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BLの丘
待っているよ 7
2012-06-05-Tue  CATEGORY: 待っているよ
グッと涙を堪えて平静を装った筑穂は、大野城に促されるまま、穂波の隣の椅子に腰を下ろした。
目の前に座った大野城が改めて、不貞腐れている穂波に視線を向ける。
「さて。お兄さんも来てくれたんだ。何があったのか話くらいできるだろう」
それは、教師には言えなくても、痛みを分かち合い連絡を密に取り合った”家族”を武器にしたものなのだろうか。
家族という繋がりの大事さを、普通の子より強く知るだろうから、せめて兄に対しては本音が零れることを期待される。
これまでも深入りすることはなくても、嘘もなく付き合ってきた家族関係だと思っていた。
今朝だって、弁当を受け取るまでちゃんと待ち、筑穂の忙しさを気にかけてくれる優しさを持っていた子だったはずなのに…。
出掛ける間際、突然のことに、申し訳なさそうに『悪い』と言ってくれたのに…。

「穂波、朝練も参加しないで、早くからどこに行ってたの?授業だって、ちゃんと出ていなかったって…」
筑穂はできるだけ感情的にならないように努めた。
自分が感情的になってしまえば、ますます穂波が殻の中に閉じこもってしまう不安が生まれた。
親ではないが、歳が離れすぎるだけに今時の子の考えることを想像できない。
親がいないから、と、我慢させた部分もあったのだろうか。これが反抗期というものなのだろうか…。
家族の心が離れ離れになることだけは避けたかった。
いや…、自分が孤立してしまうことの恐怖か…。どうしても穂波と嘉穂のほうが結びが強い気にさせられていたから…。
それを筑穂が家事をすることで繋ぎとめてきたのだ。

しばらくの沈黙が流れた。
大野城は穂波の心の整理を待つのか、慌てさせるようなこともなく、腕を組んでゆっくりと吐き出される言葉を待つ。
俯いたままの穂波は、誰とも視線を合わせることもなく、だけどはっきりと口を開いた。
「俺、大学、行かない」
「…っ?!何言ってっ…っ?!」
言葉の意味を理解するや否や、すぐさま筑穂から絶句を交えた声があがり、また目がパッチリと開いた。
その手が視線を向けさせようと動いた。
腕を掴むと、バンッと弾かれる。
頑なになる穂波に、筑穂の冷静になろうとする気持ちなどあっという間に吹き飛んだ。
「穂波っ」
「行かないっ!俺、大学なんか行かないっ!」
「行かなくて何するんだよっ?!」
「じゃあ、行って何するんだっ?!俺、兄貴みたいに頭良くもないし、意味も分からず金なんかかけたくないっ」
「学費のこと心配してるのかっ?!それだったら穂波の分も嘉穂の分もちゃんと学資保険…」
「そういうこと言ってんじゃねーのっ。行く理由がねーって言ってんのっ」
「だけど大学くらい出て…っ」
「お兄さん、ちょっと待ってください」
今にも喧嘩になりそうな二人に、静かに大野城が割って入ってくる。
数多くの生徒や親を見ている分、穂波の言い分も理解できるのか、感情的になるまいと思いながら挑んで、結局止められたのは筑穂のほうだった。

ふぅっと一つ息を吐いただけで、大野城は胸の前で組んでいた腕を解き、机の上に肘をついて両手を組み合わせた。
「津屋崎が大学に行きたくないと言う理由と、遅刻を繰り返したことに関連性はあるのか?進学についてはまた後で話しあえばいい。今知りたいのは、この前まで学業にも部活にも励んでいたのに一変した態度のことだよ。朝練だとお兄さんに嘘をついてまで、どこで何をしていた?そんな朝の早い時間に、一高校生にできる何がある?」
言葉を紐解けば、そこに穂波が進学しないと言い出した理由があると繋げるのは教師の勘なのだろうか。
確かに大野城の言うように、今確認するべきことは、進学問題ではなく、この数日に何があったかのほうだ。
穂波の考えを変えるものがあるとするなら、原因を探る方が先だった。
穂波はグッと唇を噛む仕草を見せ、また沈黙が流れた。
不安げに見つめる筑穂の視線を感じるのか、半ば悔しそうな表情をしているとさえ思えた。
それは”兄”の思いを知り、だけど裏切る結果になって悲しませることになると、穂波自身が思うのか…。

「専門学校に行きたい…」
「専門学校っ?!なんのっ?!」
「製菓…っていうの?俺、パン屋やりたいの」
「パン屋~~ぁっっ?!」
もうどこまで響いてもおかしくないくらいの奇声が筑穂から発される。
幼い子供に、将来の夢はなぁに?と聞いて、大半の女の子から返されるような答えに目はこれでもかと見開かれた。
バスケ部で鍛えられた図体のデカイ男が夢見るものなのだろうか。少なくとも今までの暮らしの中で一度として聞いたことのない職業でもある。
あまりの筑穂の驚きぶりに、自棄になったような穂波が声を荒げる。
「ずっと教えてもらってたんだっ。学校行く前の少しの時間だから大したことなんてしてないかもしれないけど、でも兄貴みたいにデスクワークについているより、ああやって体動かしてるほうがホッとすると思った。自分で作るのが楽しいし。ちょっとの間だったけど、お店にいて、お客さんが来てくれて出来を褒めてくれるのもいいなって…。お客さんと会話して、良いとか悪いとか言ってもらえることとか」
「バイトしてたってことか?!」
「そこまでしてないっ。してないっていうか、させてくれないんだ。だから俺、ちょっと手伝って見学するだけ。端から見てるだけ」
「なんだ、それっ?!いつからだっ?!どこの店だっ?!バイトでもないのに仕事をさせるってっ。どんな奴がやってる店だ?!」
随分と勝手に扱われている存在なのだと知れば、怒りの矛先が変わってくる。
朝早くからでも、素直にバイトをしていると告げられれば、心配しつつも見送っていたかもしれない。
しかし、賃金も払われない場所のことを口に出せなくて、結果穂波は”朝練”と言い張っていたのだ。

筑穂の怒りが他人に向けられてヒートアップするのを、今度は穂波が制する側へと変わった。
しかし、そこから零れたことは、筑穂と大野城をまたもや瞠目させる内容だった。
「ちがっ。そんなんじゃっ。浮羽(うきは)さん、優しいから強く拒絶できないんだよ。でも後をついて回る俺に少しずつ言葉をかけてくれて。俺が勝手に行ってるだけで、迷惑かけてるのは俺のほうでっ」
「浮羽ってっ?!」
明らかに親しみを込めた呼び名は、穂波が懐いているものと語っていた。
タダ働きでも文句も出ない、うろついても邪魔にしないほど親しくなった関係とは…。

相変わらずな筑穂と穂波の言い合いに、また沈着冷静な大野城の声が挟まってくる。
「だが、高校生と分かっていながら遅刻させる時間まで店に残すような人なんだろ?」
「ちがっ。だから俺が勝手に…っ」
「どちらにしても、注意もできない人なんだな」
「そんなんじゃないっ。お店出てからも、俺が外から覗いて中を見ていたりしていただけで、浮羽さんは学校に行ったと思っているもんっ。浮羽さんは絶対に悪くないっ。俺はなんでもいいから浮羽さんのために何かしてやりたくて、つい居座っちゃって…」
「穂波っ!!まさかその人のために専門学校に行きたいなんて言い出したんじゃないだろうなっ?!」
あろうことか、の台詞に、再び筑穂の声音に棘が生えた。
高校生が言う台詞か?!そんな一時の気の迷いみたいな感情にまかせて、人生の選択を決めてしてしまうのか?!
ずっと激しい勢いで言葉が交わされていた中、突如訪れた穂波の沈黙は、肯定を告げていた。

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お兄ちゃん、卒倒だな…。
もう今日は、お家に帰って寝込もうよ…。
気持ちを素直に表せちゃう無垢なところは高校生としてウブでいいけどさぁ。
弟ふたりして…。
きっと詳細はシークレット部隊が調査してくれるから~。
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コメント

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また、出た
コメントちー | URL | 2012-06-05-Tue 05:12 [編集]
真ん中っ子にも好きな男が!
・・・なのかな?だよね。

もしかして、もしかして、もしかする?
まさかの三角?
パン屋さんも、良い男なんだろうなあ。
早く、兄ちゃんに会ってくれ。

た、隊長!また、新しい男が出ました!わたくし、?で頭が埋まりそうです。

精鋭シークレット部隊の早期解明、よろしくお願いいたします!

けいったんさんの部隊も楽しみ~♪
Re: また、出た
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-05-Tue 07:22 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 真ん中っ子にも好きな男が!
> ・・・なのかな?だよね。

また出ました(笑)
あっちもこっちも大忙しだね~。

> もしかして、もしかして、もしかする?
> まさかの三角?
> パン屋さんも、良い男なんだろうなあ。
> 早く、兄ちゃんに会ってくれ。

パン屋さんはそのうち出てくるでしょうね。
黙っているお兄ちゃんではないでしょうから。
まぁ、穂波の容姿もありますからねぇ。
パン屋さん…(←お兄ちゃんのイメージ)

> た、隊長!また、新しい男が出ました!わたくし、?で頭が埋まりそうです。
>
> 精鋭シークレット部隊の早期解明、よろしくお願いいたします!
>
> けいったんさんの部隊も楽しみ~♪

私も部隊、楽しみにしていま~す。
コメントありがとうございました。
No title
コメントけいったん | URL | 2012-06-05-Tue 14:48 [編集]
「隊長~~!」
『な・なんだ!またトラブルかぁー!?』
「それが・・・末っ子の嘉穂に続いて、穂波も・・・」
『嘉穂に続いて 穂波も?って、はっきり言え!』
「(同性への?)恋愛が発覚した模様です!」
「へっ?恋愛? 若者が恋愛して 何が悪いんだ?」
「しかし、このままでは 隊員不足で 筑穂の件まで 手が回りませんって!」
『うっ、そうか...では 急ぎ隊員を補充するぞっ!』
「まさか あの部隊が出てくるのですか!?」
『そ・それは、上の許可が下りないだろう』
「では、募集するって事ですか?」
『そうだ!急いで 求人広告を!』
「「「はっ!!!」」」

【急募!シークレット部隊隊員を求む。
変幻自在に変身出来て 君も 自分の知らない魅力に気付けるかも♪
一ヶ月の研修期間あり。就労曜日・時間は要相談。長期パート可。】

きえ様、シークレット部隊が~~~(笑)
えらいこっちゃヾ(´゚∀゚`_) (_´゚∀゚`)シあかんやんか...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-05-Tue 16:07 [編集]
けいったん様
こんにちは~。

~中省略~

> 【急募!シークレット部隊隊員を求む。
> 変幻自在に変身出来て 君も 自分の知らない魅力に気付けるかも♪
> 一ヶ月の研修期間あり。就労曜日・時間は要相談。長期パート可。】

ヽ(゚∀゚)ノ(爆)

とうとう人員不足に~~~。
調査隊、大変ですね~ぇ。あちこちふえて~。
つか、募集内容が…(o´艸`o)
いや、呼びこんでいますね。
>変幻自在に変身出来て 君も 自分の知らない魅力に気付けるかも♪
どんな隠れた魅力に出会えるのかしら~。

~面接~
ノーマル「日中仕事ですので夜しかありませんが…」
隊長『夜動けるとはなんとできた人材かっ』
ノーマル「あの…で、何の仕事?」
隊長『朝、嘉穂の朝起ちの観察、朝その後、穂波の登校までの観察 夜、筑穂の一人わびしい時間の観察』
ノーマル「えーと…」
隊長『きっと君も自分の知らない魅力があるかもしれんぞぉぉぉぉ』(笑)

> きえ様、シークレット部隊が~~~(笑)
> えらいこっちゃヾ(´゚∀゚`_) (_´゚∀゚`)シあかんやんか...byebye☆

シークレット部隊、是非頑張ってくださーい。
>あかんやんか...
↑この一言にめっちゃ萌えた関東人です(/ー\*)イヤン
コメントありがとうございました。
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