ~。
> 主婦のパートの定番ですね
> ご近所のスーパーのレジ打ち
> がんばって~
自転車に乗って近所のスーパーで働いて、帰りにはお買い物♪
今まで以上に潤う生活になるかもしれません。
張り切って働きます(`・ω・´)ノ
コメントありがとうございました。
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