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BLの丘
あやつるものよ 19
2011-11-30-Wed  CATEGORY: あやつるものよ
「あの後、…スーパーの外で、俺、部長に電話かけたんだよね。安城に会ったって…。昼間支社で顔合わせたって何も言わなかったしさ~」
一宮が岡崎に連絡を入れたなどすでに知った話だ。仕事中だと分かるから千種から電話をするなんて滅多にないことでメールで済むならそちらで終わらせてしまう。だから今日も岡崎の声は聞いていない。二人が何を話したのかも知らない。
この店の名前をメールで告げた後も『了解』の一言で終わっている。
「部長ってそういう話題とか、軽く流すじゃん。なんつーか、前の感覚のままってゆーか…。からかうっていうんじゃなくて、冗談が通じる人…つーか…。だから『見つかっちゃったか~』みたいに笑い飛ばされると思ってたわけよ。…なのにさ、安城の名前出した途端に口調変えられて、『何の話をしたんだ?!』って詰問されて、もう俺、何やらかしただろうって冷や汗もんだったよ。…これから会うって言ったら『絶対に会社の話をするな』って脅された…」
最後はもう苦笑いを見せた。

そんなやりとりがあったなど、千種は想像もしていなかった。目を見開いて一宮を見返してしまう。
そこまで岡崎がこだわる理由も理解できなかった。気にかけてくれているのは分かるが、一緒に生活をしていて吹っ切れ始めたことは岡崎だって気付いていることだろう。
確かにこちらに来てから、岡崎は一言も仕事の話をしない。同じ職場にいたのだから、仕事の内容は承知しているし、相談には乗れなくても愚痴ぐらい聞けると思っていたが、それも漏れない。
呆然と一宮を見つめ返すだけの千種に、「おまえ、愛されてるなぁ」とどっから繋がる話だと思うくらい茶化される。
ここまでくれば一宮も開き直った口調で話題を振ってくる。
「なっ?!」
「いやいや、ホントに、ホントに~。俺さ、部長のあんな動揺する声、初めて聞いたよ。『安城はようやく立ち直ったんだ。過去の傷を抉るような話題は避けろ』ってさぁ。『何かあったらおまえの将来、潰してやる』…って、まぁ、これは冗談だけどぉ」
「はぁ?!」
「そこまで言わせる想いがあったんだって、ちょっと感動させていただきましたぁ。で、一応、話のネタになりそうなものを色々と考えていたんだけど、こういうのって意識するとうまくいかないもんだなぁ」
一宮はえへへへと笑いながらも、「部長、どうしたって安城のこと、守ってやりたいんだろ」と真剣に締めくくった。
それが先程の『愛されている』に繋がるらしい。
千種は酔いだけではないもので、ただ顔を赤くしていくしかない。
どっしりと構えた感じの岡崎を良く知るが、公表することでもないだろう。
いや、もうバレているのか…。
「し、信じらんない…、あの人…っ」
「なんで~?いいじゃん。できるなら俺の将来、潰されないように、この話は内密に…」
「言うよっ!!おまえだって『バレた時はしょうがない』って言い切ったじゃんっ!」
青くなる一宮などなんのそのである。

わずかの間に、千種の中では最後の何かがはがれおちていた。たぶん、この地で一宮に会ったからだ。スーパーで交わされた会話が、燻っていたものを削ぎ落してくれたのだと思う。
第三者の目から告げられた気持ち。昔のように話せた感触。失敗は失敗だったけれど、認めてくれた人もいたこと。
全てが千種の中で大きくなっていく。更に一宮から発される軽口がある。
そしてここに来てから次に決まった未来。
岡崎のことも知られて認められたようで、心がふわふわするように嬉しいのだが恥ずかしくて仕方ない。
照れ隠しも含めて、千種からも昔と同じ口調の発言が飛び出す。気持ちが解けていた。
こうなったら当たるところはもう岡崎しかいない。
「えぇ~っ!俺、正直に言ったのに~」
「俺が開き直ったから大丈夫だよっ。……てか、そこまで……。…あ…」
悲鳴を上げる一宮には強気な発言をして照れる反面で、かすめたものが千種の心をざわめかせた。

今はいい…。今は岡崎の全てを信じている。
だけどあの夜、駅で待ち合わせた日のことが頭を過る。
千種は単なる甘えだった。押し潰されそうな心を抱えて、ほんの僅かな期待しか持っていなかった。
憧れる存在ではあったけれど、恋愛感情まで辿り着いていない。そんな立場だった。
その千種の動揺を一宮は嗅ぎとってしまう。笑っていた目が素早く異変を見つけて、千種を伺ってきた。
「何?俺、やっぱ、余計なことしゃべった?」
「ちが…。そうじゃない…」
先程までの火照りが一瞬にして冷めていく。
一宮の発言があったことで、過去の岡崎とのやりとりが改めて脳裏に浮かんだ。
一つのボタンが違ったらとんでもないことになっていたのではないか…。
それを思うと震えが走ったくらいだ。
神妙に黙ってしまった千種に対して、「あのさ。俺、こんなこと、うちの連中に言う気ないから。安城がなんか溜めているものがあるんなら、全部聞いてやるし…」といたって真剣な表情に変わってしまう。
きっと、最初から岡崎との関係を聞きたかったのだろう。興味本位だけではなく、追い立てられるように辞めてしまった人を改めて心配する人間として…。

自分の思いは、岡崎本人に言うべきことなのだと思う。
だけどそれとは別に、自分で抱えている気持ちを、誰かに聞いてほしいような気がした。
ちょうどいいことに一宮は間違った情報を脳内に収めていた…。
あとは口外しないと一宮を信じるしかない。岡崎のためにも。
話ができる相手を、初めて見つけたような感覚だ。
一度テーブルに両肘をついて、頭を抱える。それから一息ついて、顔を天井に向けて、正面を見た。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-11-30-Wed 21:23 [編集]
愛されてますね~
とことん守ってあげたいって思ってるんでしょうね

追い出されるようにやめてきた会社でも
思い残すことはあったんだろうなと思います
心に刺さった棘みたいなものが少しずつ抜けていくみたいです
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-12-01-Thu 07:06 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 愛されてますね~
> とことん守ってあげたいって思ってるんでしょうね

岡崎の気持ちを一宮はぶつけられた形ですね。
愛されちゃっていることを改めて知る千種です。

> 追い出されるようにやめてきた会社でも
> 思い残すことはあったんだろうなと思います
> 心に刺さった棘みたいなものが少しずつ抜けていくみたいです

初めて働いた会社、ずっと勤めてきた場所ですからね。
思い出は深いと思います。
その中でいい出会いがありました。
過去の傷を癒してくれる人が他にもいますね。
コメントありがとうございました。
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