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BLの丘
契りをかわして 20
2012-03-26-Mon  CATEGORY: 契り
信楽の目の前で、性行為をやってみせろという発言には、伊吹も甲賀も思わず黙ってしまった。
「君は伊吹が俺の腕の中で、どんなふうに悦んでいたか見たこともないはずだろう。何故比べられる?俺が思っているのと同じように、君に抱かれている伊吹が虚像かどうかなんて分かりはしないだろうが」
「し、信楽さん…」
伊吹は嫌だ、と首を振った。甲賀の苛立ちも溢れてくる。
「アンタ、どこまで伊吹を拘束する気だよっ?!伊吹がアンタと別れたいって言っているのに、何で応じてやれないんだっ?!」
「五年以上伊吹は俺のそばにいたのに、どうして今更君なんかの言葉が信じられる?今朝ここから出勤する時も笑っていたし、電話での声も穏やかだった。寧ろ、今現在、君が騙していると受け取る方が妥当じゃないか」
「そんな営業スマイルなんて、俺だって山ほど見ているよっ!!じゃあ伊吹が愁い顔で寄り添ってくるところや、何かを言いたそうで口を噤むところを見たか?!その度に抱きしめてやって安堵する顔を知ってるかよっ?!アンタが見てたのって、そばにいられることを嬉しそうに”演じてる”伊吹の姿だけだろっ!!」
事実を知らない…、と甲賀は声を荒げた。
決して言ってほしい内容ではないが、伊吹が信楽の前で、『離されないように』縋っていたことまで掴み取っている。
本能のままに乱れられる性行為を甲賀と続けてきた。それは他の誰にも見せたことのない姿であることも、いつの間にか感じ取っていたのだろう。
だから最後の日、甲賀は伊吹を引き止め、昼まで抱き潰したのだ。もちろん伊吹も嫌がらず応じた。
ひたすら甲賀に縋る時がありながら、起きて目を覚ました先で咄嗟に出た他人行儀な態度は、自分以外の人間に向けられるものなのだと判断出来たところが凄いと感心してしまう。
そして、今後の話をしたかったはずの甲賀を、直後から断り続けた伊吹。
あの日、伊吹を帰したことを後悔したのは、甲賀だったのかもしれない。
その場で何かの話をしていたら、何かが変わっていたかも…と。

信楽はそれでも引き下がらない。どこまでもいつも見ていた伊吹が”信楽の伊吹”なのだ。
「若者が何も知らずに誤解しているだけだろう。あぁ、誤解しているのは君のほうだ」
「ふざけんなっ!」
信楽に信用させる方法なんて伊吹には思いつかなかった。
だけど人が見ている前で甲賀と交わるなんていう恥ずかしい行為は、絶対にできない。
「甲賀…」
見上げればすぐに甲賀が伊吹の体を引き寄せた。そして膝の上に跨らせて、向かいあうように座らせられた。
「え?」
突然の行動は信楽も驚かせたようだ。
何をしようというのか。トクンと心臓が跳ねる。

「あんなイイ顔、アンタなんかに見せねぇよ。だけど伊吹がどれほど俺の事が好きなのかだけは教えてやる」
「こ…」
いきなり唇が塞がれた。信楽の目の前でキスをされているのだと判断できるまで、何秒…。
これだって見せたくない。そう思うのに…。
的確に伊吹の感じる場所を突いてくる。時に力を緩めて上下の唇を食み、伊吹の舌を引き出そうとする。
瞳を閉じて、甲賀の動きを追ってしまえば、信楽の存在が消えて、先程の中途半端にされたキスが脳裏を過った。
甲賀とは久し振りだった…。
相手を求めて、求められて…。
もっと、と欲求が溢れてくる。
「あ、…っこぅ…」
塞がれて苦しいはずなのに、伊吹の表情は煌々と輝きだした。
伊吹は甲賀の首筋に腕を回して密着するよう動いていた。甲賀の太い両腕が背中を抱き、後頭部を押さえつけてくる。
幾度も顔の角度を変えながら貪られる。明らかな唾液の絡まる音が響く。
時々瞼を薄く開けては、目の前の顔に、ここにいるんだと信じられて笑みがこぼれる。
『気持ちいい…』
いつものように伊吹は喜んだ。
甲賀の口角も上がって、緩い動きに変えられる。
まだ名残惜しいのに…。
唇が離れて、伊吹は「はぁ…ふぅ…」と一つ大きく息を吸い込んだ。後頭部を押されて胸元に額が当たった。
甲賀の胸に、鼓動を聞こうと片耳を当てる。自分を守ってくれる音…。
トクントクンと動く心臓に合わせて、盛り上がりのある胸筋も動いた。
この体が好き…。
うっとりとした表情の奥から、ふっと感激を表す微笑みが浮かんだ。
細い全身を強く強く抱きしめられる。
「伊吹…」
甲賀の少し掠れた囁く声が鼓膜に響いて、伊吹を痺れさせた。同じように、伊吹の口が「こ…が…」と音を立てずに動く。
この男と契りをかわすのだと…。

信楽が動く物音が聞こえて、伊吹はここがどういう場所なのかを思い出し、羞恥心に襲われた。
信楽の存在を、くちづけに夢中になりすぎて忘れてしまっていたのだ。
慌てて体を起こそうとして、だけど体に回った腕から力は抜かれない。頭部を強く胸元に押し付けられている。
「俺はこれだって見せるのは嫌だったんだよ。でもアンタ、何言ったって信じねぇだろ」
甲賀の声が、頭上と胸から響いてくる。
信楽はこちらに背を向けているようだった。

しばらくの沈黙の後、「ふぅ…」と盛大な溜め息が信楽から吐き出された。
「もういいよ…。もう何も言わない。…俺をこれ以上惨めにするな…」
怒りではない。完全な呆れだ。恋人の前で、新しい恋人と平気で夢中になれるような奴なのかと…。
伊吹は何かを言わなければ…と振り返りたかった。顔を見るのは怖いけれど…。
「信楽さん…」
甲賀の胸元で小さな声を発せば、最後の時を甲賀も分かるのか、腕の力が抜けた。
だが振り返っても見えたのは信楽の背中だけだった。
「伊吹。住所を教えてくれれば後で荷物は送ってあげるから…」
その言葉だけを残してリビングを出ていってしまった。ドアを開ける時にチラッと見えた後ろからの表情には、明らかな疲労の色が浮かんでいた。
どれほど信楽に精神的な負担を負わせてきたのか…。申し訳なさすぎて涙が出る。
伊吹のために…と全面的に尽くしてくれたというのに。文句の一つも言われることなどなかったのに。耐えたのは信楽のほうだったはずだ。
結局はこんな形で裏切ることしかできなかった。
そして、この期に及んで、荷物の手配までしてくれるという。
もう二度と、ここには来るなという意味だろう…。
後ろめたさもあったから、伊吹は持てるだけの荷物をまとめてから、鍵をテーブルの上に置いて、甲賀と共に住み慣れたマンションを出た。
信楽は自室にこもったまま、最後まで出てくることはなかった。

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