和紀はさっさと動き出す。
今までのマンションではそれぞれの部屋を持ち、それぞれに寝ていた。
周防がご丁寧にも帰宅の遅くなる日は連絡を入れてくれていたおかげで、そんな日は安心して家の中でコトにおよべたが、それ以外は何かと理由をつけてホテルを利用していた現実がある。
親公認となってしまえば遠慮もなくなるのか…。
日生はいささか戸惑いがあったが、帰宅して母屋(?)に寄り、夕食を食べてから玄関を抜けて隣室に入る。
慣れるとさほど気にしなくなる行動に変わってしまうのが不思議だ。
黙って見送ってくれる周防の存在も大きい。あまりにも近すぎることも抵抗感を持たせない理由の一つ。
扉一つ二つ越えるだけの距離は、これまでと何の変わりも見せないくらいだった。
気遣いなく安心して和紀に甘えられるベッドルームは日生にとって安らぎの場ともなる。
日頃の生活にもその影響は表れるようで、日生の心の安堵は落ち着いた精神を生み出し、冷静に物事を判断できる手腕を発揮し出した。
何をするわけでもない日でも、単にそばにいて日生を包んでくれる腕があると知れると、自然と落ちついた。
全ては信頼関係に繋がっていく。
部屋数が多く全てを使うことはない。それでも見た目用の家具はあちこちに揃えられ、和紀と日生の必要とするものも各個人で用意された。
ワークルームは私室として、仕事以外の趣味のものも詰め込まれていく。かといって以前使っていたものが持ち出されたのかと言えばそうでもない。
どちらにいようが快適な生活を送れるのは贅沢以外のなにものでもないだろう。
ほとんど使われることのなかった場所はキッチンだったが、生活に困らない程度のドリンクや軽食の類は清音のはからいで整えられていた。
休日前の夕刻の時間。
珍しく周防は奈義を呼びつけた。
息子たちは早々と引き上げてしまったため、手持無沙汰だったこともあった。
過去にいろいろありはしたが、常識をわきまえた態度に出てくれれば、気心知れた昔からの仲は早々に壊れることもなかった。
分かっているからこそ咎めもするし、真正面から立ち向かってもいく。
周防の潔さは、口に出しはしないものの、奈義が憧れるものなのかもしれない。
この友情を失いたくないと思うからこそ、素直に聞き入れることができる。まぁ、時と場合によるが…。
周防も自分が口を出してはいけない分野を知り、無駄口を叩かない距離感が尚更二人の友好を深めていた。
置かれている家具などは何も変わりはしないが、漂ってくる雰囲気は『がらん』としたものを纏っていた。
私生活など特に聞いたわけではない。だがそこに『家族』がいないことを奈義は感じ取った。
「なんだ、日生はいないのか」
「誰がおまえなんぞに顔を拝ませるか」
「年を追うごとにまた『美人さん』になったんだろう。手ぇ出すわけじゃあるまいし、酌の一つくらいさせてもいいだろうが」
リビングのソファに座り、周防がキッチンに向かっていくと、その後を舎弟の人間が数人ついてまわる。
周防も慣れたもので、運ぶものを次々と手渡し、準備をさせた。
「酌なら自分の部下にさせるんだな」
「美味い酒もまずくなるな…」
互いに顔が見えない間でも会話は続く。
どちらにせよ、周防と和紀がそう簡単に奈義の前に日生を出さないのは知れたことだった。
「それで?息子が出ていった後の穴埋めに呼ばれたわけか…」
詳しい説明など聞いていない。いきなり「暇なら今から来い」と呼びつけられたに過ぎない。
和紀たちとの接触を嫌った周防が、「自宅でいい」と言ったことにも驚きがあったが、二人がいないと分かれば自宅を指名した理由も理解できた。
堅忍不抜の態度でいるかと思えば、人淋しい面も見せるのかと少々面食らった奈義だったが…。
こんな周防を見ることはまずなかった。
奈義の指摘が当たったかどうかは姿が見えないので反応が分からなかったが、すぐに「出ていったうちに入らないな。隣にいるんだ」と回答がある。
『隣』とは、これまで奈義と周防が気ままに飲むために使っていた部屋だとは奈義も判断出来た。
「あぁぁ?!…ったく、親離れも子離れもできない親子かよ~」
咄嗟に呆れた声が響き渡ったが、周防は気にした様子もなく、悠然とした態度でリビングに戻ってきた。
すでにテーブルの上にはグラス類が並ぶ。
それらに注がれた液体を眺め、目的のない乾杯の音頭をとる。
「おまえだって色々な人間に囲まれて暮らしているだろう。何で俺が一人にならなきゃならないんだ」
周防のもっともらしい発言は理解できるようなできないような複雑なものだ。
そもそも立場が違っているだろう。
だけど強固な精神を持つと思われていた中に、消沈した気分が見え隠れするのは嫌なものではない。
隠しもしないところが、また自分とは違った人間だと思わされたが、どことなく心がほんわりとした。
「はいはい。淋しい”お父さん”に付き合ってやるくらいの人情はあるよ」
「奈義には散々手を焼かされたからな。これくらいじゃおあいこにはならないだろう」
「何が望みだよっ?!クソッ!足元見やがってっ!!」
「望み?別におまえに期待するものは何もないが。…そうだな。たまには手土産の一つも持ってこいってところか」
「素直に『通え』って言えばどうだ?」
「その頻度は奈義に任せておくよ」
少なくても決して良い顔をしない『家族』がいるのを知る。
それでも奈義に声をかけてくれたことは小さな喜びだった。
組員はともかく、周防に頼ったことはあっても頼られたことはない。
ようやく、周防と並べたような気がしたのだった。
にほんブログ村
ポチっていただけると嬉しいです。
新しい家族?!
今までのマンションではそれぞれの部屋を持ち、それぞれに寝ていた。
周防がご丁寧にも帰宅の遅くなる日は連絡を入れてくれていたおかげで、そんな日は安心して家の中でコトにおよべたが、それ以外は何かと理由をつけてホテルを利用していた現実がある。
親公認となってしまえば遠慮もなくなるのか…。
日生はいささか戸惑いがあったが、帰宅して母屋(?)に寄り、夕食を食べてから玄関を抜けて隣室に入る。
慣れるとさほど気にしなくなる行動に変わってしまうのが不思議だ。
黙って見送ってくれる周防の存在も大きい。あまりにも近すぎることも抵抗感を持たせない理由の一つ。
扉一つ二つ越えるだけの距離は、これまでと何の変わりも見せないくらいだった。
気遣いなく安心して和紀に甘えられるベッドルームは日生にとって安らぎの場ともなる。
日頃の生活にもその影響は表れるようで、日生の心の安堵は落ち着いた精神を生み出し、冷静に物事を判断できる手腕を発揮し出した。
何をするわけでもない日でも、単にそばにいて日生を包んでくれる腕があると知れると、自然と落ちついた。
全ては信頼関係に繋がっていく。
部屋数が多く全てを使うことはない。それでも見た目用の家具はあちこちに揃えられ、和紀と日生の必要とするものも各個人で用意された。
ワークルームは私室として、仕事以外の趣味のものも詰め込まれていく。かといって以前使っていたものが持ち出されたのかと言えばそうでもない。
どちらにいようが快適な生活を送れるのは贅沢以外のなにものでもないだろう。
ほとんど使われることのなかった場所はキッチンだったが、生活に困らない程度のドリンクや軽食の類は清音のはからいで整えられていた。
休日前の夕刻の時間。
珍しく周防は奈義を呼びつけた。
息子たちは早々と引き上げてしまったため、手持無沙汰だったこともあった。
過去にいろいろありはしたが、常識をわきまえた態度に出てくれれば、気心知れた昔からの仲は早々に壊れることもなかった。
分かっているからこそ咎めもするし、真正面から立ち向かってもいく。
周防の潔さは、口に出しはしないものの、奈義が憧れるものなのかもしれない。
この友情を失いたくないと思うからこそ、素直に聞き入れることができる。まぁ、時と場合によるが…。
周防も自分が口を出してはいけない分野を知り、無駄口を叩かない距離感が尚更二人の友好を深めていた。
置かれている家具などは何も変わりはしないが、漂ってくる雰囲気は『がらん』としたものを纏っていた。
私生活など特に聞いたわけではない。だがそこに『家族』がいないことを奈義は感じ取った。
「なんだ、日生はいないのか」
「誰がおまえなんぞに顔を拝ませるか」
「年を追うごとにまた『美人さん』になったんだろう。手ぇ出すわけじゃあるまいし、酌の一つくらいさせてもいいだろうが」
リビングのソファに座り、周防がキッチンに向かっていくと、その後を舎弟の人間が数人ついてまわる。
周防も慣れたもので、運ぶものを次々と手渡し、準備をさせた。
「酌なら自分の部下にさせるんだな」
「美味い酒もまずくなるな…」
互いに顔が見えない間でも会話は続く。
どちらにせよ、周防と和紀がそう簡単に奈義の前に日生を出さないのは知れたことだった。
「それで?息子が出ていった後の穴埋めに呼ばれたわけか…」
詳しい説明など聞いていない。いきなり「暇なら今から来い」と呼びつけられたに過ぎない。
和紀たちとの接触を嫌った周防が、「自宅でいい」と言ったことにも驚きがあったが、二人がいないと分かれば自宅を指名した理由も理解できた。
堅忍不抜の態度でいるかと思えば、人淋しい面も見せるのかと少々面食らった奈義だったが…。
こんな周防を見ることはまずなかった。
奈義の指摘が当たったかどうかは姿が見えないので反応が分からなかったが、すぐに「出ていったうちに入らないな。隣にいるんだ」と回答がある。
『隣』とは、これまで奈義と周防が気ままに飲むために使っていた部屋だとは奈義も判断出来た。
「あぁぁ?!…ったく、親離れも子離れもできない親子かよ~」
咄嗟に呆れた声が響き渡ったが、周防は気にした様子もなく、悠然とした態度でリビングに戻ってきた。
すでにテーブルの上にはグラス類が並ぶ。
それらに注がれた液体を眺め、目的のない乾杯の音頭をとる。
「おまえだって色々な人間に囲まれて暮らしているだろう。何で俺が一人にならなきゃならないんだ」
周防のもっともらしい発言は理解できるようなできないような複雑なものだ。
そもそも立場が違っているだろう。
だけど強固な精神を持つと思われていた中に、消沈した気分が見え隠れするのは嫌なものではない。
隠しもしないところが、また自分とは違った人間だと思わされたが、どことなく心がほんわりとした。
「はいはい。淋しい”お父さん”に付き合ってやるくらいの人情はあるよ」
「奈義には散々手を焼かされたからな。これくらいじゃおあいこにはならないだろう」
「何が望みだよっ?!クソッ!足元見やがってっ!!」
「望み?別におまえに期待するものは何もないが。…そうだな。たまには手土産の一つも持ってこいってところか」
「素直に『通え』って言えばどうだ?」
「その頻度は奈義に任せておくよ」
少なくても決して良い顔をしない『家族』がいるのを知る。
それでも奈義に声をかけてくれたことは小さな喜びだった。
組員はともかく、周防に頼ったことはあっても頼られたことはない。
ようやく、周防と並べたような気がしたのだった。
にほんブログ村
ポチっていただけると嬉しいです。
新しい家族?!
- 関連記事
ひなちゃん、無事に新婚生活突入ですね。しかも、流行りの歳の差婚(笑)
子育てお兄ちゃんが懐かしい。
で、ですね、きえさん。
まさか、パパとオヤジに何かあったりするんですか!
ワクワクo(^o^)o
子育てお兄ちゃんが懐かしい。
で、ですね、きえさん。
まさか、パパとオヤジに何かあったりするんですか!
ワクワクo(^o^)o
昨日は、先走ったコメを書いて申し訳ない...○j乙
周防が奈義を呼びつけるなんて!
しかも 「通え」だなんて!
Σ(゚Д゚ノ)ノ おおぉぉぉぉ~
・・・で、熟年カッポーにしちゃうの、きえ様?
ムフフッフ(*´ 艸`)(´艸 `*)腐腐腐...byebye☆
周防が奈義を呼びつけるなんて!
しかも 「通え」だなんて!
Σ(゚Д゚ノ)ノ おおぉぉぉぉ~
・・・で、熟年カッポーにしちゃうの、きえ様?
ムフフッフ(*´ 艸`)(´艸 `*)腐腐腐...byebye☆
ちー様
こんにちはー。
> ひなちゃん、無事に新婚生活突入ですね。しかも、流行りの歳の差婚(笑)
> 子育てお兄ちゃんが懐かしい。
年の差婚(笑)
我が家では結構いたりする、ひとまわり違うくらいの年の差ですね。
今いくつだろう。日生23歳、和紀35歳くらいですか(?←オイ)
幸せいっぱいの新居生活を送っていることと思います。
> で、ですね、きえさん。
> まさか、パパとオヤジに何かあったりするんですか!
> ワクワクo(^o^)o
わぁぁぁぁっ
えーと…。どうしましょう…。
ただの家族です。(←もっとアヤシイ発言だぁ)
ふたりめのパパですからね。
コメントありがとうございました。
こんにちはー。
> ひなちゃん、無事に新婚生活突入ですね。しかも、流行りの歳の差婚(笑)
> 子育てお兄ちゃんが懐かしい。
年の差婚(笑)
我が家では結構いたりする、ひとまわり違うくらいの年の差ですね。
今いくつだろう。日生23歳、和紀35歳くらいですか(?←オイ)
幸せいっぱいの新居生活を送っていることと思います。
> で、ですね、きえさん。
> まさか、パパとオヤジに何かあったりするんですか!
> ワクワクo(^o^)o
わぁぁぁぁっ
えーと…。どうしましょう…。
ただの家族です。(←もっとアヤシイ発言だぁ)
ふたりめのパパですからね。
コメントありがとうございました。
けいったん様
こんにちは。
> 昨日は、先走ったコメを書いて申し訳ない...○j乙
ミサイル食らった気分です…。
っていうのは冗談で。
こうやって色々とご意見もらって私の頭も『おおぉぉぉ~~』ってひらめいたりするんです。
(むしろそのほうが多い…)
でも家族を増やすことは以前から考えていたことなんですけど…。
(第二のパパってどこかで書いたなぁ…)
> 周防が奈義を呼びつけるなんて!
> しかも 「通え」だなんて!
> Σ(゚Д゚ノ)ノ おおぉぉぉぉ~
>
> ・・・で、熟年カッポーにしちゃうの、きえ様?
> ムフフッフ(*´ 艸`)(´艸 `*)腐腐腐...byebye☆
熟年カッポーっΣ( ̄□ ̄;)
我が家で、もしこれが成立するなら…、一番奥深いものになりますなぁ…。
単なる、暇つぶしとか、話し相手程度……かもしれませんよ。
でも呼びつけた周防に、大人しく来ちゃう奈義だからなぁ…。
そこは『友情』ってことで?!
長年黙認してきた和紀も感じるところがあったんですかねぇえええ。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 昨日は、先走ったコメを書いて申し訳ない...○j乙
ミサイル食らった気分です…。
っていうのは冗談で。
こうやって色々とご意見もらって私の頭も『おおぉぉぉ~~』ってひらめいたりするんです。
(むしろそのほうが多い…)
でも家族を増やすことは以前から考えていたことなんですけど…。
(第二のパパってどこかで書いたなぁ…)
> 周防が奈義を呼びつけるなんて!
> しかも 「通え」だなんて!
> Σ(゚Д゚ノ)ノ おおぉぉぉぉ~
>
> ・・・で、熟年カッポーにしちゃうの、きえ様?
> ムフフッフ(*´ 艸`)(´艸 `*)腐腐腐...byebye☆
熟年カッポーっΣ( ̄□ ̄;)
我が家で、もしこれが成立するなら…、一番奥深いものになりますなぁ…。
単なる、暇つぶしとか、話し相手程度……かもしれませんよ。
でも呼びつけた周防に、大人しく来ちゃう奈義だからなぁ…。
そこは『友情』ってことで?!
長年黙認してきた和紀も感じるところがあったんですかねぇえええ。
コメントありがとうございました。
| ホーム |