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BLの丘
淋しい夜に泣く声 21
2009-09-20-Sun  CATEGORY: 淋しい夜
決して別れの言葉を聞くことはなかったけど、状況は英人だって理解できた。
使い古された身を引き取ってくれないことなど分かっていたつもりだ。
学生時代から幾度だって元樹以外の男も受け入れていたのだ。増してや金銭の授受がある現在を嫌がられることなど覚悟の上だったはずだ。
荒んだ生活を送り始めた頃から、自分には体しかないのだと幾度も思わされてきた。
心を求めるなど厚かましいにもほどがあると、教えたのはたぶん母親だ。
実際、母は父に棄てられたのも同然の生活だった。世界に羽ばたいていったまま戻らなかった父。今、どこでどんな生活を送っているのか、それともすでに世を去っているのか、英人も知らない。
母は愛情というものを信じなくなった。それをそのまま英人の体と心に教え込ませてきた。
だから簡単に人の上で足を開けたし、自分を求めてくれるという快楽に溺れていった。その時に人肌の温もりを知った。

俯き落ち込みを見せる英人の姿を気遣ったのか、元樹が明るい声を響かせた。
「今、いっぱい描いているんだろう?将来有望な画家さんの絵って見てみたいなぁ。俺、絵心分かんないけど、昔っから英人が描く絵って好きだったよ」
話題をうまくすり替えるのは営業と言う職で培った技なのだろうか。
ニコニコと微笑まれて、落ち込んだままでは元樹に迷惑をかけると無理に笑顔を作って見せる。
咄嗟に浮かんだのは榛名のことであって、昼間のこの時間なら榛名は来ないのではないかと侮っていった。

これが最後だと分かるなら、英人はどうしても初めて自分に温もりを与えてくれた男の肌を知りたかった。
好きとか嫌いとかではなく、大切に扱ってくれた身体をもう一度思いだしたいだけだった。
元樹に完全に気を許していたこともあった。
絶対に外に漏らすなと言われた榛名の言葉が、自分を貶める言葉と重なり、英人は元樹の甘みを求めていた。
「今の時間だったら見せてあげることもできる」
完全に、元樹を誘う言葉だった。


ホテルの部屋に着くと、中を見回しただけで元樹は絶句していた。
すでに慣れていた英人は気にも留めなかったが、入口を入って僅かのところで動きを止めた元樹に、どうしたの?と首を傾げる。
「す…げ…。何、ここ、ここに今英人って住んでるの?」
「ん、まぁ一応。会社のプロジェクトのこととかあって、ほとんど監禁状態だけどね」
ここに来たことは内緒にしてくれと暗に漏らせば、元樹は小さく首を振っていた。
「やっぱり全然違う世界の人になってたんだ…。この前の服装見ただけでなんとなく分かってたけど…。俺、すげぇ恥ずかしい。何でもう一回英人を手に入れたいって言っちゃったんだろう」
怖気ずく元樹にそっと近づいた。
「そんなこと言わないで。元樹に逢えてすごい嬉しかった。懐かしかったし。元樹はいつだって俺のこと、大事にしてくれたじゃん」
「ここの人は?英人に酷いこととかするの?」
まるで何かを求めるかのように寄り添った英人に、元樹は不安げな表情を浮かべた。
監禁、という言葉を聞いたこともあったし、大事にされていないという表現にも引っかかるものがあった。
多額の資金を投入していることも理解した元樹が、激痛をもたらす行為をされているのではないかと疑うのは仕方のなかったことなのかもしれない。
半分は当たっていたが、残りの半分は違う。ここ最近の榛名の行動は英人にも分からない。
金で買うと言われながら、扱われる身体には慈しみのようなものが見え隠れしていたから…。

「そんなことないよ」
首を振りながら、『心がないだけ』と内心で呟く。
元樹を心配させるのも嫌だった。
「本当に?…俺、英人のこと幸せにしてやれないかもしれないけど、英人が辛い目に合っているんだったら助けたい」
元樹の長い腕が伸びて、英人の体をぎゅっと抱きしめた。
震えるような感動が英人の全身を駆け巡っていた。
これだけ想われたことに感動していたし、もうこのまま全てを投げ出して元樹のもとに駆け寄ろうかという衝動に襲われていた。

今目の前にある絵を捨てて、この部屋を飛び出したらどうなるのだろう…。
たった一人の人に愛されるという夢のような生活を思い描いた時、

元樹の腕に抱かれ、束の間の幸せを感じていた耳元に、カチャッとドアの開く音がした。

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粗大ゴミがいなくなってくれたので気兼ねなくパソ子に向かえました(^O^)
けど書きすぎると次の日が心配になる…
溜めておいた方がいいのかと悩んでもいます。
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コメント

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・・・誰?
コメントメグミ | URL | 2009-09-20-Sun 23:03 [編集]
ドアを開けて入ってきたのが誰なのか!

気になります~(>・<)
きっと社長さんかな~?

何気にあの千城さんは・・・独占欲強そう?
望むモノは全て与えてやると傲慢に振舞いながら・・・ビジネス以外の感情が所々に感じるのは私だけでしょうか・・・。(名刺勝手に捨てたりだとか)

解らないのは元樹です。
英人を好きなのか?それとも企業スパイか?

この先の展開を楽しみにしております。

Re: ・・・誰?
コメントきえ | URL | 2009-09-21-Mon 08:16 [編集]
メグミ様

おはようございます!レス遅くなりましたm(__)m

> ドアを開けて入ってきたのが誰なのか!
> 気になります~(>・<)
> きっと社長さんかな~?
先ほど書きあげてきました! はいっ!社長です!!
何であなたがここにいるの?!ってこちらが問い詰めたいくらいですけど。仕事は?!野崎さん任せ?!
たぶん、昨夜立ち寄れなくて、今日の午後は時間が取れたから寄ってみたら本人がいないので帰ろうかな~なんてしていたら、ロビーか廊下あたりで見かけちゃったんでしょうね。

> 何気にあの千城さんは・・・独占欲強そう?
> 望むモノは全て与えてやると傲慢に振舞いながら・・・ビジネス以外の感情が所々に感じるのは私だけでしょうか・・・。(名刺勝手に捨てたりだとか)
独占欲は強いです。
この方は、自分の物は自分のもの、他人の物も自分のものっていう性格なので。
英人に対しては、初夜(?)に何かを感じちゃったんだと思います。まあ、興味を引かれたくらいだと思いますけど。今は。
>
> 解らないのは元樹です。
> 英人を好きなのか?それとも企業スパイか?
企業スパイ?!ああっその手が!!…(?)
いえいえ、単純な恋愛感情です。しかも誰にでも軽い英人を知っていたので、運良ければ…的な部分もありました。だから簡単に諦められちゃうんです。そして今日の記事で打ちのめされちゃったから、ちょっと可哀想な奴です。

今、英人視点で書いているのもあるし、私の文章力の無さで他の方の感情がなかなか表現できなくて申し訳ないです。

> この先の展開を楽しみにしております。
ありがとうございますっ!
またいらしてください。
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