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BLの丘
過ぎてみれば 4
2012-01-05-Thu  CATEGORY: あやつるものよ
朝から気合を入れて言われたことをメモし、自分でもやらせてもらって働いていた千種は、12時になった合図を耳にして時間の経過の早さを知った。
思いの外、気が張っていたのを肩コリで感じる。
みんながそれぞれに食事に向かうのを視界の中に入れながら、一つ大きく伸びをして椅子の背もたれに思いっきりもたれかかって首を後ろにそらす。
その時、ちょうど通りかかった昨日の男が笑いながら千種の額をツンツンと人差し指でつついた。
「あ…」
悪戯をしかけるような仕草だ。
千種の面倒を見てくれていた瀬戸に名前を聞くのをすっかり忘れていたことに気付いたが、本人を目の前にして今更尋ねられない。
首を反らしたまま見上げた先、ニコリと笑った男はすぐに、「ん?」と僅かに疑問の瞳を向けてきた。
慌てて体を起こして振り返る。
「すみません。こんなことをしていたら、通るのに邪魔ですよね」
「いや、まだ緊張もしているだろうし、少しでも気を抜く時間が持てるのはいいことだけど。…安城君、首…虫さされ?」
突然の質問に『首?』と頭を傾けた。
喉を押さえながら、別にかゆいところなどない、と思う。
フッと笑った男は「今、赤いものが見えたから」とだけ言い残して行ってしまった。
首を反らしたことで伸びあがったのか。
赤いもの、と言われて一瞬の間の後、「あっ!」と思わず声が漏れる。こんなところに付く赤いものなど一つしか思い浮かばない。
昨夜、吉良を止めても無理で、また自分も受けてしまった出来事が脳裏を掠める。
ガタンっと椅子を倒す勢いで立ち上がると、簡単に片付けを終えた瀬戸に声をかけられた。
「安城君、食事に行くなら一緒にいくかい?」
昨日も瀬戸とは共に過ごしたから同じような意味での誘いなのだろう。だが今の千種は動揺しまくっていて、「あ、あ…と、あの…。ちょ、ちょっとトイレに行ってきますっ」とその場を離れようとした。
まずは自分の目で確認が先だ。
千種の慌て具合に、別に尿意を我慢していることはないんだと言いたそうな感じで、「じゃあ待っているよ」と続けられる。
確かにずっと座り続けていた、と振り返った。
バタバタと物音を立てながら事務所を後にする千種はどうしたって喉元に手を当てていた。

トイレの鏡の前に立ち、クイと反らしながら視線を向けると、ギリギリの場所に吉良が故意的に付けたと思われる情事の痕があった。
ギリギリだ。少しでも顔を上げればほんのりと端が見えてくる程度だ。確かにこれなら『虫さされ』と言われてもおかしくないくらいの…。
「吉良め~っ」
朝、ドタバタしていて吉良にネクタイを結んでもらったので鏡など見ていなかった。そのまま出社してしまったわけだ。
あそこで吉良が手を伸ばしてきたのは、これが見えるかの確認だったのだろうか。千種に気付かせないためか…。
これでは午後なんて、ずっと俯いているしかなくなる。
「くそ~っ!!」
千種からは悪態しか漏れてこなかった。
だからといってここで時間を潰すわけにもいかない。瀬戸を待たせていることも気掛かりだった。
少しきつめに締めあげてギリギリ見えるものを隠した。この微妙な加減は吉良ならでは、である。

午後も多量の仕事に忙殺されていた。
気を使うところが増えた分、神経をすり減らしたと思った。
「安城君、そんなに気を詰めることはないからね。退社したからって連絡をしてもらって構わないんだから。どうせ何をしようか考える隠居生活なんだ」
「ありがとうございます」
瀬戸はカラリと笑ってくれる。
突発的に難題な件が発生する可能性は低くない。周りにも経験者はいるだろうが、最終的に事を収めてきたのは瀬戸なのだろう。
長年の経験が何よりものを言う。
退社しようとして、ふと頭を過ったことを瀬戸に尋ねた。声をひそめたことで瀬戸が「何だ?」と瞬きをした。
「あの…すみません…。あそこに座る、あの、まだ若い…って俺が言うのも変ですけど、お名前、なんとおっしゃいましたっけ?」
事務所はそれほど大きい部屋ではない。食品工場も持つ会社だったため、事務所、というか事務室は幾つかに分かれていた。
だが、一番大きな部屋がここで、幾つかの部が集約されている。
「若い…?」とぽつり呟きながら瀬戸は千種の視線を追った。
「あぁ、西春君かな。…そうか、まだ全員なんて覚えきれないよな…」
後半は瀬戸の独り言である。
思わずすみません…と頭を下げた。
瀬戸が苦笑しながら千種を見返してくる。
「たった二日間でこれだけの仕事を理解した上に、社員名まで覚えられていたら、脳味噌はどうなっているんだって見たくなるよ」
昨日の千種の紹介および、社員の紹介はこの事務所で、簡単に行われてしまったことを瀬戸は体験している。
「私なんて一人だって覚えられないだろうよ」
宥められて千種も苦笑を浮かべた。それからもう一度脳内で記憶として反芻させた。

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コメント | | 2012-01-05-Thu 17:55 [編集]
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