和紀が周防を担当する医師に確認を求めると、長期の治療が必要になるという。この分野においては数多くの症例を扱ってきた経験のある医師で、和紀は安心して任せることができると思った。
一時的に悪性腫瘍を取り除けたとしても、再発の可能性は残しており、これまでの治療患者のデータを見ても、年を追うごとに生存率は低くなっていった。
あと何年…。こればかりは神のみが知ることである。
「できる限りの手は尽くして行きましょう」
「宜しくお願いします」
深々と頭を下げた和紀の肩を、医師は宥めるようにポンと叩いた。
入院の手続きを済ませ、和紀は一度病室に寄った。
話を聞いた清音が身の周りのことまでしてくれるのは、非常にありがたかった。
そこにあるのは、長年連れ添った情なのだろうか。恋をする愛情というより、家族愛に近い。清音自身、家族に恵まれなかったから、思うものは強いのかもしれない。
和紀の母親と姉妹のように過ごして育った環境も、和紀たちに思いを寄せてくれる一因なのだろうか。
病室は個室をとってある。たぶん、見舞いにやってくるであろう面子を思うと、周りに迷惑をかけない点でも良い気がした。
病室に入ると、ちょうど清音が花瓶に生けた花の向きを調整しているところだった。
「あ、和紀さん、お話は済みましたの?」
「えぇ。手術を終えたら退院できるそうですから」
「まぁ。三隅さん、昔から体力はありましたから、きっと回復も早いでしょうね」
清音と和紀の会話に、ベッドにごろんと横になっていた周防が口を挟んでくる。
「清音さん、そんな風に言われたら体力だけが取り柄のようじゃないですか」
「"逞しい”という褒め言葉に変えておいてください」
ふふふと穏やかに笑みを浮かべ、「ちょっと出てきますね」と席を和紀に譲った。
二人で話がしたいであろうと気を回してくれる配慮に感謝する。
ベッドの脇の椅子に腰をおろし、和紀はいつもと変わらない態度を見せた。
「会社のことは心配しなくていいから…」
「あぁ。日生もいるし安心しておまえたちに任せられるよ」
全てを急いたのは自分自身が安心したかったからなのだろうと和紀は思う。改めてそれを確認するには至らないが…。
心配事が減ればその分、治療に専念できるのではないだろうか。
順調に事が運ばれることばかりを願う。
昔、母親を亡くした。いつか父親の死も迎えなければならないとは漠然と思っていたことだった。
遅かれ早かれ…。
事故などのように、突然やってくるものではないだけ、心の準備ができるのかもしれない。
母親の時と同じだ…。
和紀は二度目の『死』に直面して、返って冷静になっているようだった。
何も明日死ぬわけではない。忙しくてなかなか語れなかった昨今、今からでも親子の触れあいはいくらだってできるはずだ。
「明日はひなも連れてくるよ。今日は仕事を押し付けてきちゃったからな」
「そうか…。健康診断だ、とでも言っておけばいいさ」
「あのな…」
周防はまだ和紀が日生に真実を伝えていないことに気付いている。
周防を大事に思う気持ちを知るからこそ、伝える勇気が持てないでいた。
『家族』をもらった日生は、無くすことの意味を理解できるだろうか…。
周防は手をかざして、シッシッと犬猫を追い払うような仕草を見せる。
「日生のことが心配だろう。ここはもういいぞ。早く戻ってやれ」
「まったく…」
気丈なのには感心も抱く。
一時は落ち込んだ気も、気休めでもこんな姿を見ればホッと息をつきたくなった。
「先生の言うこと、ちゃんと聞けよ」
「幾つの子供だよ…」
親子として、そして兄弟にも近く育った。呆れるような周防の顔を見て、和紀は席を立つ。
帰り道、寄りたいところが一つ、あった。
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出張が終わった粗大ゴミがいる…。短いけどご勘弁を…。
一時的に悪性腫瘍を取り除けたとしても、再発の可能性は残しており、これまでの治療患者のデータを見ても、年を追うごとに生存率は低くなっていった。
あと何年…。こればかりは神のみが知ることである。
「できる限りの手は尽くして行きましょう」
「宜しくお願いします」
深々と頭を下げた和紀の肩を、医師は宥めるようにポンと叩いた。
入院の手続きを済ませ、和紀は一度病室に寄った。
話を聞いた清音が身の周りのことまでしてくれるのは、非常にありがたかった。
そこにあるのは、長年連れ添った情なのだろうか。恋をする愛情というより、家族愛に近い。清音自身、家族に恵まれなかったから、思うものは強いのかもしれない。
和紀の母親と姉妹のように過ごして育った環境も、和紀たちに思いを寄せてくれる一因なのだろうか。
病室は個室をとってある。たぶん、見舞いにやってくるであろう面子を思うと、周りに迷惑をかけない点でも良い気がした。
病室に入ると、ちょうど清音が花瓶に生けた花の向きを調整しているところだった。
「あ、和紀さん、お話は済みましたの?」
「えぇ。手術を終えたら退院できるそうですから」
「まぁ。三隅さん、昔から体力はありましたから、きっと回復も早いでしょうね」
清音と和紀の会話に、ベッドにごろんと横になっていた周防が口を挟んでくる。
「清音さん、そんな風に言われたら体力だけが取り柄のようじゃないですか」
「"逞しい”という褒め言葉に変えておいてください」
ふふふと穏やかに笑みを浮かべ、「ちょっと出てきますね」と席を和紀に譲った。
二人で話がしたいであろうと気を回してくれる配慮に感謝する。
ベッドの脇の椅子に腰をおろし、和紀はいつもと変わらない態度を見せた。
「会社のことは心配しなくていいから…」
「あぁ。日生もいるし安心しておまえたちに任せられるよ」
全てを急いたのは自分自身が安心したかったからなのだろうと和紀は思う。改めてそれを確認するには至らないが…。
心配事が減ればその分、治療に専念できるのではないだろうか。
順調に事が運ばれることばかりを願う。
昔、母親を亡くした。いつか父親の死も迎えなければならないとは漠然と思っていたことだった。
遅かれ早かれ…。
事故などのように、突然やってくるものではないだけ、心の準備ができるのかもしれない。
母親の時と同じだ…。
和紀は二度目の『死』に直面して、返って冷静になっているようだった。
何も明日死ぬわけではない。忙しくてなかなか語れなかった昨今、今からでも親子の触れあいはいくらだってできるはずだ。
「明日はひなも連れてくるよ。今日は仕事を押し付けてきちゃったからな」
「そうか…。健康診断だ、とでも言っておけばいいさ」
「あのな…」
周防はまだ和紀が日生に真実を伝えていないことに気付いている。
周防を大事に思う気持ちを知るからこそ、伝える勇気が持てないでいた。
『家族』をもらった日生は、無くすことの意味を理解できるだろうか…。
周防は手をかざして、シッシッと犬猫を追い払うような仕草を見せる。
「日生のことが心配だろう。ここはもういいぞ。早く戻ってやれ」
「まったく…」
気丈なのには感心も抱く。
一時は落ち込んだ気も、気休めでもこんな姿を見ればホッと息をつきたくなった。
「先生の言うこと、ちゃんと聞けよ」
「幾つの子供だよ…」
親子として、そして兄弟にも近く育った。呆れるような周防の顔を見て、和紀は席を立つ。
帰り道、寄りたいところが一つ、あった。
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出張が終わった粗大ゴミがいる…。短いけどご勘弁を…。
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今は とにかく 周防の手術が無事に終わる事を祈るばかりです
ひなは まだ知らないのか
家族なら 言った方がいいんじゃないのかな?
変に隠すと ひなが疎外感を感じちゃうよ~((ヽ(;´Д`)ノ))
周防の手術が上手くいきます様に...
☆彡 *.:*:.。.: (人 *) 願い事願い事...byebye☆
ひなは まだ知らないのか
家族なら 言った方がいいんじゃないのかな?
変に隠すと ひなが疎外感を感じちゃうよ~((ヽ(;´Д`)ノ))
周防の手術が上手くいきます様に...
☆彡 *.:*:.。.: (人 *) 願い事願い事...byebye☆
けいったん様
こんにちは~。
筆の進むままに、流れは変わっていくと思います(←いい加減)
> 今は とにかく 周防の手術が無事に終わる事を祈るばかりです
>
> ひなは まだ知らないのか
> 家族なら 言った方がいいんじゃないのかな?
> 変に隠すと ひなが疎外感を感じちゃうよ~((ヽ(;´Д`)ノ))
>
> 周防の手術が上手くいきます様に...
> ☆彡 *.:*:.。.: (人 *) 願い事願い事...byebye☆
ひなには…。隠している和紀です。
もう家族ですからね。知らなかったとは、あとで悲しむと思いますよ。
すぐにでも伝えるのではないでしょぅか。
そして一緒に痛みを分かち合うのでは…。
悲しまないように、和紀はこちらにも最善の策を尽くすのでしょう。
共に『死』を見た清音さんと共に。皆から包まれると思います。
手術、成功するはずです。皆様の祈りをあびても…。
コメントありがとうございました。
こんにちは~。
筆の進むままに、流れは変わっていくと思います(←いい加減)
> 今は とにかく 周防の手術が無事に終わる事を祈るばかりです
>
> ひなは まだ知らないのか
> 家族なら 言った方がいいんじゃないのかな?
> 変に隠すと ひなが疎外感を感じちゃうよ~((ヽ(;´Д`)ノ))
>
> 周防の手術が上手くいきます様に...
> ☆彡 *.:*:.。.: (人 *) 願い事願い事...byebye☆
ひなには…。隠している和紀です。
もう家族ですからね。知らなかったとは、あとで悲しむと思いますよ。
すぐにでも伝えるのではないでしょぅか。
そして一緒に痛みを分かち合うのでは…。
悲しまないように、和紀はこちらにも最善の策を尽くすのでしょう。
共に『死』を見た清音さんと共に。皆から包まれると思います。
手術、成功するはずです。皆様の祈りをあびても…。
コメントありがとうございました。
良かった。手術出来るんだ。
出来ないのかと思ったー(;_;)
まあ、再発しない限り大丈夫です。
優しいパパを早々連れては行きませんよね、神さま。
ひなちゃんも、お兄ちゃんと乗り越えていくはずですよね。
パパとオヤジを保護者会に入れたいです!←ひなちゃんは諦めた(笑)
きっとますます楽しい会になりますよ。
(オヤジはどーかわかんないけど)
出来ないのかと思ったー(;_;)
まあ、再発しない限り大丈夫です。
優しいパパを早々連れては行きませんよね、神さま。
ひなちゃんも、お兄ちゃんと乗り越えていくはずですよね。
パパとオヤジを保護者会に入れたいです!←ひなちゃんは諦めた(笑)
きっとますます楽しい会になりますよ。
(オヤジはどーかわかんないけど)
ちー様
おはようございます。
> 良かった。手術出来るんだ。
> 出来ないのかと思ったー(;_;)
>
> まあ、再発しない限り大丈夫です。
> 優しいパパを早々連れては行きませんよね、神さま。
神頼みです(`・ω・´)ノ
あてにならない神様に出会いませんように(ー人ー)ナムナム
いやいや、先生に頼りましょう。
> ひなちゃんも、お兄ちゃんと乗り越えていくはずですよね。
兄弟仲良く手をとりあって、力強く生きてほしいです。
周防の息子ですから、和紀も逞しいはずです。
> パパとオヤジを保護者会に入れたいです!←ひなちゃんは諦めた(笑)
> きっとますます楽しい会になりますよ。
> (オヤジはどーかわかんないけど)
ひなはとうとう諦められたのか(笑)
いや、でも、保護者会もね~。
ちょっと年齢層があがっちゃうから…
あ! 同じ年くらいにバーのオーナーがいましたねぇ。
そうか…、若い人たちの中に入ったら、若返りますね。
今でも若いはずですが…。
楽しい買いになるのかしら(゚∀゚)
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 良かった。手術出来るんだ。
> 出来ないのかと思ったー(;_;)
>
> まあ、再発しない限り大丈夫です。
> 優しいパパを早々連れては行きませんよね、神さま。
神頼みです(`・ω・´)ノ
あてにならない神様に出会いませんように(ー人ー)ナムナム
いやいや、先生に頼りましょう。
> ひなちゃんも、お兄ちゃんと乗り越えていくはずですよね。
兄弟仲良く手をとりあって、力強く生きてほしいです。
周防の息子ですから、和紀も逞しいはずです。
> パパとオヤジを保護者会に入れたいです!←ひなちゃんは諦めた(笑)
> きっとますます楽しい会になりますよ。
> (オヤジはどーかわかんないけど)
ひなはとうとう諦められたのか(笑)
いや、でも、保護者会もね~。
ちょっと年齢層があがっちゃうから…
あ! 同じ年くらいにバーのオーナーがいましたねぇ。
そうか…、若い人たちの中に入ったら、若返りますね。
今でも若いはずですが…。
楽しい買いになるのかしら(゚∀゚)
コメントありがとうございました。
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