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BLの丘
待っているよ 5
2012-06-03-Sun  CATEGORY: 待っているよ
確認を求めた筑穂に聞こえたのは、この時間まで報告を待ってくれた心遣い。
すぐに連絡して行き違いになることを避けたかったのか…。
しかし今はそれが恨めしく思える時間になった。
「朝練は?」
『今日は参加しませんでしたよ。基本的に自由参加なので。この一週間ほど来ていなかったので今日も不思議に思わなかったんです』
「なに~~~っっ?!」
穂波はいつもの時間に家を出ていた。登校時間よりも早い時間だと分かれば、当然部活のためだと思っていた。
穂波が通う高校は、嘉穂が通う中学校よりも家に近いため、嘉穂たちが歩く速度を考えても、朝練に参加しないのであれば早くに出ていく必要はないだろう。
しかも一週間とは…。その間、何をしていたのか。
『朝練に出ると?』
「えぇ。もう毎日。今日はいつもより早く出たくらいで…」
『え? ここのところ授業にも遅れてくるくらいだったのですが…。あぁ、ここまで遅くなることはなかったですけれどね』
ますます筑穂の顔が引きつっていく。
だからこそ一時限目が終わるまで様子を見てくれていたのも納得できた。
筑穂の動揺を感じ取るのだろう。束の間の沈黙の後、大野城が今後の行動を伝えてきた。
『確認のために警察に問い合わせてみます』
「あのっ」
『落ち着いてください。無意味に動き回ったりしないでくださいよ。この後登校するかもしれませんし』
津屋崎家の事情を、知り過ぎるくらい知ってくれている大野城である。
家族間、連絡を密にとっていることも理解しているから、筑穂から伝えられたことは大野城にとっても意外だったのか。
筑穂が一番心配していることを口に出さないだけで、悟ってくれている雰囲気はある。
「でも…」
『津屋崎君に電話をしてみてもらえませんか。お兄さんからなら出るかもしれないですから』
すでに学校側からも本人に入れたのだろう。
生徒の携帯電話の番号は、本人の意思、家族の確認が得られなければ学校側に報告されない。そこはプライベートを重視してくれている。
穂波の場合、筑穂がほぼ強制的に連絡先として教えてあった。万が一の場合に、嘉穂の連絡先から親戚まで、幅広いデータを提供してある。
それは嘉穂の学校に対しても同様だ。

冷静に判断してくれる人は少しだけ筑穂に落ち着きを取り戻させた。
周りの視線も気にせず、筑穂はすぐにリダイヤルから穂波を選び出した。
硬い顔の筑穂に話しかけたい人たちの口も閉じて見守られた。ほぼ、誰もが動きを止めて緊張感漂う筑穂の行動を見つめていた。
何度かの呼び出し音が鳴り響き、しかし繋がった先は留守番電話だった。
「穂波~~~っっっ、電話に出ろっ、バカヤローっ!!!」
筑穂の絶叫がオフィス内に響き渡っていた。
何度同じ行動を繰り返しても、期待する声は聞こえてこない。
不安だけが全身を襲ってくる。
「ほなみ―――ぃぃぃっ」
「筑穂。何があったのよ?」
ずっと見つめていた目の前の福智が時間と状況を見計らって声をかけてきた。蒼白になる筑穂に、ただ事ではないと悟ることができる。
家族の名前を知る福智は、家族に関わることに敏感になる筑穂を理解している。
デスクを回りこんできた福智が、焦り震える筑穂をオフィスから連れ出そうとした。ここにいては、他の人に迷惑がかかると促してくれる。
そっと背を抱かれて、ようやく周りを見渡せる余裕ができた気がした。

不安が駆け巡り崩れそうになる。
穂波の名前を繰り返していたことで、弟に関することなのだとは、福智もすでに承知している。
ちょっと一休みできる(でも禁煙だが)自販機とテーブル席や長椅子が設けられた場所に連れて行かれ、落ち着くようにと座らせられた。
すぐ隣に座った福智がもう一度「どうした?」とさりげなくうかがってくる。
縋れるものが見えない時、思わず目の前にある全てに頼ってしまう精神状態に陥った。
「…穂波が、学校に行ってなかった…」
「穂波?…上だっけ、下だっけ?」
「上…。アイツ、朝練、全然行ってなかった…」
その昔、部活動に励んだことがある福智は、”朝練”というものが何時くらいに行われるものかおおよその判断がつく。
今の時間を考えて、また、また聞きした内容を振り返っても、兄の知らないところで何やら悪さをしているのだと、思い込みたかった。
それかもっと別の、安全な理由…。

「えー…とさ…。自宅は?ほら、途中で気分悪くなって、でも筑穂に迷惑かけたくないって、そっと帰ってたりとか…」
福智の言葉には、このまま会社にいても仕事にならない筑穂を気遣うものが含まれる。
共に働く人間は皆、筑穂の家庭環境を理解してくれている。同時に我が身に降りかかったなら…と思う部分も強いから、他社に比べたらずっと融通がきいているほうだろう。
皆の知識の高さ、常に報告される会議なども繰り返され、仕事を共有できる強みになっていた。
家族が無事帰ってくる場所。そこは何があっても『自宅』であってほしい。
今の筑穂にも言えることだった。
両親を失って、兄が待つ家が、兄弟の安らぎだったはずだ。
「あ…」
「筑穂、送っていってやるから。今のおまえを一人にするほうが怖ぇよ」
大野城の台詞ではないが、探そうとして闇雲に動きまわり、逆に自分が思いもよらぬ事故などに巻き込まれてしまうことを懸念される。
「でも…」
「とにかく家で待っててやれ」
励ましなのか、慰めなのか…。帰ってくると信じる気持ちを持てというかのように、安心させるように笑みを見せた。
一刻も早く、確かな実情が知りたい。
どうにも動けない自分が歯痒かった。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-06-03-Sun 01:55 [編集]
「隊長、大変です!」
『もう 筑穂の相手が判ったのか!?』
「それが、穂波・・・」
『え!相手は、穂波・・・』
「ち・違うんです!穂波が行方不明にー!」
『何だ違う...はぁ~行方不明って どういう事だ!!』
「それが 我々にも さっぱりで?」
『とにかく今は穂波を探す事を優先しろ!筑穂の件は後回しで いいからっ!』
「「「 (`・ω・´)ゞラジャー!」」」
と、作戦を変更中~♪

穂波、ほんと 何所で何をしてるんやら?
筑穂兄ちゃん、パニック中ですから!
ォロ(∀ ̄;)(; ̄∀)ォロ...byebye☆
わからない
コメントちー | URL | 2012-06-03-Sun 04:17 [編集]
どっち?
二人に絞ってみたけど。
いや、新しいのが出てくる?

穂波は何ともないと思うけど、兄ちゃんは心配だね。
仕事が手につかないよね。

で、同僚と一緒に帰るって・・・
恵まれた職場だな。
あれ?旭が見える(笑)
兄ちゃん、守ってオーラが半端ないと思いますよ。気を付けてねえ?
やっぱ、こっちかな?兄ちゃんのお相手は。
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-03-Sun 07:24 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 「隊長、大変です!」
> 『もう 筑穂の相手が判ったのか!?』
> 「それが、穂波・・・」
> 『え!相手は、穂波・・・』
> 「ち・違うんです!穂波が行方不明にー!」
> 『何だ違う...はぁ~行方不明って どういう事だ!!』
> 「それが 我々にも さっぱりで?」
> 『とにかく今は穂波を探す事を優先しろ!筑穂の件は後回しで いいからっ!』
> 「「「 (`・ω・´)ゞラジャー!」」」
> と、作戦を変更中~♪

部隊が結成されている~~~(笑)
筑穂、子育てに奮闘していますね。
まぁ、徐々に何かしら進んでいくでしょう(←)
どんなこともなんでも繋げて書いちゃう私だし~。

> 穂波、ほんと 何所で何をしてるんやら?
> 筑穂兄ちゃん、パニック中ですから!
> ォロ(∀ ̄;)(; ̄∀)ォロ...byebye☆

過去が過去なだけにね~。
『帰ってこない』が怖い筑穂です。
お兄ちゃんを心配させてはいけません。
穂波、悪い子だなぁ。
コメントありがとうございました。
Re: わからない
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-03-Sun 07:31 [編集]
ちー様
おはようございます。

> どっち?
> 二人に絞ってみたけど。
> いや、新しいのが出てくる?

オー、絞りましたか。
そうですね~ぇ…。
どうしましょうかねぇ。

> 穂波は何ともないと思うけど、兄ちゃんは心配だね。
> 仕事が手につかないよね。
>
> で、同僚と一緒に帰るって・・・
> 恵まれた職場だな。
> あれ?旭が見える(笑)
> 兄ちゃん、守ってオーラが半端ないと思いますよ。気を付けてねえ?
> やっぱ、こっちかな?兄ちゃんのお相手は。

良い環境で働いていますね。
だから仕事と家事の両立もできるんでしょう。
お兄ちゃん、今、ぐじゅぐじゅだからね~。
朝からしてやられたり…の状態です。
気の弱さや疲れが一気にあふれていることでしょう。
それが、周りの人の目を向けさせてしまうのか…。
痴漢にあう日はいつだろう(←)
コメントありがとうございました。
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