2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
淋しい夜に泣く声 47
2009-10-07-Wed  CATEGORY: 淋しい夜
榛名は英人の隣に腰を下ろしながら、藤原を見つめ返していた。
「俺がいない間だけでいいと言っただろう。それに英人は、夜はほとんど外出をしないし、こんな時間まで早菜香を出歩かせるわけにはいかない」
…こんな時間…ってまだ夜の7時にもなっていないじゃん…
自分の常識とは異なる会話を当たり前のように繰り広げる二人を黙って見守るしかなかった。

ファーストフード店での昼食を終えた後英人は、描く気力を失っていたので書店に寄らせてもらった。
付き合わせるようで申し訳なかったので、どこかで時間を潰してきてもらっていいと提案したのだが、藤原は英人の後を追ってきた。
「お邪魔なら別のコーナーにおりますけど…」
曖昧に濁された語尾は、「ここにいてはだめですか?」と聞かれているようなものだった。
英人が向かったのは美術に関する売り場で、藤原が見てもつまらないのではないかと気を使ったのだが、彼女は気にした様子もなく、英人の隣でただ黙って色々な美術品の解説がされている文書を読んでいた。

榛名に言い聞かされていたのか、藤原は余計なことを一切話さなかった。もちろん邪魔もしなかった。まるで空気のように存在していた。
二人で歩くなど、英人の迷惑にならないと分かる場所では世間話や自分の育ちなどを話し掛けてきたが、英人を詮索するような発言は何もなかったし、榛名との関係も口にしていない。
聞かなかった自分もどうなのかと今頃になって振り返った。
榛名が用意した、自分を監視するための人間、という思いがどこかにあったのか、二人の間柄が親しいなど何の疑問も持っていなかった。

「ちーちゃんが一緒なら怒られもしないわよ。それより私たち、これから夕食をどうしようか話していたところなの」
無邪気な子供のような姿を見せる半面、榛名に向けるレディーのような素面もあり、英人は藤原の雰囲気に惑わされっぱなしだった。
榛名が雰囲気を幾度も変えるように、たぶんそれ以上に藤原のほうがコロコロと表情を変化させた。
「そうそう、今日ねぇ、英人さんにマ○クに連れて行ってもらったのぉ。すごいんだよぉ。びっくり。初めて手で物を食べちゃった」
何のやましいこともなさげに藤原が笑顔で『今日の出来事』を榛名に報告すれば、榛名は当然英人に視線を向けた。
ギロリ(本当はチラッと)と見おろされ、英人は萎縮した。
やはり彼女を連れて、あのような場所に行くのは間違いだったのかと後悔したが、当の本人は大喜びだったし言い訳は藤原にしてもらうしかない。
「早菜香、そのことは叔父さんたちには絶対に伏せておけ。英人も今後は早菜香を連れて行く場所を考えろ」
榛名は冷たく言い放ったが、何も聞かされていなかった英人は、責められるのは自分ではないと訴えたかった。

「ちーちゃん、そういう言い方しないで。早菜が行きたいって言ったんだから」
英人に当たる榛名から庇うように、藤原は榛名に抗議した。悲しげに榛名を見つめ返せば、榛名はそれ以上この話題に触れようとしなかった。
榛名は藤原の言い分に返す言葉もなく溜め息だけを漏らした。
その態度を見ただけで、英人は榛名が藤原に対して何かあるのだと思ってしまった。

結局、ホテル内のレストランで3人で夕食を摂ることになった。
話題はもっぱら榛名と藤原のことだったが、女性らしく、実によく話を振りまいてくれた。
榛名が同席しているせいか、昼食の時とはまた違った明るさがあった。昼間はそれとなく英人を気遣う雰囲気があったが、今は堅苦しい言葉づかいもなくなり、隣同士に並んだ榛名と英人に屈託のない笑みを浮かべた。
普段、榛名と二人きりでは黙々と過ごしてしまいそうなディナータイムが彼女の存在でとても華やかだった。
この二人は母方が姉妹の従妹なのだそうだ。
藤原の家もやはり資産家で、榛名同様、世間に対して恥のないようにと育て上げられていた人物だった。

お嬢様育ちなのに、武道を嗜んでいたという経歴は英人にはただ驚かされる材料でしかない。
「たまたまよ。園児の頃、私に付いていた護衛の人が空手の道場に通うのを見てくっついていったの。護身術を覚えるのもいいだろうって父もすぐに許可してくれたわ」
あの頃から人についていく癖があったみたいね、と藤原は笑っていたが、全く違う意味で英人は笑い飛ばせる内容ではなかった。
寛大なのか放置なのか英人には分からなかったが、学問と武道の両立を見事に果たした結果が現在の藤原だった。
隣に座った榛名は気にした様子もなく、藤原の語ることに合の手を入れ彼女の口を閉ざしはしなかった。
常に警護の者がそばにいたこともあり、英人が暮らすような世界を『映画の中』と言った生活がなんとなく見えた。

榛名と二人きりでは黙々と進んでしまう食風景が、今日はゆっくりのんびりと過ぎていた。
食事が終わると、藤原はそのままロビーに出て、「また明日来るわね」と、迎えの車に乗り込んでいった。
榛名も英人を部屋まで送り届けると、「早菜香とは仲良くやれそうだな」と確認だけして去っていった。

英人は眠りにつく布団の中で、榛名の将来をふと思い浮かべた。
たぶん…ではなくきっと、確実に彼には約束された『将来』があるのだろう。
どこかの女性と結婚をして子孫を残して、『榛名グループ』という巨大な組織を運営していく…。

榛名という男の大きさを改めて知らされた。
もちろん、そこに自分の姿などあるわけがなく、足の爪の先でもいいからと縋ろうとする自分がいかにちっぽけで淫らで疎ましい存在なのかと再確認させられた。

榛名に求めてもらえる体になろう…。
何故か英人は卑しく身分を落とした存在になろうと心を決めてしまった。
絶対に自分は必要とされていない存在だから、せめて体だけでも榛名を繋ぎとめたかった。
残された時間はあまりにも少ない…。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

こっちだけでいいですからどうかポチッとしていってくださいナ…m(__)m
関連記事
トラックバック0 コメント4
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
コメントきえ | URL | 2009-10-07-Wed 00:46 [編集]
MO様

お越しいただき誠にありがとうございます。
レス遅くなりましてもうしわけございません。

>毎日、更新を とっても楽しみにしています♪ 今、一番楽しみにしているお話です。
頭を下げるしかない私です。こんな…こんな駄文にお付き合いくださいまして、本当にありがとうございます。

>千城は、きっと英人のことを、とっても愛しく思っていて、とっても大事な存在なんだろうな~って思って、読み進めています。。
ああ、もう書きたいことはたくさんあるのに…っ
ネタバレになりそうなので、今回はコメントをひかえさせてください。
せっかくいただいたのに…m(__)m

>今回のようなエピソードも、とっても良かったです♪ でも、もっと長く、いっぱい読みたいです。毎日、更新を楽しみに、一日に何回もクリックしてしまいます。頑張って下さいね
恐れ多くて顔も上げられません…。
このような方に支えていただいて私は幸せだなと思います。
心より感謝いたします。
ぜひぜひまたいらっしゃってください。
コメントきえ | URL | 2009-10-07-Wed 07:06 [編集]
M様

いつもお越しいただきありがとうございます。
>切ないです。初めて愛を知った健気な英人だから自分を貶めず幸せになってほしいです。榛名は何を考えてるんだろ…。

なーに考えているんですかね……。
あまりにも暗い話で『逃げ』に入った私です…。(これではいかん…)
はい、もうなんとか、どういう形であれ幸せになれるように持っていきたいと思います。

コメントいただけて嬉しかったです。
またいらしてください。
コメント | URL | 2009-10-07-Wed 20:24 [編集]
あ~英人かわいそう。
榛名は英人を大事にしているように見えるんですけど、
本当は冷たい人間なのかな?
何か他の理由があるのかな?

あ~とても楽しみにしています。

名無し
Re: タイトルなし
コメントきえ | URL | 2009-10-07-Wed 21:03 [編集]
名無し様

> あ~英人かわいそう。
> 榛名は英人を大事にしているように見えるんですけど、
> 本当は冷たい人間なのかな?
> 何か他の理由があるのかな?
お越しいただきありがとうございます。
今の段階では何も申し上げることができずにただひたすら頭を下げるのみですm(__)m
皆様が思うように、きっと榛名は英人を大事にしております。
ただ言葉と態度が足りないやつなのだと思ってください…。

もうちょっと私の文章力があったらご不便をおかけしなかったのですかね…。

ぜひぜひまた遊びにいらしてください。


>
> あ~とても楽しみにしています。
>
> 名無し
トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.