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BLの丘
あの日の夢 20
2012-11-29-Thu  CATEGORY: あの日の夢
アルバイトの時間は格段に少なくされた。
居酒屋のほうは「飲む人間に会うな。酔った人間に何をされるか分からない」という理由で辞めさせられたし、ファミレスも夜の12時以降は禁止される。
ひたすら「勉強をしろ」と繰り返されるばかりで、これまでにない大学側からの高評価が燕の元に舞い込んできた。
タダで住むのはどうなのかと気後れするのだが、そこは『将来への投資』らしい。
「この後、嫌でも働くんだ。今のうちに楽をしておけ」
『ラク』の意味が少々分からない燕でもあったのだが、黙って見送った。

過去に夢見た生活は確実に自分のものになってくる。
その幸せ感に燕は溺れていった。
そばに居てくれる存在は、決して燕を”道具”のようには扱わず、大事にしてくれる。
ますます五泉という人間の虜になっていく。

ある日の夕方、リビングのラグの上にペタンと座り、テーブルに書物を広げていたとき、玄関の開く音がした。
こんなに早く帰ってくるとは思っていなかった燕は、『帰るコール』もなかったことに驚いた。
家政婦として通ってくれる人が、燕という住人が増えたことで、毎食用意してくれるようになった。
燕の役割は温め直すくらいなのだが、外食が減ったことは確かだった。
準備が何も整えられていないことに焦ったのだが、そこに現れた人物は五泉ではなかった。
「あ~、やっぱり居た」
五泉と良く似た顔立ちで、それが『兄』なのだと分かる。
きっちりとスーツを着こなしていても、気さくに話しかけてくる姿に、咄嗟に声も出せず、呆然と姿を追ってしまった。
「明りがついていたからいるかなぁ、と思って来てみたんだ。あぁ、勉強中?悪いね、邪魔しちゃって。ちょっと話、いいかな?」
五泉よりも柔らかな雰囲気がある。
身長も体格も多分五泉と変わらないだろう。がっしりとした力強さのようなものを滾らせている。
燕の斜向かいのソファに座っては、有無を言わせない態度で切り出してきた。
初めて出会う『お兄様』に燕の反論があるはずがない。
「はぃ…。…あ、あの、なにか、お茶…」
「いい、いらないよ。気を使わないで。…えーと、燕くん…でよかったっけ?」
「は、はい。三条燕です…」
「燕くん、初めまして…だね。あ、名刺でも渡しておくか」
兄は胸元からスッと一枚の紙を滑らせてきた。
『頸城能生(くびき のう)』と文字を読んでから顔をあげると、ニコリと微笑まれる。
「来週末、五泉に出張頼んでいるんだけれど、聞いている?」
話の展開の早さに燕は瞠目するだけだった。
何の目的があって、また次々と告げられることに意味が分からず、ただ素直に反応してしまう。
「出張?あ…と、いえ、何も…」
「そう。やっぱり五泉の奴、何も言ってなかったんだ。実はさ、また企業関係のパーティーが催されるんだよね。面倒くさいことはあいつに任せているんだけど、まぁ、二人分の招待に柏崎を連れていくって言うからさぁ。あんな華のない奴じゃ話題性もなにもないだろう。この前もいい話もらったし、燕くん、連れて行けって言ったのに頑なに拒まれてぇ。君のほうから『ついていく』って言ってもらえないかなぁ」
サクサクと話しかけてくれる親しみ感はあるのだが、内容はかなり辛辣なものである。
堂々と『面倒くさいこと』と言えてしまえるあたりも、上の人間なのだろうか。
『柏崎』と名前を出されて、一度だけ会ったことのある、あの人も人懐っこい人物だったな…と思い出した。
自分などが出向くより、ずっとその場に馴染めるのではないかと過るのだが…。
気の毒になるくらい、ひどい言われ方のような気がする。

「え?あ、俺?」
「そう。この前作ってやったタキシードも仕舞いっぱなしなんだろう?『もう一回着たい』くらいのこと、言えないかな?」
どうやって五泉を誘えというのか、その手順まで教えてくる。
ここまで言ってくる、その目的とは本当に何なのだろう。
「は、はい…。まぁ…」
「この前、会っただろう?魚沼さんって覚えているかな。あの人との話を引き出してほしいんだ。ちょっと違う方面から『燕くんが来るのか?』って聞かれていることを知ってね。あそことの取引はうちでも重要な存在になるんだよ。この機会を逃したくないんだ。五泉の手柄にもなると思わないか?」
前回のパーティーでは色々な人に出会った。
隣にいただけだから誰がどんな存在なのかはもう思い出せない。
とりあえず、話しかけられた人に愛想を振り撒けばいいって言うことだろうか…。
『魚沼』という名前だけを頭に残した。

能生は言いたいことを言えば帰っていった。
『作ってやった』感を終始漂わせて、もう一度タキシードを着ろと促してくる。それも燕からの誘いで。
五泉が言い出した時が告げ時だとも教えて。
「五泉は君をうちに就職させる気なんだろう?そのことも考えておいてやるから」
最終的な決定権は自分にあるとも言い置いて…。

五泉のためになることなら何でもしてやりたいことがあるのはもちろんだ。
自分に何ができるのかは分からないが、少なくとも顔を出せば会社にとって利益が生まれるらしいとの理解はある。
能生がこの家にやってきたことを、燕は五泉に言えなかった。
なんとなく雰囲気的に、『自分から』言い出すようにと告げられたような気がしたからだった。

数日後の週末、抱かれたベッドの中で、五泉から「また出掛けなければいけなくなった」と告げられた。
詳しい内容まで話されなかったけれど、出張という名の泊まりがけと分かれば、燕はこの話か…と「一緒に行きたい…」と珍しく駄々をこねる。
単純に離れたくない思いがあるのかと、五泉も渋りつつ、「分かった…」と返事をしてくれた。
「またパーティーなんだ…。燕にはつまらないものだろうけれど…」
「ううん…。五泉と一緒にいられればいい…」
あまりにも可愛げのある発言に、もう一度五泉が勃起したのは言うまでもないというか…。

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さっさと終わりにしたいんだけどなぁ、この話…。
あ、投票ももうすぐ締切りですね。


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コメント

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やっぱりネェ
コメントnichika | URL | 2012-11-29-Thu 11:06 [編集]
ついにお兄様登場!やさしい人なんだ。策略はあるけど。策士
魚沼が怖い~ツバメ逃げ切れますように!

きえ様の展開が相変わらず早い、今月完結?そんな訳ないでしょう。
Re: やっぱりネェ
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-29-Thu 11:30 [編集]
nichika様
こんにちは~。

> ついにお兄様登場!やさしい人なんだ。策略はあるけど。策士
> 魚沼が怖い~ツバメ逃げ切れますように!
>
> きえ様の展開が相変わらず早い、今月完結?そんな訳ないでしょう。

やっと出ましたよ、お兄様。
いろいろとまた企んでいるようですね。
どんな手で燕は五泉のため、お兄様のためにはたらくのでしょうか。
今月完結はもう無理なので…。書け次第upしていきます。
えーと、年内完結?!(←延びている)
コメントありがとうございました。
お兄ちゃん
コメントちー | URL | 2012-11-29-Thu 14:13 [編集]
また、新手が出たよ。
でも、ちょっと苦手かもー。
私、騙されやすいから絶対騙される。

燕くん、お兄ちゃんに手玉に取られてるし。
怖い怖い。
イッツミ~、燕くんの事ちゃんと見てないと。
離れたくないとか言われて、良い気になってんじゃないよ?

師匠、腐上司に笑いました。
ええ、腐上司ですよー。ニャハハ。
でも、実質はただの使い走りですけどねー(笑)

燕くんは、野鳥じゃなくカナリアとか文鳥みたいな小鳥なんだねー。
良い声で啼いてるし。イヤン
Re: お兄ちゃん
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-29-Thu 15:01 [編集]
ちー様
こんにちは~。

> また、新手が出たよ。
> でも、ちょっと苦手かもー。
> 私、騙されやすいから絶対騙される。

お兄さん、もしかして嫌われた?!
まぁ、こんなお兄ちゃんもいたってことで…。
柏崎の恋人がお兄ちゃんだったら面白いね(←)
騙されないでねぇ。
(スピンオフは書かない。絶対に書かない)

> 燕くん、お兄ちゃんに手玉に取られてるし。
> 怖い怖い。
> イッツミ~、燕くんの事ちゃんと見てないと。
> 離れたくないとか言われて、良い気になってんじゃないよ?

そうだよ、五泉、ちゃんと見ていないと~。
近い存在からも狙われるからねぇ(←)
言葉に騙されてはいけません。
またここで学ぶのか…。

> 師匠、腐上司に笑いました。
> ええ、腐上司ですよー。ニャハハ。
> でも、実質はただの使い走りですけどねー(笑)
>
> 燕くんは、野鳥じゃなくカナリアとか文鳥みたいな小鳥なんだねー。
> 良い声で啼いてるし。イヤン

啼く…(爆)
そうです。
野鳥にはなれないやつだねぇ。
温室で大事に育ててあげてねぇ。
ツバメはちっちゃいのです。
ツバメってどんな声で啼くんだ…???
コメントありがとうございました。
五泉~
コメントさえ | URL | 2012-11-29-Thu 17:52 [編集]
きえちゃん、こんばんは~☆
今日もUPありがとう~(*^^*)
五泉~身内も敵だぞ~!
兄ちゃんは燕ちゃん構わないで~(>_<)
絶体に魚沼はヤバイよ~。
また人波乱決定だね('-^*)
卑怯で御座るぅーー(。 ̄x ̄。) ブーッ!
コメントけいったん | URL | 2012-11-29-Thu 19:00 [編集]
この ザックバランで優しい口調、
飄々した風に見せ掛けながらも 強引に話しを進めるあたりは 五泉の兄だけある!
でも 弟よりは 曲者で御座るぅ~~!

五泉でも 言いなりになっちゃう燕が 兄の能生に勝てる訳がないでしょ

美味しい餌(=燕)をばら撒いて 大きな獲物を釣るって…
あんまり 感心しませんなー

おぉら掛かったぁ!!
Ψ(+Φ∀Φ)Ψィヒヒo/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~ >゜))))彡...byebye☆
Re: 五泉~
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-30-Fri 06:54 [編集]
さえ様
おはようございます。

> きえちゃん、こんばんは~☆
> 今日もUPありがとう~(*^^*)
> 五泉~身内も敵だぞ~!
> 兄ちゃんは燕ちゃん構わないで~(>_<)
> 絶体に魚沼はヤバイよ~。
> また人波乱決定だね('-^*)

敵は身内にあり!!
話を持ちかけてきましたねぇ。お兄様。
いきなりやってくるところがまた腹黒いですね。
逆らえない燕をしるのでしょうか。
コメントありがとうございました。
Re: 卑怯で御座るぅーー(。 ̄x ̄。) ブーッ!
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-30-Fri 06:58 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> この ザックバランで優しい口調、
> 飄々した風に見せ掛けながらも 強引に話しを進めるあたりは 五泉の兄だけある!
> でも 弟よりは 曲者で御座るぅ~~!
>
> 五泉でも 言いなりになっちゃう燕が 兄の能生に勝てる訳がないでしょ

お兄さんもきっと五泉に似ていい男なのでしょう(←)
強引に物事を進めてしまうところもさすが兄弟です。
燕がこの兄弟に立ち向かえるはずもなく…。

> 美味しい餌(=燕)をばら撒いて 大きな獲物を釣るって…
> あんまり 感心しませんなー
>
> おぉら掛かったぁ!!
> Ψ(+Φ∀Φ)Ψィヒヒo/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~ >゜))))彡...byebye☆

弱点をしっかり把握していますねぇ。
食らいついてくるところを逃さず。
エサの確保は完璧な兄上でした。
コメントありがとうございました。
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