店を出てしばらくしてから、「野崎っ」と追いかけてくる人間がいることに気付いた。
もちろん全員がカラオケに行ったわけではないので、帰る方向が同じ人間がいてもおかしくはないだろうが。
故意的に避けた美琴に、改めて声をかけてくる人物がいるとは思ってもいなかった。
無視をするわけにもいかなく、振り返ると、学部内でも良く話をする男がいた。
紳平ほど…とはいかないが、美琴よりは背の高い、体格の良い男だ。
見慣れた顔は普段から色々と講義内容など尋ねてくる人物で、学問に真剣に向き合う姿は嫌いではなかった。
短髪の髪はツンツンと立ち、細面の顔に黒縁のメガネをかけている。
「あぁ、行かなかったんだ?」
カラオケのことを意味すれば分かったように頷き返してくる。
「もう少し、話をしたくてさ」
並んで歩かれて、同じ方面に歩いてもいいのかと思ってしまう。
だからといってこれ以上個人的に付き合う気持ちも湧かなかった。
それは紳平を断ったこともあったからだが。
「話?悪いけれどあまり時間がないんだ」
答える美琴に向かって見透かしたようにニヤリと笑みを浮かべられた。
「そんなこと言って…。それってやっぱり勉強のためなの?帰らなきゃいけない特定の相手がいるとも思えないけれど」
何が言いたいのだろうか。
眉間を寄せる美琴の腕を掴んで、帰りたい方向とは違う道へと進められる。
「ちょっ…?!」
まだ人が往来する中で騒ぎ立てたくなかった控え目さが相手の気を増長させた。
雑居ビルの隙間に連れ込まれて、その先は袋小路となってしまう奥、人の喧騒も遠ざかる。
「なにす…る…っ」
「お高くとまっているって感じ。生まれも育ちも、一般市民とは違うんですって?」
壁に背中を押し付けられて、勢いのあまり、一瞬呼吸が止まった。
彼が宿しているものは完全な妬みだ。
美琴だって好きでこんな育ち方をしたわけではない。
最大の刺激を与えてしまったことは、間違いなく、紳平との会話にあるのだろう。
更に晒した、これまで見えなかった部分か…。
冷やかな声がどんどんと近付いてくる。
「そんな”美琴くん”もかっこよくて可愛いけれどね。どこか欲求不満、抱えているんだろう?」
それこそ何のことかと全身が固まった。
何より名前を呼ばれたことが、激しい嫌悪感を運んでくる。
今まで数多くの人間が『美琴』の名前を呼んできたが、今ほど背筋が凍ったことはなかった。
もともとあまり好きな名前ではなかったけれど…。
厭らしさを込められたことが判れば危機感と共に恐怖心が湧いてくる。
「言…うな…っ」
抵抗しようとする体に力が入らない。押さえこまれた体はピクリともせず、体格の差をはっきりと伝えられるだけだった。
耳元に寄せられた唇からアルコールを含んだ呼気が吐き出され、更に悪寒が増した。
「別に誰にも言わないよ。二人でいい思いすればいいじゃん。溜まっているんだろ、ここ」
スッと股間に手のひらが差し込まれて全身が逃げようと慄いた。
自分が何をするか…というより、相手に何をして貶めたいほうだろう。
相手の意思が読めたとしても、このまま素直に応じられるような内容ではない。
「やめ…っ」
こんなことをして何が楽しいのか…。こんなことで自分がどれほど優位に立てるというのか…。
涙目になる美琴に一層寄った男の腰が更に美琴の動きを封じた。
「貴公子みたいな顔して、こういうときは色気たっぷり含むよな…」
「な…っ」
言葉だけで充分穢された気分になった。
不意に塞がれた唇が、一瞬の隙をついて、生温かい舌を受け入れてしまう。
かき回されるような動きに嫌悪感は益々増していき、酔いのせいもあるのか吐き気が込み上げてきた。
体からはどんどんと力が抜けていき、気持ち悪さだけが漂う。
脳裏を横切ったのは、何にも対応できない不甲斐なさか…。
凛々しい兄が嘲笑う姿だったか…。
「美琴っ!!」
意識が飛びそうになった時、突然聞こえた声に現実に戻された。
声に反応して離れた男から、代わりに近付いてきた逞しい男へと体が移る。
「あ…」
安心も混じったのか、力が抜けそうになる体は、紳平の腕にしっかりと抱き止められた。
苦しかった肺が、思いっきり紳平の体臭を嗅ぎこんだ。
あれほど嫌だった男の臭いが、なぜ紳平に移っただけで安堵を帯びるのだろう…。
「しんぺ…」
「てめーっ、美琴に何してんだよっ?!…二度と俺たちの前に顔を出すなっ」
「シン…っ。おまえだってコイツ狙ってたんだろっ。先に手ぇ出したからって怒るって…っ!!ただキスしたくらいで…っ!!」
「そんな軽い存在じゃないんだよっ!!」
二人の会話が耳に入ってくるのに、その意味までは思考がついていかない。
そして何故、ここに紳平が現れたのかも…。
紳平が、誰をどう思っているのかと…。
そんな存在になりたくなかったというのが本音だろうか…。
だけど湧き上がってくる分からないものが美琴の中に生まれている。
ずっと避けていた”何か”だった。
認めたくない恐怖と、埋もれたい気持ちの葛藤が濁流のように襲ってきた。
脳裏を過った兄の姿が、その瞬間、…消えた…。
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5話で終わらせようと言ったことは無理です…と今頃になってお伝えします。(絶対に不可能な状況…)
何話になるか???…分かりません(←相変わらず)
まぁ、みこっちゃんの青春時代を楽しんでください。
将来が見えているだけに…。この話はハピエンではありません.・゜゜・(/□\*)・゜゜・
もちろん全員がカラオケに行ったわけではないので、帰る方向が同じ人間がいてもおかしくはないだろうが。
故意的に避けた美琴に、改めて声をかけてくる人物がいるとは思ってもいなかった。
無視をするわけにもいかなく、振り返ると、学部内でも良く話をする男がいた。
紳平ほど…とはいかないが、美琴よりは背の高い、体格の良い男だ。
見慣れた顔は普段から色々と講義内容など尋ねてくる人物で、学問に真剣に向き合う姿は嫌いではなかった。
短髪の髪はツンツンと立ち、細面の顔に黒縁のメガネをかけている。
「あぁ、行かなかったんだ?」
カラオケのことを意味すれば分かったように頷き返してくる。
「もう少し、話をしたくてさ」
並んで歩かれて、同じ方面に歩いてもいいのかと思ってしまう。
だからといってこれ以上個人的に付き合う気持ちも湧かなかった。
それは紳平を断ったこともあったからだが。
「話?悪いけれどあまり時間がないんだ」
答える美琴に向かって見透かしたようにニヤリと笑みを浮かべられた。
「そんなこと言って…。それってやっぱり勉強のためなの?帰らなきゃいけない特定の相手がいるとも思えないけれど」
何が言いたいのだろうか。
眉間を寄せる美琴の腕を掴んで、帰りたい方向とは違う道へと進められる。
「ちょっ…?!」
まだ人が往来する中で騒ぎ立てたくなかった控え目さが相手の気を増長させた。
雑居ビルの隙間に連れ込まれて、その先は袋小路となってしまう奥、人の喧騒も遠ざかる。
「なにす…る…っ」
「お高くとまっているって感じ。生まれも育ちも、一般市民とは違うんですって?」
壁に背中を押し付けられて、勢いのあまり、一瞬呼吸が止まった。
彼が宿しているものは完全な妬みだ。
美琴だって好きでこんな育ち方をしたわけではない。
最大の刺激を与えてしまったことは、間違いなく、紳平との会話にあるのだろう。
更に晒した、これまで見えなかった部分か…。
冷やかな声がどんどんと近付いてくる。
「そんな”美琴くん”もかっこよくて可愛いけれどね。どこか欲求不満、抱えているんだろう?」
それこそ何のことかと全身が固まった。
何より名前を呼ばれたことが、激しい嫌悪感を運んでくる。
今まで数多くの人間が『美琴』の名前を呼んできたが、今ほど背筋が凍ったことはなかった。
もともとあまり好きな名前ではなかったけれど…。
厭らしさを込められたことが判れば危機感と共に恐怖心が湧いてくる。
「言…うな…っ」
抵抗しようとする体に力が入らない。押さえこまれた体はピクリともせず、体格の差をはっきりと伝えられるだけだった。
耳元に寄せられた唇からアルコールを含んだ呼気が吐き出され、更に悪寒が増した。
「別に誰にも言わないよ。二人でいい思いすればいいじゃん。溜まっているんだろ、ここ」
スッと股間に手のひらが差し込まれて全身が逃げようと慄いた。
自分が何をするか…というより、相手に何をして貶めたいほうだろう。
相手の意思が読めたとしても、このまま素直に応じられるような内容ではない。
「やめ…っ」
こんなことをして何が楽しいのか…。こんなことで自分がどれほど優位に立てるというのか…。
涙目になる美琴に一層寄った男の腰が更に美琴の動きを封じた。
「貴公子みたいな顔して、こういうときは色気たっぷり含むよな…」
「な…っ」
言葉だけで充分穢された気分になった。
不意に塞がれた唇が、一瞬の隙をついて、生温かい舌を受け入れてしまう。
かき回されるような動きに嫌悪感は益々増していき、酔いのせいもあるのか吐き気が込み上げてきた。
体からはどんどんと力が抜けていき、気持ち悪さだけが漂う。
脳裏を横切ったのは、何にも対応できない不甲斐なさか…。
凛々しい兄が嘲笑う姿だったか…。
「美琴っ!!」
意識が飛びそうになった時、突然聞こえた声に現実に戻された。
声に反応して離れた男から、代わりに近付いてきた逞しい男へと体が移る。
「あ…」
安心も混じったのか、力が抜けそうになる体は、紳平の腕にしっかりと抱き止められた。
苦しかった肺が、思いっきり紳平の体臭を嗅ぎこんだ。
あれほど嫌だった男の臭いが、なぜ紳平に移っただけで安堵を帯びるのだろう…。
「しんぺ…」
「てめーっ、美琴に何してんだよっ?!…二度と俺たちの前に顔を出すなっ」
「シン…っ。おまえだってコイツ狙ってたんだろっ。先に手ぇ出したからって怒るって…っ!!ただキスしたくらいで…っ!!」
「そんな軽い存在じゃないんだよっ!!」
二人の会話が耳に入ってくるのに、その意味までは思考がついていかない。
そして何故、ここに紳平が現れたのかも…。
紳平が、誰をどう思っているのかと…。
そんな存在になりたくなかったというのが本音だろうか…。
だけど湧き上がってくる分からないものが美琴の中に生まれている。
ずっと避けていた”何か”だった。
認めたくない恐怖と、埋もれたい気持ちの葛藤が濁流のように襲ってきた。
脳裏を過った兄の姿が、その瞬間、…消えた…。
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ポチってしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
5話で終わらせようと言ったことは無理です…と今頃になってお伝えします。(絶対に不可能な状況…)
何話になるか???…分かりません(←相変わらず)
まぁ、みこっちゃんの青春時代を楽しんでください。
将来が見えているだけに…。この話はハピエンではありません.・゜゜・(/□\*)・゜゜・
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みこっちゃん、危うし~~!
そこへ 颯爽と紳平の登場ですね(*^-')b
うぅ…でも ハピエンでは無いと仰るのね、きえ様。
淡いほんのり温かくなる様な恋の思い出話しかと、思っていたんだけどなぁ~
違うの?(@∇@)へ?...byebye☆
そこへ 颯爽と紳平の登場ですね(*^-')b
うぅ…でも ハピエンでは無いと仰るのね、きえ様。
淡いほんのり温かくなる様な恋の思い出話しかと、思っていたんだけどなぁ~
違うの?(@∇@)へ?...byebye☆
出た、こういうおバカさん!
しかも、キスするなんてー。ダメです。
私も、けいったんさんみたいに思ってました。
学生時代の甘い思い出。
別れて辛かったけど忘れられないんだよね。
みたいな(笑)
しかも、キスするなんてー。ダメです。
私も、けいったんさんみたいに思ってました。
学生時代の甘い思い出。
別れて辛かったけど忘れられないんだよね。
みたいな(笑)
けいったん様
おはようございます。
> みこっちゃん、危うし~~!
> そこへ 颯爽と紳平の登場ですね(*^-')b
狙われております。
いつの時代も襲われているみこっちゃんだったりする…。
ヒーローが現れてくれました。
> うぅ…でも ハピエンでは無いと仰るのね、きえ様。
> 淡いほんのり温かくなる様な恋の思い出話しかと、思っていたんだけどなぁ~
> 違うの?(@∇@)へ?...byebye☆
あ、まぁ、いや、…そうです。昔の淡い思い出…。
あれ? じゃあハピエンになるのかなぁ…(・・;)
ちょっと逃亡ε=┏(; ̄▽ ̄)┛
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> みこっちゃん、危うし~~!
> そこへ 颯爽と紳平の登場ですね(*^-')b
狙われております。
いつの時代も襲われているみこっちゃんだったりする…。
ヒーローが現れてくれました。
> うぅ…でも ハピエンでは無いと仰るのね、きえ様。
> 淡いほんのり温かくなる様な恋の思い出話しかと、思っていたんだけどなぁ~
> 違うの?(@∇@)へ?...byebye☆
あ、まぁ、いや、…そうです。昔の淡い思い出…。
あれ? じゃあハピエンになるのかなぁ…(・・;)
ちょっと逃亡ε=┏(; ̄▽ ̄)┛
コメントありがとうございました。
ちー様
おはようございます。
> 出た、こういうおバカさん!
> しかも、キスするなんてー。ダメです。
おバカさんだよね~。
学力的には優秀なんだろうけれど、どこか間違えています。
みこっちゃんも敵作るからね~。
> 私も、けいったんさんみたいに思ってました。
> 学生時代の甘い思い出。
> 別れて辛かったけど忘れられないんだよね。
> みたいな(笑)
そのとおりでございます…なのかなぁ。
忘れられないかどうかは分かりませんが、色々あった時代でしょう。
どんな思い出なんでしょうかね。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 出た、こういうおバカさん!
> しかも、キスするなんてー。ダメです。
おバカさんだよね~。
学力的には優秀なんだろうけれど、どこか間違えています。
みこっちゃんも敵作るからね~。
> 私も、けいったんさんみたいに思ってました。
> 学生時代の甘い思い出。
> 別れて辛かったけど忘れられないんだよね。
> みたいな(笑)
そのとおりでございます…なのかなぁ。
忘れられないかどうかは分かりませんが、色々あった時代でしょう。
どんな思い出なんでしょうかね。
コメントありがとうございました。
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