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BLの丘
淋しい夜に泣く声 24
2009-09-22-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
洗いあげた身体に柔らかなバスロープを着せられ、子供を抱きかかえるように抱っこをされて寝室に連れて行かれた。
この後、何をされるのだろうと恐怖に陥る英人に、榛名は何もしなかった。
英人だけをベッドに横たわらせ、布団を掛けて英人を覆うと榛名は縁に腰かける。鋭かった顔色はなくなっており、何かを言いたげな瞳があったが、最後まで榛名の口から言葉が零れることはなかった。
指先で英人の湿った髪を梳き、英人の叩かれた頬に唇を落としただけで寝室を出ていった。
身繕いをしているらしい音だけが聞こえてきた。やがてドアの閉まる音がして榛名がこの部屋を出ていったのだと感じた。
榛名が自分をどうしようとしているのか考えるのも億劫だった。自分は金で買われ流されるだけでしかいられない。
何の音もしないシーンとした空間。
そこに英人の抑えるように泣き崩れる声が響いていた。

真夜中まで英人は眠り続けていた。
昨夜の寝不足もあったし、榛名から与えられた凌辱的な行為も英人の体を疲労させていた。いつの間にか泣き疲れて寝てしまったと、貼りつくような瞼が教えてくれた。
暗く、非常灯のぼんやりとした灯りが室内にあった。小さな灯りで電気を求め、リビングに立った。
自分がこれまでに描いてきた絵がそこにあった。
夢を託すような街並みを描いた未来予想図。パースのように現実的なものではなく、どこか異空間を思わせた。日常を離れ海外旅行をした先で見つけた街並みのような感覚。この一枚が全ての始まりだった。

今描きかけの絵はあどけない子供の顔を描いているものだった。
風景画や抽象画にこだわることはないと促され、一番描きたかった人物画に挑戦していた。
だけど、瞳を描くことができなかった。
幾度公園や人の集まる街に出かけても、今描いている子供の瞳に出会えなかった。自分が何をどう描きたいのか分からずに焦りも生まれていた。
それは失望にも似ていた。

たぶん写したかったのは自分の目だったのだと思う。未来は蔑まされて孤独に耐えて人から疎まれる人生。
親にロクな愛情も与えてもらえず、人肌の温もりを求めて彷徨う。
そんな人間がこの世にいるのだと、何のメッセージだとは言わないが、そんな作品を上げてみたかった。
でも書けなかった。自分を描くようで怖かったのだ…。

それに気付いた時、英人は初めて自分の描きかけていた絵を切り刻んだ。
次から次へと涙が溢れ、それと同じ数だけカッターナイフが絵の上に落ちた。
描けなかった子供は自分だ。この世になどいらないのだ。
人の支配下に置かれ、自由など与えられない。常に卑しく人に縋りつき自分自身で立つことのできない醜い身体…。

最後には自分の体を傷つけようとした…。でもできなかった…。
あれだけ酷い仕打ちをされたというのに、その榛名から与えられた慈しむような愛撫が彷彿とし血液と共に巡っていった。
最後にもらった、謝るような口付けと何かを言いたそうだった瞳。
榛名が与えてくれる未来に希望があるからこそ、その夢を追いかけたいと願う自分もいた。
どんなに酷いことをされても、間違えたのは自分で正してくれたのが榛名だと漠然と感じれば、これからの自分は変われるのではないかという期待があった。結局今の自分は榛名だけが頼りなのだ。

英人はカッターナイフを投げ捨てると、切り刻んだ絵を抱きかかえた。そして声を上げて泣いた。

榛名は一週間ほど姿を現さなかった。
どうしたのかと気にもなったのだが、次に顔を合わせた時に何を言われるのか、何をされるのかという恐怖もあった。
英人はその間、一歩も部屋を出られなかった。
ルームキーパーが定期的に訪れてくれて、部屋の清掃をしていった。同時に、ルームサービスすらほとんど取っていないことを気にして、頼んでもいない軽食を置いていってくれたりした。
無言のような一週間が瞬く間に過ぎた。

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