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BLの丘
陽いづる国 3
2012-09-04-Tue  CATEGORY: 陽いづる国
参加表明をしたとはいっても、時間がないと理由をつけて一時間だけ、と頼みこんだ。
それでも美琴の意識が変わったことに紳平は喜んでいたし、あとはその場の雰囲気でどうにでもなるだろうと、「了解」と受け入れてくれる。
紳平から皆に伝えられることで、無理矢理連れてきた感が増し、紳平の貢献度も評価されるだろう。

合コン、というよりは、すでに顔見知りの男女が集まったようだった。
このメンバーの中で、恋愛を通しての”付き合う”といった感情を持っていないのは、それぞれの態度で見えてくる。
それとも、まだこれからお互いを良く知って…の発展途中なのだろうか。
ダイニングバーで四名掛けのテーブル席を繋げてもらい、総勢10名の参加だった。
話に聞いていたどんちゃん騒ぎにならないのは、参加している人間の品位があるからなのか、互いの近況や将来、世間話を語りあう。
もちろんこの店が、そういった雰囲気にそぐわないのを全員が理解していた。
場所やメンバーをわきまえた人たちには好印象を抱く。
学部内でもすでに見慣れた顔たちに、美琴も抵抗なく話題に加わることができた。

「え?中野教授のレポート、もう取りかかってんの?」
「そうそう。しかも美琴ってば全部原書」
「原文を読まなければ意味がないじゃないか…」
「…っていうか、野崎って何ヶ国語理解してるの?」
普段では聞きづらい質問も、こんなくだけた席では口が軽くなるというものか。
紳平が言っていたように、興味の対象には次々と質問が投げかけられた。
明らかに戸惑いや不快感を持ったと分かる質問はそれ以上続けられることもなく、周りの人間はサラリと話題を変えてくれる。
その辺りにも人の良さが滲み出ていた。だから美琴も気を許すことができたのだと思う。
「はっきりとは…。二、三ヶ国語じゃないかな…」
「うそつけーっ。俺が知っているだけで七ヶ国語は話すぞっ」
美琴の返す言葉に、すぐさま隣にいた紳平が否定論を上げる。
同時にあちこちから、目を見開かれたり、息を飲まれたりした。
「なな…っ?!…うっわ…っ」
その反応には美琴のほうが困ってしまって、紳平を嗜めた。
「紳平ってば…。会話ができるっていうだけじゃん…。そんなのは…」
「”理解できている”うちには入らないって?完璧主義者はどこまでできたら、その数に入れるんだよ…」
美琴にしてみれば、多少の読み書きができるレベルだったために、その通り、数には入れなかっただけだ。
本だって、今読んでいるような専門書は読解不可能になる。
とてもではないが、自慢できるような理解力はない。
「美琴ってもっと自信持っていいんじゃない?謙遜しすぎだよ。何を目指しているのかは知らないけれど」
黙ってしまった美琴の頭上を、大きな掌がポンポンと宥めてくる。
“何を目指す”…。
どれほどの努力を重ねても、10年分の歳の差を埋められるわけがなく、いつまでも手の届かない存在を追い続けるのだろうか…。
謙遜していると言われるが、それが今現在の美琴自身なのだと、本人は思っている。

「でもさぁ、翻訳されているのってニュアンスが変わっていたりするから、原書が読めたらいいよね~」
美琴の目の前に座っていた女の子が、わざとらしく自慢しない美琴の態度に嫌味をこめることなく話を続けてきた。
「私、英語、やっとTOEIC取ったよ~」
「俺と美琴って育ちが海外だから、自然と覚えたってだけだよ」
「そこ~っ。さりげなく自慢してんな~っ」
すでにみんなが知ったことを話のタネに盛り込んでしまう。
笑いを含み、会話はどんどんと広がっていく。
「あー、でもマジで、高校ん時、美琴とは英語で会話してた」
「はぁっ?!」
「だって、すげぇラクだったんだもん」
紳平とはそんなところでも意気があったのだろうか。
二人とも一番苦手とした言語が日本語だったせいで、自然と慣れた言葉を口にしていた過去がある。
特に感情的になった時ほど、早口の英語でまくしたてることが多々あり、通じてしまうことに安堵感を覚えていたのかもしれない。
「じゃあ何?将来はやっぱり外資系?」
「うーん、まだ決めていない」
美琴は周りで繰り広げられる会話を黙って聞いていた。
アルコールを飲める歳ともなれば、見据えてくるものもあるだろう。
美琴自身、大学院へ進むことを考え始めている。
のんびり考えている時間は少ないのだとは、こんな話を耳にすれば余計に身にしみてくるものだった。

無駄に騒ぐだけではなく、人の意見を聞ける。
時にはこんな時間を持つのもいいのかと、初めて参加してみて思った美琴だった。
気付けば一時間どころか二時間が過ぎている。
「カラオケ行く?」という誘いの言葉に当初の約束が全く意味を持っていないことを知った。
自ら破ったようなものだ。
「あ、…いや、僕はこれで…」
カラオケなどの娯楽は利用したこともなく、また歌える持ち合わせもない。
立ち上がり帰ろうとする美琴の腕を紳平が引っ張る。
「いいじゃん。どうせやることなんて、本読むことなんだろう」
「で、でも…」
力では紳平に敵うはずもない。ともなれば後は口で言いくるめるだけだ。
「紳平、約束は守って」
「一時間が二時間になっているんだ。あと一時間くらいいいだろ」
「けど好きじゃないし、嫌なんだって」
「なんか、それ、俺が無理矢理誘っているみたいじゃん」
もともと無理矢理のようなものだった。
この場所まではどうにか同行したけれど…。その先をはっきりと拒絶する美琴に、苛立たしげな声が漏れた。
たぶん、美琴がこの雰囲気を楽しんだことを感じ取っているからこそ、逃げようとする美琴を気に入らないのだと告げてくる。
突然の二人の剣呑とした空気に周りの皆が視線を集中させる。
こんなふうに嫌な雰囲気を漂わせてこの場を終わりにしたくはない。そのためには、この後の時間を割くべきなのだろうか。
困惑した美琴の表情をとらえては、派手な舌打ちをしてから「分かったよ…」と英語で答えられた。
美琴も「ごめん…」と同じ言語で答える。
そこから先は慣れたように、二人は流暢な英語で会話を進めてしまった。
酒の酔いが気の緩みも生みだしていたのだろう。
――帰りは送っていこうと思ったのに…。寄り道するなよ――
――そんな心配されなくてもちゃんと帰れる――
――美琴ってどこか世間知らずなところがあるから怖いんだよ――
――世慣れくらいしているよ――
日本は安全だと思っていた。もっと危険の孕んだ国を渡り歩いてきた。
美琴にはそんな思いがあった。
絶句される光景を目の当たりにして口を閉じる。
「はぇぇ…。全然聞き取れない…」
紳平と話をしていれば、いつもこんな感じだった。その反応ももう慣れたもので二人して肩を竦めて苦笑いを浮かべる。
飲みあっていた人は、二次会ともいえるカラオケに行くグループと、解散する人間に別れた。

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最後まで…というか、まだ安住の過去を書いて~コメントに頭が下がります。
本当に愛されている(←自分でいう?)キャラなのねぇ。
そのうち、なにか思いついたら書くかもしれません(←)

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