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BLの丘
待っているよ 9
2012-06-07-Thu  CATEGORY: 待っているよ
人前で泣くなんて信じられなかった。
堪えようとして唇を噛んでも大粒の涙は止まってくれることはない。
「…ん…、く…っ…」
ひとりで頑張ろうとする姿に、離れていたはずの大野城が手のひらをかけてきた。
うつ伏せる背中を撫で、髪と額と、濡れた頬に指先が這う。彼にしたら、生徒の”保護者”でも未熟な年下だ。
逞しい腕がそっと抱き寄せてくれて、岩のような胸板に引きずり上げられた。
頬に当たるその硬さは何をしても壊れないものだと思わせてくれる…。
人肌の温もりは…、母を失って以来初めて感じる”安堵と優しさ”だった。
死ぬ直前まで縋りついていたわけではないが、そこにいる、という空気があの頃はあった。甘えていたのだと、今でも強く思う。
抱きしめられたと同時に、堪えなくてもいいのだと、世界の自然を相手にするかのようなおおらかな抱擁ぶりが見えた。
大きな海原に抱かれるような恵みと安らぎを目の当たりに感じると、人はどれほどちっぽけで、その悩みがかけらになるのか…。
人肌の温もりを感じて、余計に涙腺が弾け飛んだ。
ただ、安心感がそこにあった。
「あぁぁぁっ…っっ」
もう、だれにぶつけられた言葉かも分からない。
何が原因なのかも自身で分からないほど、縋りたい深い気持ちがあった。
弟たちのために耐えて、自由にならなかった人生は決して長いものではないけれど…。
一時的な安らぎでもいい。誰かに頼る、こんな時間を忘れていた…。
否定されても努力を認めて肯定してくれる人が目の前にいる。言葉は冷たくても抱き込んでくれる腕は”否定”ではなく、今までの努力を褒めてくれるものだった。
奥深くで筑穂の気持ちをしっかりと捉えて、今あるべき注意も今後の指導もしてくれる人。

ひとしきり泣いた後、落ち着くタイミングをはかって言葉がかけられる。
「本当に…、…無理しすぎな兄弟だ…」
そこには呆れなのか、感心なのか、でもクスリと笑われる雰囲気がある。嫌味とかじゃなくて…。比べられては同じだと評価されるのは、兄弟を良く感じ取れた証拠なのだろうか…。
大野城からみたら、まだまだの若造…。
自分たちの生活すら、見透かされたような雰囲気だ。
でも貶されているわけではない。知れてホッとしたというくらいの…。

そう思いながら、自身を正そうとして、でももう少し甘えたくて、その場をごまかした。
泣き喚いた恥ずかしさも胸の内に秘めながら顔を隠して…。
教師は所詮、その場かぎりの、生徒を見守ってくれる存在でしかない…。
一時的なものと分かりながら、ふと引っかかってしまった。

『無理しすぎな兄弟だ』
筑穂には、優しくて慈しみの混じる声音の意味が、理解できなかった。
穂波のことを知ってくれているという感謝の念は湧くが…。

だけどそれ以上問うこともできなく問われることもない。
腕に抱かれたまま髪をさすられ、筑穂は照れも忘れて人肌の温かさに寄り添いながら、そして大野城が嫌がらないことに甘えてそのままの体勢で真実を聞いた。
誰かに寄り添うなど…何年振りだろうか…。最後は、弟に取られた、母親のような気がする。
あの時から、ずっと、”我慢”してきた。

「たぶん、津屋崎は知らせたくなかったと思うけど…。気持ちは汲んでやってほしい。…さっき少し話をした時に、一番にお兄さんのことを考えていたから…。ずっと自分たちの面倒を見させてきてしまって、津屋崎は少しでも早く働きたかったらしい。だけど中途半端に働きだせば必ず文句を言われる。そのために技術を身につけたかったと…。ある世界で生きる姿の背を押してほしかったんじゃないかな」
そう言いながら濡れた髪を掬いあげてくれる指は穏やかだった。
見つめてくれる瞳も、この場限りにしない精神的な強さを纏っていると思うのは自惚れか…。
『アイツも強情っぱりだから』と大野城は生徒の性格として見てきて、笑みを浮かべながら続けた。
「手に職をつけようと随分前から考えていたらしく、そんなときにたまたま、今の工房に出会ってしまった…。それが『パン』への入り口だった…というのか…」
「そんなっ、そんな、一瞬のことでっっ」
筑穂の体が跳ねあがる。
だけどやはり宥めるように、もう一度背をさすられて崩れ落ちた。

どう説明されたって筑穂には納得がいくものではなかった。
それが本当に穂波にとってやりたいものであるのならともかく、筑穂の負担を考えてとか、残す嘉穂のことを思ってとか、そんなことを考えさせて狭めさせたくはない。
それこそ、一生後悔する出来事に匹敵する。
反論しようとする筑穂に、言い聞かせるようなしっとりとした低い声音が届いた。
「自分自身で決めたことは決して後悔にはならない。それに大卒だけが全てではない。何故大学にこだわる?今の津屋崎は未来に希望を持っているし、やりがいを見出している。大卒といいながら就職にあぶれたアルバイトが作るパンやケーキが並ぶ店と、経験を積んだパティシェのいる店、どちらを買う?」
学歴が全てではないと言い放つ大野城に、独り立ちする時間の大切さまでも教えられた。
いち早く大空に飛び立ちたい穂波の心も思って…。
少しでも技術を身につけたい穂波のことを、筑穂以上に感じているのかもしれない。
筑穂も頷きかけた。見せかけの学歴の中で苦しむのは穂波なのだろうかと…。

「確かに彼の存在は気にかけるところだけれど…」
大野城の台詞を大人しく聞きながら、胸に刺さってくるような棘を感じた。

『彼』…?

甘えて蹲っていた筑穂は、またもや最前線の問題に突き当たる。

穂波が夢中になったというその人は、当然”職人”としての腕を持ち、端から見ても見込まれているからなんだよな…。
…と思いながら、ではその”熟練技”を持つとはいくつのどんなやつだと…。
この点だけは、教師の方が詳しいらしい。
それこそ、過去に聞いた話の全てが絡み合い、脳内ですったもんだした。
「せ、んせ…?」
「今度一緒に行きますか?どの店かちゃんと聞いておきましたから」
嫌っていない雰囲気は、大野城も相手を認めてしまったと言うことなのだろうか。
情報収集の早さに絶句なのか、兄より教師に打ち明けた信頼度にへこむのか…。
だけど今は首を縦に振る以外の道は残されていない。
筑穂は小さくなりながらも、「うん」…と頷いた。
穂波の内偵をするような後ろめたさを持ちながら、確かめたい気持ちの方が勝っている。

そしてなぜか、大野城と一緒にいくのであれば、何があっても冷静に受け止めてくれる安堵感があった。
泣きわめいたせいか…恥を晒したあとで、これまで押し留めてきた汚い感情を、多少見せてしまっても問題ないような…。
筑穂は、長男で、家族を守るべき人間は自分しかいないと思って過ごした反面で、いつか誰かがいったように、何もかもを晒して無垢な姿に戻りたかったのかもしれない。

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もう終わりにしようよ…今日という日…(汗)



お遊びおまけ

ナントカ部隊です。興味のない方はこのまま何も言わずにお帰りください。

英人「求人張り紙あった~♪」
那智「"しーくれっと部隊"?!」
一葉「(モジモジ)おさわり…???」
成俊「おもしろそうだね」
子供(腰に手をあて)「「俺たち、フォーレンジャーぁっ」」
日野「誰だよ、貼ったやつ…。ぜってーっ"シークレット"にならねーだろーっ」
久志「いーんじゃね?部隊に預けて遊ばせておけば」(←かなり無視 つか子守り放棄?!)
佐貫「どんな機材が必要だ?小型カメラか?盗聴機か?」(←オイ)
安住「いきすぎは問題になるけれど…」(←遊びは問題ないらしい…つか、「遊び」…)
千城「英人たちの行動も見られていいな」(←監視場所が違う)
神戸「うち、『パン屋』する???」
日野「やらね―――よっ」
パン屋に必要なカメラとか盗聴器って…。安全だけど…。

これ以上増える子守りは…。(え、生徒誰だって?喧嘩っぱやい高校生?!)
(そこは体育会系久志に頼んで叩きこんでもらって…。いらない知識とかまで教えられそうだけど)
ますます筑穂は頭をかかえるなぁ…。
久志の指導ってなんですかね。
店の存続もあるし。 がんばれ日野っち(`・ω・´)ノ
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コメント

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さようなら~シークレット部隊!
コメントけいったん | URL | 2012-06-07-Thu 01:08 [編集]
「隊長~~っ!」
『も・もう 何が起きても驚かないから 言ってみろっ!』
「求人募集で電話が数件あるんですが」
『おぉー反応が速いな♪』
「それが、フォーレンジャーになりたいだとか...」
『・・・?』
「小型カメラ、盗聴器は 自前で用意するとか...」
『・・・!?』
「挙句の果てには 何時から何時まで預かってくれるのか?とか、お迎えは 如何すればいい?とか」
『・!・?・! ・?・』
「隊長、如何すればぁ~~!?」
『仕方ないな...シークレット部隊は、ひとまず撤収だぁーー!』
「「「隊長ー!(TдT)ゞ ラジャ!!」」」

涙堪える筑穂を見て 大野城も 思わず取った行動なのかな?
筑穂も 甘えて号泣しちゃうしね!
これは ひょっとして~ですか?(〃艸〃)ムフッ♪...byebye☆

P.S.って事で シークレット部隊は、今日で終わりです!
コメ欄を お騒がせし 失礼しました(*_ _)人ゴメンナサイ
でも いつか ひょっこり登場するかも~(笑)
またねえ
コメントちー | URL | 2012-06-07-Thu 04:54 [編集]
シークレット部隊、ありがとう♪
隊長、また来てね!


兄ちゃん、大泣き。
泣け泣け。泣いたら気持ちも楽になるよ。センセー、優しいし。
やっぱり、相手はセンセーなのかな?
隊長~。

あ、撤収しちゃったんだっけ。

穂波は、やっぱりお兄ちゃんの負担を減らしたかったんだ。
でも、きっかけはパン屋さんに会えたことだよね。
パン屋さんに早く私も会いたいなあ。


オマケ、楽しかったです!
あの子達と保護者達があっと言う間に、真相解明、お悩み相談、兄ちゃん触られまくり・・・真ん中っ子要らない知識吸収(笑)末っ子、ノンビリ。香春ちゃんと。
きえさん、けいったんさん、ありがとうございました♪
Re: さようなら~シークレット部隊!
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-07-Thu 07:06 [編集]
けいったん様
おはようございます。
シークレット部隊、さよならなんですね~。・゚・(ノД`)・゚・。

> 「隊長~~っ!」
> 『も・もう 何が起きても驚かないから 言ってみろっ!』
> 「求人募集で電話が数件あるんですが」
> 『おぉー反応が速いな♪』
> 「それが、フォーレンジャーになりたいだとか...」
> 『・・・?』
> 「小型カメラ、盗聴器は 自前で用意するとか...」
> 『・・・!?』
> 「挙句の果てには 何時から何時まで預かってくれるのか?とか、お迎えは 如何すればいい?とか」
> 『・!・?・! ・?・』
> 「隊長、如何すればぁ~~!?」
> 『仕方ないな...シークレット部隊は、ひとまず撤収だぁーー!』
> 「「「隊長ー!(TдT)ゞ ラジャ!!」」」

あいつらに絡まれたら誰も撤収しますよ~。
しかも第二の保育園扱いにされちゃったら(笑)

> 涙堪える筑穂を見て 大野城も 思わず取った行動なのかな?
> 筑穂も 甘えて号泣しちゃうしね!
> これは ひょっとして~ですか?(〃艸〃)ムフッ♪...byebye☆

(〃艸〃)ムフッ♪...
どんな思いで大野城は手をだしているんですかねぇ。
福智が言ったように"つい"かもしれませんが…。
筑穂もいっぱい溜まっていたものがあったし、家庭事情を知っている先生だったからね。
甘えちゃってますけど。

> P.S.って事で シークレット部隊は、今日で終わりです!
> コメ欄を お騒がせし 失礼しました(*_ _)人ゴメンナサイ
> でも いつか ひょっこり登場するかも~(笑)

是非また来てくださーい♪
コメ欄賑やかで毎日楽しかったです。
コメントありがとうございました。
Re: またねえ
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-07-Thu 07:19 [編集]
ちー様
おはようございます。

> シークレット部隊、ありがとう♪
> 隊長、また来てね!
>
> 兄ちゃん、大泣き。
> 泣け泣け。泣いたら気持ちも楽になるよ。センセー、優しいし。
> やっぱり、相手はセンセーなのかな?
> 隊長~。

お兄ちゃん、甘えて詰まっていたものがはじけましたね。
頼りになる先生だって思うから余計気が緩んでいるんでしょう。
お相手は…(ゴニョゴニョ)

> あ、撤収しちゃったんだっけ。
>
> 穂波は、やっぱりお兄ちゃんの負担を減らしたかったんだ。
> でも、きっかけはパン屋さんに会えたことだよね。
> パン屋さんに早く私も会いたいなあ。

穂波、優しい弟です。
言葉は乱暴だけど、気持ちはすごく真剣でまっすぐで…。
無垢だからお兄ちゃんの心配も分かるんだけどね~。
パン屋さんはそのうち出てきますよ~。
穂波の運命を変えた人ですからね。

> オマケ、楽しかったです!
> あの子達と保護者達があっと言う間に、真相解明、お悩み相談、兄ちゃん触られまくり・・・真ん中っ子要らない知識吸収(笑)末っ子、ノンビリ。香春ちゃんと。
> きえさん、けいったんさん、ありがとうございました♪

けいったん様に触発され、ちろっと書いてみました。
楽しんでいただけたようで良かったです。
いろんな部隊を作る連中ですね~。
いたいけな高校生、何を教えられるんだか…。
コメントありがとうございました。
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