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BLの丘
緑の中の吐息 9
2013-06-10-Mon  CATEGORY: 吐息
昼食後、早々に出発したことが凶と出たのか、思っていた以上にけもの道を下っていたようだ。
その分瑛佑に長い距離を歩かせることになってしまった。
瑛佑の体力も、雨脚の様子も気になり、美琴は自分だけがラクをしているようで申し訳なく、どうしたら瑛佑の負担にならずに済むかと、そんなことばかりを考えていた。
瑛佑も雨合羽を着ていたが、染み込んでくる雨水はあるもので、こうなっては汗なのか雨なのかも分からなくなる。
まだ降りが小雨程度だったのが救われていると思った。

「美琴さん、あと少し。もうすぐ森を抜けるから」
ヨイショと瑛佑は雨で滑る美琴を背負い直した。
壊れかかっていたとしても、あの東屋の跡はしばしの雨宿りをさせてくれるはずだ。
しかし、木々からの『天井』が無くなった途端に、勢いよく雨粒が体に当たった。
陽の光を遮っていたのと同じように、地上にいるものたちに直接降り注がれなかっただけなのだ。
「クソッ」
その現実に瑛佑も気付かされたようだ。
小さな舌打ちが耳に届いたが、それも雨の音にかき消される。
だからといって、ここで立ち止まっているわけにもいかない。
「え、いすけ…。先に…。私は後から行きますから…」
寒さのせいか、歯が噛みあわなくて、声が震えてしまった。
せめて瑛佑だけでも先に休ませてやりたかった。
今の美琴はただの『お荷物』でしかない。
ここに下ろしていってくれていいと伝えたつもりだが、瑛佑から発されたのは「ふざけんなっ」という一言だけだった。
またもや、瑛佑の逆鱗に触れた…とは美琴はすぐには気付けなかった。
「またここから、転がり落ちる気でいるのかよっ。とにかくちゃんとつかまっていてっ」
斜面である山道を美琴が一人で立っていられる保証などどこにもない。
たった僅かな距離であるはずなのに、一番体を濡らした時間だった。

どうにか四面をベニヤ板で囲まれた東屋にたどり着き、火事場の馬鹿力の勢いで瑛佑が出入り口だと思われる一枚を蹴飛ばすと、腐食していたのか、すぐに内側へと潜り込むことができた。
先程は中まで確認したわけではなかったが、何故囲われていたのか理解できる。
中はすさまじく荒廃していた。
もともとあったのであろう備え付けの木製のベンチは朽ち果てていて、座った途端にコンクリートの地面に落下しそうだ。
中央にあったはずの同類の材木でできたテーブルも、足が折れて傾いていた。
「…すっげぇな…」
瑛佑があまりの凄まじさにポツリとつぶやいただけで言葉を失った。
中途半端な予算で製作した分、ダメになるのも時間の問題だったのか…。
こんな場所でもなんとか、雨だけは防げる。
美琴をコンクリートの上にそっと下ろし、瑛佑からも緊張の糸が少し抜けたようだった。
瑛佑が、邪魔だ、と言わんばかりにテーブルの残骸を蹴飛ばすと、ガタンガタンとあっけなく端まで吹っ飛んでいった。
中央部分に空間が出来上がり、それから「この辺りが一番無難そう」と言い、美琴の背中からリュックを降ろして、しまってあったレジャーシートを広げる。
「着替え、持ってきて正解だったな。車の中に残してきちゃおうかと考えなかったわけでもなかったし」
今日一日の行動を振り返ったようだ。
濡れた雨合羽やジャンパーをはぎ取って、瑛佑は美琴をレジャーシートに運んだ。
地面に座ることができるだけで安堵の息がこぼれてしまう。
瑛佑はリュックの中に入っていたものを一度シートの上に引っ張り出した。
「タオル、多めに入ってて助かった~。バスタオルまであるし、…あ、この弁当箱、使えるかな」
天候のことを考慮すれば、用意も周到になるというもの。
次々と脳内でやるべきことが組み立てられていく瑛佑とは対照的に、美琴の思考は全く働いていないと言えた。
「瑛佑?」
「ちょっと待ってて。美琴さん、下着から全部着替えたほうがいいよ。風邪ひいちゃうから」
脱いでいるよう言われて、瑛佑は弁当箱やビニール袋、タオルを持ってまた外に出ていってしまう。
「瑛佑っ?!」
聞こえてくるのは地面を叩きつける雨の音ばかりで瑛佑からの返事は聞かれなかった。

身動きを取れないままで座り込み、しばらくして瑛佑が固く絞ったタオルを持って戻ってきた。
入口を入ったところで、ようやく瑛佑も雨合羽やらを脱ぎ落とす。
「さっきは応急処置みたいなことしかしなかったからさ。冷たいけれどごめんね」
雨水で濡らしてきたのか、美琴の脇に座ってはタオルで一番に顔に付いた汚れをふき取ろうと寄せた。
かすり傷に触れるたびに「痛くない?美琴さん、肌が白いから目立つね」などと口にしながら、丁寧に拭ってくれる。
髪についた泥も綺麗にして、今度は乾いたタオルを当てた。
瑛佑に服を脱がされることはままあるにしても、屋外では落ち付きもしない。それでもこの雨が人を寄せ付けないカーテンのように見えて、美琴は大人しく委ねることができていた。
湿った肌が外気にさらされると寒さにブルッと体が震える。
バスタオルで簡単に湿気をとられ、すぐに新しい服を着せられて、乾いた感触がとても温かく感じられた。
「足あげて。ほら、パンツも」
きつく結ばれた靴紐をほどき、特にくじいたほうの足は慎重に扱われた。
瑛佑の肩に両腕をかけて腰を上げられると、下着まで一気に脱がせてしまう。
こればかりは普段の『訓練の賜物』と呼べるのだろうか…。
幾つの子供になった気分か、それとも介護を受ける老人か…。
恥ずかしさがあっても、世話を焼いてくれる存在が嬉しくて、美琴は言葉に出すタイミングを失いながらも心底感謝していた。

美琴のことだけを優先的に手早く終えると、瑛佑はまた外に出ていこうとしていた。
一度脱いでしまった雨合羽にまた袖を通すのを躊躇っていたようだが、この雨では、少しでも遮ってくれるものとして利用することにしたようだ。
「瑛佑っ?!」
スッと外に消えた姿からは返事がなく、束の間、瑛佑は戻ってこなかった。
雨脚は一段と強くなるばかりで、叩きつける音が変わっていく。
そのうち、ここの屋根も落ちてしまうのではないかと不安が押し寄せる。
「瑛佑っ!!」
幾度か呼んだが耳に届くのは雨の音と…、雷鳴だった。
まだ遠くで鳴っているのだろうが、ビクンッと両手で抱えた体が撥ねた。

こんな雨の中、どこに何をしに行ったのだろう。
もしかして置き去りにされたのだろうか…。
これまで感じたことのない焦りを胸一杯に、美琴はどうにか四つん這いの姿勢をとると、這うように動きだしていた。

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コメント

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コメントけいったん | URL | 2013-06-10-Mon 15:03 [編集]
美琴、大丈夫だって!
瑛佑は、何があっても 美琴を置いて行かないし、一人ぼっちにさせないよ!

信じて 待っていようよ。゚.+:。(。・ω-)(-ω・。)ネー゚.+:。

私,間違っていた事に 今日 気づきました!
「瑛佑」なのに ずっと 「理佑」って~~
何故に…(@ω@;)へ?
きえちん、ごめんなさい。【壁】\(-ω-;)...ハンセイ

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