苦々しい表情を浮かべて男は道路へと出ていった。紳平の迫力に押された感じだった。
恐怖が消え、美琴の震えていた体が少しずつ落ち着いていく。
キツく抱きしめられていた体を離そうと脱力していた美琴の体に力が入ると、紳平が覗きこんでくる。
「美琴?」
この思いを感じたくなかった…と言えるのだろうか。
紳平という存在がどんなものなのか…。
はっきりと相手から聞いてしまったら絶対に流れて溺れていくだろうことが、自身で分かる。
美琴が望んでいない世界。
だからこそ紳平から拒絶してもらいたい気持ちが浮かんだ。
一瞬迷わされた気持ちが、震えが収まるのと共に精神も落ち着きを取り戻していくようだった。
「あ、ありが…と…」
距離を置こうとする美琴を紳平はまだ繋ぎとめようとして、動揺が走る。
美琴が長いこと逃げていた感情を紳平は持っている。それが美琴には怖かった。
弱くなる心が分かる。
でも求めてしまうもの…。
紳平は美琴を抱きこんだまま口を開いた。
――美琴は無防備なんだよ――
染み透ってくる声は聞きなれた発音だった。
――そんなこと…――
――放っておけない――
――言わな…で――
築いたはずの対人面に対する壁が今にも打ち砕かれようとしていた。
ずっと抱き続けてきた強がった内面。
――美琴が手に入れたいものって何だよ?何をそんなに頑なになる必要があるわけ?――
いつの間にか読み解かれていた精神状態に目が見開かれた。
美琴のことをより知る人間だからこそ、彼が持つ雰囲気に飲みこまれそうになる。
続けられた紳平の言葉に、もう自分を守る術を見出すことはできなかった。
――俺には素直にぶつかってくるところがあるのに、でも何かを隠そうとするその態度が気に入らない。美琴は感情を押さえこみ過ぎる。何のために?ありのままの美琴を見せろよ。俺とは距離をとらないで――
――紳平…――
――悩むものを聞かせて…。美琴は何かに囚われ過ぎていて視野が狭いんだ。何でもいい。一緒に見ていこう――
これ以上踏ん張れる気力が美琴にはなかった。
離そうとした体をもう一度強く抱きしめられたなら…。
自分から縋ってしまう弱さに巡り合う。
相手に思われることの温もりをようやく知ったのかもしれない。
雪解けの時を迎えたかのように、美琴の心が本音を晒して、桜色に染まり、大きな安堵の息を吐いた。
固く閉ざされていた恋愛への道を、紳平の強い力と理解力があれば大丈夫だと思ったのだった。
長いことずっと一緒にいられるわけがない、という育った環境から、また兄に言われた台詞から、得にならないと思われることは避けられてきた。
無意識に紳平への気持ちを隠したのもそのせいだろう。
それに紳平は気付きつつ、機会を伺っていた…というべきなのだろうか。
遊び方の一つも知らない美琴に襲いかかってきたあの男に、紳平が言い放った「軽い存在ではない」との台詞は、美琴の私生活を良く知るものでもあった。
キスの一つもまとものしたことがない…。露呈するのは恥ずかしさも混じったが、紳平にはそれすらも受け止めている雰囲気が漂う。
覗き込んだ紳平の指が美琴の唇の上をなぞった。
美琴の気持ちの変化を仕草などを通して感じ取れているようだった。
こうやって物分かりが良い態度が、美琴が一番好印象を持っている部分でもある。
適度な距離と物分かりの良さ。
――キスしてもいい?――
唇は先程の男の余韻をまだ残している。
怖さはあっても信頼できる人間に対して、返事は一つしかない。
「Yes…」
挨拶程度の頬に寄せるようなキスなら幾度も繰り返したことがあったが、想いを込めたものは初めてだった。
軽く触れあわせるように重ねられる。一度離れてはまた啄ばまれ、また離れて…。
幾度かその動きを繰り返した後で、紳平の舌が美琴の唇を舐めた。
無理矢理押し付けられたものとは違って、気持ち悪さもなければ吐き気も湧かない。
それが紳平に対して向けられる愛情なのだと知らされる。
そっと差し込まれる舌に真似ごとのように美琴も舌先を触れあわせた。
ぎこちなさは伝わるのだろうが、紳平の態度は変わることがない。
官能を引き立ててくる動きに、美琴の体が徐々に反応を示してしまう。
「あ…」
唇の隙間から漏れる声があれば、抱きしめられた体の密着度が増した。
「Mikoto.…Come to my house…(うちへ来い)」
多くの人間が味わうであろう青春の時間には、憧れに近いものがあったのかもしれない。
本音を曝け出される場所だからこそ、甘えが生まれた。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
みこっちゃんと紳平は感情的になるほど英語で会話しているところがあるので、表記の仕方に読みづらいところがあるかと悩みました。
日本語と英語の発言の違いをどう表現するかと悩んでのこんな結果…。
どうかご理解いただきたいと思います。
恐怖が消え、美琴の震えていた体が少しずつ落ち着いていく。
キツく抱きしめられていた体を離そうと脱力していた美琴の体に力が入ると、紳平が覗きこんでくる。
「美琴?」
この思いを感じたくなかった…と言えるのだろうか。
紳平という存在がどんなものなのか…。
はっきりと相手から聞いてしまったら絶対に流れて溺れていくだろうことが、自身で分かる。
美琴が望んでいない世界。
だからこそ紳平から拒絶してもらいたい気持ちが浮かんだ。
一瞬迷わされた気持ちが、震えが収まるのと共に精神も落ち着きを取り戻していくようだった。
「あ、ありが…と…」
距離を置こうとする美琴を紳平はまだ繋ぎとめようとして、動揺が走る。
美琴が長いこと逃げていた感情を紳平は持っている。それが美琴には怖かった。
弱くなる心が分かる。
でも求めてしまうもの…。
紳平は美琴を抱きこんだまま口を開いた。
――美琴は無防備なんだよ――
染み透ってくる声は聞きなれた発音だった。
――そんなこと…――
――放っておけない――
――言わな…で――
築いたはずの対人面に対する壁が今にも打ち砕かれようとしていた。
ずっと抱き続けてきた強がった内面。
――美琴が手に入れたいものって何だよ?何をそんなに頑なになる必要があるわけ?――
いつの間にか読み解かれていた精神状態に目が見開かれた。
美琴のことをより知る人間だからこそ、彼が持つ雰囲気に飲みこまれそうになる。
続けられた紳平の言葉に、もう自分を守る術を見出すことはできなかった。
――俺には素直にぶつかってくるところがあるのに、でも何かを隠そうとするその態度が気に入らない。美琴は感情を押さえこみ過ぎる。何のために?ありのままの美琴を見せろよ。俺とは距離をとらないで――
――紳平…――
――悩むものを聞かせて…。美琴は何かに囚われ過ぎていて視野が狭いんだ。何でもいい。一緒に見ていこう――
これ以上踏ん張れる気力が美琴にはなかった。
離そうとした体をもう一度強く抱きしめられたなら…。
自分から縋ってしまう弱さに巡り合う。
相手に思われることの温もりをようやく知ったのかもしれない。
雪解けの時を迎えたかのように、美琴の心が本音を晒して、桜色に染まり、大きな安堵の息を吐いた。
固く閉ざされていた恋愛への道を、紳平の強い力と理解力があれば大丈夫だと思ったのだった。
長いことずっと一緒にいられるわけがない、という育った環境から、また兄に言われた台詞から、得にならないと思われることは避けられてきた。
無意識に紳平への気持ちを隠したのもそのせいだろう。
それに紳平は気付きつつ、機会を伺っていた…というべきなのだろうか。
遊び方の一つも知らない美琴に襲いかかってきたあの男に、紳平が言い放った「軽い存在ではない」との台詞は、美琴の私生活を良く知るものでもあった。
キスの一つもまとものしたことがない…。露呈するのは恥ずかしさも混じったが、紳平にはそれすらも受け止めている雰囲気が漂う。
覗き込んだ紳平の指が美琴の唇の上をなぞった。
美琴の気持ちの変化を仕草などを通して感じ取れているようだった。
こうやって物分かりが良い態度が、美琴が一番好印象を持っている部分でもある。
適度な距離と物分かりの良さ。
――キスしてもいい?――
唇は先程の男の余韻をまだ残している。
怖さはあっても信頼できる人間に対して、返事は一つしかない。
「Yes…」
挨拶程度の頬に寄せるようなキスなら幾度も繰り返したことがあったが、想いを込めたものは初めてだった。
軽く触れあわせるように重ねられる。一度離れてはまた啄ばまれ、また離れて…。
幾度かその動きを繰り返した後で、紳平の舌が美琴の唇を舐めた。
無理矢理押し付けられたものとは違って、気持ち悪さもなければ吐き気も湧かない。
それが紳平に対して向けられる愛情なのだと知らされる。
そっと差し込まれる舌に真似ごとのように美琴も舌先を触れあわせた。
ぎこちなさは伝わるのだろうが、紳平の態度は変わることがない。
官能を引き立ててくる動きに、美琴の体が徐々に反応を示してしまう。
「あ…」
唇の隙間から漏れる声があれば、抱きしめられた体の密着度が増した。
「Mikoto.…Come to my house…(うちへ来い)」
多くの人間が味わうであろう青春の時間には、憧れに近いものがあったのかもしれない。
本音を曝け出される場所だからこそ、甘えが生まれた。
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ポチってしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
みこっちゃんと紳平は感情的になるほど英語で会話しているところがあるので、表記の仕方に読みづらいところがあるかと悩みました。
日本語と英語の発言の違いをどう表現するかと悩んでのこんな結果…。
どうかご理解いただきたいと思います。
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美琴さんに戻れるのかしら?
まあ、学生時代くらい良いんじゃないのかなあ。
言葉を使い分けるのは大変ですよね。
漫画なら、横にすればわかるけど。
次回はいよいよ、美琴さんの・・・
でしょうかねぇ。先に書くな?
まあ、学生時代くらい良いんじゃないのかなあ。
言葉を使い分けるのは大変ですよね。
漫画なら、横にすればわかるけど。
次回はいよいよ、美琴さんの・・・
でしょうかねぇ。先に書くな?
ちー様
おはようございます。
> 美琴さんに戻れるのかしら?
> まあ、学生時代くらい良いんじゃないのかなあ。
どんな学生時代を送ったんだか…。
お兄ちゃんの呪縛から解かれるといいですねぇ。
> 言葉を使い分けるのは大変ですよね。
> 漫画なら、横にすればわかるけど。
>
> 次回はいよいよ、美琴さんの・・・
> でしょうかねぇ。先に書くな?
読みづらいかなぁと思いながら、どう書こうかと考えてしまいました。
文字だけで伝えるの、難しいです。
(今まで書いていたものでも言えることですが)
いよいよみこっちゃんの青春時代?!
書く予定ではなかったのですが、これまた苦情をもらいそうで一生懸命考えました(笑)
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 美琴さんに戻れるのかしら?
> まあ、学生時代くらい良いんじゃないのかなあ。
どんな学生時代を送ったんだか…。
お兄ちゃんの呪縛から解かれるといいですねぇ。
> 言葉を使い分けるのは大変ですよね。
> 漫画なら、横にすればわかるけど。
>
> 次回はいよいよ、美琴さんの・・・
> でしょうかねぇ。先に書くな?
読みづらいかなぁと思いながら、どう書こうかと考えてしまいました。
文字だけで伝えるの、難しいです。
(今まで書いていたものでも言えることですが)
いよいよみこっちゃんの青春時代?!
書く予定ではなかったのですが、これまた苦情をもらいそうで一生懸命考えました(笑)
コメントありがとうございました。
心に 無理やり蓋をしても 溢れ出る情は止められない
紳平、みこっちゃんを 兄の呪縛から解き放してね♪
美馬兄さまに知られない事を祈る
(*>人<)...byebye☆
紳平、みこっちゃんを 兄の呪縛から解き放してね♪
美馬兄さまに知られない事を祈る
(*>人<)...byebye☆
けいったん様
こんにちは。
> 心に 無理やり蓋をしても 溢れ出る情は止められない
>
> 紳平、みこっちゃんを 兄の呪縛から解き放してね♪
>
> 美馬兄さまに知られない事を祈る
> (*>人<)...byebye☆
目指したお兄ちゃんに言われたことでも、本能には逆らえないところがありますよね。
紳平とは付き合いが長くなっているからみこっちゃんも気が緩むのでしょう。
お兄ちゃんには「大人になったよ~。邪魔しないでね~」って伝書鳩を飛ばさないと(いつ届くのか…)。
その前に監視カメラでも盗りつけられているのかしら。
(可愛い弟だものねぇ)
幸せな学生生活を満喫していただきたいものです。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 心に 無理やり蓋をしても 溢れ出る情は止められない
>
> 紳平、みこっちゃんを 兄の呪縛から解き放してね♪
>
> 美馬兄さまに知られない事を祈る
> (*>人<)...byebye☆
目指したお兄ちゃんに言われたことでも、本能には逆らえないところがありますよね。
紳平とは付き合いが長くなっているからみこっちゃんも気が緩むのでしょう。
お兄ちゃんには「大人になったよ~。邪魔しないでね~」って伝書鳩を飛ばさないと(いつ届くのか…)。
その前に監視カメラでも盗りつけられているのかしら。
(可愛い弟だものねぇ)
幸せな学生生活を満喫していただきたいものです。
コメントありがとうございました。
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